エリート外科医の蕩ける治療

あさの紅茶

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4.喜んでいいんですよね? side杏子

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そんなふわふわとした気持ちを抱えながら、何事もなく月日が過ぎた。その間、清島さんから連絡はない。もどかしく思いながらも、私からもしていない。

店の前の歩道に、桜が舞う。新しい季節がやってきた。この時季は常連さんに混じってご新規さんも多くお弁当屋に足を運んでくれる。新しい顔ぶれに、私の心もウキウキ弾んで新鮮な気分になる。

お昼のピークも過ぎた頃、一人で店番をしていると、神木坂総合病院の小児科医でうちのお弁当屋の常連でもある佐々木俊介ささきしゅんすけ先生がやってきた。佐々木先生は物腰柔らかな雰囲気の三十歳。患者さんからも看護師さんたちからも人気の先生だ。

「杏子ちゃん」

「佐々木先生、いらっしゃいま――せ……」

佐々木先生の後ろから入ってきたもう一人のお客さんに、私は息を飲む。ドキンと騒ぎ出す心臓に、慌てて胸のあたりをぎゅっと握った。

「こちら、今月から外科に来た清島一真。ここの弁当最高に美味しいから紹介しようと思って」

「清島先生……」

清島さんと目が合う。またしてもドキッと心臓が揺れた。久しぶりに会う清島さんは、あの時とは違ってラフな格好ではない。シワのないカッターシャツがよく似合っている。きっとこの上に白衣を着て仕事をしているんだろうな、と想像。流れるような黒髪に切れ長の目。佐々木先生が穏やかなイケメンだとしたら、清島さんはクールなイケメン。

「清島は大学の同級生なんだけど、昔から不愛想でさ、仲良くしてやってよ」

「えと……、ぜひ御贔屓に」

「病院の食堂より断然杏子ちゃんの弁当のが美味いから。看護師たちもよく来てるみたいだし」

「今日も桜子さんたちが買いに来てくださいましたよ」

「そういえば前に彼女たちと合コンに行ったんだって? 今度俺とも飲みに行こうよ」

佐々木先生が冗談めかして笑う。佐々木先生と飲みに行くのも楽しそうだななんて想像していると、清島さんが佐々木先生の肩をぐいっと引いた。

「ナンパするなよ。杏子は俺の患者。俊介と飲みに行くのはドクターストップだ」

「えっ、杏子ちゃんどこか悪いの? ていうか、一真が主治医? 来たばっかりなのに?」

「あー、えーっと、えへへ、実は前からの知り合いでして……」

ごまかしたつもりが、清島さんからキッと睨まれてしまった。余計なことは言うなということかもしれない。めちゃくちゃ気まずい。でもだったら清島さんがごまかしてよと内心焦っていたのだけど……。

「なるほど、一真ってこう見えて腕がいいから予約が取りづらいんだよね。知り合いなら納得。でも体には気をつけないと。働きすぎはよくないよ」

「それは佐々木先生もでしょ。午後からもお仕事頑張ってくださいね」

お弁当を手渡すと、ニコッと爽やかに笑ってくれた。穏やかだ……。めちゃくちゃ穏やかでこちらもヘラっと笑顔になる。なのに清島さんはムスッとしていた。清島さんも笑ったらかっこいいのに。
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