傘使いの過ごす日々

あたりめ

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解体教習 最終日

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今日は解体教習最終日。
昨日は血まみれになりながら頑張った甲斐もあってか今日は自信がある。

傘の能力を介してではなく自分の力、地力だけでここまでできる。努力が報われる。
それが何より嬉しかった。
俄然やる気も出てくるし、気力が溢れるのが分かる。
静也は解体教習を楽しみにしていた。



「おはようございます。」
「ああ、おはよう。今日が最後だからね。張り切っていきなよ。」

昨日、一昨日のように、解体所へ来た。
準備されているエプロン、グローブは昨日の血を残したままだ。
洗った痕跡はあるが、そう簡単に落ちてくれないのが現実だ。
ましてや、洗濯機なんてものはないのだから仕方がないことだ。


「お、シズヤ、おはよう。今日が最後だからな。きちんと全部覚えてもらうからな。覚悟しろよぉ?」
「おねがいします。」

静也は苦笑いするしかなかった。
ヨーが悪い顔をするものだから、思わず身構えていた。

すると、ヨーの頭に拳骨が落ちる。
ゴチンッという鈍い音が聞こえ。
思わず顔をしかめる静也。

「馬鹿言ってないでさっさと教えてやらんかい!」
「ハイッ!すんませんっした!」

反射的速度でヨーはジョアンに敬礼をする。
静也はそれを傍目に気をつけの状態だった。


「それじゃ、最終日だからな。昨日よりも早く解体できるように繰り返していくぞ。同じ魔物や動物ばかりじゃないけど、やることは全部同じだから大丈夫だ。」
「はい。」

やることは変わらない。
頭を落とし、皮を剥いで、内臓を取り出し、バラす。
静也は小型の魔物であれば十分以内、大型の魔物であれば四十分以内にバラそうと考えていた。
事実、静也はその時間を多少前後したが目標の時間に解体した。

貸し与えられたナイフは血が付着すると切れ味が落ちるので、血を拭ったり洗い流したり、兎に角ナイフの手入れが解体速度に左右する。
渡されたナイフが量産品でなく、一般の解体用ナイフだったのが幸いし、直ぐには切れ味が落ちなかった。


教習最終日は他の日の解体教習と変わらない。
筆記試験や面接がない。
さらに言うと、試験何て無いのだ。
覚えるか、覚えないか。
やるか、やらないかの違いだ。
静也の解体の腕は確かに上達している。
普通に解体所で働ける位に。
ヨーが時折アドバイスをしてくれるのもあり、上達が早かったのもある。

「そろそろ終わりにするか。とりあえず、血を流しとけよ。魔物の血は臭うからな。」
「わかりました。エプロンとグローブはどうしますか?」
「貰っておけ。そもそも、それはそういうもんだからさ。」

身に付けているエプロンとグローブを眺める。
血に濡れ、血が染み込んだエプロンとグローブ。汚れていても使える。

これからも解体をするときには使うと思い静也は傘ストレージに入れた。

解体教習は終わったが、気持ちは未だに解体しているような錯覚すら感じる。
解体の感覚が手に残っているのだ。

肉を裂く。骨を断つ。皮を剥ぐ。
その感覚が、静也の手の中に未だに生きている。
今日も、明日も、明後日も。
この経験は静也の為になった。
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