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第45話
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くそ!起きるのが遅かった!
朝7時20分にナツキの家に行ったが、ナツキはすでに登校したあとだった。
くそ!ナツキは部活の朝練に行くから7時前には家を出るんだった!何で寝る前にそのことに気が付かなかったんだ?俺は!
今更悔やんでもしょうがないことを悔やみながら俺は学校へと走って向かった。学校に到着すると校門をくぐり、バレー部が朝練している体育館へと向かった。
俺は焦っていたので、体育館の出入口の近くから堂々と中をのぞくという、落ち着いていたら絶対にしないミスをしてしまった。この時の俺はバレー部の人たちに中をのぞいていることをバレることよりも、バレー部の朝練にナツキがいないことの方が怖かったので、ナツキが朝練に出ているかどうかを確認することを優先した。
なんだ。ナツキちゃんと朝練に出てるじゃん。
ナツキが朝練に出てることはすぐに確認出来て、俺はホッとした。しかし、そんなホッとしてる俺とある女子部員の目が合った。するとその女子部員は嫌なものでも見るかのような顔をしながら、俺の方へ近づいてきた。
まずい!確かあの女子はミナとかいう女子バレー部の部員で、以前ナツキの部活が終わるのを待っていた時に突っかかってきた女子だ!どうする?ナツキが朝練に出てるか確認しに来ただけだ!と正直に言えば分かってくれるか?いや、そんなことを言ったら、なぜ確認しに来たのか?と理由を聞かれる。理由はとてもじゃないが答えられない。ここは逃げよう。
俺はミナという女子バレー部員が俺のところへ来る前に体育館から離れた。ミナという女子バレー部員はわざわざ追いかけるまでもないと思ったのか、俺を追いかけてまでは来なかった。
たぶん、昼休みまではナツキもハナザワさんと接触したりしないだろう。と俺は安心したが、万が一ということもあると思い、朝のホームルームが始まる前にキョウヘイに昨夜のナツキとのやり取りを説明した。万が一の場合、手を貸してもらおうと考えたからだ。
昨夜のやり取りを説明している間、キョウヘイは一言も発しなかったが、俺がナツキとの形ばかりの彼女という関係を解消しようとしたと言った時は複雑そうな表情をしていた。全部説明し終えると、キョウヘイは、「つまり、ナツキとハナザワさんが接触する前にナツキを説得したいってことだな?分かった。協力するよ。」と言ってくれた。
「ありがとう。キョウヘイ。」
「ハナザワさんと話をつけたくても、他の人に聞かれたくないだろうから、ナツキも昼休みまでは行動しないだろうが、一応休み時間ごとにナツキのクラスに行ってハナザワさんのところに行ってないか確認しないとな。」
「そうだな。俺がナツキを説得している間の会話も他の人に聞かれたくないから、ナツキを説得するのも昼休みまで待たなきゃいけないという問題もあるから、そうするしかないな。」
この日は授業が終わるたびにナツキのクラスへと向かい、ナツキが教室にいるか確認しに行った。幸いなことに3時間目と4時間目の間の休み時間までナツキはずっと教室で友だちと会話していた。しかし、俺たちのクラスは4時間目が移動教室だったので、昼休みになってすぐにナツキの教室に向かった時には、すでにナツキは教室にいなかった。
「ヤバいぞ、キョウヘイ!ナツキがいない!」
「セイ、落ち着け!とりあえず、ナツキを探そう!俺はハナザワさんのクラスに行くから、セイはナツキがハナザワさんを連れて行きそうな第3特別教室に行ってくれ!」
「分かった!」
俺はできるだけ早足で第3特別教室に向かった。こういう時に限って先生と廊下ですれ違うので、走って第3特別教室に向かうことは難しかった。
何とか第3特別教室に着いて中をのぞいてみると、ナツキとハナザワさんがいた。以前ほど険悪なムードじゃなさそうだったので少しホッとしたが、ナツキがハナザワさんに何を言ってるか分からないので、すぐにやめさせようとした。
ガラッと第3特別教室のドアを開けると、ナツキとハナザワさんが俺の方に視線を向けた。
「セイ!ちょうど良かった!今から呼びに行こうと思ってたんだ。ね!ハナザワさん!」
「はい!トツカ先輩に聞いてほしい話があるんです!」
「聞いてほしい話?」
「そう!セイは自分のことが好きな相手を形ばかりの彼女にしたくない。でも、私たちは形ばかりの彼女でいいから付き合いたい。だから折衷案でセイには私とハナザワさんの両方と付き合ってもらおうと2人で考えたんだよ。」
「はぁ?それのどこが折衷案なんだよ?」
「まあ、最後まで聞いてよ。期間は夏休みが終わるまででいいからさ。夏休みまでにどっちかと付き合ってもいいかなと思ったら、そのまま付き合う。どっちとも付き合いたくないという考えが変わらなかったらどっちとも付き合わなくていい。これでどう?」
「どう?って言われても……。」
でも、夏休みを乗り切れば2人と付き合わなくていいってことか。2人が少しは譲歩してくれたわけだから、あまり文句を言わずに聞いておいた方がいいかもしれない。
「……分かった。それでいいよ。」
「よし!言質は取ったからね!今更拒否することは許さないからね!」
「分かってるよ。」
「やりましたね!ヒナタ先輩!」
「そうね!ハナザワさん!」
2人が手を取り合って喜んでるのを見ると、お前ら一緒に喜んでていい関係なのかよ?と疑問に思ったが、余計なことを言うこともないので黙っていた。
とりあえず、結論が先延ばしになっただけだが、ナツキとハナザワさんが納得するなら、これで良かったのかもしれない。と俺も納得することにした。
「はぁ?その提案に同意しちゃったのかよ?」
「……うん。でも、夏休みが終わるまでだっていう話だったからさ……。」
「それにしたってよ……。」
俺は放課後になるといつもの4人で漫画の話をするのをやめて、キョウヘイを第3特別教室に連れてきて、昼休みにナツキとハナザワさんとした契約を伝えていた。
「……まあでも、セイの言う通りだとすれば、夏休みが終わればハナザワさんにセイのことを諦めさせられるということだよな?ということは、夏休みが終われば、またセイの彼女はナツキだけに戻るってことだよな?」
「いや、それはない。」
「はぁ?」
キョウヘイが尋ねてきたことを俺が否定すると、キョウヘイは明らかに機嫌が悪くなった。
「じゃあ、セイは夏休みが終わったら、ナツキを捨ててハナザワさんを彼女にするっていうのかよ!」
「いや、それもない。」
「はぁ?」
キョウヘイの質問を俺がまた否定すると、キョウヘイは不機嫌ではないが、俺の発言が理解できないといった表情をしていた。
「ナツキもハナザワさんも彼女にしないってどういうことだよ?それじゃ、カジワラとも別れるってことか?」
「いや、カジワラとは別れないよ。だから、ナツキでもハナザワさんでもない人をまた新たに形ばかりの彼女にするよ。」
「……それってもしかして俺に気を遣っているのか?」
「そりゃ気を遣ってないと言ったら嘘になるな。親友の好きな相手と本当の彼女ではなく、形ばかりの彼女として付き合うなんてことできるわけないじゃん。だからと言って、ナツキを振ってハナザワさんと付き合うという不義理なこともできないしな。」
「俺がナツキを好きってことは気にしなくていいんだぞ!俺はナツキが幸せならそれでいいんだ。」
俺は首を左右に少し振って、「いや、俺が気を遣っているのはキョウヘイだけじゃない。ナツキにも気を遣っているんだ。」と答えた。
「ナツキにも?」
「ナツキが俺のことを好きだってことを知ってしまったら、形ばかりの彼女として付き合ってもらうなんてナツキに対して不義理なことをしたくないんだ。それに変な期待を持たせたくもないからな。」
「でも、新たに形ばかりの彼女を作るって言ってもそんな簡単に相手が見つかるのか?」
「確かにそれは難しいかもしれないけど、今度は金銭的な契約を結んで形ばかりの彼女になってくれる人を探すよ。その方が親しい相手に付き合うふりをしてもらうより全然いいってことに気付いたからな。」
「なんかその相手の方がセイの愛人みたいだな。」
「まあ、俺としてはカジワラと正式に付き合いたいわけだから、その相手の方が愛人というのは合ってるかもな。しかも、そんな相手見つからないかもしれないしな。まあ、その時は仕方ないけどカジワラに彼女になってもらえるようにまた努力するよ。」
「そうだ!カジワラと言えば、このことはカジワラには伝えるのか?」
「伝えねぇよ!だからこうして誰もいない所でキョウヘイにだけ伝えてるんだよ!」
「カジワラはセイの愛人だから、まったく気にしないかもしれないけどな。」
キョウヘイは少し笑みを浮かべながら、そう言った。
「カジワラが気にしなくても、俺が気にするんだよ!たとえカジワラが俺の愛人だとしても、カジワラに不義理なことはしたくないからな!」
キョウヘイはますます笑いながら、「セイはずいぶんと義理堅いみたいだな。まあ、そういう奴だから、俺はセイと友だちなんだけどな。」と言ってきた。
突然キョウヘイが恥ずかしいことを言ってきたので、俺は、「何恥ずかしいこと言ってんだよ!あ!そういえば、放課後はハナザワさんと図書室で待ち合わせしていたんだった!それじゃあ、俺行くからな!」と照れ隠ししながら、この場を後にしようとした。
「セイ!」
第3特別教室を出ようとする俺をキョウヘイが呼び止めた。
「どうした?」
俺がキョウヘイの方を振り向くと、キョウヘイは、「ありがとな。」と礼を言ってきた。
俺は礼を言われる理由が完璧には理解できていなかったが、「礼を言われるようなことはしてねぇよ。」と笑って答えて図書室に向かった。
「ごめん!待たせちゃったかな?」
俺が図書室に着くと、すでにハナザワさんが入り口のドアの近くで立って待っていたので、来るのが遅れたことを謝った。
「全然待ってないですよ!」
ハナザワさんは笑ってそう言っていたが、明らかに嘘だということが分かり、申し訳ない気持ちになった。でも、ここで何度も謝っていてもしょうがない気がしたので、ここはハナザワさんの優しさに甘えることにした。
「そっか。なら良かった。ところでホントにいいの?図書室が閉まるまで一緒に本を読むだけで?」
「はい!トツカ先輩に読んでほしい本がたくさんあるので、まずはそれを読んでほしいんです!その後で本を読んだ感想を話し合えたらいいなぁ。って思ってるんです。」
夏休みが終わるまでハナザワさんに付き合ってあげればいいと考えている俺にとっては、楽しそうに今後のことを話すハナザワさんを見ていると、すごく申し訳ない気持ちになった。
「そっか。それじゃあ、俺もできるだけ早く薦められた本を読み終えられるように努力するよ。」
「いえ!ちゃんと内容を理解できるようにゆっくり読んでほしいです!」
「そっか。ごめんごめん。内容を理解しながらできるだけ早く読むよ。」
「はい。それでお願いします。それじゃあ、図書室に入りましょうか?」
「うん。そうだね。」
図書室に入ると、俺が2人分の席を確保してる間にハナザワさんは俺に薦める本を持ってきて、俺の前の机に2冊の本をポンと置いた。
「あれ?2冊だけでいいの?」
読んでほしい本がたくさんあると言ってたのに、ハナザワさんが2冊しか持ってこなかったことを疑問に思い、そのまま口にしてしまった。
すると、ハナザワさんは微笑みながら、「全部持ってきても今日は読み切れないと思ったので、2冊だけ持ってきました。」と答えた。
「それもそうだよね。それでどっちから読んだ方がいい?」
「どっちもすごくお薦めなので、どっちから読んでもらっても構いませんよ。」
「そう?じゃあ、こっちから読んでみようかな。」
その後は、図書室が閉まるまで俺とハナザワさんはほとんど話すことなく(図書室なのでペラペラとしゃべることはできないのだが)本を読んでいた。俺はハナザワさんに薦められた本を読み切ることができなかったので、2冊とも借りることにした。
図書室が閉まった後はナツキと一緒に帰宅する約束をしていたので、「それじゃ、ハナザワさん、また明日。」と言って、ナツキとの集合場所である昇降口に向かおうとした。するとハナザワさんが、「あの!トツカ先輩!ちょっといいですか?」と俺を呼び止めてきた。
「どうしたの?ハナザワさん?」
「あの……ラインのIDを交換してもらってもいいですか?」
ナツキとはラインのIDをとっくに交換しているので、この申し出を断るとナツキとハナザワさんとの間に格差ができてしまうなぁ。と考え、「うん。いいよ。」と言って快諾した。
ハナザワさんとラインのIDを交換したあと、俺はハナザワさんと別れて昇降口へと向かった。15分ほど昇降口で待ってるとナツキが走ってやって来た。
「ごめん。待たせちゃって。」
「大丈夫だよ。さっき来たところだから。」
俺もハナザワさんを見習って、ナツキに気を遣った嘘をついた。
「そう?なら良かった。それじゃあ、帰ろっか?」
ナツキも嘘だと分かってるのか、少し影のある笑顔をしていた。
学校から家に帰るまでの間、ナツキはずっとハナザワさんと何してたかを質問してきた。
俺が正直に図書室で本を読んでいたと答えても、半信半疑といった表情をしていた。
「あとラインのIDを交換した。」と言うと、ナツキはすごく複雑そうな表情をしていたが、「まあ、それはしょうがないよね。」と、最終的には納得しているようだった。
家に着くと、ナツキは最後に、「私としたことがないようなことは、ハナザワさんとしちゃダメだからね!」と釘を刺してきた。
俺は大体意味は分かっていたが、ナツキをからかってやろうと思い、「たとえばどんなことだよ?」と聞き返した。
「たとえば……手をつなぐとか、キ、キスするとかよ!」
ナツキは顔を真っ赤にしながら俺の質問に答えた。
「大丈夫!そんなことしないって!」
俺が断言すると、ナツキは安心したのか笑顔で、「それならいいけど。それじゃあ、セイ、また明日。」と言って、玄関のドアを開けて家の中に入って行った。
「ああ。また明日な。」
そう挨拶する心の中では、ナツキともしないけどな。とさっきの発言にさらに付け加えをしていた。
朝7時20分にナツキの家に行ったが、ナツキはすでに登校したあとだった。
くそ!ナツキは部活の朝練に行くから7時前には家を出るんだった!何で寝る前にそのことに気が付かなかったんだ?俺は!
今更悔やんでもしょうがないことを悔やみながら俺は学校へと走って向かった。学校に到着すると校門をくぐり、バレー部が朝練している体育館へと向かった。
俺は焦っていたので、体育館の出入口の近くから堂々と中をのぞくという、落ち着いていたら絶対にしないミスをしてしまった。この時の俺はバレー部の人たちに中をのぞいていることをバレることよりも、バレー部の朝練にナツキがいないことの方が怖かったので、ナツキが朝練に出ているかどうかを確認することを優先した。
なんだ。ナツキちゃんと朝練に出てるじゃん。
ナツキが朝練に出てることはすぐに確認出来て、俺はホッとした。しかし、そんなホッとしてる俺とある女子部員の目が合った。するとその女子部員は嫌なものでも見るかのような顔をしながら、俺の方へ近づいてきた。
まずい!確かあの女子はミナとかいう女子バレー部の部員で、以前ナツキの部活が終わるのを待っていた時に突っかかってきた女子だ!どうする?ナツキが朝練に出てるか確認しに来ただけだ!と正直に言えば分かってくれるか?いや、そんなことを言ったら、なぜ確認しに来たのか?と理由を聞かれる。理由はとてもじゃないが答えられない。ここは逃げよう。
俺はミナという女子バレー部員が俺のところへ来る前に体育館から離れた。ミナという女子バレー部員はわざわざ追いかけるまでもないと思ったのか、俺を追いかけてまでは来なかった。
たぶん、昼休みまではナツキもハナザワさんと接触したりしないだろう。と俺は安心したが、万が一ということもあると思い、朝のホームルームが始まる前にキョウヘイに昨夜のナツキとのやり取りを説明した。万が一の場合、手を貸してもらおうと考えたからだ。
昨夜のやり取りを説明している間、キョウヘイは一言も発しなかったが、俺がナツキとの形ばかりの彼女という関係を解消しようとしたと言った時は複雑そうな表情をしていた。全部説明し終えると、キョウヘイは、「つまり、ナツキとハナザワさんが接触する前にナツキを説得したいってことだな?分かった。協力するよ。」と言ってくれた。
「ありがとう。キョウヘイ。」
「ハナザワさんと話をつけたくても、他の人に聞かれたくないだろうから、ナツキも昼休みまでは行動しないだろうが、一応休み時間ごとにナツキのクラスに行ってハナザワさんのところに行ってないか確認しないとな。」
「そうだな。俺がナツキを説得している間の会話も他の人に聞かれたくないから、ナツキを説得するのも昼休みまで待たなきゃいけないという問題もあるから、そうするしかないな。」
この日は授業が終わるたびにナツキのクラスへと向かい、ナツキが教室にいるか確認しに行った。幸いなことに3時間目と4時間目の間の休み時間までナツキはずっと教室で友だちと会話していた。しかし、俺たちのクラスは4時間目が移動教室だったので、昼休みになってすぐにナツキの教室に向かった時には、すでにナツキは教室にいなかった。
「ヤバいぞ、キョウヘイ!ナツキがいない!」
「セイ、落ち着け!とりあえず、ナツキを探そう!俺はハナザワさんのクラスに行くから、セイはナツキがハナザワさんを連れて行きそうな第3特別教室に行ってくれ!」
「分かった!」
俺はできるだけ早足で第3特別教室に向かった。こういう時に限って先生と廊下ですれ違うので、走って第3特別教室に向かうことは難しかった。
何とか第3特別教室に着いて中をのぞいてみると、ナツキとハナザワさんがいた。以前ほど険悪なムードじゃなさそうだったので少しホッとしたが、ナツキがハナザワさんに何を言ってるか分からないので、すぐにやめさせようとした。
ガラッと第3特別教室のドアを開けると、ナツキとハナザワさんが俺の方に視線を向けた。
「セイ!ちょうど良かった!今から呼びに行こうと思ってたんだ。ね!ハナザワさん!」
「はい!トツカ先輩に聞いてほしい話があるんです!」
「聞いてほしい話?」
「そう!セイは自分のことが好きな相手を形ばかりの彼女にしたくない。でも、私たちは形ばかりの彼女でいいから付き合いたい。だから折衷案でセイには私とハナザワさんの両方と付き合ってもらおうと2人で考えたんだよ。」
「はぁ?それのどこが折衷案なんだよ?」
「まあ、最後まで聞いてよ。期間は夏休みが終わるまででいいからさ。夏休みまでにどっちかと付き合ってもいいかなと思ったら、そのまま付き合う。どっちとも付き合いたくないという考えが変わらなかったらどっちとも付き合わなくていい。これでどう?」
「どう?って言われても……。」
でも、夏休みを乗り切れば2人と付き合わなくていいってことか。2人が少しは譲歩してくれたわけだから、あまり文句を言わずに聞いておいた方がいいかもしれない。
「……分かった。それでいいよ。」
「よし!言質は取ったからね!今更拒否することは許さないからね!」
「分かってるよ。」
「やりましたね!ヒナタ先輩!」
「そうね!ハナザワさん!」
2人が手を取り合って喜んでるのを見ると、お前ら一緒に喜んでていい関係なのかよ?と疑問に思ったが、余計なことを言うこともないので黙っていた。
とりあえず、結論が先延ばしになっただけだが、ナツキとハナザワさんが納得するなら、これで良かったのかもしれない。と俺も納得することにした。
「はぁ?その提案に同意しちゃったのかよ?」
「……うん。でも、夏休みが終わるまでだっていう話だったからさ……。」
「それにしたってよ……。」
俺は放課後になるといつもの4人で漫画の話をするのをやめて、キョウヘイを第3特別教室に連れてきて、昼休みにナツキとハナザワさんとした契約を伝えていた。
「……まあでも、セイの言う通りだとすれば、夏休みが終わればハナザワさんにセイのことを諦めさせられるということだよな?ということは、夏休みが終われば、またセイの彼女はナツキだけに戻るってことだよな?」
「いや、それはない。」
「はぁ?」
キョウヘイが尋ねてきたことを俺が否定すると、キョウヘイは明らかに機嫌が悪くなった。
「じゃあ、セイは夏休みが終わったら、ナツキを捨ててハナザワさんを彼女にするっていうのかよ!」
「いや、それもない。」
「はぁ?」
キョウヘイの質問を俺がまた否定すると、キョウヘイは不機嫌ではないが、俺の発言が理解できないといった表情をしていた。
「ナツキもハナザワさんも彼女にしないってどういうことだよ?それじゃ、カジワラとも別れるってことか?」
「いや、カジワラとは別れないよ。だから、ナツキでもハナザワさんでもない人をまた新たに形ばかりの彼女にするよ。」
「……それってもしかして俺に気を遣っているのか?」
「そりゃ気を遣ってないと言ったら嘘になるな。親友の好きな相手と本当の彼女ではなく、形ばかりの彼女として付き合うなんてことできるわけないじゃん。だからと言って、ナツキを振ってハナザワさんと付き合うという不義理なこともできないしな。」
「俺がナツキを好きってことは気にしなくていいんだぞ!俺はナツキが幸せならそれでいいんだ。」
俺は首を左右に少し振って、「いや、俺が気を遣っているのはキョウヘイだけじゃない。ナツキにも気を遣っているんだ。」と答えた。
「ナツキにも?」
「ナツキが俺のことを好きだってことを知ってしまったら、形ばかりの彼女として付き合ってもらうなんてナツキに対して不義理なことをしたくないんだ。それに変な期待を持たせたくもないからな。」
「でも、新たに形ばかりの彼女を作るって言ってもそんな簡単に相手が見つかるのか?」
「確かにそれは難しいかもしれないけど、今度は金銭的な契約を結んで形ばかりの彼女になってくれる人を探すよ。その方が親しい相手に付き合うふりをしてもらうより全然いいってことに気付いたからな。」
「なんかその相手の方がセイの愛人みたいだな。」
「まあ、俺としてはカジワラと正式に付き合いたいわけだから、その相手の方が愛人というのは合ってるかもな。しかも、そんな相手見つからないかもしれないしな。まあ、その時は仕方ないけどカジワラに彼女になってもらえるようにまた努力するよ。」
「そうだ!カジワラと言えば、このことはカジワラには伝えるのか?」
「伝えねぇよ!だからこうして誰もいない所でキョウヘイにだけ伝えてるんだよ!」
「カジワラはセイの愛人だから、まったく気にしないかもしれないけどな。」
キョウヘイは少し笑みを浮かべながら、そう言った。
「カジワラが気にしなくても、俺が気にするんだよ!たとえカジワラが俺の愛人だとしても、カジワラに不義理なことはしたくないからな!」
キョウヘイはますます笑いながら、「セイはずいぶんと義理堅いみたいだな。まあ、そういう奴だから、俺はセイと友だちなんだけどな。」と言ってきた。
突然キョウヘイが恥ずかしいことを言ってきたので、俺は、「何恥ずかしいこと言ってんだよ!あ!そういえば、放課後はハナザワさんと図書室で待ち合わせしていたんだった!それじゃあ、俺行くからな!」と照れ隠ししながら、この場を後にしようとした。
「セイ!」
第3特別教室を出ようとする俺をキョウヘイが呼び止めた。
「どうした?」
俺がキョウヘイの方を振り向くと、キョウヘイは、「ありがとな。」と礼を言ってきた。
俺は礼を言われる理由が完璧には理解できていなかったが、「礼を言われるようなことはしてねぇよ。」と笑って答えて図書室に向かった。
「ごめん!待たせちゃったかな?」
俺が図書室に着くと、すでにハナザワさんが入り口のドアの近くで立って待っていたので、来るのが遅れたことを謝った。
「全然待ってないですよ!」
ハナザワさんは笑ってそう言っていたが、明らかに嘘だということが分かり、申し訳ない気持ちになった。でも、ここで何度も謝っていてもしょうがない気がしたので、ここはハナザワさんの優しさに甘えることにした。
「そっか。なら良かった。ところでホントにいいの?図書室が閉まるまで一緒に本を読むだけで?」
「はい!トツカ先輩に読んでほしい本がたくさんあるので、まずはそれを読んでほしいんです!その後で本を読んだ感想を話し合えたらいいなぁ。って思ってるんです。」
夏休みが終わるまでハナザワさんに付き合ってあげればいいと考えている俺にとっては、楽しそうに今後のことを話すハナザワさんを見ていると、すごく申し訳ない気持ちになった。
「そっか。それじゃあ、俺もできるだけ早く薦められた本を読み終えられるように努力するよ。」
「いえ!ちゃんと内容を理解できるようにゆっくり読んでほしいです!」
「そっか。ごめんごめん。内容を理解しながらできるだけ早く読むよ。」
「はい。それでお願いします。それじゃあ、図書室に入りましょうか?」
「うん。そうだね。」
図書室に入ると、俺が2人分の席を確保してる間にハナザワさんは俺に薦める本を持ってきて、俺の前の机に2冊の本をポンと置いた。
「あれ?2冊だけでいいの?」
読んでほしい本がたくさんあると言ってたのに、ハナザワさんが2冊しか持ってこなかったことを疑問に思い、そのまま口にしてしまった。
すると、ハナザワさんは微笑みながら、「全部持ってきても今日は読み切れないと思ったので、2冊だけ持ってきました。」と答えた。
「それもそうだよね。それでどっちから読んだ方がいい?」
「どっちもすごくお薦めなので、どっちから読んでもらっても構いませんよ。」
「そう?じゃあ、こっちから読んでみようかな。」
その後は、図書室が閉まるまで俺とハナザワさんはほとんど話すことなく(図書室なのでペラペラとしゃべることはできないのだが)本を読んでいた。俺はハナザワさんに薦められた本を読み切ることができなかったので、2冊とも借りることにした。
図書室が閉まった後はナツキと一緒に帰宅する約束をしていたので、「それじゃ、ハナザワさん、また明日。」と言って、ナツキとの集合場所である昇降口に向かおうとした。するとハナザワさんが、「あの!トツカ先輩!ちょっといいですか?」と俺を呼び止めてきた。
「どうしたの?ハナザワさん?」
「あの……ラインのIDを交換してもらってもいいですか?」
ナツキとはラインのIDをとっくに交換しているので、この申し出を断るとナツキとハナザワさんとの間に格差ができてしまうなぁ。と考え、「うん。いいよ。」と言って快諾した。
ハナザワさんとラインのIDを交換したあと、俺はハナザワさんと別れて昇降口へと向かった。15分ほど昇降口で待ってるとナツキが走ってやって来た。
「ごめん。待たせちゃって。」
「大丈夫だよ。さっき来たところだから。」
俺もハナザワさんを見習って、ナツキに気を遣った嘘をついた。
「そう?なら良かった。それじゃあ、帰ろっか?」
ナツキも嘘だと分かってるのか、少し影のある笑顔をしていた。
学校から家に帰るまでの間、ナツキはずっとハナザワさんと何してたかを質問してきた。
俺が正直に図書室で本を読んでいたと答えても、半信半疑といった表情をしていた。
「あとラインのIDを交換した。」と言うと、ナツキはすごく複雑そうな表情をしていたが、「まあ、それはしょうがないよね。」と、最終的には納得しているようだった。
家に着くと、ナツキは最後に、「私としたことがないようなことは、ハナザワさんとしちゃダメだからね!」と釘を刺してきた。
俺は大体意味は分かっていたが、ナツキをからかってやろうと思い、「たとえばどんなことだよ?」と聞き返した。
「たとえば……手をつなぐとか、キ、キスするとかよ!」
ナツキは顔を真っ赤にしながら俺の質問に答えた。
「大丈夫!そんなことしないって!」
俺が断言すると、ナツキは安心したのか笑顔で、「それならいいけど。それじゃあ、セイ、また明日。」と言って、玄関のドアを開けて家の中に入って行った。
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そう挨拶する心の中では、ナツキともしないけどな。とさっきの発言にさらに付け加えをしていた。
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クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
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・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
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