傘使いの過ごす日々

あたりめ

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昇級試験

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魔族問題が解決して一週間が経ったころ。
毎日薬草採取や、手伝い系の依頼をこなしてきた。

今日もいつものように依頼をこなそうと、ノーナと掲示板を眺めていたら

「シズヤさん、冒険者カードのランクアップに挑戦しませんか?」
「ランクアップですか?銀級になってまだ、一月と少し位しか経ってませんよ?」
「たしかに、そこまで時間もたってませんけど、重要なのは能力と資質ですから。」
「妾もそのランクアップに参加できるかの?」
「ノーナさんは、今は木級なので、石級のランクアップ試験が受けられますよ。資格も十分ございますので、受けられますよ。飛び級試験はあまりおすすめ致しませんよ。」
「何故?」
「飛び級試験に失敗しますと、半年の間は冒険者カードが使えなくなり、級位が一級下がります。また、失敗したことによって罰金もございます。」
「成るほどの…では、妾は安全マージンとやらで普通にランクアップ試験にするかの。」

ノーナはランクアップ申請書にサインをする。
元々知性の高いノーナは言語習得を軽々とやってのけたため、会話や読み書きが完璧に出来る。

受け付け嬢も感心してしまう程の綺麗な文字でサインを終え、静也の方を見るとどうだ、と言わんばかりの顔を見せる。
静也は笑みを返し、ノーナの頭を撫でる。
自分は子供ではないと言うも、満更でもない表情だ。

ランクアップ試験は三日後、相手は元金級冒険者ダンだ。
以前組合の試験で倒したことがある。
その時は手加減をするのにてこずったが、今の静也はその心配はない。

ノーナは石級冒険者の『オーリン』が相手だ。
オーリンは女性冒険者だ。石級で、試験官をするのは珍しく、普通は銀級だが、例外、イレギュラーと言えるのだ。
オーリン自身、依頼達成数は多く、実戦経験もあり、人柄も良いので推薦が来たらしい。

試験の内容は、筆記、実技だ。
筆記は冒険者のルールがほとんどだ。あとは、狩ったあとの魔物の処理の仕方など、一般問題が出題される。
実技は試験官との手合わせだ。
石級昇格審査は、試験官との武器あり魔法ありの点数制、金級昇格審査は試験官との武器あり魔法ありの実戦型式だ。



三日後、試験当日。
体調は万全、気力は溢れるような感覚がする。
つまり、ベストコンディションだ。
コンディションの良し悪しで、アスリートなどは勝負が別れる時が多々ある。
コンディションが良いことに越したことはない。

朝早くからティアが来てくれて、朝食を作ってくれていた。
ノーナも手伝っていたようで、なにやら楽しそうに話していた。

「ねぇ、シズヤの兄ちゃん、あの、できるなら、お泊まりできるかなー、なんて思ってて……ダメ?」
「いいよ!」
「シズヤよ、返答が早くないかの?もう少し悩まんかの…」

上目遣いと、ティアの可愛さに一発ノックダウン、いや、食らう前に負けていた。
ティアの嬉しそうな顔にノーナも何も言えないようだ。

「空き部屋があるから、そこを貸すよ。家具とか既にあるから、自由に使ってくれていいよ。泊まりたいときにはちゃんとアンに言うんだよ。でないと心配させるから。」
「うん!ありがとう!シズヤの兄ちゃん!だいすき!」
「むっ?!な、なにをぅ!妾もシズヤが好きだぞ!」
「あの、凄く恥ずかしいんですが…」


賑やかな朝食を取り、準備を済ませ、組合へと向かう静也とノーナ。
ノーナの基本的な得物は槍、静也のアンブレランスとは違い棒状のやつだ。
槍は基本的に扱いやすい武器だ。
刺突においてはどの武器よりも遥かに勝り、リーチは近接戦武器の中では最長だろう。
構えは流派や、個々の実力によって変わってくるので、初手で読まれにくい。

しかし、その槍はサブである。
強力な武器だが、相手が超近接で、自分の間合いに入られたなら対策がとりにくい。
なので、さらにサブに双剣を使っていた。

いずれにしても、それらの武器は出会った当初虚無に飲まれ無くなっていたので、武器屋で買った。


今、静也達は組合の裏にある広場で試験を受けていた。
筆記はある程度依頼をこなしていれば解ける問題だ。
報酬の受け取り方法、依頼者が失踪している場合、他人の冒険者カードを取得した場合などだ。
ノーナは頭が良く、冒険者の手引きを目を通しただけで理解してしまう。
天才というやつだ。

実技は石級昇格審査から始まるため、それまでは自由、しかし招集に遅れた場合は失格になるため、殆どの者は組合からそこまで離れない。


ノーナの招集が入り、観客席で見守ることにした。
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