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「アンジャッシュ」 ~Tomorrow never knows~

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帰りももちろん慣れない妻の運転だ。
車内には行きと違い、安心に満ちた雰囲気が漂う。

大変な病気だということ、
これから治療に専念しなければならないことなど、
問題は山積している。

だが、このときは、病名が判明したことが何よりも嬉しかった。
母が子どもたちの春休みに合わせて、
九州から来ることになっていたのだが、少し早めてもらおうと、急に思いつく。

母に電話を入れる。

「もしもし、上京の件なんだけど、早められないかな?」
「どうした?」
「今、病院の帰りなんやけど、しばらく治療しなければいけなくてさ」
「病院?」

 母が驚く。

「肩こりとか首こりで調子悪いって言ってたと思うんやけど、首がおかしくて」
「具体的には?」

 心配が電話越しからも伝わってくる。
「脳神経の機能異常」
「脳神経!」

 母が声を上げる。
「それで、大丈夫なん?」

 私の方も気持ちがはやる。

「土曜日に専門医に診てもらえるようになった。だから、上京早めてくれると助かる」
「調整してみるよ」
 
 脳神経の機能異常ということに母の動揺が伺える。

「なんの病気なのかわかって良かったよ」

 私は病名が判明した安心感から涙が思わず出てきた。
 しかし、電話越しの母はそうは思っていないようだ。
 私が絶望感で泣いたと思ったらしい。
 これは後で知ったことだが、コミュニケーションは難しい。

 アンジャッシュのコントじゃないがすれ違いが起こっていたのだ(笑)
 涙が溢れてきたため、自分でも説明がよくできていなかった。
 事態の把握ができたことを喜ぶ気持ちを伝えても、
 母は、私が強がりを言っていると思い込む。

 母を落ち着かせようと、懸命になればなるほど、
 私と母の病名判明に対する思いがかけ離れていく。
 そんなやり取りをしている内に家に無事に到着した。

※第7話副題
 Mr.childrenの曲名より


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