転生王子はダラけたい

朝比奈 和

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5巻

5-1

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 大学生の俺、いちはるは、異世界にあるグレスハート王国という小さな国の第三王子フィル・グレスハートとして転生した。
 そくばくだらけだった前世から、気楽な末っ子王子になった俺。
 国にいては目立つので平穏を求め、鉱石屋の息子フィル・テイラとして、国外の学校に留学することにした。
 精霊と契約していることは一部の生徒にばれちゃったけど、伝承の獣ディアロスを召喚獣にしていることはおさなじみのアリスと従者のカイルしか知らないし、動物や妖精と話せることだって二人の他には仲の良い友人であるレイとトーマとライラにしか教えていない。
 あとは目立たないように、のんびりスクールライフを楽しむだけだ!
 っと、思ったのだが……。
 いやされに行ったピクニックで山犬の魔獣を討伐し、提案した仮装パーティーが中等部の年間行事に組み込まれ、春に行われる王立学校三校対抗戦の選抜候補になり……。
 全然のんびりできてないよぉぉぉっ!! 
 いやいや、諦めるな俺。学校で鉱石の知識を増やしつつ、便利な召喚獣と契約するんだ。
 ひとまずの目標は、召喚学の課外授業で便利な能力を持つもふもふ動物と契約すること!
 これからのダラける未来のために、頑張るぞっ!!


 そんなわけで今俺は、召喚学を受け持つルーバル先生や受講生とともに、召喚獣契約のための課外授業に来ている。
 召喚学を受講していないカイルはいない。だが幸いにも、レイやトーマ、アリスにライラとグループを組むことができた。
 今回の課外授業は一日がかりなので、学校の授業がない休息日に特別に行っている。
 場所はステア王国の南側にある大きな湖。ここは街道沿いで観光地でもあるので、国軍の警備が行き届いており、大変治安がいい。せいそくしている動物も、比較的温厚な性格ばかりだそうだ。契約初心者向きの場所といえる。
 ルーバル先生は召喚学の生徒たちを見回して、にっこりと微笑んだ。

「契約は気をつけて行うのだぞ。相手は野生の動物、逃げたら深追いしてはならん。反撃される恐れがあるし、第一、乱暴な者と契約したいと思う動物はおらんからな。優しく丁寧な対応を心がけよ」

 そうだよな。召喚獣契約は動物たちにとって、一生を左右する大事な選択。主人を選定する条件は動物によって様々だが、選択権は向こうにある。無理いすることはできない。
 ある意味、召喚獣契約は動物におのれの価値を試される場だともいえる。

「では、これから各グループで移動し、召喚獣契約を行ってくれ。日暮れまで解散」

 ルーバル先生の合図とともに、生徒たちがわいわいと動きだす。
 そうして歩き始めたのだが、ふと後ろを見ると他の生徒がゾロゾロとついてくる。
 何これ、大病院の院長回診みたい。

「な、何でついてくるの?」

 俺が聞くと、先頭のF・Tフィル・テイラファンクラブ会長メルティー・クロスがキラキラとした瞳で言った。

「フィル君の召喚獣契約を、参考にしようと思って!」

 参考も何も、こんなに人がいたら動物が逃げて契約どころじゃないんだけど。
 グループ分けの意味も、解散した意味もないじゃないか。まいったなぁ。
 俺が困って頭をいていると、突然近くの木の上から誰かが飛び降りてきた。その人物を見て、俺たちはきょうがくする。

「え、えぇぇっ!? カイル!?」

 てっきり学校の寮にいると思っていたのに、何でここにっ?
 カイルは闇の妖精のキミーたちに合図して、クラスメイトと俺たちのグループの間に暗幕に似た壁を作った。

「さぁフィル様、今のうちに!」

 今のうちにって、どういうことっ!? 
 戸惑う俺の腕を、カイルが引く。

「この暗幕はすぐ消えますので、その前に移動しましょう」

 あぁ、そういうことか。
 俺はカイルに腕を引かれながら、暗幕の壁の向こうでざわめく生徒たちに向かって言った。

「皆、ごめんね! もう少ししたらその暗幕消えるから、解散して召喚獣契約に戻って!」

 そのまま湖の外れまで走った俺たちは、クラスメイトがついて来ていないことを確認して、ようやく息を吐く。

「……で、どうしてカイルがここにいるわけ?」

 俺が困惑してカイルを見上げると、彼は視線をらした。

「あの……休息日ですし、たまには南の湖で観光しようと……」

 話しながら視線どころかすっかり顔を背けたカイルに、俺はため息をつく。


 相変わらず、嘘が下手だ。カイルが一人で観光なんておかしいだろう。
 だがトーマは「あぁ」と納得して、にっこりと微笑んだ。

「観光かぁ。確かにここはステア王国一の観光地だもんね」

 のほほんと言うトーマに対して、レイがツッコミを入れる。

「んなわけあるか。明らかにフィルのお目付け役だろ」
「心配で来ちゃったのね……」

 苦笑しながら言ったアリスの言葉を聞いて、トーマは目を丸くした。

「えぇ、そうなの?」

 トーマにピュアな瞳を向けられて観念したのか、カイルはボソボソと話し始める。

「キミーたちだけだと、やはり心配なので。いざという時に自分が近くにいたほうがいいかと……」

 そんなに俺が心配か。気持ちはとてもありがたいけど、皆を驚かせるのはなぁ……。
 困った顔を見て、カイルは俺の心情を察したらしい。

「わかってます。とっとはいえ、クラスメイトを驚かせてしまって……皆には後で謝ります」

 カイルはシュンとして、頭を下げた。
 何か……俺より背が高いのに子犬に見えるな。
 俺は苦笑して、思わずカイルの頭をでる。

「次は気をつけてね。でも、助けてくれてありがとう」

 俺の微笑みに、カイルはホッとした顔で「はい」と頷いた。
 そんな俺たちを見て、ライラがくすくすと笑う。

「不思議よね。時々フィル君のほうが年上に見えることがあるわ」

 指摘を受けて、俺は少しばかりギクリとした。
 実際、中身はカイルよりもずっと年上だもんな。

「ま、カイル君のおかげで、皆をけたのはよかったわよ。F・Tフィル・テイラファンクラブや、見守る会のメンバーもいたもの。諦めが悪いから、ああでもしなきゃこっそりついて来たと思うわよ」

 確かにライラの言う通りだなぁ。手荒いやり方ではあったけど、カイルが来てくれなきゃ大変だったかも。

「じゃあ、落ち着いたところで、そろそろ課外授業を始める?」

 微笑んだアリスの言葉を聞いて、皆が頷いた。

「まず、どの動物から探しに行く?」

 トーマがふところから小さな紙を取り出して、目を落とす。
 それは皆が召喚獣にしたい動物のリストで、それぞれの生態や習性なども書かれていた。

「ファイクってどこにいるっけ?」

 レイがトーマの持っている紙をのぞき込む。
 ファイクは赤い毛色をした、耳の大きな小型のキツネだ。火属性で、火の玉をあやつる攻撃系の動物である。レイと相性のいい属性は火と土なので、その属性の動物が欲しいらしい。

「木のうろに巣を作ることがあるから、そのこんせきを探すといいよ。でも、前にも言ったけど、ファイクの数は少ないし、そうぐうできるかどうかわからないからね」

 困った顔で言うトーマに、レイはこぶしをぎゅっと握った。

「ダメもとで探すぜっ! だって、俺は何事にも挑戦する男だからな!」
「戦闘が始まったらどうせ真っ先に逃げるんだから、攻撃系の動物なんていらないんじゃないの?」

 ライラがそう言ってからかうと、レイは「チッチッチ」と舌を鳴らした。

「わかってねぇなぁ。攻撃系の動物なら、俺が弱くても守ってもらえるじゃん」

 その言葉を聞いて、皆は「なるほど」と頷く。

「半分冗談なのに、速攻で納得されるとは思わなかった」

 レイは悲しそうに眉を下げる。ごめん、冗談に聞こえなかった。

「私は性格的に合う動物がいいから、属性は気にせずそうぐうする動物は手当たり次第にいていくわ。目標は契約することのみ!!」

 そんな風に強く意気込むライラを見て、レイはポツリと呟いた。

「ライラと性格が合う動物って凶暴そうだな……イッテーッ!」

 すぐさまライラに足を踏まれ、レイは足を押さえて涙目になる。
 ……きじも鳴かずば撃たれまいに。

「アリスはかおりどりだっけ?」

 ライラに話を振られて、レイを心配そうに見ていたアリスは頷いた。

「あ、うん。私に合ういやしや水の属性の動物って、あまりいないから。私も属性にこだわらずに、補助的な能力のある動物にしようと思って、トーマにオススメしてもらったの」
「香鳥は補助召喚獣としてピッタリなんだ。かおり属性でね。匂いで敵を追い払ったり、反対に呼び寄せたりもできるんだよ」

 そう説明するトーマに、俺とライラが感心の声を漏らす。
 何だか、トーマが召喚獣コンシェルジュに見えてきた。

「そういえば、聞いてなかったけどトーマの目当ては?」

 俺が問うと、トーマはにっこりと微笑んでエリザベスを召喚する。
 出てきたエリザベスは、「フンッ!」と鼻息を吐いた。
 なぜか、やる気満々な感じだ。というか、どことなく戦闘態勢のような……。

「僕はエリザベスと相性がいい動物を、召喚獣にしようかなって思ってるんだぁ」

 長閑のどかに微笑むトーマに反して、エリザベスの目つきは鋭い。

【私が認める相手じゃなきゃ、許さないわっ!】

 そう言って、キックボクシングみたいにシュッシュッと蹴りを繰り出した。
 トーマはそんなエリザベスの闘志には気づかず、愛おしそうにでる。

「エリザベスも楽しみだよねぇ」
【たとえ召喚獣が増えようと、トーマの一番は私っ! どっちが上か、とことんわからせてやるわっ!】

 鼻息荒いエリザベスの様子を見て、皆は少し不安を覚えたのだろう。

「エリザベスに不穏な空気を感じるのは、俺の気のせいか?」

 レイがトーマに聞こえないよう俺たちに言い、ライラはひそひそと返す。

「気のせいじゃないわよ。私も感じるわよ」
「フィル、エリザベスは何て言ってるの?」

 アリスの問いに、俺はポリポリとひたいいた。

「あ~……新しい召喚獣が来ても、自分が格上だとわからせるって……」

 通訳を聞いたレイたちは、予想した通りだと眉を下げる。

「エリザベスのお眼鏡めがねにかなう動物か……見つけるの大変そうだな」

 カイルがポツリと呟いて、トーマ以外の皆が静かに頷いた。


 まず俺たちはトーマの情報をもとに、召喚獣にする動物を探すことにした。
 初めに発見したのは、意外にも数が少ないと言われていた、レイのお目当てのファイクだ。
 レイはカイルと二人で茂みに隠れながら、湖のほとりにいるファイクを観察している。
 初心者が召喚獣契約を成功させるには、まず対象の動物をよく観察することが大切なのだという。
 どういう動物であるか、どんな習性を持ち、どういった主人を望むのか。
 観察することでその動物の性格や特性などをつかみ、契約時のアプローチに活かすのだ。
 俺とトーマ、それにライラとアリスは、観察の邪魔をしないよう、レイたちから離れた低木の陰で輪になってしゃがんでいた。冷たい風が吹いても、ホタルの能力のおかげで俺たちの周りだけはとても暖かい。
 ライラは、レイたちをチラリと見て呟いた。

「契約前に観察するのって、結構大変な作業よねぇ」
「大変だけど重要だよ。契約前に対策を立てられるもん」

 トーマは真面目な顔で言うが、ライラの表情は少し暗い。

「でも私たちの年齢って、動物にナメられることが多いらしいじゃない? 対策を立ててもうまくいくかしら? なんか不安になってきたなぁ」

 まだ召喚獣契約をしたことがないライラは、ひざを抱えながらため息をついた。

「僕たちの場合は、力を見せるよりも、好かれたり相性がいいと思わせたりするほうが成功しやすいんだって。だから相性が合えば、きっと大丈夫だよ」

 俺が微笑むと、ライラは真剣な表情でグッと顔を寄せてきた。

「ねぇ、フィル君はたくさんの召喚獣と契約しているでしょ? やっぱりよく調べて契約したの?」

 ライラに問われ、俺は首を傾げて契約した時のことを思い出す。

「僕は……何となく流れで契約したのが多いかも」

 よくよく確認せずに事を進めたせいで、気がついたら伝承の獣や精霊と契約していた。
 今はコクヨウやヒスイと契約して良かったとは思うけど、彼らの能力を最大限に使っている自信はまったくない。
 思えばコクヨウと召喚獣契約をしてから、父さんの規格外認定が始まった気がするなぁ。

「本当……下調べは必要だよ」

 俺が遠い目をしながらしみじみと呟いたので、ライラは何かを察したらしく、「そ……そうなんだ」と言って、それ以上は聞いてこなかった。

「あ、そういえば、ホタルはどうして僕と契約してくれたの?」

 抱きしめていたホタルの顔をのぞき込みながら、聞いてみた。

【フィル様、おお倒しちゃうくらい凄いからです! あと、僕を助けてくれたですっ! あとあと、汚れてた僕を選んでくれて、優しいなぁと思ったです!】

 話しているうちにテンションが上がったのか、頭で俺の胸をぐいぐいと押しながら力説する。毛がもこもこしているので痛くはない。いや、むしろくすぐったくて笑ってしまった。

「そうかぁ。優しいかぁ」

 俺はいい子いい子と、ホタルをでる。

「フィルったら、目尻が下がってるわよ」

 アリスがくすくすと笑い、他の皆もつられて笑顔になった。
 だって仕方がない。可愛がっている召喚獣に褒められたら、デレないではいられない。

「微笑ましいわねぇ。ほっこりするわぁ~……実際にあったかいけど」

 ライラがホタルの頭をでて、トーマもホッと息を吐く。

「ホタルがいてくれて、本当にポカポカだよねぇ」

 俺たちがえんがわ日向ひなたぼっこしているみたいにまったりしていると、茂みの前にいたレイがこちらを振り返ってにらんだ。

「お~ま~え~ら~! 俺の召喚獣契約に、ちょっとは興味を持てよっ! こっちはホタルの暖かさが届かなくて寒いのに。カイルを見習え!」

 小声でプリプリ怒っているレイに、カイルは首を振る。

「いや、俺も興味はない。レイが一人で観察するのが嫌だって言ったから、仕方なく一緒にいるだけだ」

 つれないカイルの言葉を聞いて、レイは顔を両手で覆った。

「ひどいっ! でもありがとうっ!」

 俺たちは「やれやれ」とレイの横に並び、湖のほとりにいるファイクに視線を向ける。
 ファイクは小型犬ほどの大きさで、見た目はフェネックギツネに似ている。
 大きな耳にふさふさの尻尾、赤い毛色をしていた。

「それにしても、あのファイク、本当に動かないわよねぇ」

 だるそうにこぼして、ライラはため息をついた。
 ライラの言う通り、ファイクは湖をのぞき込んだまま、まったく動こうとしない。
 発見してから、もう三十分くらい経ってるのに。
 観察をして召喚獣の性格をつかもうとしても、何のアクションもとってくれないのでは判断のしようがない。

【ずっと湖見てるです。お魚いるですか?】

 大きな目でこちらを見上げるホタルに、俺は首を傾げた。

「ん~、どうだろうね。湖に何かあるのかなぁ?」
「もうさ、逃げないんだからいいじゃない? ちゃっちゃと契約申し込んできなさいよ」

 ライラが「さぁ、行ってこい」と、レイに指示を出す。

「いい加減なこと言うな! 対策なしで断られたらどうすんだ」
「その時は、その時ね」

 あっさりとライラに言われ、レイは脱力した。

「トーマも言ってたろ、『ファイクは数が少ない』って。失敗したら、次に見つかるのはいつになるか……。フィルも慎重に行くべきだと思うよな?」

 情けない顔で同意を求めるレイに、俺は苦笑した。

「まぁ……確かに、今さら他のファイクを見つけるのは大変だよね」
「だろ? 俺だって、時間がかかって皆に悪いとは思ってるけどさぁ」

 レイは肩を落として、大きなため息をつく。
 俺は再びファイクを観察してみた。
 先ほどから姿勢がほとんど変わらず、ジッと湖面をのぞき込んでいる。
 ただ時々、大きな耳をアンテナにして、ピルピルと動かしていた。
 おそらく、俺たちの存在に気がついているのだと思う。
 だったら、何で逃げないんだろうなぁ。群れで行動しない野生動物は、人が近づくと逃げる場合が多いのに。
 まったく動じない性格なのか、野生にしては危機感がないのか。

「よし! 話を聞いてこよう」

 俺はスクッと、茂みから立ち上がる。

「えぇぇぇっ!」

 俺の言動に、レイはきょうがくして小声で叫んだ。

「聞いてくるって! 今まで俺が観察していた意味はっ!」
「いや、レイのお目当ての動物だから、本人が観察して対策を練れるならそのほうがいいと思うんだけど……。このままだとらちが明かないし、ファイクがこっちに気づいてるのに逃げないってことは、話ができる余地があるのかなって」

 その証拠に、ファイクは茂みから立ち上がった俺に視線を向けてはいるが、逃げる気配はない。
 俺はファイクに向かって微笑み、優しく呼びかけた。

「こんにちは。話がしたいんだけど、ちょっといいかな?」
【話? 君は僕の言葉がわかるのかい?】

 ファイクは首をちょっと傾げて、クリッとした瞳で俺を見る。

「うん。他にも友達がいるんだけど……いいかな?」
【知ってるよ。さっきから僕を見ていただろう?】

 そう言って頷いたので、皆を促してファイクのところまで歩いていく。

「まず……さっき君を見ていたのには、理由があって……」

 俺が観察していた経緯を話し始めると、ファイクは前足を出してそれを制した。

【言わなくてもわかっているよ。君たち、僕のファンだろう?】
「…………はい?」

 俺はわけがわからなくて聞き返したのだが、ファイクは満足げに頷いている。

【君たちの熱い視線に、僕は気がついていたよ。さぁ、握手してあげよう】

 そう言って差し出した細い前足を、俺は思わず握る。
 ファイクは俺ばかりではなく、他の面々にも足を差し出し、皆も俺にならって握手した。

「何これ……」

 言葉を理解できないライラは、意味のわからない状況に困惑した様子だ。

【いやぁ、こんなに人間のファンができるなんて、さすが僕だな。人間を魅了してやまないこの見事なづやっ!】

 ファイクはそう言うと、ちょこんと座り胸を張ってポーズをとる。自慢のづやを見せつけるように、ふさふさの尻尾を振った。
 このファイク……ナルシストらしい。もしかして湖を見ていたのは、鏡代わりか。
 まぁ、でも、確かに自慢するだけあってづやは見事だし、胸を張っている様子も可愛い。
 思わず小さく噴き出すと、レイは俺とファイクを交互に見て不思議そうな顔をする。

「このファイク、何て言ってるんだ?」

 俺は苦笑しながら、皆に小声で伝える。

「僕たちを、自分のファンだと思ってるみたい。づやが自慢らしいよ」
「あぁ、確かに毛が綺麗だよね」

 そう言ってトーマが微笑むと、ライラは低くうなった。

「観察していた私たちをファンと言うあたり、どこかのうぬれやをほう彿ふつさせるわね……」
「誰のことだ?」

 レイはキョトンとして少し首を傾げ、それから改めてファイクを見下ろす。

「しかし、自慢するだけあるな。全身の赤い毛が艶々つやつやだ。野生の動物がこれだけ綺麗にづくろいするなんて、なかなかできないぞ」

 レイが感嘆の息を吐くと、ファイクは嬉しそうに尻尾を振った。

【君、わかってるね! あぁ、そういえば君が一番熱く僕を見ていたよね。よし、君を僕のファンクラブのリーダーにしてあげよう】

 そう言ってファイクは再び前足を差し出し、レイは意味がわからないながら握手をする。

「よくわからないけど、なんか認めてもらえたっぽい?」

 レイ、そのキラキラ期待に満ちた眼差しを向けるのはやめてくれ。
 ファンクラブのリーダーに任命されたよ……なんて、言いにくいじゃないか。
 俺はぎこちなく笑った。

「まぁ、ある意味認めてもらった……かな?」
「やった!」

 レイは微笑んで、握手をしたままファイクに言う。

「認めてくれたなら、俺と召喚獣契約してくれないか?」

 ファイクは思ってもみない提案だったのか、目を丸くした。

【召喚獣契約? 君が僕の主人になりたいってことかい?】

 ファイクはレイに握られたままの前足を見て、それからレイの姿を上から下まで細かくチェックする。

【ふむ。確かに君は髪型も決まっているし、彼らと同じ服装ながら、おしゃに気を配っているようだね……わかった。いいよ】

 コックリと頷くファイクに、カイルは目を見開いた。

「おしゃに気を遣ってるから、契約するって言っているぞ」
「やったーー!!」

 レイは両手を挙げて歓喜し、ライラはあんぐりと口を開けてきょうがくする。

「契約ってそんなあっさりしていいのっ!?」

 ファイクはライラを見上げ、尻尾をファサリと動かした。

【僕が主人に望む条件は、美意識が高く僕の良さがわかっていること。熱い眼差しで見ていた彼なら、僕の価値を理解して大事にしてくれそうだ】

 俺がその言葉を皆に通訳すると、トーマは「なるほど」と頷いた。

「じゃあ、観察していた時間も無駄ではなかったんだね」

 ライラは半眼でファイクを見つめ、ポツリと呟く。

「このファイク……やっぱり考え方がレイに似てるわぁ」

 アリスはそれを聞いて、小さく苦笑した。

「似た者同士なら、共感できることもあるし。いい出会いかもしれないわ」
「アリスちゃん、いいこと言う!」

 レイはそう言うと、ファイクに向かって微笑んだ。

「大事にするからな!」
【あぁ、リーダーよろしく頼むよ】

 そう言って、ファイクはレイに向かって頭を下げた。
 レイは一つ咳払いをして口を開く。

「フラム!」

 叫んだ途端、ファイクの周りに風が巻き起こる。
 レイと召喚獣契約をして、フラムという名を得た瞬間だった。

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