53 / 100
放っておけない
053
しおりを挟む
秀人は和花が気になりながらも電話を受け取り、いつも通りの対応をする。その間も時々和花をチラリと何度も確認していた。
和花は胸に手を当て、時折小さく息を吐き出している。過呼吸になっているわけではなさそうたが、その姿から何かがあったことは容易に想像できた。
秀人はさっさと電話を終わらせると席を立って和花の隣まで行く。
「橘さん、何か様子がおかしいけど、HOKUTOシステムに何か言われましたか?」
その言葉に和花は肩を震わせた。
HOKUTOシステムの三井について今まで誰かに相談することもなく、ましてや悟られることもなかった。自分で解決するか時が解決してくれるのをじっと耐え忍んでいたのだ。それなのに今、秀人は何かを感じ取っている。
和花は知られてしまったことの恥ずかしさや悔しさ、と同時に気づいてもらえたことの嬉しさも相まって思わず目頭が熱くなる。みるみるうちに溢れんばかりの涙の雫ができた。
ついにポロっと溢れ落ちたとき、秀人は戸惑いのあまり言葉を忘れて立ち尽くしてしまった。
「……橘さん」
「……ぐすっ」
和花が慌てて涙を拭ったとき、ちょうど通りかかった高柳がぎょっとして秀人を非難の目で見る。
「うわっ、佐伯チーム長が橘さんを泣かせた!」
「えっ」
「林部さんに報告しないと!」
「ち、ちょっと待って!」
秀人の制止は意味をなさず、とんだ大騒ぎとなったのだった。
和花は胸に手を当て、時折小さく息を吐き出している。過呼吸になっているわけではなさそうたが、その姿から何かがあったことは容易に想像できた。
秀人はさっさと電話を終わらせると席を立って和花の隣まで行く。
「橘さん、何か様子がおかしいけど、HOKUTOシステムに何か言われましたか?」
その言葉に和花は肩を震わせた。
HOKUTOシステムの三井について今まで誰かに相談することもなく、ましてや悟られることもなかった。自分で解決するか時が解決してくれるのをじっと耐え忍んでいたのだ。それなのに今、秀人は何かを感じ取っている。
和花は知られてしまったことの恥ずかしさや悔しさ、と同時に気づいてもらえたことの嬉しさも相まって思わず目頭が熱くなる。みるみるうちに溢れんばかりの涙の雫ができた。
ついにポロっと溢れ落ちたとき、秀人は戸惑いのあまり言葉を忘れて立ち尽くしてしまった。
「……橘さん」
「……ぐすっ」
和花が慌てて涙を拭ったとき、ちょうど通りかかった高柳がぎょっとして秀人を非難の目で見る。
「うわっ、佐伯チーム長が橘さんを泣かせた!」
「えっ」
「林部さんに報告しないと!」
「ち、ちょっと待って!」
秀人の制止は意味をなさず、とんだ大騒ぎとなったのだった。
10
あなたにおすすめの小説
『【スパチャ感謝】バイト先の塩対応な彼が、私の正体を知らずにガチ恋してくる件』
みぃた
恋愛
内気な女子大生のナギには秘密があった。それは、個人VTuber「ルル」として、細々と活動していること。ある日、生活のために始めたカフェのバイトで、同僚のカイと出会う。カイはイケメンだけど超絶クールで、ナギにも塩対応。一方、VTuberのルルには、毎晩のように高額スパチャを投げてくれる「セバスチャン」という熱狂的なファンがいた。実はその「セバスチャン」の正体こそ、カイだったのだ! リアルでは冷たい彼が、画面の向こうでは自分に愛を叫んでいる。正体がバレたら幻滅される…その恐怖と、素の自分を見てくれない切なさ。ネットとリアルが交差する、現代ならではの不器用なすれ違いラブコメディ。
冷徹社長は幼馴染の私にだけ甘い
森本イチカ
恋愛
妹じゃなくて、女として見て欲しい。
14歳年下の凛子は幼馴染の優にずっと片想いしていた。
やっと社会人になり、社長である優と少しでも近づけたと思っていた矢先、優がお見合いをしている事を知る凛子。
女としてみて欲しくて迫るが拒まれてーー
★短編ですが長編に変更可能です。
社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"
桜井 響華
恋愛
派遣受付嬢をしている胡桃沢 和奏は、副社長専属秘書である相良 大貴に一目惚れをして勢い余って告白してしまうが、冷たくあしらわれる。諦めモードで日々過ごしていたが、チャンス到来───!?
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
アラフォー×バツ1×IT社長と週末婚
日下奈緒
恋愛
仕事の契約を打ち切られ、年末をあと1か月残して就職活動に入ったつむぎ。ある日街で車に轢かれそうになるところを助けて貰ったのだが、突然週末婚を持ち出され……
愛してやまないこの想いを
さとう涼
恋愛
ある日、恋人でない男性から結婚を申し込まれてしまった。
「覚悟して。断られても何度でもプロポーズするよ」
その日から、わたしの毎日は甘くとろけていく。
ライティングデザイン会社勤務の平凡なOLと建設会社勤務のやり手の設計課長のあまあまなストーリーです。
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
残業帰りのカフェで──止まった恋と、動き出した身体と心
yukataka
恋愛
終電に追われる夜、いつものカフェで彼と目が合った。
止まっていた何かが、また動き始める予感がした。
これは、34歳の広告代理店勤務の女性・高梨亜季が、残業帰りに立ち寄ったカフェで常連客の佐久間悠斗と出会い、止まっていた恋心が再び動き出す物語です。
仕事に追われる日々の中で忘れかけていた「誰かを想う気持ち」。後輩からの好意に揺れながらも、悠斗との距離が少しずつ縮まっていく。雨の夜、二人は心と体で確かめ合い、やがて訪れる別れの選択。
仕事と恋愛の狭間で揺れながらも、自分の幸せを選び取る勇気を持つまでの、大人の純愛を描きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる