空を飛ぶ能力しかないと思っていましたが、いつの間にかヒーローになってました。

無自信

文字の大きさ
22 / 55

第3部 第3話

しおりを挟む
 ヒイロたち以外誰もお見舞いに来ている人はいないみたいで、個室の病室のベッドの上にチカラが1人で眠っていた。

「あれっ?チカラのおばさんとかおじさんはいないんだ。」

「ツバサ忘れたのか?おじさんは海外に出張中だよ。おばさんは俺たちがお見舞いに来るなら、ちょっと家に帰って必要なものをとってくるって言ってたよ。」

ショウがど忘れしているツバサに対して説明した。

「そうだったけ?」

「ツバサ、持って来た花飾るから花瓶に水を汲んできてくれ。」

ショウがツバサに花瓶に水を汲んでくるように頼んだ。

「うん、分かった。ところで花全部飾っちゃうの?ヒデオさんのところにも行くなら少し残しておいた方がいいんじゃない?お見舞いに行くのに手ぶらって言うのもなんだしさ。」

「そうだな。それじゃあヒイロ、俺たちで買って来た花をチカラの病室に飾る分とヒデオさんのところに持って行く分に分けよう。」

「……。」

「おい、ヒイロ!聞いてるのか?」

「あっ、ごめん。聞いてなかった。」

「おいおい、チカラが心配なのは分かるけど、しっかりしてくれよ!」

「だってさ、チカラは本当に眠っているだけなのかなって思って。」

「どういう意味?実際そこで眠ってるじゃん。」

ツバサはヒイロの真意が理解できず聞き返した。

「だからさ、チカラは頭に怪物からの攻撃を食らったんだけど、その時にもう脳に深刻なダメージを負っていたら、その脳を治しても意味ないんじゃないかなって思ってさ。」

ヒイロの言葉にその場はシーンとなりました。
しかしすぐにショウが「つまり一度脳死した人の脳のケガを治しても意味ないんじゃないかと思っているわけだな。」とヒイロに聞き返した。

「うん。」

「でもそんなの病院の医者だって馬鹿じゃないんだから調べているはずだって。だから俺たちはチカラが目を覚ますのを信じて待てばいいんだよ!」

ショウはヒイロを元気づけようと言っているみたいですが、自分の不安を振り払おうと言い聞かせているようにも見えた。

「…そっか。そうだよな!信じて待てばいいんだよな!変なこと言ってごめん。」

ヒイロはショウの言葉に元気をもらったようだった。

「心配になる気持ちは分かるから気にしてないよ。でもチカラのおばさんの前ではそんなこと言うなよ。」

「分かった。」

「じゃあ、こっちに来てチカラの病室に飾る花とヒデオさんのお見舞いに持って行く花に分ける作業を手伝ってくれ。」

「了解。」

「それじゃあ、僕は花瓶に水を汲んでくるね。」

ツバサが花瓶に水を汲んで戻って来て、その花瓶に花を飾り終えたら、しばらくの間チカラが目を覚ますことを願ってヒイロたちは病室で過ごした。

30分ぐらい経った頃、ツバサが「あのさ、チカラには悪いんだけどさ、ヒデオさんのお見舞いにそろそろ行った方がいいんじゃない?お見舞いに行くってメール送ってから結構時間経ってるし。」と話を切り出した。

「そうだな。ヒデオさんのお見舞いにちょっと行って、すぐ戻ってくればいいからな。」

「うん、あんまり遅くなってもヒデオさんに失礼になっちゃうしね。」

話はすぐまとまり、ヒイロたちはヒデオのお見舞いに向かった。



 ヒデオの病室のドアをノックしてヒイロが一番先に「失礼します。」と言って病室に入った。
ショウとツバサはその後に続いて「「失礼します。」」と言って病室に入った。

「やあ、ヒイロくん!お見舞いに来てくれてありがとう!あっ、友だちも一緒なんだ。初めまして。ユウキ・ヒデオです。」

「初めまして。シラトリ・ツバサです。」

「…初めまして。アカシ・ショウです。」

世間でヒーローと呼ばれているヒデオに話しかけられて、ツバサだけでなく、普段有名人に興味なさそうなショウも緊張しているようだった。

「あれ、ヒデオさん普段見るような作業着を着てどうしたんですか?それにコウイチさんもいらっしゃったんですね。気付かなくてすみませんでした。」

「こんにちは。ヒイロくん。それにツバサくんに、ショウくんも。いきなりだけど3人もこの馬鹿に言ってやってよ!お前は重傷を負って入院していたんだから、もっと休んでろって!」

「えっ!ヒデオさん、もう怪物退治に復帰するつもりなんですか?」

コウイチの発言にヒイロは驚きの声を上げた。

「2人とも大袈裟だなぁ!1日は休んだし、オサムくんにケガは治してもらっているから、もう大丈夫だって!それにコウイチが冷凍庫に運んだ『カタイ』とか言う怪物も凍っているうちに倒しておかないとね!」

「1日休んだだけだろ!オサムくんが治してくれなかったら、全治何ヵ月掛かるか分からないケガだったんだぞ!何ヵ月も休めとは言わないけど、もう2、3日くらい休むべきだって!」

「そうですよ!ヒデオさんは普段ほとんど休まずに怪物退治しているんですから、もう少し休んだ方がいいですよ!なっ、ツバサ!ショウ!」

「…そうですよ!それにもしケガが完全に治ってなかったら大変だからね。ねっ、ショウ!」

「そうだな。ケガが完全に治ってなかったせいで大勢の人の前でまた怪物に負けたら、今度はマスメディアなんかをごまかすのは難しいだろうしな。」

ショウの辛辣な意見を聞いて、ヒデオは少し逡巡しているようでした。もう少し押せばヒデオも休んだ方がいいと思ってくれると4人が考えていた時に、コウイチのスマホの着信音が鳴り出した。

「ちょっと失礼。」

コウイチはスマホを取り出して、着信画面を見ると病室から出て行ってしまった。

コウイチがいなくなった後もヒイロたちはヒデオに休んでもらおうと説得を続けたが、どの意見も決定打にはならなかった。そうこうしているうちに、コウイチが戻ってきて、「ヒデオごめん。今から怪物退治に向かってもらいたいって連絡があった。準備してくれ!」と今までの意見を180度変えたことを言い出した。

「コウイチさん、何言ってるんですか?ヒデオさんには休息が…。」

「悪いけど、緊急事態だから、そうは言っていられないんだ。ヒデオ準備してくれ!」

「分かった。それじゃあ、悪いけど俺は行くね!コウイチ準備OKだ!行こう!」

そう言ってヒデオとコウイチはワープしてどこかへ行ってしまった。



 ヒデオの病室に残された3人はとりあえず、チカラの病室に戻って来て、ヒデオが向かわなくてはいけないくらいの緊急事態は何なのか話し合っていた。

「俺はまた人型の怪物が現れたんだと思うな。」

ヒイロはズバッと出来れば考えたくない意見を言い出した。

「僕もそう思う。でなきゃヒデオさんまで駆り出されることはないと思う。」

しかしツバサもヒイロの意見に同調した。

「俺もそう思うけど、緊急事態って言ってたから、ただ人型の怪物が現れたってだけじゃなくて、何か重要な施設が占拠されたとか、最悪破壊されたってことも考えられるな。」

ヒイロとツバサの2人よりもショウはさらに最悪の事態を想定した意見を言った。

「でも、その割にはスマホのニュースアプリにそう言ったニュースは入って来てないから、原子力発電所が破壊されたとか、そういったすぐに市民に被害が及ぶ施設が破壊されたわけではないと思うよ。いや、そうであってほしいな。」

ヒイロは冷静にショウの予想を否定したが、それもヒイロの希望が入った予想でしかなかった。

「それは俺もそう思うよ!でも、怪物と呼ばれる生物が次々と現れるような世界では、何が起こるか分からないから、常に最悪の事態を想定しておかないと。」

「ショウが言ってることも分かるけど、やっぱり実際に起こっては欲しくないな。…なあ、病院の割にはさっきから騒がしくないか?」

ヒイロが言う通り病室の前をバタバタと走る音や大きな話し声が聞こえて来ていた。

「うん。僕もさっきからそう思っていたんだよね。何かあったのかな?僕ちょっと聞いて来るよ。」

ツバサがチカラの病室を出て、状況確認に行った。

「それにしてもチカラ、全然目を覚まさないな。」

「そうだな。でもそれはさっきも言ったけど、俺たちはチカラが目を覚ますことを信じて待つしかないんだよ。」

「そうなんだけどさ…やっぱりこのまま目を覚まさないんじゃないかって不安になるじゃん。俺さ、どうしてもチカラから聞かなくちゃいけないことがあるんだ。だからこのまま目を覚まさなかったら困るんだよ!」

ヒイロは切実感を出してチカラがこのまま起きなかったら自分が困る理由を言った。

「聞かなくちゃいけないことって何だよ?」

「それは…チカラが俺を羨ましく思う理由は何なのかってことだよ!いくら考えても全然分からないから、もう答えを教えてもらおうと思ってるんだ。」

「何だよ。そんなことがどうしても聞きたいことかよ?くだらないなぁ。」

切実さを出していた割に内容が大したことなくてショウは拍子抜けしたようだった。

「何だよ!じゃあ、ショウは理由が分かるって言うのかよ?」

「分からないけど、目を覚まさない友達にどうしても聞きたい質問ではないと思う。」

「大変だーッ!」

病院が騒がしい理由を確認に行ったツバサが血相を変えて戻ってきた。

「どうしたんだよ。怪物でも出たか?」

ショウが冗談のつもりでそう言うと、ツバサは必死な表情で、「そうなんだよ!怪物が出たんだ!しかも人型の怪物が!」と答えた。

それを聞いたヒイロとショウに緊張感が走った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

居酒屋で記憶をなくしてから、大学の美少女からやたらと飲みに誘われるようになった件について

古野ジョン
青春
記憶をなくすほど飲み過ぎた翌日、俺は二日酔いで慌てて駅を駆けていた。 すると、たまたまコンコースでぶつかった相手が――大学でも有名な美少女!? 「また飲みに誘ってくれれば」って……何の話だ? 俺、君と話したことも無いんだけど……? カクヨム・小説家になろう・ハーメルンにも投稿しています。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

処理中です...