好きになった女子が愛人にしかなる気がないと言っていたので、形だけの彼女を作って愛人として付き合ってもらった。

無自信

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第44話

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 どうやってあの場を収めたのか覚えていないが、気付いたら自分のクラスに戻っていて午後の授業を受けていた。と言っても、午後の授業は全く身が入らず、先生が何を言ってたのかも覚えてないし、板書もちゃんとノートに書き写せたのか分からない。

なんか最近授業に身が入らないことが多い気がするな。だけど今日は今までで一番身が入らない。

ナツキとハナザワさんが俺のことが好き?全くもってこの2人に俺が好意を持たれる理由が分からない。それも気にはなるが、一番考えなきゃいけない問題がある。

それは今後2人とどう接すればいいのか分からないことだ。ハナザワさんは極力出会わないようにすればいいのかもしれないが、ナツキは学校で会わないようにしても、家が隣だし、連絡先も知られているから、いつまでも逃げられるような相手ではない。あーもう!俺はどうすればいいんだ?

分からない!誰かに相談したい!いや、答えなんてくれなくていいから、俺の今の悩みを誰かに聞いてほしい!誰か?誰かいないか?こんな現実にそうそうあるわけがない悩みを馬鹿にしたりせず聞いてくれる相手は……。そういえば、あの場にキョウヘイがいたような気がするけど……うん!確かにいた!ナツキを止めようとしてくれていたな。

それならキョウヘイは馬鹿にせずに俺の悩みを聞いてくれるんじゃないか?というか、ナツキと一緒に俺とハナザワさんの話を隠れて聞いていたんだから、俺の悩みを聞くくらいの償いはあっていいんじゃないか?よし!キョウヘイにこの悩みを聞いてもらおう!


 俺は放課後になるとキョウヘイに、「ちょっと話があるんだけどいいか?」と言って、有無を言わさず、人があまりいない第3特別教室に連れて来た。

第3特別教室に来てみると思った通り他に人はいなかった。俺は安心してキョウヘイに向かって、「キョウヘイ!俺はどうしたらいいと思う?」と尋ねた。他に人はいなかったが、万が一ということもあるので、できるだけ小さな声で尋ねた。

するとキョウヘイは、「はぁ。」とため息をついて、「俺はナツキを形ばかりの彼女にするとセイが言った時に『どうなっても知らないからな!』って言ったはずだけどな。」と俺を突き放すようなことを言ってきた。

「それはそうだけど……こんな状況になるってキョウヘイは分かっていたのか?」

「いや。さすがにハナザワさんもセイが好きだとは知らなかったよ。」

「え!それじゃあ、ナツキが俺を好きなことは知ってたのか?」

「ああ知ってたよ。」

「どうして?ナツキから聞いたのか?」

「違うよ。ナツキを見ていたら分かるよ。俺とセイを見る時の目が全然違うからな。」

「そうなのか?よく分かったな?俺は全然分からなかったよ。」

「まあ、俺がナツキを見る目も違うからかもしれないけどな。」

「え!それって……。」

「うん。俺はナツキのことが好きだ。」

俺は今のキョウヘイの発言を聞いていろいろ思うことがあった。

キョウヘイがナツキのことを好き?俺は親友の好きな人と付き合っていたのか?しかも正式の彼女ではなく、形ばかりの彼女として。なんてひどい男なんだろう。そうか!だからキョウヘイは俺がナツキを形ばかりの彼女にすることに激怒していたのか。謝らないと!すぐにキョウヘイに謝らないと!

「ごめんな。セイ。」

俺がキョウヘイに謝罪しようとすると、キョウヘイの方から謝罪されて訳が分からなかった。

「なんでキョウヘイが謝るんだよ?」

「セイがカジワラと付き合えるように俺がいろいろ手伝っていたのは、セイとカジワラが付き合えばナツキがセイのことを諦めるかな?っていう打算的な理由からなんだ。しかもそれがうまく行かなくなって、セイがナツキを形ばかりの彼女にすると言った時に本当の理由を言わずにセイにキレたりしたしさ。ホントごめん。」

「いや、俺の方こそごめん!キョウヘイがナツキのことを好きとは知らず、形ばかりの彼女なんかにして。」

「俺には謝らなくていいよ。ただナツキのことを真剣に考えてやってくれないか?」

「真剣に?」

「つまり、形ばかりの彼女じゃなくて、本当の彼女にするってことをだよ。」

ナツキとハナザワさんと今後どう付き合っていけばいいのか相談しようと思っていたが、キョウヘイからはナツキを本当の彼女にするように頼まれてしまった。

う~ん?これは一度ナツキとも話さなきゃダメだな。

「分かった。真剣に考えておくよ。」

「ありがとう。セイ。」

悩み事は一切解決しなかったが、ナツキと一度話すという覚悟だけは決まった。


 この日の夜8時、ナツキが確実に帰宅している時間を狙い、俺は自分の部屋からナツキに音声通話をかけていた。

ラインのメッセージを送って窓を開けさせて直接話そうかとも考えたが、今ナツキの顔を見て話すのは俺の気持ち的に無理だったのと、もしナツキが(やるかどうかは分からないが)感情を爆発させて大声で話されたりしたら、母さんたち(や周りの家の人たち)に俺たちの会話が聞こえてしまうかもしれないので、それはまずいと考えたために少しでも会話が周りに聞こえないようにスマホで音声通話をかけることにした。

音声通話をかけるとすぐにナツキは出た。

「セイ!私と別れないよね?私からハナザワさんに乗り換えたりしないよね?」

ナツキは第一声からかなり大きな声だった。それだけ俺から別れ話をされるのではないかと心配だったのだろう。俺はとりあえずナツキを落ち着かせようと落ち着いた声で、「ナツキ落ち着けよ。今のところ、ナツキからハナザワさんに乗り換えようとは考えてないよ。」と答えた。

「そ、そう?それならいいけど……。」

今の俺の答えはナツキの質問に1つしか答えてないのだが、それはあえて言わなかった。ナツキがこれ以上心配して大きな声を出すのを防ぐためだ。

「それならなんで電話してきたの?」

「それは……ナツキとの関係をどうすべきか話し合うためだよ。今のままでいいわけないだろう?」

「なんで?今のままでいいじゃん!今のまま私はセイの形ばかりの彼女ってことで。」

「そういうわけには行かないだろう?その……言いづらいけど、ナツキは俺のことが好きなんだろう?好きな男の形ばかりの彼女のままでいいのかよ?満足するのか?」

「満足してるよ!」

俺の質問に対して全く間を取らずにナツキはきっぱりと答えた。俺はナツキの答えに納得がいかず、「どうして?ずっと振り向いてもらえないかもしれないんだぞ!」と聞き返した。

「あれ?それをセイが聞くのはおかしいんじゃない?」

「どういう意味だよ?」

「だってセイも一生振り向いてもらえないかもしれない相手を愛人にしてるじゃない。だったら私の気持ちも分かるんじゃない?」

そう言われてみればそうだった。俺もカジワラにもしかしたら実らない恋をしていたんだった。愛人にしかなりたくないというカジワラを諦めきれず、ナツキを形ばかりの彼女にして愛人としてカジワラに付き合ってもらうくらいカジワラのことが好きだ。

俺のカジワラに対する気持ちとナツキの俺に対する気持ちが同じだというのなら、俺は決断しなくちゃいけない!

「ナツキ!ナツキがそういう気持ちなら、俺はナツキとは今の関係を続けられない!」

「え!どうして?やっぱり、ハナザワさんの方がいいの?そうなんでしょ!」

「いや、違……。」

「分かった。だったら私、明日ハナザワさんともう一度話してセイのことは諦めてもらう!」

「いや、だから……。」

「じゃあ、おやすみ!…………。」

「おい!ナツキ!おい!くそ!切りやがった。」

俺はナツキの誤解を解こうとしたが、その説明を一切聞かずにナツキは通話を切った。

誤解してると言ったが、ナツキは誤解を解く説明をわざと聞かないようにするために通話を切った気がする。もしかしたら誤解してるふりをしてるんじゃないか?いや、考え過ぎか?う~ん?まあ、明日直接話して誤解を解けばいいか。

ナツキと話すという決断を実行に移せたことに満足して、この日はそのまま寝てしまった。次の日に大変なことが待ってるとも知らずに。
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