傘使いの過ごす日々

あたりめ

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無欲?強欲?

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アジト奪還に参加し、リーダーであるマグルを気絶させるまでに追い込んだ。
結果的に『溶岩の手』を壊滅することに成功する。
リーダーのマグルをはじめ、『溶岩の手』のメンバー全員を捕縛できた。


「ほんま、助かったわ!ありがとうな!ほれ、お前らも礼を言わんか。」

バランを含め、他の者たちが一斉に静也に頭を下げ、礼を言う。
心臓が口から出てきそうになった静也だった。

「礼を渡す前に…コレをどないかせんとな…」

バランはアジト内のゴミと、捕縛した『溶岩の手』のメンバーをみて呟く。

「…片付け、か…」

ガランがすこし嫌な顔をした。

「ほら、ガランも片付けするんやで!すまんけど、礼はまた後で渡すわ。ほら、お前ら片付けするで!その縛られとる小石どもは…関所にでも引き渡しとき。他のは片付けするで。」

バランが立派な兄に見えてきた静也だった。顔にピアスがたくさんついているが。
先導者がいるから他のメンバーも文句を言わずここまでついてきたのだろうな、と感心していた。


『溶岩の手』のメンバー全員を関所に引き渡し、アジトを掃除する。
焦土になったところは岩魔法が使える者が床や壁を直す。
あとは、ゴミ捨てに勤しんでいた。静也も動こうとするも、バランに止められ他の者が働いているのになにもしない歯痒さに襲われていた。

「まぁ、シズヤはんが手伝いたいっちゅう気持ちはわかるけど、俺たちの気持ちを考えて欲しいんやわ。『溶岩の手』のリーダー、マグルを倒してくれただけでなく、片付けの手伝いまでされたら俺達なにを返せばええんやって思うわけや。ここはじっとしておくんが一番大人やと俺は思うで?」

ぐうの音も出ない。確かに逆の立場ならリーダーを倒してくれただけでなく、片付けの手伝いまでされたら申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
するとバランは唐突にこんなことを聞いてきた。

「ほんましつこいようで申し訳ないんやけど折り入って頼むわシズヤはん、俺たちのチーム『風』に入ってくれへんか?」

チームの名前が『風』だということを初めて知ったのは置いておく、バランの提案の答えは考えるまでもなく

「いやです。いくらあなたたちが情報屋だろうが何だろうが、俺は冒険者ですので答えは同じです。」

ならず者のようなことをしているようなところにいたら風評被害で後ろ指をさされるような人生は御免だというのが一番だが。

「そうかぁ、シズヤはんやったらええとこまで行くと思うんやけどなぁ…もしかしてシズヤはんは王都に行くんか?」
「いや、俺は気が変わらない限りこの村でいますけど。」
「…そうかいな。ほんじゃ、報酬の話にいこか。まぁ、口でいってもあれやけんな、実際に宝物庫に行って好きなん選んでもらってもええで。」

静也はバランに連れられ宝物庫にいくのだった。



「この下に宝物庫があんねん。滅茶苦茶重い岩でつくられたテーブルの下に梯子があるけん。このテーブル動かすんに大の大人が10人全力で持ち上げな浮かんねん。けど、俺達のチームには魔法が使える奴が何人かおるけんそいつの手伝いがなかったら滅茶苦茶大変やで。」

連れられたのは酒の瓶が割れ破片やゴミが散らされている大広間だった。
いつも食事するときや会議をするときに使われるところで、入ってまっすぐ正面の石材で造られたテーブルの下に宝物庫があるという。
事を察したのか何人かのメンバーが寄ってきた。

「開けるけん手伝ってくれや」

静也も手伝おうと思い近寄るも大丈夫だと言われじっとする。
何人もの男たちが寄ってたかって一つのテーブルを動かそうと顔を真っ赤にして踏ん張っている。
鬼気迫る男たちの表情を見ている静也も手をぎゅっと握りしめてしまう。

テーブルが退いたころにはテーブルを退かす作業をしていた男たちは息も絶え絶えの状態で倒れている者もいる。
テーブルがあった場所には木の板があり、そこに宝物庫があるのだろうなと思う。

「ほ、ほな…シズヤは、はん…宝物庫行きましょか…」
「休んでから行きましょう」

見てるだけで疲れる。
暫しの休息の時間を待つこと5分

「ほな、行くで」

木の板を退けると木製の梯子、形は歪んでいるが使えないことはない。

「俺からさきに行くけん、降りたん言うけんそのあとに来てくれや。」


梯子を降りた先には光ひとつない闇が広がっていた。
上から注がれる微弱な光のみが唯一の光だった。

「今から開けるで。」

バランが手をたたくとどこからか扉が現れる。
そしてひとりでに扉が開き、中の空間があらわになる。
金銀をはじめ金色の杯や銀色の盃、中はどこを見ても光り煌めくものばかりだ。
高価なものだと一見してわかる。
眩しさのあまり目が眩んでしまうほど、その空間は煌めいていた。

「ここの中にあるん好きに選んでくれや。どれもこれも依頼の報酬やけん、キレイなもんやで。」

静也は固唾を呑んだ。
黄金の空間にある、好きなものを貰えるのだ。これよりも心が躍るような時はないだろう、と静也は思った。

「時間はあるけん、好きに見てくれたらええで。それとは別に報酬に10万ルター渡すで。マグルには手こずったけんな、それぐらい渡しても損はないで。」
「ちょ、そんなに?!そんなに貰っても困るんですが…この件の報酬はこの部屋の物を貰って終わりのはずです。それ以上貰ってもこちらも困るので…」

静也は怖くなり10万ルターを断る。もしかしたら『これからも頼む』という意味があるのでは、とこれを受け取ったら引き返せないのではと思い断ったのだ。

「シズヤはんはホンマに欲がないなぁ…。欲しいもんはないんか?」
「ないことはないですよ。近い内に家でも買って、そこで過ごそうかなって思ってます。」
「そうか。なら金がいるなぁ。じゃぁ少しでもその資金の足しにせなあかんな。がんばりよ。」

静也はこの男がこんなナリじゃなかったらきっとモテてたんだろうな、と思った。

結局選んだものは金だった。どれがいいのかわからないのでおとなしく金を貰って帰ろうと思った。
剣や槍、杖槍、など武器もあったがシステム<■■■■>の制限で傘以外は持てないので武器類は除外、全身鎧もあったがビビりの静也は全身鎧じゃ逃走の時に動きを阻害すると思い除外。
マジックアイテムやスクロールのような魔法の道具は数が多く悩み、挙句もらったものはルターだった。
別途報酬の10万だけ、あとは貸しひとつとして、その場を凌いだ。
10万ルターを貰い、帰り際に礼を言われ、今宵アジト争奪戦は終わりを告げた。

宿に戻るころにはどっと疲れが襲って来て、瞼を閉じた瞬間に夢の世界へ向かうのだった。
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