傘使いの過ごす日々

あたりめ

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初の薬草採取

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時刻は昼前頃になる。
静也とアイナの二人は未だに薬草を採取していた。

「あの、急に暑くなってませんか?」
「ええ、そうですね、魔力の多い所では結構頻繁に暑かったり、寒かったりとしますよ。その分植物が強くなりますよ。」
「え?強くなるんですか?環境が違えば植物は育たない気がするんですが…」
「魔力が含まれているものならそんなことも動じない強い植物になるんですよ。とても不思議ですね。でもとても面白いんですよ。だから私は植物の採取や観察をしているんです。」

静也は日差しの強さに耐えかねて、日傘を召喚した。
傘を差したままそのまま薬草を探していた。
未だに静也は薬草を採れていない。

《スキル<探索・傘>を習得》

そのアナウンスが聞こえたので静也は自己開示を行う。

<探索・傘>
傘を装備、又は使用しているとき、罠の発見、宝の発見等ほぼ全般的に役立つ。
見つけたいもの、さがしものの名称や特徴を思い浮かべている状態ならその物の所へ案内してくれる。

便利なスキルを獲得できたのはありがたい。
このスキルを使って薬草を見つけて、アイナさんといい関係になるんだ、と鼻息を荒くしながら静也は<探索・傘>を実行した。

《スキル<探索・傘>を実行します。個体名:水鏡静也の視覚情報に干渉します。……干渉完了。》

アナウンスが流れ、<探索・傘>を実行できたことを告げる。
視界は何も変わっていない。
薬草を探す、そう念じると雑草が多いところからいくつも赤く縁取られていた。
それは勿論薬草であった。
次から次へと新しい薬草を静也は採りに行っていた。


「シズヤさん、どうですか?採れてますか?そろそろ村へ帰りますよ?」
「あれ?もうそんな時間ですか?」
「ええ、とは言ってもただ少くてこれ以上は大変そうだからです。」

時間は採りはじめて二時間、まだ昼過ぎ。

「あぁ、多分俺のせいかも知れないです。一杯採ったので…」
「あら、それじゃあ、見せてもらえませんか?」
(きた!ここで俺は沢山の薬草を見せて、『きゃーすごーい!シズヤさんって本当にすごいわー!惚れちゃった』なんてなったり…)

静也の脳内で妄想が繰り広げられていた。
傘ストレージ内の薬草を全て出し、これが全てだと報告する。

「こ、こんなに…すごいです…!しかも、なかには珍しい種類のものもありますよ!よく見つけられましたね…!」
「ええ、偶々ですよ。偶々。」
「ですが、採り方がなっていません。薬草に限らず草類は根っこから引っ張るものです。そうすれば痛みが少く品質が高くなります。」
「も、申し訳ありません…」
「まぁ、過ぎたことは仕方ないですしね。またご一緒に依頼を受けてくださりますか?」

その瞬間、天啓かと思った。思わず上ずった声で静也は答えた。

「わ、わかりました!またご一緒しましょう!」

帰りに草類のいろはを口頭で教えて貰っていた。
毒草の特徴や薬草での応急措置方法、良い薬草の見分け方などとても有益な情報だった。
村に帰り組合に戻り依頼達成の報告をアイナと一緒に向かった。
依頼された分の薬草を納品し、残りは隣の買い取り、解体屋に買い取って貰いに行く。
品質の良い薬草は良くて7ルター、品質の悪いものは大抵1か2ルターでしか買い取って貰えない。だが、需要の高い時はそれなりの料金で買い取ってもらえるらしい。

「お待たせ、買い取り鑑定したから、この料金で文句ないね?」

前回、魔物や魔獣を買い取って貰いに行ったときのおばちゃんだ。

「ええ、鑑定書を見せてください。」

あいよ、と言っておばちゃんは鑑定書を差し渡す。

「薬草が84、上位薬草が23、あわせて678ルター。よくこんなに見つけられたねぇ…」
「ええ、シズヤさんのお陰なんです。」

おばちゃんは静也の方に顔を向けると、驚いた顔をしていた。

「…本当にあんたは…滅茶苦茶だねぇ。実はなんでもできるんじゃないの?もしくは上位の冒険者だったり…」
「いやいや、自分はそんな大層な御方じゃないですよ、登録したての初心者ですから。」


「シズヤさん、カードを貸してください。連絡先を交換しましょう。」

その言葉に胸が弾んだ。格好を付けようと静也は冷静に振る舞う。

「はい、お願いします。むしろ此方から聞きたかった位ですから。」

静也はギルドカードを取りだし、アイナに渡す。
アイナは何かをすると静也にギルドカードを返した。

「はい、できました。カードの端に丸いボタンがありますよね、そこを押すと連絡先一覧が出ます。そこに私のカードの連絡先が書かれていますので、これで連絡ができるはずです。」
「ありがとうございます。気軽に連絡してください。基本的に自分は暇ですから。」

嬉しさで跳び跳ねたい気持ち抑えことを終えた。
時間は昼過ぎ、日が傾き沈みにかかる時間、空は暁になろうとしていた。
夕飯を食べに行こうと昨日行ったの酒場へ向かう。
酒は暫く飲まないことにしている。

夕飯時より早いというのに人はかなり居た。
依頼終わりの冒険者だったり、飯を食いに来たものだったり。

「いらっしゃいませ!今日も来てくださったんですね!お好きな席へどうぞ!」

看板娘の活気付いた声と周りの喧騒が酒場に来た気持ちにさせる。

「ご注文はどうします?」
「それじゃあ、『依頼終わり飯セット』を貰えますか?」
「お飲み物はどうしますか?」
「水でおねがいするよ。」

かしこまりましたーと言って娘は厨房に走って行った。

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