28 / 113
4.喜んでいいんですよね? side杏子
04
しおりを挟む
不埒な考えが頭の中を侵食していく。先生の引き締まった肉体美、低く甘い声。体の奥のほうがきゅっとなる。って、落ち着け、落ち着け私。何を想像しているの。先生は診察をしてくれるだけであって、決して不埒な考えではなく――
「――おーい、杏子。戻ってこーい」
「はっ! はいっ!」
「くくっ、また何か想像してたな」
「いえっ、決してそんなことではっ!」
「どんなこと?」
ど、どんなことって。言えるわけない。
言えるわけないじゃないですか、先生!
カアアッと顔が赤くなる。マスクをしていてもどうやらそれは伝わったみたいで、「顔真っ赤」と笑われてしまった。くそう、悔しい。
「じゃあ、また――」
と、清島さんが踵を返すときだった。
バタバタバタバタッ!
突如としてバケツをひっくり返したような音が鳴り響く。パラパラと降っていた雨が、大粒の雨となって窓ガラスを叩いていた。
「うわ、降ってきたか」
「先生、傘は?」
「持ってきてない。来るときは小雨だったしな。まあ、走るか」
「待って」
咄嗟にむんずと清島さんの手を掴む。触れてしまったことにドキッとしてまた咄嗟に手を引っ込めたら、清島さんは怪訝な顔をした。
「あ、えっと……。先生、今お昼休みですか? よかったらここで食べてってください。通り雨っぽいし。きっと三十分くらいで止むんじゃないかな?」
「いいのか?」
「いいですよ。どうぞこちらへ。ちょっと散らかってますけど」
カウンターを開けて清島さんを招き入れる。私が普段休憩するために使っている小さなスペースに案内した。
「私はこっちで仕事しますので、何かあったら呼んでください」
「悪いな」
「いえ。早く雨が止むといいですね」
と言いつつ、雨が上がったら清島さんは帰ってしまう。それがなんだかもどかしい。何だろうこの感情は。ずっと引き留めることなんてできないのに。
いやいや、そもそも引き留めるってなんだ。そういうつもりで声をかけたわけじゃないし、私はただ単に雨に濡れないようにと思っただけであって……。
「――おーい、杏子。戻ってこーい」
「はっ! はいっ!」
「くくっ、また何か想像してたな」
「いえっ、決してそんなことではっ!」
「どんなこと?」
ど、どんなことって。言えるわけない。
言えるわけないじゃないですか、先生!
カアアッと顔が赤くなる。マスクをしていてもどうやらそれは伝わったみたいで、「顔真っ赤」と笑われてしまった。くそう、悔しい。
「じゃあ、また――」
と、清島さんが踵を返すときだった。
バタバタバタバタッ!
突如としてバケツをひっくり返したような音が鳴り響く。パラパラと降っていた雨が、大粒の雨となって窓ガラスを叩いていた。
「うわ、降ってきたか」
「先生、傘は?」
「持ってきてない。来るときは小雨だったしな。まあ、走るか」
「待って」
咄嗟にむんずと清島さんの手を掴む。触れてしまったことにドキッとしてまた咄嗟に手を引っ込めたら、清島さんは怪訝な顔をした。
「あ、えっと……。先生、今お昼休みですか? よかったらここで食べてってください。通り雨っぽいし。きっと三十分くらいで止むんじゃないかな?」
「いいのか?」
「いいですよ。どうぞこちらへ。ちょっと散らかってますけど」
カウンターを開けて清島さんを招き入れる。私が普段休憩するために使っている小さなスペースに案内した。
「私はこっちで仕事しますので、何かあったら呼んでください」
「悪いな」
「いえ。早く雨が止むといいですね」
と言いつつ、雨が上がったら清島さんは帰ってしまう。それがなんだかもどかしい。何だろうこの感情は。ずっと引き留めることなんてできないのに。
いやいや、そもそも引き留めるってなんだ。そういうつもりで声をかけたわけじゃないし、私はただ単に雨に濡れないようにと思っただけであって……。
25
あなたにおすすめの小説
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる