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第14話
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月曜日、中間試験まで残り1週間となり、普段休み時間に勉強しているところなどほとんど見ない奴らまで試験勉強していた。
放課後になると部活は活動禁止なので、学校に残っているのは試験勉強をしている人だけだった。
キョウヘイが、「中間試験まであと1週間しかないんだし、シュート練習はやらないで試験勉強に専念しようぜ。」と提案してきたので、俺とキョウヘイはカジワラとハタケを誘って一緒に試験勉強をしていた。その方がカジワラと一緒にいる時間も増えるだろうとキョウヘイが考えたからだ。
まずどこで勉強するか決める際、「図書室はどうだろう?」と俺が提案すると、カジワラが、「図書室は会話ができないし、きっと混んでると思うよ。」と否定的な意見を言ってきたので、図書室ではなく、俺たちのクラスの教室で勉強することになった。2週間前から試験勉強してきたので、ある程度は試験範囲を理解できていると自負があったため、カジワラが分からない所は俺がスマートに教えてあげようと企んでいた。
しかしカジワラは他人に尋ねるほど分からない所がないみたいでスラスラと問題集を解いていた。10分ほど経ち、これ以上待ってても無駄かな。と思い始めた頃、カジワラのシャーペンの動きが止まり問題に悩むような表情をし始めた。これは俺の出番かな?と思いカジワラに声を掛けようとした瞬間、カジワラが、「ねぇ、この問題分かる?イチノミヤくん?」とキョウヘイに教わろうとした。
俺に聞いてくれよ!と思ったが、ちょっと考えれば、この4人の中で一番勉強ができるキョウヘイに教わろうとするのは当然かと理解できた。俺が諦めて自分の勉強をしようと思いながら、何となくハタケの方を見ると、ハタケは頭を抱えて悩んでいるところだった。
「どうしたんだ?ハタケ?」
「あ!実はこの問題が分からなくて……。トツカくん、分かる?」
ハタケはおずおずと問題集を指差しながら見せてきた。ハタケが分からない問題は俺が4日前の木曜日にキョウヘイに教わった問題だった。
「あー、この問題はここをこうして……こうすれば解けるよ。」
「へー。そうやって解くんだ?理解できたよ。ありがとう。」
できればこの状況をカジワラとやりたかったな。とも思ったが、他人に教えられるくらい試験範囲を理解できてるというのが分かって素直に嬉しかった。その後も俺に質問してくるのはハタケだけでカジワラはキョウヘイにばかり質問していた。
キョウヘイの迎えが来る5時過ぎまで俺たち4人は教室で勉強していた。そしてキョウヘイが帰る時に一緒に下校した。俺はカジワラとハタケと一緒に駅まで行き、駅で2人を見送ってから、キョウヘイと合流してキョウヘイの家で試験勉強の続きをした。
俺は月曜日から金曜日までそんな生活を送った。
土曜日、授業は午前までなので、お昼を食べ終えたら、いつもの4人で試験勉強をした。キョウヘイの迎えは5時に来てもらうように頼んだみたいなので、4時間近く時間があった。この日も相変わらずカジワラは黙々と問題集を解き、ときどき分からない問題をキョウヘイに質問していた。俺はもうカジワラが俺に質問してくることは期待せず、黙々と問題集を解き、たまに問題が分からず頭を抱えているハタケに解き方を教えていた。
そんな感じで2時間近く時間が経った頃、俺は飲み物を買ってくると言って席を立った。だが俺が真っ先に向かったのは自販機のある場所ではなく、図書室だった。図書室に入ると席に座って勉強している人たちの頭を見て、三つ編みの女子はいないか確認した。
俺は先週の金曜日に積極的に会うつもりはないとキョウヘイに言ったのだが、図書室にハナザワさんがいないか探していた。さすがにまた話す約束をしたまま2度と会わないというのも失礼な気がしたので、もう1度くらいは会って話ができないかな。と考えたからだ。
しかし、この日は図書室にハナザワさんはいなかった。せっかく図書室まで走って来たのに……。そういえば、図書室が混んでいる時は特別教室にいるって言ってたな。どうする?行ってみるか?いや、でも、図書室でまた会ったら話そうと言ったのに、特別教室まで会いに行ったら、すごくハナザワさんと話したいみたいに受け取られるかもしれない。それはマズイ。と思い、特別教室まで行くのはやめておいた。
俺は急いで飲み物を4つ買い、キョウヘイたちがいる教室に戻った。
「遅かったな。何かあったのか?」
予想していた通り、キョウヘイが遅くなった理由を聞いてきたので、俺は4つの飲み物を見せながら、「キョウヘイたちの分も買ってきたからだよ。俺の分はともかく、キョウヘイたちは何がいいか迷っちゃってさ。」と答えた。
「そうか。サンキュー。えーと、お金お金。」
「いーよ。別に。俺が勝手に買ってきたんだし。」
「いや、そういうのは良くない。ちゃんと払うよ。」
「そうだよ。それにちょうど喉渇いてて何か飲みたいと思ってたし。」
カジワラとハタケも飲み物代を払うと言ってきたので、ありがたく受け取った。
それからは何事もなく5時まで試験勉強をした。5時過ぎに下校して、カジワラとハタケを駅で見送ってからキョウヘイと合流した。キョウヘイは俺が車に乗り込むなり、ニコニコしながら、「なあ、ホントはどこに行ってたんだ?」と尋ねてきた。
俺は訳が分からず、「『どこに行ってた?』ってなんだよ?俺はカジワラたちと駅に行ってただけだよ。」と答えた。
すると、キョウヘイは不自然な笑顔をやめずに、「ほら、学校で試験勉強していた時、セイ飲み物買いに行っただろ?その時のことを言ってるんだよ。」と説明してきた。
「それは飲み物買いに行ったんだよ。ちゃんと買って戻って来ただろ?遅くなったのはキョウヘイたちの分を買ったからだって説明しただろ?」
「うん。それは聞いた。でも、いくら俺たちの分を買ってきたからって20分近くかかるとは思えないんだよ。なあ、ホントは図書室に行ってたんじゃないか?」
「と、図書室?いや、行ってないけど……。」
「図書室に行って、ハナザワさんと話をしてたんじゃないのか?」
「してないよ!だってハナザワさん図書室にいなかったし!」
「ほら、やっぱり図書室に行ったんじゃないか!」
「あ!いや、でもホントにハナザワさんには会ってないから!」
「ホントか?」
「ホントだ!ていうかキョウヘイは俺のなんなんだよ?なんでそんなにハナザワさんと会うのをやめさせようとするんだよ!」
「それはセイがカジワラに誤解されてほしくないからだよ。ハナザワさんと仲良くしているのを見られてハナザワさんに乗り換えたと思われたくないだろ!」
「確かにそうだけど。カジワラは何とも思わないと思う。」
「それでもだよ!」
最後は無理やりまとめられたが、普通の女子だったら他の女子と仲良くしていたら、そう思う女子もいるとキョウヘイは考え、俺を心配してくれているのだろう。と考えることにした。だからと言って俺はハナザワさんと会うことをやめるつもりはなかった。キョウヘイの俺への対応は彼氏を束縛する彼女みたいな対応に思えたからだ。そこまでキョウヘイに俺を束縛する権利はないはずだ。
キョウヘイとの関係が少しぎくしゃくしそうになりながらも、中間試験の勉強を一緒にした次の日の日曜日、俺は自室で試験勉強の追い込みをかけていた。キョウヘイは先週や先々週と同じく、用事があったため一緒に勉強はできなかった。決してキョウヘイと一緒にいるのが気まずいからではない。
俺が集中して勉強しているとラインのメッセージの着信音が鳴った。スマホの画面を見るとナツキから「窓開けて。」とあったので、「今忙しいから無理。」と返信した。返信するとすぐに「いいから開けて。」とナツキからメッセージが来た。俺がそれに「無理。」と返信すると、「開けろ。」「開けろ。」「開けろ。」……と何度も同じメッセージが送られてきた。俺はそれに苛立ち、窓をガラッと開けて、「おい!いい加減にしろよ!」と怒鳴りつけた。
ナツキは俺の怒鳴り声を気にする様子もなく、「あ!やっと開けた。ねぇ、この問題分かる?」と質問してきた。俺はイライラしながらも、問題の解き方を教えればこのやり取りも終わるだろう。と考え、「どの問題だよ?」と聞き返した。
「だからこの問題!」
「え?どの問題?」
ナツキは問題集を開いて、ある問題を指差しているが、距離が遠くて俺には何の教科でどの問題かが分からなかった。
「だからこの問題!」
「あーもう!この距離じゃ分からないから、どの問題集の何ページ目のどの問題か言えよ!」
「分かった。えーと、数学の問題集の23ページ目の③の問題!」
「数学の問題集の23ページ目の③の問題……この問題か。教えてやるから俺の部屋に来い!」
「え!」
「『え!』って何だよ?このまま窓越しで教えられるわけないだろ!それとも俺がナツキの部屋に行くか?」
「そ、それはちょっと……。」
「だろう?だから俺の部屋に来ればいいんだよ。」
「分かった。ちょっと待ってて。」
そう言うとナツキは窓を閉めた。それから10分後、家のチャイムが鳴ったので玄関のドアを開けると、ナツキがバッグを持って(たぶん教科書や問題集を入れてきたのだろう)立っていた。
「よぉ。」
「……よぉ。」
軽くあいさつしたあと、いくら待っても家の中にナツキは入ってこなかった。
「何やってんだよ?早く入れよ。」
「う、うん。お邪魔します。」
ナツキはおずおずとした様子で、やっと家の中に入ってきた。
「部屋の場所は分かるよな?先に行っててくれ。」
「分かった。」
ナツキが通り過ぎるとシトラス系の香りがした。制汗剤の香りかな?汗のにおいを気にするとはナツキも女子なんだな。と思った。
俺が麦茶を2人分持って俺の部屋に行くと、ナツキが借りて来た猫のような状態で座っていた。
「何かしこまってるんだよ?初めて来たわけじゃないだろ?」
「そ、そうだけど……。」
「まあいいや。それじゃさっさと始めるか。」
俺がナツキの分からない問題の解き方を教えると、ナツキはまた別な問題の解き方を聞いてきた。それを教えるとまた次。それを教えるとまた次といった具合に質問攻めに遭った。それから解放されたのはナツキが来て4時間後の午後6時だった。
「これで終わりだよな?」
「うん。分からない問題は大体解き方教えてもらったから大丈夫。ありがとね。それにしてもセイすごいね。私の分からない問題全部解いちゃうんだから。」
「ああ、それはほとんどキョウヘイのおかげだな。俺はキョウヘイに解き方教えてもらったから。」
「なんだ。そうだったんだ?感心して損した。」
「いやいや、解き方を全部覚えるのも大変なんだぞ。」
「アハハ!それもそうだね。今身をもって理解したところだった。それじゃ私帰るね。」
「ああ。玄関まで送るよ。」
俺がナツキを玄関まで送ると、ナツキが、「お互い試験頑張ろう!」と言ってきたので、「ああ。それじゃまたな。」と返事をした。
「うん。また。」
ナツキはそう言うと玄関のドアを開けて自分の家に帰っていった。
俺はナツキが帰った後も夜11時くらいまで勉強してから寝た。
放課後になると部活は活動禁止なので、学校に残っているのは試験勉強をしている人だけだった。
キョウヘイが、「中間試験まであと1週間しかないんだし、シュート練習はやらないで試験勉強に専念しようぜ。」と提案してきたので、俺とキョウヘイはカジワラとハタケを誘って一緒に試験勉強をしていた。その方がカジワラと一緒にいる時間も増えるだろうとキョウヘイが考えたからだ。
まずどこで勉強するか決める際、「図書室はどうだろう?」と俺が提案すると、カジワラが、「図書室は会話ができないし、きっと混んでると思うよ。」と否定的な意見を言ってきたので、図書室ではなく、俺たちのクラスの教室で勉強することになった。2週間前から試験勉強してきたので、ある程度は試験範囲を理解できていると自負があったため、カジワラが分からない所は俺がスマートに教えてあげようと企んでいた。
しかしカジワラは他人に尋ねるほど分からない所がないみたいでスラスラと問題集を解いていた。10分ほど経ち、これ以上待ってても無駄かな。と思い始めた頃、カジワラのシャーペンの動きが止まり問題に悩むような表情をし始めた。これは俺の出番かな?と思いカジワラに声を掛けようとした瞬間、カジワラが、「ねぇ、この問題分かる?イチノミヤくん?」とキョウヘイに教わろうとした。
俺に聞いてくれよ!と思ったが、ちょっと考えれば、この4人の中で一番勉強ができるキョウヘイに教わろうとするのは当然かと理解できた。俺が諦めて自分の勉強をしようと思いながら、何となくハタケの方を見ると、ハタケは頭を抱えて悩んでいるところだった。
「どうしたんだ?ハタケ?」
「あ!実はこの問題が分からなくて……。トツカくん、分かる?」
ハタケはおずおずと問題集を指差しながら見せてきた。ハタケが分からない問題は俺が4日前の木曜日にキョウヘイに教わった問題だった。
「あー、この問題はここをこうして……こうすれば解けるよ。」
「へー。そうやって解くんだ?理解できたよ。ありがとう。」
できればこの状況をカジワラとやりたかったな。とも思ったが、他人に教えられるくらい試験範囲を理解できてるというのが分かって素直に嬉しかった。その後も俺に質問してくるのはハタケだけでカジワラはキョウヘイにばかり質問していた。
キョウヘイの迎えが来る5時過ぎまで俺たち4人は教室で勉強していた。そしてキョウヘイが帰る時に一緒に下校した。俺はカジワラとハタケと一緒に駅まで行き、駅で2人を見送ってから、キョウヘイと合流してキョウヘイの家で試験勉強の続きをした。
俺は月曜日から金曜日までそんな生活を送った。
土曜日、授業は午前までなので、お昼を食べ終えたら、いつもの4人で試験勉強をした。キョウヘイの迎えは5時に来てもらうように頼んだみたいなので、4時間近く時間があった。この日も相変わらずカジワラは黙々と問題集を解き、ときどき分からない問題をキョウヘイに質問していた。俺はもうカジワラが俺に質問してくることは期待せず、黙々と問題集を解き、たまに問題が分からず頭を抱えているハタケに解き方を教えていた。
そんな感じで2時間近く時間が経った頃、俺は飲み物を買ってくると言って席を立った。だが俺が真っ先に向かったのは自販機のある場所ではなく、図書室だった。図書室に入ると席に座って勉強している人たちの頭を見て、三つ編みの女子はいないか確認した。
俺は先週の金曜日に積極的に会うつもりはないとキョウヘイに言ったのだが、図書室にハナザワさんがいないか探していた。さすがにまた話す約束をしたまま2度と会わないというのも失礼な気がしたので、もう1度くらいは会って話ができないかな。と考えたからだ。
しかし、この日は図書室にハナザワさんはいなかった。せっかく図書室まで走って来たのに……。そういえば、図書室が混んでいる時は特別教室にいるって言ってたな。どうする?行ってみるか?いや、でも、図書室でまた会ったら話そうと言ったのに、特別教室まで会いに行ったら、すごくハナザワさんと話したいみたいに受け取られるかもしれない。それはマズイ。と思い、特別教室まで行くのはやめておいた。
俺は急いで飲み物を4つ買い、キョウヘイたちがいる教室に戻った。
「遅かったな。何かあったのか?」
予想していた通り、キョウヘイが遅くなった理由を聞いてきたので、俺は4つの飲み物を見せながら、「キョウヘイたちの分も買ってきたからだよ。俺の分はともかく、キョウヘイたちは何がいいか迷っちゃってさ。」と答えた。
「そうか。サンキュー。えーと、お金お金。」
「いーよ。別に。俺が勝手に買ってきたんだし。」
「いや、そういうのは良くない。ちゃんと払うよ。」
「そうだよ。それにちょうど喉渇いてて何か飲みたいと思ってたし。」
カジワラとハタケも飲み物代を払うと言ってきたので、ありがたく受け取った。
それからは何事もなく5時まで試験勉強をした。5時過ぎに下校して、カジワラとハタケを駅で見送ってからキョウヘイと合流した。キョウヘイは俺が車に乗り込むなり、ニコニコしながら、「なあ、ホントはどこに行ってたんだ?」と尋ねてきた。
俺は訳が分からず、「『どこに行ってた?』ってなんだよ?俺はカジワラたちと駅に行ってただけだよ。」と答えた。
すると、キョウヘイは不自然な笑顔をやめずに、「ほら、学校で試験勉強していた時、セイ飲み物買いに行っただろ?その時のことを言ってるんだよ。」と説明してきた。
「それは飲み物買いに行ったんだよ。ちゃんと買って戻って来ただろ?遅くなったのはキョウヘイたちの分を買ったからだって説明しただろ?」
「うん。それは聞いた。でも、いくら俺たちの分を買ってきたからって20分近くかかるとは思えないんだよ。なあ、ホントは図書室に行ってたんじゃないか?」
「と、図書室?いや、行ってないけど……。」
「図書室に行って、ハナザワさんと話をしてたんじゃないのか?」
「してないよ!だってハナザワさん図書室にいなかったし!」
「ほら、やっぱり図書室に行ったんじゃないか!」
「あ!いや、でもホントにハナザワさんには会ってないから!」
「ホントか?」
「ホントだ!ていうかキョウヘイは俺のなんなんだよ?なんでそんなにハナザワさんと会うのをやめさせようとするんだよ!」
「それはセイがカジワラに誤解されてほしくないからだよ。ハナザワさんと仲良くしているのを見られてハナザワさんに乗り換えたと思われたくないだろ!」
「確かにそうだけど。カジワラは何とも思わないと思う。」
「それでもだよ!」
最後は無理やりまとめられたが、普通の女子だったら他の女子と仲良くしていたら、そう思う女子もいるとキョウヘイは考え、俺を心配してくれているのだろう。と考えることにした。だからと言って俺はハナザワさんと会うことをやめるつもりはなかった。キョウヘイの俺への対応は彼氏を束縛する彼女みたいな対応に思えたからだ。そこまでキョウヘイに俺を束縛する権利はないはずだ。
キョウヘイとの関係が少しぎくしゃくしそうになりながらも、中間試験の勉強を一緒にした次の日の日曜日、俺は自室で試験勉強の追い込みをかけていた。キョウヘイは先週や先々週と同じく、用事があったため一緒に勉強はできなかった。決してキョウヘイと一緒にいるのが気まずいからではない。
俺が集中して勉強しているとラインのメッセージの着信音が鳴った。スマホの画面を見るとナツキから「窓開けて。」とあったので、「今忙しいから無理。」と返信した。返信するとすぐに「いいから開けて。」とナツキからメッセージが来た。俺がそれに「無理。」と返信すると、「開けろ。」「開けろ。」「開けろ。」……と何度も同じメッセージが送られてきた。俺はそれに苛立ち、窓をガラッと開けて、「おい!いい加減にしろよ!」と怒鳴りつけた。
ナツキは俺の怒鳴り声を気にする様子もなく、「あ!やっと開けた。ねぇ、この問題分かる?」と質問してきた。俺はイライラしながらも、問題の解き方を教えればこのやり取りも終わるだろう。と考え、「どの問題だよ?」と聞き返した。
「だからこの問題!」
「え?どの問題?」
ナツキは問題集を開いて、ある問題を指差しているが、距離が遠くて俺には何の教科でどの問題かが分からなかった。
「だからこの問題!」
「あーもう!この距離じゃ分からないから、どの問題集の何ページ目のどの問題か言えよ!」
「分かった。えーと、数学の問題集の23ページ目の③の問題!」
「数学の問題集の23ページ目の③の問題……この問題か。教えてやるから俺の部屋に来い!」
「え!」
「『え!』って何だよ?このまま窓越しで教えられるわけないだろ!それとも俺がナツキの部屋に行くか?」
「そ、それはちょっと……。」
「だろう?だから俺の部屋に来ればいいんだよ。」
「分かった。ちょっと待ってて。」
そう言うとナツキは窓を閉めた。それから10分後、家のチャイムが鳴ったので玄関のドアを開けると、ナツキがバッグを持って(たぶん教科書や問題集を入れてきたのだろう)立っていた。
「よぉ。」
「……よぉ。」
軽くあいさつしたあと、いくら待っても家の中にナツキは入ってこなかった。
「何やってんだよ?早く入れよ。」
「う、うん。お邪魔します。」
ナツキはおずおずとした様子で、やっと家の中に入ってきた。
「部屋の場所は分かるよな?先に行っててくれ。」
「分かった。」
ナツキが通り過ぎるとシトラス系の香りがした。制汗剤の香りかな?汗のにおいを気にするとはナツキも女子なんだな。と思った。
俺が麦茶を2人分持って俺の部屋に行くと、ナツキが借りて来た猫のような状態で座っていた。
「何かしこまってるんだよ?初めて来たわけじゃないだろ?」
「そ、そうだけど……。」
「まあいいや。それじゃさっさと始めるか。」
俺がナツキの分からない問題の解き方を教えると、ナツキはまた別な問題の解き方を聞いてきた。それを教えるとまた次。それを教えるとまた次といった具合に質問攻めに遭った。それから解放されたのはナツキが来て4時間後の午後6時だった。
「これで終わりだよな?」
「うん。分からない問題は大体解き方教えてもらったから大丈夫。ありがとね。それにしてもセイすごいね。私の分からない問題全部解いちゃうんだから。」
「ああ、それはほとんどキョウヘイのおかげだな。俺はキョウヘイに解き方教えてもらったから。」
「なんだ。そうだったんだ?感心して損した。」
「いやいや、解き方を全部覚えるのも大変なんだぞ。」
「アハハ!それもそうだね。今身をもって理解したところだった。それじゃ私帰るね。」
「ああ。玄関まで送るよ。」
俺がナツキを玄関まで送ると、ナツキが、「お互い試験頑張ろう!」と言ってきたので、「ああ。それじゃまたな。」と返事をした。
「うん。また。」
ナツキはそう言うと玄関のドアを開けて自分の家に帰っていった。
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