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第36章 転生王子は3年生
モフ研の今後
ステア王立学校中等部には、剣術クラブのような正統派クラブから、珍味クラブという一風変わったクラブまで、多種多様なクラブが何十個も存在する。
学生はこの中の何かしらのクラブに所属しなくてはならない。
もし、この中から入りたいクラブが見つからなければ、自分でクラブを立ち上げてもいい。
顧問の先生と数人の部員を用意し、活動内容が明確であれば、申請後にクラブの認可が受けられる。
俺の所属している『モフモフ鉱石研究クラブ』も、一昨年創設したばかりのクラブだ。
卒業したデュラント先輩と、俺とで立ち上げた。
今の部員は、俺とカイルとレイとトーマとライラとアリスの六人だけ。
クラブ顧問は、シエナ先生だ。
活動内容は召喚獣との触れあいや、鉱石の研究と実験など。
鉱石研究はシエナ先生がいる時に限定されるため、殆どがモフモフ活動だ。
今日はシエナ先生が久々に参加するということで、鉱石研究の日に決定した。
鉱石学の活動の時は、授業でも使っている鉱石学教務担当室でやる。
俺たちはそこへ向かいながら、モフ研の今後について話していた。
「モフ研に後輩が入部してくれないと、今年はさすがに困るよね」
俺がそう言うと、アリスは困り顔で頷く。
「ええ、後輩がいないと廃部になっちゃうわよね」
俺たちも、もう三年生。中等部を卒業してしまったら、部員が誰もいなくなる。
つまり、このクラブを継いでくれる後輩がいなければ、自動的に廃部になってしまうのだ。
「今年は誰か入部してくれるかなぁ?」
トーマの問いに、俺は「うーむ」と唸る。
どうだろう。去年も入部希望者がいなかったんだよね。
動物をモフモフできるし、鉱石の探究心も満たせるし、いいクラブなのになぁ。
鉱石学自体あまり人気がないからか、それとも顧問がシエナ先生だからなのか。
シエナ先生はストレートな物言いをするし、『鉱石学は授業が難しく、容赦なく単位を落とす』という噂もあって、生徒たちから怖がられているんだよね。
教務担当室に籠って滅多に会えないところも、噂を助長させている一因だろう。
正直な言動は裏表がないってことだし、鉱石の研究をしている姿はかっこいいんだけどな。
ちゃんとお話すれば、シエナ先生の印象も変わるのに。
俺は深いため息を吐く。
「少人数でのんびりクラブ活動できるから、今の環境は最高だ。でも、デュラント先輩のためにも、廃部は避けたいなぁ」
モフ研の前身は、デュラント先輩が創設した鉱石研究クラブである。
鉱石研究クラブも、部員が卒業していなくなったことで、廃部寸前だった。
廃部をさけるために、デュラント先輩は俺と手を組み、統合させる形でクラブを残したんだよね。
それなのに、デュラント先輩が卒業した一年後に廃部になったのでは、合わせる顔がない。
「うーん、一、二年生で新入部員が誰か入ってくれればなぁ」
俺の呟きに、ライラは苦笑した。
「クラブ立ち上げ当初は、フィル君やカイル君のファンたちが押し寄せるんじゃないかって言っていたのに。まさか、こんなにも部員が入ってこないと思わなかったわよね」
確かに、部を立ち上げたときは、そんな心配をしていたっけ。
レイは小さく肩をすくめる。
「フィルとカイルのファンクラブには鉄の掟があるから、それでモフ研に入部できないんだろ」
俺やカイルには、いくつかファンクラブがある。
そこでは、それぞれ会員規則なるものがあるのだという。
ファンクラブごとに内容や文言は少しずつ違うみたいだが、共通した規則が一つある。
それは、俺やカイルに『個人的且つ不必要な接触をしない』というもの。
クラスメイトや先輩後輩として接し、その過程で仲良くなることは問題ない。
要は、個人的に強引な接触を試みて、俺たちを困らせたりしてはいけないということ。
この規則のことは、去年初めて知ったんだよね。
接触を我慢して、その代わりに俺の授業やクラブ活動の姿を観察……いや、遠くから見守っているんだって。
各ファンクラブが見守る時間帯や人数は、カイルが決めてスケジュールを組んでいるそうだ。
屋外でやる剣術などの授業の時とか、クラブで動物と戯れている時とか、行事の時で決められた時間帯はいいけど、それ以外の見守りは絶対に禁止。
だから、守られるべきプライベートタイムは、一応守られていると言える。
正直、見られていると思うとちょっと落ち着かないけどね。
見守る人たちも隠れるのが上手なのかあんまり気にならないし、授業見学かクラブ活動見物をされていると思うようにしている。
そして、ファンクラブの人たちの中では、モフ研に入部するのは、その規約に反するもののようだ。
「規約がなかったら、入りたい人いっぱいいるんだろうにねぇ」
のほほんと話すトーマの言葉に、俺は考え込む。
今は廃部の危機だ。もしファンクラブの人たちの中に、動物と鉱石が好きで、シエナ先生が怖くないと思っている生徒がいるなら、何人か入れてもいいんじゃないだろうか。
そんなことを考えていると、レイが俺の肩をポンと叩いた。
「ファンクラブから、特別に何人か入部させようと思うなよ?」
考えを当てられて、俺は目を見開く。
「すごい。なんでわかったの?ファンクラブの会長と相談して、お願いできないかなって……」
すると、盛大なため息を吐かれた。
「絶対に、駄目だ。たとえフィルと会長が話をつけても、カイルが許可を出したとしても、例外を作ったらファンクラブ内部で軋轢が生まれる。ファンクラブ同士の争いを見たくないなら、絶対にやめろ」
レイはよく冗談を言うが、その顔つきから真剣なのがわかる。
本当に駄目な時の忠告だ。
ライラもレイの意見に賛同する。
「私もやめておいた方がいいと思うわ。全員が同じ立場だから、平和なの。特例を作れば、均衡が崩れるわ。だからといって、ファンクラブ全員を入れることはできないしね」
確かに、全員は無理だよね。
「わかった。諦めるよ。……ちなみに、ファンクラブ会員って各クラブ合わせると何人くらいいるの?」
以前、F・Tファンクラブのお茶会に誘われた時、その場に二十人くらいいた気がする。
その他にも『フィル・テイラを見守る会』、『フィル君を弟にし隊』、『フィル・テイラ料理愛好会』などのファンクラブがあることは俺も把握している。
合わせるとどのくらいいるんだろう。
好奇心で聞いた俺の質問に、カイルは考え込む。
「それは……フィル教を含めない、中等部の生徒の人数ですか?」
フィル教というのは、俺を料理の神様として崇めている集団のことである。
ステア王立学校敷地内の『カフェ・森の花園』の料理人をしているボルカ・イングさんが、主だって動いており、彼女の声がけなどにより着々と信者が増えているらしい。
すでに立派な俺の祭壇を作っているんだよね。
止めようにも、信者が多くなっているため収拾がつかない状態になっている。
……神様が止められない信者たちってなんだろ。
ともあれ、フィル教を含めると規模が大きくなりそうだな。
「うん。含めない、中等部の子たちだけの人数を教えて」
カイルはまだ考え込んだ姿勢のまま、自信なさげに口を開く。
「まだ一年生の人数まで把握できていないので、今の中等部の二、三年生だけになりますが……。フィル様のファンクラブ会員は、百三十二名です」
百、三十、二?
言われた数字を頭の中で反芻し、聞き間違えかと聞き返す。
「い……今、百三十二って言った?」
「はい。三年になった時に数えたので、その数字で間違いありません」
俺は一呼吸置いて、叫ぶ。
「ええ!?そんなにいるの!?」
だが、驚いたのは俺だけで、レイたちは平然としていた。
「へぇ、二、三年生だと、そのくらいなのか」
「僕、もう少し多いと思ってた」
むしろ、レイとトーマは少ないと感じているようだ。
その感覚の違いにも驚かされる。
「少ないの?一学年、百人くらいなんだよ?二学年合わせた人数から考えると、過半数が加入しているってことになるじゃん」
困惑する俺に、ライラはクスクスと笑う。
「フィル君は自分が人気者だっていう自覚が足りないわよね。その数でも少ない方なのよ。ファンであっても、全員がファンクラブに入れるわけじゃないから。ね、アリス、カイル君?」
同意を求められた二人は、揃って頷いた。
「ええ、それぞれのファンクラブには、ファンクラブ入会テストがあるのよ」
「規則を破れば、辞めさせられることもある」
それを聞いて、レイは思い出した顔で「あぁ」と声を漏らす。
「鉄の掟かぁ」
……や、やぶった人がいたのだろうか。
ファンクラブの掟の厳しさを感じる。
それに残っている精鋭が、百三十二人もいるんだな。
掟をきっちり守っている人たちの中から、特例を出したら、確かに面白くないよね。
「良かった。危うく、クラブ内に波風を立てるところだった」
俺が息を吐いていると、アリスもホッとした顔で微笑む。
「フィルが思いとどまってくれて良かったわ。フィルのファンクラブ会員は、フィル教の方々もそうだし、初等部や高等部、教師や学校内施設職員もいるもの。きっと『中等部の生徒だけずるい』って、言う人が出てくるわ」
「先生や施設職員もいるの!?」
俺は冗談かと思ったが、カイルはややげんなりとした顔で言う。
「フィル様、お願いですからもう少し自覚を持ってください」
そうは言っても、そこまでとは思わないじゃん。
学生はこの中の何かしらのクラブに所属しなくてはならない。
もし、この中から入りたいクラブが見つからなければ、自分でクラブを立ち上げてもいい。
顧問の先生と数人の部員を用意し、活動内容が明確であれば、申請後にクラブの認可が受けられる。
俺の所属している『モフモフ鉱石研究クラブ』も、一昨年創設したばかりのクラブだ。
卒業したデュラント先輩と、俺とで立ち上げた。
今の部員は、俺とカイルとレイとトーマとライラとアリスの六人だけ。
クラブ顧問は、シエナ先生だ。
活動内容は召喚獣との触れあいや、鉱石の研究と実験など。
鉱石研究はシエナ先生がいる時に限定されるため、殆どがモフモフ活動だ。
今日はシエナ先生が久々に参加するということで、鉱石研究の日に決定した。
鉱石学の活動の時は、授業でも使っている鉱石学教務担当室でやる。
俺たちはそこへ向かいながら、モフ研の今後について話していた。
「モフ研に後輩が入部してくれないと、今年はさすがに困るよね」
俺がそう言うと、アリスは困り顔で頷く。
「ええ、後輩がいないと廃部になっちゃうわよね」
俺たちも、もう三年生。中等部を卒業してしまったら、部員が誰もいなくなる。
つまり、このクラブを継いでくれる後輩がいなければ、自動的に廃部になってしまうのだ。
「今年は誰か入部してくれるかなぁ?」
トーマの問いに、俺は「うーむ」と唸る。
どうだろう。去年も入部希望者がいなかったんだよね。
動物をモフモフできるし、鉱石の探究心も満たせるし、いいクラブなのになぁ。
鉱石学自体あまり人気がないからか、それとも顧問がシエナ先生だからなのか。
シエナ先生はストレートな物言いをするし、『鉱石学は授業が難しく、容赦なく単位を落とす』という噂もあって、生徒たちから怖がられているんだよね。
教務担当室に籠って滅多に会えないところも、噂を助長させている一因だろう。
正直な言動は裏表がないってことだし、鉱石の研究をしている姿はかっこいいんだけどな。
ちゃんとお話すれば、シエナ先生の印象も変わるのに。
俺は深いため息を吐く。
「少人数でのんびりクラブ活動できるから、今の環境は最高だ。でも、デュラント先輩のためにも、廃部は避けたいなぁ」
モフ研の前身は、デュラント先輩が創設した鉱石研究クラブである。
鉱石研究クラブも、部員が卒業していなくなったことで、廃部寸前だった。
廃部をさけるために、デュラント先輩は俺と手を組み、統合させる形でクラブを残したんだよね。
それなのに、デュラント先輩が卒業した一年後に廃部になったのでは、合わせる顔がない。
「うーん、一、二年生で新入部員が誰か入ってくれればなぁ」
俺の呟きに、ライラは苦笑した。
「クラブ立ち上げ当初は、フィル君やカイル君のファンたちが押し寄せるんじゃないかって言っていたのに。まさか、こんなにも部員が入ってこないと思わなかったわよね」
確かに、部を立ち上げたときは、そんな心配をしていたっけ。
レイは小さく肩をすくめる。
「フィルとカイルのファンクラブには鉄の掟があるから、それでモフ研に入部できないんだろ」
俺やカイルには、いくつかファンクラブがある。
そこでは、それぞれ会員規則なるものがあるのだという。
ファンクラブごとに内容や文言は少しずつ違うみたいだが、共通した規則が一つある。
それは、俺やカイルに『個人的且つ不必要な接触をしない』というもの。
クラスメイトや先輩後輩として接し、その過程で仲良くなることは問題ない。
要は、個人的に強引な接触を試みて、俺たちを困らせたりしてはいけないということ。
この規則のことは、去年初めて知ったんだよね。
接触を我慢して、その代わりに俺の授業やクラブ活動の姿を観察……いや、遠くから見守っているんだって。
各ファンクラブが見守る時間帯や人数は、カイルが決めてスケジュールを組んでいるそうだ。
屋外でやる剣術などの授業の時とか、クラブで動物と戯れている時とか、行事の時で決められた時間帯はいいけど、それ以外の見守りは絶対に禁止。
だから、守られるべきプライベートタイムは、一応守られていると言える。
正直、見られていると思うとちょっと落ち着かないけどね。
見守る人たちも隠れるのが上手なのかあんまり気にならないし、授業見学かクラブ活動見物をされていると思うようにしている。
そして、ファンクラブの人たちの中では、モフ研に入部するのは、その規約に反するもののようだ。
「規約がなかったら、入りたい人いっぱいいるんだろうにねぇ」
のほほんと話すトーマの言葉に、俺は考え込む。
今は廃部の危機だ。もしファンクラブの人たちの中に、動物と鉱石が好きで、シエナ先生が怖くないと思っている生徒がいるなら、何人か入れてもいいんじゃないだろうか。
そんなことを考えていると、レイが俺の肩をポンと叩いた。
「ファンクラブから、特別に何人か入部させようと思うなよ?」
考えを当てられて、俺は目を見開く。
「すごい。なんでわかったの?ファンクラブの会長と相談して、お願いできないかなって……」
すると、盛大なため息を吐かれた。
「絶対に、駄目だ。たとえフィルと会長が話をつけても、カイルが許可を出したとしても、例外を作ったらファンクラブ内部で軋轢が生まれる。ファンクラブ同士の争いを見たくないなら、絶対にやめろ」
レイはよく冗談を言うが、その顔つきから真剣なのがわかる。
本当に駄目な時の忠告だ。
ライラもレイの意見に賛同する。
「私もやめておいた方がいいと思うわ。全員が同じ立場だから、平和なの。特例を作れば、均衡が崩れるわ。だからといって、ファンクラブ全員を入れることはできないしね」
確かに、全員は無理だよね。
「わかった。諦めるよ。……ちなみに、ファンクラブ会員って各クラブ合わせると何人くらいいるの?」
以前、F・Tファンクラブのお茶会に誘われた時、その場に二十人くらいいた気がする。
その他にも『フィル・テイラを見守る会』、『フィル君を弟にし隊』、『フィル・テイラ料理愛好会』などのファンクラブがあることは俺も把握している。
合わせるとどのくらいいるんだろう。
好奇心で聞いた俺の質問に、カイルは考え込む。
「それは……フィル教を含めない、中等部の生徒の人数ですか?」
フィル教というのは、俺を料理の神様として崇めている集団のことである。
ステア王立学校敷地内の『カフェ・森の花園』の料理人をしているボルカ・イングさんが、主だって動いており、彼女の声がけなどにより着々と信者が増えているらしい。
すでに立派な俺の祭壇を作っているんだよね。
止めようにも、信者が多くなっているため収拾がつかない状態になっている。
……神様が止められない信者たちってなんだろ。
ともあれ、フィル教を含めると規模が大きくなりそうだな。
「うん。含めない、中等部の子たちだけの人数を教えて」
カイルはまだ考え込んだ姿勢のまま、自信なさげに口を開く。
「まだ一年生の人数まで把握できていないので、今の中等部の二、三年生だけになりますが……。フィル様のファンクラブ会員は、百三十二名です」
百、三十、二?
言われた数字を頭の中で反芻し、聞き間違えかと聞き返す。
「い……今、百三十二って言った?」
「はい。三年になった時に数えたので、その数字で間違いありません」
俺は一呼吸置いて、叫ぶ。
「ええ!?そんなにいるの!?」
だが、驚いたのは俺だけで、レイたちは平然としていた。
「へぇ、二、三年生だと、そのくらいなのか」
「僕、もう少し多いと思ってた」
むしろ、レイとトーマは少ないと感じているようだ。
その感覚の違いにも驚かされる。
「少ないの?一学年、百人くらいなんだよ?二学年合わせた人数から考えると、過半数が加入しているってことになるじゃん」
困惑する俺に、ライラはクスクスと笑う。
「フィル君は自分が人気者だっていう自覚が足りないわよね。その数でも少ない方なのよ。ファンであっても、全員がファンクラブに入れるわけじゃないから。ね、アリス、カイル君?」
同意を求められた二人は、揃って頷いた。
「ええ、それぞれのファンクラブには、ファンクラブ入会テストがあるのよ」
「規則を破れば、辞めさせられることもある」
それを聞いて、レイは思い出した顔で「あぁ」と声を漏らす。
「鉄の掟かぁ」
……や、やぶった人がいたのだろうか。
ファンクラブの掟の厳しさを感じる。
それに残っている精鋭が、百三十二人もいるんだな。
掟をきっちり守っている人たちの中から、特例を出したら、確かに面白くないよね。
「良かった。危うく、クラブ内に波風を立てるところだった」
俺が息を吐いていると、アリスもホッとした顔で微笑む。
「フィルが思いとどまってくれて良かったわ。フィルのファンクラブ会員は、フィル教の方々もそうだし、初等部や高等部、教師や学校内施設職員もいるもの。きっと『中等部の生徒だけずるい』って、言う人が出てくるわ」
「先生や施設職員もいるの!?」
俺は冗談かと思ったが、カイルはややげんなりとした顔で言う。
「フィル様、お願いですからもう少し自覚を持ってください」
そうは言っても、そこまでとは思わないじゃん。
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お疲れ様です
繰り返しになるけど、めんどくさい奴らだなぁ
シエナ先生やっちゃって下さい!
感想ありがとうございます。
面倒くさいですよね。
シエナ先生という荒波に揉まれるのでしょうか。( *´艸`)
シエナ先生から見て、フィルくんは優秀な鉱石研究の生徒と認識していましたけど、ほかの生徒からライバル視される程に優秀とは考えていなかったでしょうね。
(と言うか鉱石以外の評価に興味なし)
将来の鉱石学を考えると一般の研究者なら、助手や後継者のお誘いがあるのかもしれませんが、先生は後進を育てるなんて発想は夢にも思っていなさそう。
感想ありがとうございます。
本当に全くその通りで
鉱石学以外の評価は気にしたことなかったんじゃないかと思います。
シエナ先生は自分の研究に夢中ですからね。
鉱石の発展には興味がありますが
それも多分自分の研究に役に立つからな気がします。
シエナ先生の特別授業…野外での鉱石採取
外での大掛かりな鉱石の実験レポート作製
人数が増えたことですし
フィル君達がシエナ先生に渡した鉱石を考えると室内では危ないですから、腐食 反響
感想ありがとうございます。
鉱石学でもレポートだけじゃない授業やりたいんですよね。
その前に、補講などが待っているのでしょうが。
新しい鉱石を活用していきたいですね。
( *´꒳`*)