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19巻
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グレスハート王国第三王子である俺――フィル・グレスハートは、ステア王立学校に通う中等部二年生。学校では鉱石家の息子、フィル・テイラとして過ごしている。
俺がグレスハートの第三王子であることは、同級生で友人のカイルとレイとトーマ、ライラとアリス、後輩のミゼット、シーバル・ゼイノス中等部学校長など、限られた人たちしか知らない秘密だ。
時間割調整で授業がお休みになった、ある平日。
俺はカイルとレイとトーマ、ライラとアリス、同級生のシリル・オルコットと一緒にドルガド王国を訪れていた。
友人のディーン・オルコットとイルフォード・メイソンに招待され、泥染めの生地を使ったファッションショーを見に来たのだ。ちなみに、ディーンはシリルのお兄さんである。
ショーを楽しんだあと、シリルと一時的に別れ、俺たちは公園でお昼を食べることにした。
のどかな午後の一時に、幸せを噛みしめていたのもつかの間。
お昼を食べ終え、広場で遊んでいた召喚獣たちから、とんでもない報告を受ける。
公園内で、俺の偽物を見かけたというのだ。
実は数ヶ月前から、人助けをして歩いている子たち――俺に似た青みがかった銀髪の少年と、従者のカイルに似た黒髪の少年の目撃情報が、近隣諸国から相次いであがっていた。
普通の髪色だったら騒ぎにならなかっただろうけど、青みがかった銀髪だと事情が変わってくる。
青みがかった銀髪はこの世界ではとても珍しい髪色で、聖なる髪と呼ばれている。
クリティア聖教会では、神に愛されし者の証として珍重されているほどなのだ。
そうした背景から、謎の少年たちに助けられた人々は「神の御使い様が助けてくださった」と言って盛り上がっているらしい。
まさか、その少年たちが見つかるなんて!
俺たちは人助けをして歩く彼らの意図を探るため、二人を追跡することにした。
聖なる髪の少年はエド、黒髪の従者はヴァンという名前らしい。
俺やカイルとは背格好が同じだと聞いていたが、どちらも俺たちより背が低く、年下のようだった。
エドは平民を装っているけれど、身なりの良さが隠しきれていない。ヴァンの他に大人の護衛を二人連れているところからして、上流階級の子息だと思われる。
追跡しながら様子を窺っていると、公園内にある柵に囲まれた馬場から、男性たちが言い争う声が聞こえてきた。
そこではティリア王国の観光担当者と、ドルガド王国のイベント担当者が揉めていた。
なんでも、ティリア王国は今回のファッションショーに素材を提供したエンペラーシープという特別な羊を連れてきて、この馬場に預けたそう。
ところが、ドルガドの担当者が少し目を離した隙に、羊たちが泥だらけになってしまったらしい。
エンペラーシープは白銀に輝く美しい毛並みが自慢だ。
ティリア王国の観光担当者は、ドルガド王国側がわざと羊を汚したのではないかと疑っており、国際問題に発展しかねない状況だ。
エドとヴァンが仲裁しようとする様子を、ハラハラしつつ見守っていた俺だったが……エドが水をかけてエンペラーシープの泥を落とそうとしたところで、慌てて止めに入った。
エンペラーシープは体が濡れるのを嫌う動物で、水がかかったら暴れ出すなんてトーマから聞いたら、止めないわけにはいかないよ。
幸いにも俺はドライシャンプーの粉を持っていたからね。水を使わずにエンペラーシープの汚れを落とし、ブラッシングをして綺麗にしてあげることができた。
担当者たちから感謝の言葉をもらって、一件落着だ。
まぁ、周りで見ていた野次馬たちが、赤茶髪のカツラをかぶって変装している俺に、『赤髪の救世主』なんて二つ名を付けてきたのには参ったけどね。
事件解決後、エドたちは話をしたいと言ってきた。そこでお昼を食べた場所に戻り、敷物に座って、彼らの話を聞くことになったのだが――。
なんでこんな状況になっちゃったのかなぁ。
俺は目の前にいるエドを見つめる。
彼の年齢は七歳。
俺と同じ青みがかった銀髪だけど、エドの髪は俺よりも淡い柔らかな色合いをしていた。
色白であどけない顔立ちは、いかにも育ちの良さそうなお坊ちゃんだ。
彼はライトグリーンの瞳で、真っ直ぐに俺を見た。
「お願いします! フィルさん、僕を弟子にしてください!」
エドのお願いに、俺はめまいを起こしそうになる。
エドから「あなたに話したいことがある」と言われて、てっきり事件解決の手助けをしたお礼かなと思っていたのに……。
まさか、弟子入りを志願されるとは思ってもみなかったよ。
話のついでに、彼らが人助けをして歩いている事情を聞きたかったんだけど、それどころじゃなくなっちゃったな。
エドの隣を見ると、彼の従者であるヴァンが呆然としていた。
ヴァンは黒髪で黒い瞳、細いフレームのメガネをかけている。
年齢は十一歳で、痩せ型。身長は百四十センチちょっとくらいだろうか。
彼も俺と同じで、なんでこんな事態になったのかという顔をしている。
わかる。その気持ちよくわかるよ。
ヴァンは俺と同様に、エドがこんなことを言い出すなんて思いもよらなかったんだもんね。
俺はヴァンからエドに視線を戻し、はっきりと言う。
「あのね、弟子は募集していないんだよ」
こうしてお断りをするの、もう何度目だろう。
ヴァンも困り顔で、エドの顔を窺う。
「こちらの方もこう言っていますし……。エド様、他の者ではダメなんですか? エド様が師を望むなら、俺がふさわしい人物を探して参ります。それではいけないのですか?」
ヴァンがそう思うのも当然だよね。
彼にしてみれば、俺たちはばったり居合わせただけの人物にすぎない。
カイルたちと一緒に自己紹介をしたけれど、それぞれの名前と年齢、同じ学校に通っている友人だということしか、エドとヴァンには教えていないし。
その名前だって、苗字も名乗っていない簡単なものだ。
多分、ヴァンは俺たちの格好などから、ファッションショーを見に来た平民か商人の子供じゃないかと推測しているだろう。
今日の俺たちは、お出かけ用の綺麗な服を着ているけど、あくまで平民が買えるくらいの一般的なおしゃれ着だもんね。
素性がわからない平民の子を、主人の師匠にはできないよなぁ。
「そうだ! 俺が何人か師匠候補を連れてきますので、その中からエド様がお選びになるという形でどうでしょうか!」
ヴァンはエドに妥協案を提示する。
しかし、エドはブンブンと首を横に振った。
「この方でなければダメなのだ」
その頑なな様子を見て、レイは俺に顔を寄せて囁く。
「フィル、ずいぶん気に入られたもんだなぁ」
「そんなに大したことはやっていないんだけどねぇ」
事件を解決できたのは、まだ発見されて年数が浅いエンペラーシープの論文を読んでいた、トーマの知識があったからこそだ。
俺がやったのは、ドライシャンプーとブラッシングだけ。
……まぁ、エドを止めようと近づいた際に彼らの護衛に腕を掴まれたので、ちょっと投げて振り払っちゃったけど。
でも、それだけだ。俺がここまで気に入られる理由はわからない。
「どうして僕なのかな?」
俺が自分を指さして尋ねると、エドはハキハキと答える。
「さっきも言いましたが、僕と年齢がそう変わらないのに事件を鮮やかに解決したフィル師匠の能力と、それをひけらかさない謙虚さに感動したからです! そして何より、ピンと来たので!」
「ピンと……。直感ってこと?」
聞き返す俺に、エドはコックリと頷く。
「はい! あなたをお手本にしたら、僕も立派な人間になれるのではないかと思いました!」
鼻息荒く答えるエドに続き、ヴァンが元気のない声で俺たちに説明する。
「ふわっとした理由に驚かれたと思いますが、エド様の直感は当たるんです。聖なる髪のエド様の直感ということもあり、周囲からは『天啓ではないか』とよく言われていまして……」
天啓……。そう思われるほど当たるのか。
聖なる髪を持つ者は不思議な力があり、精霊との結びつきが強いと言われているんだよね。
証明されているわけじゃないとはいえ、聖なる髪の子を神聖視する人も多い。
すると、エドは俯いて言う。
「僕がこの方を師にしたいと思ったのだ。天啓などではない。そんな能力、僕には……」
エドは苦しそうに言って、それきり黙ってしまった。
ヴァンはハッとした様子で、慌てて頭を下げる。
「あ……エド様。も、申し訳ありません。余計なことを……」
どうやらヴァンの発言には、エドにとって触れてほしくない内容が含まれていたらしい。
うーむ、やはり何か事情がありそうだ。
俺は少し考えて、エドに向かって優しい口調で話しかける。
「君は立派な人間を目指しているの?」
エドは潤んだ目元を擦って、コクリと頷いた。
俺はにこりと笑って、さらに優しく言う。
「どうして立派な人間を目指しているのか、気になるな。まず君のことを教えてよ。それを聞いて、弟子にするかを考えるから」
それを聞いた途端、エドはパァッと表情を明るくした。
「本当ですか?」
身を乗り出すエドと対照的に、焦り出したのはカイルとヴァンだ。
「フィル様!? 弟子を取るんですか!?」
「エド様を弟子にしちゃうんですか!?」
なんか反応が似てるな、この二人。
俺はそんな二人に、落ち着いてと手でジェスチャーをする。
「まずエドの話を聞いて、どうするか考えさせてほしいってこと。まだ出会ったばかりで、どんな子かもわかっていないし。そもそも、師匠なんて必要ないかもしれないでしょ」
説明すると、二人は少しだけ安堵したようだ。表情が和らぐ。
「弟子にしてくれる可能性も……あるんですよね?」
不安そうにこちらを窺うエドに、俺はコクリと頷いた。
再び焦るカイルとヴァンの顔が視界に入ったが、話を聞いてみないとなんとも言えないもんね。
エドは少し息を吐くと、意を決した様子で俺を見据えた。
「僕の話をする前に、お願いがあるのです。僕の素性を知っても、今まで通り話してほしいのです」
俺たちはエドが上流階級の子息だろうと察しているんだが、そこが心配なのかな。
エドが望むならと、俺はコクリと頷いた。
「改めまして、僕はエドモンド・ノアール・クロノアです」
自己紹介の時にはエドモンド・ノアールと名乗っていたが、あれはミドルネームまでで、続きがあったようだ。
「ノアールは母方の姓で、自国を出て名乗る時に使っています」
俺がなるほどと頷いていると、レイとライラが考え込む。
「クロノア……どこかで耳にしたことがあるな」
「私もよ。記憶が確かなら、グラント大陸の北西にそんな名前の島国があったような……」
その呟きに、レイは思い出したという顔をしてポンと手を打った。
「そうだ。北西の島国、クロノア王国だ!」
俺は目を瞬かせる。
「クロノア王国? じゃあ、国名が姓だってことは……」
俺たちがエドとヴァンに視線を向けると、ヴァンはコクリと頷いて言う。
「ええ、エド様……エドモンド様は、クロノア王国の第五王子殿下です」
「お……王子殿下!?」
上流階級特有の上から口調や服装などから、エドが良いところのお坊ちゃんだろうとは予測していたけれども、まさか王子様だったなんて。
しかも、第五王子。グレスハートの王族で、五番目に生まれた俺と境遇が似ている。
彼の素性にはビックリしたが、俺との共通点の多さにも驚いた。
言葉を失っている俺たちを見て、エドは苦笑する。
「王族と言っても、クロノア王国は本当に小さな島国なのですけどね。あの……僕が王族だと聞いて、驚きましたか?」
自分の身分を聞いて、俺がどう感じたのか不安になったようだ。
その心細そうな顔が可愛くて、俺は小さく笑う。
「王族だなんて思ってなかったから、少しだけね。でも、素性を話してくれる前から、エドは上流階級の出身じゃないかなって思っていたよ」
それを聞いて、エドは目をパチクリとさせた。
「え! 僕が平民じゃないと気づいていたんですか?」
驚愕するエドに、ヴァンが呆れた視線を向ける。
「絶対にエド様の言動でバレたんですよ。俺と話す時、普段の言葉遣いが出ていますから」
指摘を受けて、エドは手で口元を押さえた。
「で、出ていたか!?」
どうやら、無自覚だったらしい。
聞かれたヴァンは、嘆息している。
「何回も指摘したのに、言葉遣いが全然直りませんでしたね」
「平民のフリは完璧だと思っていたのに……」
ショックを受けているエドに、俺は小さく笑う。
「言葉遣い以外にも、平民にしては着ている服が良質に見えたのと、従者や護衛を連れていたのもポイントだったかな」
俺がチラッと護衛たちを見ると、エドはヴァンを恨めしげに睨んだ。
「バレたのは、ヴァンたちのせいでもあるではないか」
エドに責められて、ヴァンはピクリと眉を動かした。
「俺たちの……せい?」
ヴァンはエドに顔を寄せて、半眼でじっと主を見据える。
「エド様が事件に首を突っ込むような真似をしなければ、俺は従者だと名乗らずに済んでいたでしょうし、護衛の二人だって距離を取ったままで良かったんですけど?」
声を荒らげてこそいないが、声色に怒りが滲んでいる。
エドは「しまった」という表情をしたが、もう遅かった。
ヒートアップしたヴァンが、さらに続ける。
「何回も言っていますよね? 事件があっても、いきなり飛び込んだりしないようにって! 人助けをしたいって気持ちは理解していますけど、エド様をフォローするのは俺たちなんですよ? 今だって、出会って間もない少年の方を師匠にしたいなんて突飛なことを言い出すし。陛下にどう説明したらいいんですか!」
不満が溜まりに溜まっていたようで、ヴァンのお説教は止まらない。
淡々とした口調で延々と続くお説教を聞いていると、父さんを思い出すなぁ。
自分が怒られているようで、少しつらい。
しかし、こうしたヴァンの小言はいつものことなのか、エドはうんざりした様子でそっぽを向いた。
「人助けに付き合わせて悪いと思っている。だが、フィルさんへの弟子入りは僕にとって必要なことなのだ」
エドはそう開き直って、口を尖らせた。
その態度が、ヴァンの怒りを増幅させてしまったらしい。
ヴァンは真顔のまま、エドの唇をきゅむっと指で摘まんだ。
「んむっ!?」
「本当に憎たらしい口ですね。俺だって全部に反対しているわけじゃないんですよ。少し考えてから行動してくださいって言ってるんです。弟子入りの件だって、言い出す前に俺に相談したり、陛下に確認を取ったり、段階を踏んでいけばいいじゃないですか。それなのに……『人助けに付き合わせて悪いと思っている』ですって? この口、悪いと思っている態度ですか? 本当に反省しています?」
唇をきゅむきゅむと摘ままれた状態で凄まれ、さすがのエドも焦ったようだ。
「は……はむへいひてふ!」
おそらく『反省してる』って言ってるのだろう。
言葉にはなっていなかったけど、音の響きでなんとなく謝っているのがわかった。
……それにしても、すごいな。
二人のやり取りを見て、俺たちは呆気にとられる。
「主人相手に、唇を摘まみながら説教とは……」
カイルが呟き、レイがゴクリと喉を鳴らす。
「ああ、まったく遠慮がないな。カイルもたまにフィルを諫めることがあるけど、ここまでじゃないもんな?」
そう尋ねたレイに、カイルが頷く。
「フィル様は無自覚に規格外なことをされるが、あそこまで直感で動くタイプではないからな。まぁ、フィル様の場合、理由が理解できる分、咎めるに咎められないという葛藤がつきまとうんだが……」
カイルは遠くを見つめ、ため息を吐く。
「カイルに苦労をかけて悪いとは思ってるよ。気をつけるから」
だから、そんな虚ろな目をしないで。
俺も反省しないといけないなと思いながら、カイルの背中を撫でる。
すると、カイルは俺を見て、諦めたような微笑みを浮かべた。
…………信じてないな?
まぁ、自分では気づいていないから無自覚って言うんだしなぁ。
いつも、やらかしてから、やりすぎたことに気がつくんだよねぇ。
「それにしても、本当に仲が良いのね」
「ね! 兄弟みたいだよねぇ」
アリスとトーマの言葉が聞こえきて、俺はエドたちに視線を戻す。
確かに、困りつつも面倒を見るヴァンの姿は、まるで兄のようだ。
主従関係とはいっても、もっと親しい間柄なのかな。
すると、お説教を終えたらしいヴァンに、ライラがそっと尋ねる。
「あのぅ、王族の従者ということは、貴方も上流階級の方なんでしょうか?」
その問いに、ヴァンはライラに向き直って答える。
「俺にも敬語は不要ですよ。俺の家は、祖父の代に爵位を得た男爵家。貴族と言っても、上流階級と名乗れるほどの家柄ではありませんから。母がエド様のお世話係だったので、俺は幼い頃からエド様の遊び相手を務めておりまして。その流れで従者に選ばれたのです」
なるほど。従者になる前から仲良くしていたから、兄弟みたいな関係性なのか。
口調は丁寧ながらも、エドの扱いに遠慮がない理由がわかった。
「聖なる髪を持つエド様の従者は、ある意味特別ですから。俺の家よりずっと位の高い貴族家の子息も、従者として立候補していたのですけどね。それゆえに、従者に内定してから正式に任命されるまで、嫌味やら妨害やら大変でしたよ」
ヴァンは自嘲気味に笑って、肩をすくめる。
高位の貴族相手では、理不尽なことをされても言い返しづらいもんなぁ。
エドの従者という肩書きがある今はいざ知らず、選抜期間中はいろいろと大変だったらしい。
エドは先ほどまでヴァンに摘ままれていた唇をさすりながら言う。
「ヴァンは同年代の者の中で最も武芸に優れ、学問に秀でているのです。他の候補者たちを、言葉ではなく実力でねじ伏せたのですよ。すごいでしょう!」
大きく胸を張って、エドは自分のことのように自慢した。
隣にいるヴァンは、照れくさいのか少し頬が赤くなっている。
「それはクロノア王国内だけの話ですよ。国を出てからは、実力不足を痛感しているんですから」
ヴァンはそう言って、ため息を吐く。
エドたちの出身地、クロノア王国。
ライラが言うには、俺たちが今いるグラント大陸の、北西にある島国らしい。
こちらの世界の世界地図では、島国は省かれてしまうことが多い。小さい島国だと情報が少ないんだよね。
「勉強不足で申し訳ないんだけど、クロノア王国のことを教えてもらってもいい?」
俺が尋ねると、エドとヴァンは揃って頷いた。
「ご存じないのも仕方がありません。クロノア王国は小さな島国ですので。ですが、建国八百年を超える歴史ある国なんですよ。国民は温厚な気質の者が多くて、とても治安がいい国です」
エドがにこにこして自分の国のことを教えてくれる。
クロノア王国とそこに住む国民のことが、大好きなのだろう。
「国民は主に、漁業と農業と狩猟などで生活の糧を得ております。海に囲まれておりますし、山も実り豊かなのですが……厳しい冬が長く続くので、他の季節で採れた物を保存して賄っているのが現状です」
「そうなんだね」
真面目な顔で説明するヴァンに、俺は相槌を打つ。
うちのグレスハートは一年を通して気温がほとんど変わらない。季節ごとの収穫量などにあまり差は出ないが、冬の期間が長い国は厳しいだろうな。
「クロノア王国はあまり積極的に交易を行っていないと聞いたことがあるのだけど、厳しい冬の期間だけでも輸入で補ったりしようとは考えていないの?」
ライラが二人の顔を窺いつつ尋ねると、ヴァンは少し驚いた顔をする。
「詳しいですね。確かに、これまではそうでした」
ライラの眉がピクリと動く。
「今は違うってこと?」
エドがにっこりと笑って、その質問に答える。
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