転生王子はダラけたい

朝比奈 和

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第35章 転生王子と夏休み 後半

友だち探しを終えて

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 そうして俺たちは、途中で昼休憩をとったあと、友だち探しを再開した。
 すでに会った種属の子や、候補以外の動物にも声をかけつつ移動していると、ヒスイがフェイル山犬の群れを見つけてきてくれた。
 フェイル山犬は体長七十センチほどで、水属性の能力を持っている。
 全体的に水色の毛色で、麻呂眉の模様がある柴犬のような容姿だ。
 霧と水は能力的に見て相性がいいので、候補として上がっていた。
 トーマの話では、フェイル山犬は頭が良く、仲間を大事にする種属らしい。
 俺たちはさっそくフェイル山犬のリーダーと、話をしてみることにした。
 リーダーは少し考えたあと、俺たちに言った。
 【我々がシルバーファングと親しくなるのは、少し難しいと考えている】
 その返答に落胆しつつ、俺は尋ねる。
 「理由を聞いてもいい?」
 【森に来た新しい種属ということもあって、しばらく行動を観察していたことがある。結果、どうも性質が合わないと感じたのだ】
 フェイル山犬も、新しく森に来たシルバーファングのことが気になってはいたのか。
 「性質?霧と水の能力は相性がいいと聞いたが、違うのか?」
 カイルが尋ねると、リーダーは答える。
 【この場合は、能力ではなく性格のことだ。まず我々フェイル山犬は、秩序というものをとても大事にしている。群れには掟や決まりがあり、それを守ることで群れの秩序を保っている。たとえば、森を巡回する範囲やルートなど、細かく内容を決め、隊列を組んで時間通りに行動している】
 後ろにいたフェイル山犬たちが、【そう!きっちり、かっちり!】と綺麗に声を合わせて言う。
 群れをつくる種属は、群れの規律を作っていることが多い。
 そうでないと、群れの統率がとれなくなるからだ。
 しかし、フェイル山犬はその中でも、とくに厳格な群れのルールがあるようだ。
 コクヨウがフェイル山犬の前に出てきて尋ねる。
 【シルバーファングは、そのきっちりかっちりしたお前らの縄張りに立ち入ったのか?それとも、巡回を妨害でもしたのか?】
 あぁ!それでケンカでもしちゃったのかな。
 そう思ったのだが、リーダーは意外にも首を横に振った。
 【いや、我々の棲処は、水辺の岩場に限られているからな。シルバーファングの棲処とは、少し離れているのだ。道でたまたま出くわすこともあるが、我らは仲間に敵意を向けさえしなければ争う意志はない。向こうもそれがわかっているのか、ちょっかいを出されたことはない】
 ケンカじゃないとしたら、いったい……。
 俺が首を傾げていると、リーダーの両隣にいたフェイル山犬たちが口を開く。
 【我々がモヤモヤするのは、シルバーファングの巡回中の行動だ】
 【森を見回るのはかまわないが、その最中に昼寝をしたり、蝶を追いかけ始めたり、ルートを急に変更したり。とにかく道草が多いのだ】
 後ろのフェイル山犬たちが【全然きっちり、かっちりしてない!】と声を揃えて言う。
 「な、なるほど。気になっているのはそこか……」
 カイルに通訳してもらっていたレイは、「えぇぇ」と声を漏らす。
 「それくらいも駄目なの?」
 呟いた瞬間、フェイル山犬の群れの視線を一斉に浴びて、レイはカイルの背中に隠れる。
 「シルバーファングはまだ独り立ちしたばかりだから、いろんなものに興味を持ってしまうのね」
 アリスの言葉に、ライラは考えるポーズをする。
 「私はそういうところ、幼くって可愛いって思うけど……。あなたたちは、許せないのね?」
 その問いに、リーダーは困り口調で言う。
 【こればかりは性分だから、どうしようもない】
 他人の行動は自分とは関わりがないんだから、気にしなきゃいいんだけど。
 気になる人は、どうしても気になるんだろうな。
 リーダーは「フゥ」と鼻息を吐く。 
 【我々の言い分が、無茶なものだという自覚はある。別に強要するつもりはない。だからこそ、ある一定の距離が必要だと思っているのだ。近くにいれば、きっとお互い辛い思いをするからな】
 リーダーの言葉に、周りのフェイル山犬たちがコクコクと頷く。
 距離をとるのは、フェイル山犬のリスク回避であり、フェイル山犬側の気遣いでもあるのか。
 交流した場合、シルバーファングはフェイル山犬の厳格さに窮屈さを感じるだろうし、フェイル山犬はシルバーファングの行動が気になってイライラしそうだもんね。
 コクヨウがチラッと俺を見て言う。
 【だから、我が言っただろう。こういうことは相性があると】
 ヘディロスに頼まれた時に、コクヨウが言った言葉である。
 「わかってますって」
 別に無理強いするつもりはない。
 フェイル山犬のリーダーはそんな俺に向かって言う。
 【親しくなることは難しいが、同じ森に棲む仲間だとは思っている。何か困っていると感じたら、手を貸す準備はある】
 それを聞いて、俺は心底ホッとする。
 シルバーファングのこと、森の仲間だと認めてくれているんだ。
 厳格な彼らの言葉は、正直で嘘がない。
 一度口にした言葉を、決して違えることはないだろう。
 「その言葉、とても心強いよ。今日はお話してくれてありがとう」
 お礼を言って、俺たちは彼らと別れた。
 【フィル、太陽が傾いてきましたが、お屋敷にはいつ戻ります?】
 ヒスイに言われて、俺は太陽の傾きを見る。
 夏だからまだ明るいが、もう少ししたら帰らないとまずいだろう。
 「トーマ、候補の声がけはどのくらいできている?」
 俺が確認すると、トーマは友だち候補のノートをチェックしながら言う。
 「今のフェイル山犬で、友だち候補には全部声をかけたよ」
 ライラとレイが嬉しそうに言う。
 「すごいわ!声がけは全部終わったのね」
 「目標達成じゃん!」
 この広い森の中で、友だち候補にあがっている種族全てに声がけできたんだから、ノルマは達成したと言えるだろう。
 ただ、成果としては微妙な気がした。
 声をかけた動物たちは全て【いつか声をかけるかも】という返答に留まっている。
 自主性に任せているので、実際に声をかけてくれるかはわからないんだよね。
 みんなが、シルバーファングに話しかけてくれるだろうか。
 「少しはシルバーファングの助けになれたかな」
 俺がポツリと呟くと、カイルが言う。
 「充分なれましたよ」
 アリスも優しい声で微笑む。
 「ええ。目的であるきっかけ作りは、協力できたと思うわ」
 それに続いて、ヒスイとルリも言う。
 【みんな頑張りましたわ】
 【シルバーファングさんも喜ぶと思います!】
 コクヨウは寝転がりながら「フン」と鼻を鳴らす。
 【これ以上は無用だ。うまくいくも、いかぬも、あとはシルバーファング自身に任せるほかない】
 そうだよね。あとはシルバーファングに頑張ってもらうよりない。
 「そうだね。じゃあ、最後にシルバーファングの顔を見てから、屋敷に戻ろうか」
 俺の言葉に皆が頷き、移動を開始したのだった。
 そうして向かうと、寝転んでいたコクヨウが面倒そうに頭を持ち上げた。
 【何を騒いでおるのだ。あのヒヨッコは】
 「騒いでる?」
 俺の耳には何も聞こえないんだけど……。
 そう思いながらカイルに視線を向けると、カイルは耳を澄ましながら言う。
 「通訳するキミーたちが、まだ声を聞き取れていないので、内容まではわからないですけど。確かに、獣の呻り声が聞こえますね。シルバーファングの声だと思います」
 「ケンカ?」
 まさかヘディロスとじゃないよね。
 ヘディロスは、昼の間は地中に潜って寝ていると言っていた。
 だから、みんなを連れてきたのだ。
 でも、それはないか。ヘディロスが地上にいたら、すでに木々の間から頭が見えているはずである。
 「とりあえず、行ってみよう。ルリ、お願い」
 【了解しました】
 突然速度を上げたルリに、レイたちは「わわ!」と慌てて手綱に掴まる。
 そこまで速くもないのだけど、いつもよりスピードが上がって、レイとトーマが「ヒィィィ!」と声をあげている。
 「もう少しで着くから我慢しろ」
 カイルが言って数分もしないうちに、ルリは止まった。
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