犬の駅長

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第1章

15.

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 強盗傷害事件は、早期解決を迎えたため、真野貴子の一件に戻ったのは、その週の金曜日だった。目撃情報も寄せられていたが、谷本ゆかりらの証言以上の情報は得られなかった。
 強盗傷害事件の発生前に成島が目星をつけていた場所がいくつかあり、今日はその大学等を二人で回る予定にしていた。
「この駅からの徒歩圏内にある学校は、全部で四つです。国立大学の理系キャンパスがひとつ。専門学校がひとつ。それから、共学の私立大学がふたつあります。うち、一校は最寄り駅にしてはやや距離がありますが、歩けない距離ではありません」
「早速、行こうか」
 連日の強盗傷害事件の捜査で疲れが溜まっていたが、そうも言っていられない。
「どこから回りますか?」
「そうだな。近い方の私大から行こうか」
 成島もやはり連日の疲れが出ているようで、駅に着くまでの移動中は二人して終始無言だった。
「着きましたね」
電車からホームに降りたつと、昼間だというのに、ぱらぱらと下車する人が続いてきた。学生らしい姿が多い。学生の流れに混ざりながら、私立大学の門をくぐる。向かったのは学生部だ。学生からの相談を受け付ける窓口を設けていることが多い。そこで、何かひっかかればもうけものだ。
 学生部の窓口は学生で賑わっていた。よく日に焼けた健康的な学生が多い。刈り上げたような短髪の学生たちだ。野球部員だろうか。
 目立たないように窓口に近づいたが、複数の学生が何者か?という眼差しを向けてくる。窓口で呼びかけると、席が一番近くて、おそらく一番若いであろう男性職員が応答した。
警察の者ですが、と名乗ると、顔つきを強張らせ、事務室の中へと案内してくれた。警察だってよ。居合わせた男子学生の好奇に満ちた声が耳に届く。そうだ。警察だ。もし、お前の友達がやったのなら、早く名乗り出ろと言ってやれ。
 まず事故についての説明をし、もしそういった内容で学生から話があれば、連絡してほしい、と携帯電話の番号も書き添えた名刺を渡した。今回の事故に触れるような相談が寄せられていないか、調べてもくれたが、収穫はなかった。成島とともに礼を述べて、席を立つ。職員が不安げな顔をしているので、こちらの学生と決まったわけではなく、これから他も回るのだと付け足すと、やや安心したようだった。その言葉通り、その日は成島と足が棒になるまで学校回りに費やした。

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