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3巻
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大学生の俺、一ノ瀬陽翔は、異世界にあるグレスハート王国という小さな国の第三王子フィル・グレスハートとして転生した。
束縛だらけだった前世から、気楽な末っ子王子になったのだ。
動物をモフモフしながら、のんびりダラけて生きてやる!
……と思っていたのだが、ちょっと困っていることがある。
齢七歳にして国王である父さんに、規格外認定されています。
確かに、伝承の獣であるコクヨウや、精霊のヒスイなどを召喚獣として従えているのは、普通じゃないかもしれない。
いくら異世界とはいえ、俺みたいな青みがかった銀髪は滅多にいないらしいし、動物や妖精の言葉がわかるメルヘン体質も珍しいとは思う。
だけど、俺自身は、いたって普通の子供だよ?
まぁ、前世の味恋しさに干物やプリンを作ったり、石鹸やキャリーケースを開発したりして、ちょっぴり目立っちゃったことは認めるけどさ。
でも、目立ちたくてやってるわけじゃないよ。むしろ、ひっそり裏方希望です。
というわけで、俺は平穏を求めて、従者で蝙蝠の獣人のカイルとともに、身分を隠して国外の学校に留学することにした。
学校へ向かう道中でレイとトーマという友人もでき、俺の幼馴染であるアリスも一緒に学生生活を送ることになった。
まぁ、新入生歓迎会で手荒い歓迎は受けたけれど、その結果マクベアー先輩や三年の先輩方とも仲良くなれたので良しとしよう。
……歓迎会で、一・三年の一部男子生徒の前で思わずヒスイを召喚してしまったのは、ちょっとまずかったかもしれないが。
いや、大丈夫。まだ始まったばかりだ、挽回できる。
目指すぞ、のんびり楽しいスクールライフ!
俺はこれから始まる学生生活を思い、期待に胸を膨らませるのだった。
◇ ◇ ◇
ステア王立学校中等部の学校長シーバル・ゼイノスは、王宮にある女王専用の応接間にいた。そこはステア王国女王と親しい者だけが通される、特別な部屋である。
しばらくすると、部屋の扉が衛兵によって開けられ、ステア王国女王のテレーズ・デュラントが入ってくる。
歳を重ねてもなお可憐で美しいテレーズは、シーバルと同じ七十歳とは思えない。
シーバルはゆっくりソファから立ち上がると、恭しく臣下の礼をとった。
「女王陛下、ご機嫌麗しゅうございます」
テレーズ女王は微笑んでスカートの裾をふわりとさばき、真向かいのソファに腰を下ろした。
「シーバル。私たちの仲で堅苦しい挨拶はやめてちょうだい。忙しいのによく来てくれたわ」
畏れ多いお言葉だと、シーバルは思った。
中等部学校長を務めて数十年。今では女王の友人として、親しくさせてもらっている。
学生時代の自分には、このような未来など想像できなかった。
初等部から高等部まで同じ学年でありながら、高嶺の花である彼女とは一言も交わすことがなかったのだから。
身分など関係なく平等を掲げる学校であっても、一般の生徒が近寄れぬほど、当時のテレーズは美しさだけでなく、聡明さも人格も優れた少女だった。
「入学式は滞りなく終えることができました。ライオネル君も中等部の生徒総長として、大変立派にお言葉を述べていらっしゃいましたよ」
ライオネルは、ステア王国の第三王子だ。テレーズ女王の孫たちの中で、容姿も人格も彼女に一番似ているのが彼だった。
「その辺りは心配していないわ。私がライオネルに求めているのは、良き友人を増やすことよ」
テレーズ女王の物憂げなため息に、シーバルは心中を察し、小さく笑った。
ライオネルは立場ゆえか、はたまたそのカリスマ性ゆえか、彼を囲む子らは多くとも、真の友と呼べる者があまりいないようだった。
シーバルがライオネルの親しい友人として思い当たるのは、幼馴染でもある三年生のライン・マクベアーくらいであろうか。
静と動で全くタイプの違う二人だが、身分を越え親交と信頼関係を築いている。
「なぁに、学生生活はまだまだ続きます。ライオネル君にも多くの友人ができましょう」
シーバルが目尻の皺を深くすると、テレーズ女王も微笑んで頷いた。
「そういえば、中等部に入学してきたグレスハート王国のフィル殿下はどんなご様子?」
ハーブティーを一口飲んで、テレーズ女王は尋ねた。シーバルは、長いあごひげを触って言う。
「あぁ、フィル君ですか。中等部最年少ですので、それとなく様子を窺っておったのですが杞憂でした。フィル・テイラと名乗り、平民として上手く溶け込んでいらっしゃるようです」
ステア王立学校では身分に関係なく、王族・貴族・平民が机を並べることができる。だからこそ、王族の子供の中には身分を伏せて入学し、庶民との交流を通して見聞を広めようとする者もいた。
しかし、いくら身分を隠していても、言動や考え方に育ちの良さは滲み出てしまうものだ。
ところがフィルの場合、品の良さはありつつも、雰囲気が平民のそれと変わらなかった。あの青みがかった銀髪や、小柄な容姿は目を引くにもかかわらず、平民の中にすんなりと入っていく。
「すでに友人を作り、仲良くやっていらっしゃいます。不思議な魅力のある方ですなぁ」
にこやかに話すシーバルに、テレーズ女王は安堵した様子で息を吐いた。
「そう。ではグレスハート王の心配のし過ぎかしら」
「グレスハート王の心配……ですか?」
「入学が決まった時に、手紙でね。少し規格外なところがあって目立ってしまう子ですが、何をやってもあまり驚かないでください、と書いてあったの。そんな手紙をいただいたのは初めてよ」
文面を思い出したのか、テレーズ女王は口元を押さえて笑う。それから、ふと何か思案する顔になって、視線を落とした。
「あの噂は……事実かもしれないわね」
テレーズ女王の呟きを聞いて、シーバルは思わず息を呑む。
「グレスハートの王子がルワインドの獣人を保護し、自分の従者にしたという話ですか」
獣人であるカイルが常にフィルの傍にいることから、件の王子がフィルだと察するのは容易い。
数年前、シーバルがその噂を聞いた時は、とても信じられなかった。獣人を厭うルワインド大陸の国々の目を考えれば、国民として迎え、さらに公に従者としてしまう国があるとは思えなかったからだ。
それゆえグレスハート王国から、獣人の入学について問い合わせを受けた時、あの噂は事実だったのかとひどく驚いた。それを行ったのが『王子』だという点は、未だ半信半疑なのだが……。
「王の采配ではなく、本当に彼の意思によるものならば、確かに規格外な子でしょうな」
そう言ったシーバルを、テレーズ女王は真っ直ぐ見つめる。
「シーバル、気にかけてあげてちょうだい。グレスハート王にお願いされたからではないの。獣人の子に教育を受けさせたいと考える、心優しい子よ。きっと周りの子たちも、良い影響を受けると思うわ」
テレーズ女王の微笑みに、シーバルは真剣な面持ちでしっかりと頷いた。
◇ ◇ ◇
学校に通う日は、週に五日。こちらの世界でも、一週間は七日だ。
これは、古代の虹信仰である、赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の『七色』に由来している。
他の宗教を信仰する今でも、それは変わらず受け継がれているらしい。
虹信仰では、月曜にあたる赤の日が最も生命力に溢れ、それから日を追うごとにだんだん弱まっていくと考えられており、特に力の弱まる最後の二日間を休息日としていた。
つまり赤の日から青の日まで学校で、藍の日と紫の日が休みってこと。俺としても、週休二日あるのは大変嬉しい。
そうやって始まった学校生活だが、初めの一週間は学校内の施設の案内や、注意事項の説明といったものが主らしい。受講する選択授業が決まってから、ようやく本格的な授業に入る。
今は一般科目の教科書の配布が終わり、選択科目の説明に移るところだ。
教室は、階段状に席が設けられていた。真ん中に通路があって、左右に長い机と椅子がある。壁や床は石造りだが、こうしていると大学の授業でも受けているみたいだ。
席は自由だというので、俺とカイル、レイとトーマの四人は、窓側の真ん中あたりに席を取っていた。
年上の同級生たちに比べ背の低い俺たちにとって、階段教室はありがたい。でなければ、前の人で黒板が見えず、必然的に一番前に座らなきゃならなかったもんな。
教壇には一年生の担任だという、二人の男女が立っていた。
一年生は男女合わせて、九十名いるから、さすがに担任が一人では捌ききれないのだろう。
男性はマット・スイフ先生。女性はメリダ・ディナス先生。
スイフ先生は三十代半ば、メリダ先生は二十代前半といったところだろうか。
スイフ先生の髪は、クルクルがきつめの天然パーマだった。金髪だから、遠くから見たら鳥の巣みたいだ。
メリダ先生は赤毛の、ストレートのボブヘアー。髪がサラサラと顔にかかるたび、邪魔そうに耳にかけている。
「あ、あの、では選択授業の資料を配り……あ、あれ?」
スイフ先生は首を傾げ、教卓の上にある紙の束を探る。焦っているのか「あれ? あれ?」と呟きながら、バサバサと音を立てていた。
そんな彼をチラリと見たメリダ先生は、冷静な声で言う。
「その資料はもう配ってあります」
「へ……?」
キョトンとしたスイフ先生に向け、俺たち生徒は証拠と言わんばかりに資料を掲げる。
「さっきまでここにあったのに、いつの間にっ!」
スイフ先生は、スーパーイリュージョンでも見たかのように驚愕した。
いや、さっき一般科目の資料と一緒にこれを配ったのは、スイフ先生だからね。無意識だったのかもしれないけど。
スイフ先生のうっかりはいつものことなのだろう。驚愕したまま固まる彼に、メリダ先生は抑揚のない声で言う。
「自分で配っていましたよ。とにかく、生徒に資料は渡っているので、説明を進めてください」
「あ……なるほど。さっき一緒に配っちゃったのか……。す、すみません」
謎が解けると同時に、自分のうっかりさを自覚して、スイフ先生は「はは……」と自嘲気味に笑った。
そんなスイフ先生を、メリダ先生は無表情で見つめる。アイスブルーの瞳からは、何の感情も読み取れなかった。
きっとスイフ先生は、『呆れているなら、いっそのことそう言ってっ!』って思ってるんだろうなぁ。
何か言いたげな表情でメリダ先生を見ていたが、やがて諦めたスイフ先生はガックリと肩を落とす。
教師歴はスイフ先生のほうが長いと思うんだけど、精神的立場はメリダ先生のほうが上なのかな?
スイフ先生は息を一つ吐き、改めて俺たちに向き直った。
「えー、で、では、選択授業の件です。資料を見ての通り、選択授業は自然学、薬学、鉱石学、天文学、史学、商学、召喚学、剣術、美術、加工、調理の十一教科があります。地理学は自然学、占星術は天文学、体術は剣術の授業に含まれますから、それらを学びたい生徒は該当の授業を選んでください。一教科は二単位で、選択の必須単位は十です」
説明を聞きながら、俺たちは選択授業の資料をペラペラとめくる。
授業は、必修である一般科目の語学・数学・社会学の他に、先ほどスイフ先生の言った選択科目がある。
授業時間は、一般科目が一時間、選択科目は二時間。どの教科も週に一コマで、一日あたり二~三教科が割り振られている。
朝にホームルームがあるので、学校には必ず来なくてはならないが、選択科目の選び方によってはホームルームだけで帰る日を作ることも可能だろう。
しかしその辺りは学校側も考えているようで、一般科目は一日ずつ割り振られているし、一般科目のない日は人気のある選択科目が時間割に入っていた。
結局、受講時間の差はあれど、皆が毎日何かしらの授業を受けるようになってるんだな。
一般科目はスイフ先生が語学と社会学、メリダ先生が数学を担当。
選択科目は、全員先生が違う。渡された資料には各教科の先生の言葉で、どんな内容の授業をやるかということが書かれていた。
「質問がありますっ!」
その時トーマが、伸びあがるように手を挙げた。その勢いに、スイフ先生がビクッと体を震わせる。
「な、何でしょう? トーマ君」
「教科によっては課外授業があるみたいですが、授業時間内で行うんですか? 召喚学の課外授業説明に、校外で召喚獣契約ってありますけど、時間内だけでは難しいと思うんです」
トーマは話しながら、不安そうに眉を下げる。
確かに校外に出るとなると、行って帰って来るだけでも時間かかっちゃうもんな。二時間じゃ足りないと思う。
仮に一日をその課外授業にあてるなら、その場合、他の教科はどうなるんだろうか?
すると、メリダ先生がトーマの問いに答えてくれた。
「課外授業は、早朝から夕方まで時間をとっています。休息日で行う場合もありますし、他の教科を別日に移動して一日分確保することもあります。それはその時、先生方の間で調整しますので、心配しないでください」
……なんだ、他の授業がなくなるわけではないのか。
当然と言えば当然かもしれないが、ちょっぴり残念。
「先生、俺も質問していいですか?」
俺の隣に座っていたレイが手を挙げた。メリダ先生が手の平で指すと、レイは立ち上がる。
「選択は、最低五科目選べばいいんですか?」
メリダ先生は表情を変えず、問いに頷く。
「それでも構いません。しかし成績によっては単位が貰えない可能性もありますから、確実に単位を取れる自信があっても、多めに選択しておいたほうが良いでしょう」
確かにそうだ。単位を落としたら留年になってやばいもんな。
入学式の時、校長が『計算を間違えないようにのぅ』なんて笑っていたが、本当に洒落にならない。余裕を持って、多めに受講しておいたほうがいいだろう。
するとスイフ先生は少し慌てて、メリダ先生の言葉に付け足した。
「で、でも多めに選択しすぎても、皆さんが大変だと思います。選択教科によっては、テストだけでなく課題や提出物などもあります。それらを達成できず単位を落としては、元も子もありません。自分のできる範囲を考えて、無理のない数を選んでください。わ、わかりましたか?」
俺たちが「はーいっ!」と返事をすると、スイフ先生はようやく安堵して微笑む。
その時、タイミングよく終業時間の鐘が鳴った。
ガランゴロンと響く音が止むと、メリダ先生は自分の書類だけをササッとまとめる。
「では明後日までに、どれを選択するか決めておいてください。それでは、本日はここまで」
そう言って颯爽と教室を後にした。一陣の風が吹き抜けるがごとき素早さだ。
「じゃ、じゃあ! も、もしわからないことがあったら、先生の部屋に聞きに来てください」
スイフ先生は教卓の書類をかき集めると、慌ててメリダ先生の後を追った。
あの二人……全くと言っていいくらいタイプが違うなぁ。
先生たちがいなくなると、教室が一気に騒がしくなる。周りと話し合いを始める者もいれば、今日の授業は終わったので席を立って帰る者もいる。
示し合わせたわけではないが、俺たち四人はそのまま席に留まっていた。
さて、選択授業か……何にしよう。レイたちはどうするのかな?
受けたい授業はそれぞれあるだろうから、選択の全てが一致することはないと思うが……。皆と一緒なら、楽しいだろうな。
「レイやトーマは、何を選択する予定なの?」
俺が聞くと、レイは書類をめくりながらため息を吐いた。
「うーん、どうするかなぁ」
悩むレイの向こうで、トーマがこちらを見て微笑む。
「召喚学はもう取ることに決めてるよ。動物のことをもっと知りたいし、召喚獣を増やしたいから」
確かに召喚学は、外せない教科だよな。
資料によれば、前期は講義が主で、後期は講義に加えて実技も行うと書いてある。前期の後半には、動物と召喚獣契約を結ぶ課外授業があるようだ。
「僕も召喚学受けよう。カイルは召喚学よりも剣術?」
「そうですね。フィル様と一緒の授業を選択したいところですが、召喚学はやめておきます。剣術は体術もあわせて学べますし、俺にとっては必須ですね」
カイルにしては珍しく、目をキラキラさせている。
先日の歓迎会でマクベアー先輩と試合して以降、カイルは自主練に燃えていたから、きっとそうだと思っていた。
レイはカイルの『剣術』という言葉に、渋い顔をする。
「俺は絶対に、剣術はヤダ。合わない」
あぁ、確かに。歓迎会の時の逃げっぷりからして、戦闘は不得意そうだもんな。
「僕もパスかなぁ。剣術じゃ単位取れそうにないから……。あ、そうだ。僕、父さんに加工は絶対取れって言われてたんだ」
いかにも気乗りしない様子で、トーマはため息を吐いた。
加工はその名の通り、加工技術を学んで物を作る授業だ。指定された課題もあるが、自由制作もあって面白そうだった。
「加工、あんまり好きじゃないのか?」
カイルが意外そうに聞くと、トーマは眉を寄せて唸る。
「嫌いではないよ。ただ、僕は将来、動物に関わる学者になりたいんだ。だけど父さんは、実家を継いでもらいたいんだろうなって思って」
そう言って、トーマは再びため息を吐いた。
トーマの出身であるクーベル国は、職人の多い国だ。トーマの家も、金物屋をやっているという。
学者では、食べていけない人が殆どだっていうからな。
動物好きのトーマの気持ちもわかるし、トーマのお父さんの気持ちもわかる。
「僕も加工は受けるつもりだよ。鉱石の加工とか、やってみたいし」
俺が微笑んで言うと、トーマはこちらを見て顔をほころばせた。
「そっか! フィルは鉱石屋の子だもんね。一緒なら授業も楽しそう」
学校では身分を隠すために、鉱石屋の息子ということにしている。騙しているようで少し後ろめたいが、庶民として接してもらったほうが気楽だからな。
「鉱石と言えば、フィルは鉱石学とるの?」
「うん。いろいろと知りたいことがあるんだ」
トーマにそう答えると、レイは眉をひそめた。
「えー、やっぱりフィル、鉱石学とるのか? 鉱石学のシエナ・マイルズ先生は、気難しいって忠告したのに。地獄を見るぞぉぉ」
声色を変えて脅してくるレイに、俺は苦笑した。
「まぁ、そこは興味があって受講するから。単位取れないことを想定して、多めに授業を受けることにするよ」
前もって聞いていたからこそ、あえてそう選択した。
単位は正直どうでもいい。俺の目的は鉱石の新たな知識だ。
それに鉱石学にも、鉱石採集という課外授業がある。俺にとってかなり魅力的だった。
しかしレイは、そんな俺の答えに納得しきれないようだ。さらに渋い顔をして呟く。
「本当に物好きだな……あ!!」
話の途中で、突然レイの顔がパァッと輝いた。明らかに俺の後ろに視線が行っているので、何だろうと振り返る。通路に、女の子が二人立っていた。
「あぁ、アリス」
見知った顔に、俺がにこりと微笑む。
アリスはメイドである母親とともに、グレスハートの城で一緒に暮らしていた女の子だ。俺より一つ年上の八歳。父さんの勧めもあって、ここステア王立学校に留学している。
しかし同じ学年といっても、授業はまだ始まっていないし寮も男女別であるため、なかなか話ができないでいた。
アリスは少し緊張した表情で、俺たちに微笑む。
「選択授業、何を選んだかな? って思って。一緒にいい? 友達もいるんだけど……」
「いーよっ! いいに決まってるよ! どうぞどうぞ!」
俺が答える前に、レイが手招きする。トーマを壁に押しやって、俺との間にスペースを空けた。
レイ……アリスたちに、ここに座れと言うのか。いや、八人がけの席だし、別にアリスたちが座ることはいいんだけど。六人で横一列って、めちゃくちゃ話しにくくない?
俺はアリスたちに、上の段の席を指す。
「こっちに座りなよ。そうしたら話しやすいから」
「わかった。ありがとう」
アリスはにっこり微笑んだが、レイは盛大に不満げな声を上げる。
アリスたちは一段上の席に腰を下ろし、俺たちは話しやすいように体をそちらへ向けた。
もう一人の女の子は俺と目が合うと、にっこりと笑って手をひらひらと振る。
「はじめまして! 私はライラ・トリスタン。十歳よ」
彼女はライトブラウンの髪を編み込んで上にまとめ、アラベスク模様の髪留めをしていた。
「僕たちは……」
俺たちも自己紹介をしようとしたが、ライラはそれを止める。
「紹介はいらないわ。あなたたち有名だもの。可愛いフィル君に、入学試験首席のトーマ君、かっこいいカイル君。あと、いろいろ残念なレイ君」
ライラは大きなグリーンの瞳で俺たちを見つめ、一人ずつ指をさしながら話す。
女子に可愛いって思われてるのか……と思いつつ聞いていたら、最後のレイに対する指摘で噴き出した。
レイはハンサムだし、頭も良いし、身のこなしに品がある。モテる要素があるのに、言動で損していると思っていた。女子の認識も『残念』なのかと思ったら、思わず笑ってしまったのだ。
レイに睨まれて、俺はサッと顔を逸らす。
話し方からして、ライラはサバサバした性格の女の子らしい。柔和な雰囲気のアリスと並ぶと、対照的な印象だ。
目元の彫が深く、少しエキゾチックな雰囲気が漂う。将来、美人になるのは確実だろう。
女の子好きなレイも、放っておかないんじゃないか?
そう思ってチラッとレイを見ると、彼は意外にもライラそっちのけでアリスばかりを見つめていた。
あれぇ、好みじゃないのかな? レイって可愛い女の子なら、どんな子もタイプだと言ってのけそうなのに。
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