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19巻
19-2
しおりを挟む「半年ほど前にお祖父様が父上に王位をお譲りになって、方針が変わったんです。今後は雪で外出できない冬の間は手仕事として民芸品を作り、輸出を強化しようと考えています。そうして、輸入も増やしていけたらな、と」
「本当に!?」
目を輝かせるライラに、ヴァンはコクリと頷いた。
「本当です。ただ今、視察団を作って諸外国を巡りながら、どのような交易品が求められているのか情報を集めているところです。視察団の中には職人や商人もいるので、訪れた場所で実際に販売したり、他国の商品を参考にして新たな商品を開発したりしているんですよ」
「素晴らしいわ! 商人たちにとって、こんなに喜ばしいお話はないわ」
ライラは歓喜の声をあげ、それからエドとヴァンに向かってズイッと身を乗り出す。
「ちなみに、どんな商品を扱っているのか、教えてもらってもいいかしら。まず、民芸品はどういったものを? アクセサリー類もあるの? 織物は? 冬用に保存食を作っているということは、そちらもいずれ交易品にしようと考えているのかしら? 海に囲まれているという場所柄、保存食は魚介類の干物などが多そうよね?」
ヒートアップしていくライラに、レイとアリスとトーマが慌ててストップをかける。
「待て、待て、待て! いきなり商人モード全開で話をするな!」
「落ち着いて、ライラ」
「二人とも驚いているよぉ」
我に返ったライラは、そこでようやくポカンとしているエドたちに気がつく。
ライラは元の姿勢に戻り、コホンと一つ咳払いをした。
「ごめんなさい。商売の匂いを感じて、つい止まらなくなっちゃって……」
照れ笑いをするライラに、若干引いた様子でレイは言う。
「商売の匂いを感じ取り始めたら、相当やばいぞ」
「儲けに敏感なのは、商人として優秀なんだろうがな」
カイルはそう言って、ため息を吐いた。
「……商人?」
困惑した様子で呟くヴァンに、俺は改めてライラのことを紹介する。
「ライラはトリスタン商会ご当主の娘さんなんだ。商売の取引や交易品についてもよく勉強していてね。すでに商売の一部を任されているくらい優秀なんだよ」
俺のフォローのあと、ライラは二人に向かってにっこり笑う。
「改めまして、ライラ・トリスタンと申します」
取引先に対するように、ライラは丁寧に腰を折る。
その佇まいは洗練されていて、先ほどまで質問攻めをしていた少女と同一人物だとはとても思えなかった。
エドとヴァンは、小さく息を呑む。
「トリスタン商会の……」
「そうか、だからうちの国の交易事情をご存じだったんですね。まさかこんなところで、トリスタン家のご息女に出会えるとは思いませんでした」
世界を股にかけるトリスタン商会。
各国から多種多様な商品を買いつけ、商会独自の輸送ルートで早く確実に品物を届けている。
個人や団体だけでなく、国とも直接取引を行うトップクラスの大商家で、この世界の物流を動かしていると言っても過言ではない。
多くの人が、トリスタン商会にお世話になっているんだよね。
余程浮世離れしている人じゃない限り、知らない人はいないだろう。
ライラはエドとヴァンに向かって、営業スマイルを浮かべる。
「もし交易品についてアドバイスが必要なら、トリスタン商会がお手伝いすることもできるわ。うちの商会には、いくつか支部があるの。グラント大陸北西支部から、クロノア王国へ商品開発のアドバイスができる者を派遣しましょうか?」
その申し出に、エドは喜んだ。
「なんと! ありがたいです! 国にいる父上たちが喜びます!」
しかし、ヴァンは戸惑った表情で考え込んでいる。
「大変ありがたいお話ではありますが、対価はいかほどになるのでしょうか」
不安そうなヴァンの視線を受けて、ライラは明るく笑った。
「ふふふ、アドバイスくらいで何か見返りを求めるなんて、うちの商会はそんな小さいことをしないわよ。売れる品を作ってもらって、その品を適正価格で買い取らせてほしいだけだから」
そう話すライラの隣で、レイがニヤッと笑う。
「ライラは約束を守るから安心していいぜ」
「ええ、信じてちょうだい。約束を守ることが、良い関係を築くことに重要だと思っているから」
ライラは自分の胸をポンと叩いた。
それを聞いて、ヴァンが表情を和らげる。
「対価などと、不躾な質問をしてしまいました。大変申し訳ありません」
謝るヴァンに、ライラは微笑む。
「気にしていないわ。慎重になるのは当然だもの。個人の判断で国の交易に関する決断を下すのは不安よね。それなら、うちの商会から人を派遣するのは、一度クロノア王国に戻って、国王陛下に確認を取ってからにする? 北西支部の者には、話を通しておくから」
ライラの提案を聞いて、ヴァンは安堵したように息を吐いた。
「そうしていただけると助かります」
すると、まとまりかけた話に、エドが異議を唱える。
「ヴァン、アドバイスを受けるくらいならいいではないか。宿にいるジーノたちのところに、さっそくトリスタン商会の方を派遣してもらおう」
「い、いや、しかし……こちらで勝手に決めては……」
困り顔のヴァンの肩を、エドはペシペシと叩く。
「心配するな。父上にはあとで僕からお願いしておくから。ジーノも喜ぶぞ!」
あとでお願い? お願いって、大抵は先にするものじゃなかったっけ。
事後承諾でもいいのか。
「そりゃあ、エド様のお願いなら、陛下もジーノ様も聞いてくれるでしょうけどぉ」
ヴァンはそう言いながら、頭を掻きむしる。
出会った時は綺麗にセットされていた黒髪が、今や見る影もない。
「えっと、宿にいるジーノ様っていうのは誰なの?」
俺が尋ねると、エドは元気よく答えた。
「視察団の団長です!」
「へぇ。クロノア王国の視察団は今、ドルガドに来ているんだ?」
俺の質問に、エドはコクリと頷く。
「はい。あと五日ほどこちらに滞在をして、一緒にクロノア王国に帰ります! 五日あれば、ドルガドの宿に派遣してもらう時間はありますよね?」
エドは俺からライラへ視線を移し、尋ねた。
「ええ、もちろん大丈夫よ。問題なければ、すぐに近くの支部に連絡を入れるわ」
ライラの返答にエドは満足そうに笑った。
会話を聞いていたトーマが、小さく手を挙げる。
「あの……今、『一緒に』と言っていたけど、二人はもしかして視察団の一員として旅をしているの?」
その問いかけにエドたちが答えるより早く、レイが小さく噴き出した。
「まさかぁ、視察団に王族の方が入るのは無理だろう」
トーマが不思議そうに首を傾げる。
「無理なの? なんで?」
レイは丁寧にその理由を解説し始めた。
「目的次第で視察団の参加メンバーは変わってくるけど、視察団っていうのは大抵、結構な大人数になるんだよ。担当の文官や各分野の専門家を数人ずつ入れなきゃいけないし、参加人数によって護衛も多くなる。現地に詳しい者や旅の調整役なんかのサポートメンバーも必要だ。そこに王族の人が入ったら、その分警護や身の回りのお世話をする人も追加しないといけなくなるだろう?」
「あぁ、そうか。すごい大所帯になっちゃうんだ?」
納得するトーマに、レイは「そうそう」と頷く。
レイの言う通り、王族や貴族が旅をするとなると、本人たち以外に護衛やメイド、場合によっては料理人たちまで連れていくので、どうしても人数が多くなる。
以前、俺はアルフォンス兄さんと一緒に、王族として旅行をしたことがあるが……その時は二十数人くらいのメンバーになったもんな。
それでもまだ少ないほうで、場合によっては四、五十人になることもあるっていうし。
旅行の時のことを思い出しつつ、俺は言う。
「視察の期間は、短くても数ヶ月はかかるからね。人数が多くなると、人の統制も難しくなるし、移動するのも、宿の確保も大変になる。だから、王族が同行することは少ないんじゃないかな」
俺の話を聞いて、トーマは「なるほど」と納得する。
レイはエドとヴァンを交互に見ながら言う。
「多分、二人は貴族のお忍び旅行として来ているのさ。視察団とは、たまたまドルガドで出くわしたんじゃないか? ね、そうでしょう?」
レイが微笑むと、ヴァンは目をそらした。エドがキョトンとしながら答える。
「僕たち、視察団と一緒に来ましたよ?」
それを聞いた俺たちは、目を瞬かせた。
「し、視察団と一緒に!?」
レイが聞き返すと、エドは笑顔で頷く。
「はい。クロノア王国を出てからずっと、僕たちは視察団に同行しています」
俺は二人の顔を窺いながら尋ねる。
「その同行っていうのは、もしかして身分を隠してのことなの? レイも言っていたけど、王族として同行するとなると、護衛や身の回りのお世話をする人が入るから、人数が増えて大変だよね?」
視察費用をどれだけ抑えても、数倍は跳ね上がってしまう。
自給自足をしてきたであろうクロノアは、視察団にそこまでの費用を割けないはずだ。
俺の質問に、ヴァンは少し視線を下げ、言い辛そうに口を開く。
「その……エド様の希望で、視察団に参加している時は職人の息子ということになっています。護衛こそ多めに入れてはおりますが、メイドや料理人などは入れておらず、従者は俺だけで……単独行動をするエド様に同行するのは俺と、後ろで控えている護衛の二人くらいです」
俺は驚いて、思わず聞き返す。
「え! じゃあ、普段は平民として同行しているの!?」
「身分を隠すにしても、てっきり、団長さんの息子としての扱いを受けているものだと思っていたわ」
アリスの言葉に、レイたちも驚愕した様子で頷く。
俺もそう思っていた。
団長は通常、視察団メンバーの中で最も爵位の高い者が務める。つまり、貴族だ。
その息子であれば、小さな子供であっても同等の待遇が得られるはずである。
「初めはそのつもりだったんですけど、エド様が拒まれまして……」
ヴァンがため息を吐くと、エドは唇を尖らせた。
「せっかく国を出るのだから、いろいろな経験を積まなくては意味がないだろう。民と同じ目線に立つことは、僕にとって重要なことなのだ。本当は馬車や宿の部屋も職人たちと一緒が良かったが、ヴァンたちが止めるから我慢したんだぞ」
偉いだろうとばかりに胸を張ったエドに、ヴァンは眉を顰める。
「安全面を考えたら、それは当然でしょう」
どうやら、平民として同行しているとは言いつつ、部屋や馬車は貴族用を使っているようだ。
そりゃあ、そうだよねぇ。そのほうが格段に安全だ。
貴族が泊まる高級宿などは、宿で雇った護衛を見張りとして配置していることが多い。平民用の宿屋より、守りが厳重なのである。
厳重なのにはいくつか理由があるんだよね。
護衛のいる宿はそれだけでお客からの信頼が高まるし、実際に安心して過ごしてもらえれば、自然とリピーターも増える。
何より、自分の宿で貴族に何かあった場合、店主や宿側に処罰が下る可能性があるからなぁ。まったく防犯対策をしていない時に事件が起きては、処分が重くなってしまう。
だから、防犯をきちんとするのだ。
馬車に関しても、そう。エドが平民の馬車を使うとなれば、どうしても周りに護衛を配置せざるを得なくなる。
でも、平民の乗る馬車を厳重に守っていたら、違和感があるもんね。
要人が隠れているのではないかと怪しまれるし、狙われる。
それだったら、エドをこっそり貴族用の馬車に紛れ込ませ、使節団の団長と一緒に警備してしまったほうが簡単だ。
レイはホッと息を吐く。
「宿と移動が貴族待遇なら、まだマシか」
トーマは「うんうん」と頷いて、朗らかに笑う。
「長距離の旅って、宿や馬車次第で旅の質が左右されるもんねぇ」
安堵する俺たちに、エドは真面目な顔で訴える。
「確かに、僕は一部貴族待遇を受けています。しかし、そんな中でも、いろいろな経験を経て成長したのです」
「いろいろな経験? たとえば?」
俺が興味津々で尋ねると、エドは記憶を辿るように視線を上げた。
「え~っと、たとえば……。あ! 視察団は国境を越える時、検問の時間が長いんですよ。国境を何度も通るうちに、僕は辛抱強さを身につけました」
あぁ、国境かぁ。
国境を守る警備兵は、自国に入れる人間や品物を、しっかり見極めなければならない。
王族なら多少は早く通してもらえるんだけど、視察団の場合はしょうがないんだよなぁ。
視察団は通常、入国予定の国々に申請をして事前に通行許可をもらっているけれど、他の一団より人も積荷も多いからね。
チェックをおろそかにして、危険人物を通したり、国が許可していない物を持ち込ませたりしたら、大変だもん。
だから、検問の時間はどうしても長くなってしまうのだ。
まぁ、これは視察団に限らず言えることだ。
入国する国の情勢や方針の変化によって国境通過に時間がかかったり、入国自体できなかったり……。よくあることではあるんだけどね。
王族であるエドにとっては、衝撃だったんだろうな。
「それは大変だったね」
俺は小さく笑って、エドを労う。
成長を褒められたと思ったのか、エドは笑顔で身を乗り出した。
「他にもいろいろ学びましたよ! 悪路を走行中の馬車では、ちゃんと掴まっていないと転がってしまうってことや、市場で目新しいものに飛びついてふらふら歩くと、迷子になるということを学びました」
「ふふ、そうかぁ」
「それはいい経験になったでしょうね」
旅の初歩とも言える可愛い体験談に、俺とアリスは微笑んで相槌を打つ。
「それから、木造の古い宿屋は歩くと床板がギィギィ鳴るんですよ。そんなことも知らずに走った僕は、いったいどうなったと思います?」
いきなり問題を出された。少し戸惑いつつ、一同を代表して俺が答える。
「他の人の迷惑になって、注意された?」
エドは驚嘆した顔で、コクコクと頷いた。
「さすがですね! そうなんです! しかも、そういう宿は壁も薄くて! いつものように話をしていたら、隣の部屋の宿泊客に怒られたんです!」
俺の横で、レイが「そりゃ、そうだろ」と呟く。
しかし、そのツッコミは聞こえなかったようで、エドは得意満面で胸を張った。
「それ以来、僕は静かに歩く技と、小声で話す術を身につけました」
誇らしげなエドの隣で、ヴァンが頭を押さえている。
そんなヴァンに、カイルは同情めいた視線を向けた。
「ここに来るまで大変だったな」
憂鬱な顔をして、ヴァンが頷く。
「はい。大変でした。エド様は、この旅で頑張って学びを得ようという気概はあるのですが……。気苦労が絶えなくて。この前は森での休憩中にいろいろありまして……」
「いろいろ?」
カイルが尋ねると、後ろに控えていた護衛たち――ピークスとロードが答える。
「エドモンド様が魔獣が現れたと叫びまして」
「視察団が混乱に陥ったのです」
それを聞いて、俺と友人たちの声が揃った。
「「「「「「魔獣!?」」」」」」
のんびりと話を聞いていたら、突然物騒な話題になったぞ。
魔獣とは、普通の動物が非道な行いを繰り返すうちに、変化することで生まれる存在だ。
その性質は残忍で、凶暴。動物が魔獣になると強大な力を手に入れる代わりに、自我を失ってしまう。
動物と話ができる俺が、唯一対話できない相手である。
しかも、魔獣に変化すると、容姿や能力が変わることがあるんだよね。
本来は小型の動物だったのに、魔獣になったら巨大化して大きな被害を出したり、群れで行動する動物が魔獣になると、その個体に影響されて周りも魔獣化していったりする例もある。
放っておいたらいけない、危険な存在だ。
完全に魔獣となる前なら元の性質に戻せるそうだが、一度魔獣になってしまえば元に戻す術はない。討伐するしか方法はないのだ。
ただ、討伐するにしても、魔獣には聖属性の攻撃しか効かないんだよね。
聖属性の動物は希少だからなぁ。
一般の人は、魔獣への対抗手段がほとんどないんだ。
そんな存在が現れたら、視察団がパニックになるのも当然である。
「場所はどこで、どんな魔獣だったんだ?」
「怪我はなかったの?」
「もちろん、クリティア聖教会には連絡したんだよな?」
カイルと俺とレイが、ほぼ同時に質問をする。
魔獣が出た場合は、速やかにクリティア聖教会へ連絡するのが鉄則だ。
教会の神官たちには強力な結界を作ることができる者や、聖属性の動物を召喚獣にしている者が多い。魔獣が出た場所に、そういった者たちで構成された討伐隊を派遣してくれる。
俺たちの質問に、護衛たちは、慌てて「いえ、いえ」「違います、違います」と否定した。
「誤解させてすみません。現れたのは野生の山犬で、魔獣ではなかったのです。場所はステアの西の森でした」
ヴァンの説明に、俺たちは目をパチクリとさせる。
「え? じゃあ、魔獣が出たっていうのはどうして……」
困惑しながら、俺はエドに視線を向ける。
エドはしょんぼりと俯いていた。
「森の中で休憩していたら、山犬が群れで現れ、食料の入った袋を盗んでいったのです。宿で一緒になった旅人が『しばらく前に、このあたりの国で山犬の魔獣が出た』と話しているのを、耳にしたばかりだったので……。てっきり魔獣が現れたかと思って……」
なるほど、噂を聞いて勘違いしたのか……。
エドが聞いたという魔獣の話は、おそらく一昨年ステアの森に現れた山犬の魔獣のことだろう。
俺とカイルとコクヨウとヒスイで協力して、消滅させた魔獣だ。
俺は聖属性の動物を召喚獣にはしていないけれど、鉱石を使って魔獣を消滅させることができる。
火の鉱石を使う時は『聖火』、水の鉱石を使う時は『聖水』といったように、鉱石に聖属性を付与して魔獣を浄化させるのだ。
退治する術を持っていても、魔獣がとても危険であることに変わりはないんだけどね。
通常であれば、クリティア聖教会の討伐隊や国の救助隊に任せていたところだ。
だけど、あの時は別件で森を訪れていたクリティア聖教会の探索隊が襲われていて、時間がなかった。急遽助けに向かうことにしたので、やむを得ない状況だったのだ。
結果的に、俺の判断は正しかったと思っている。
魔獣化していたのは一匹だったけど、群れの仲間の山犬も、魔獣の影響を受けて魔獣化する寸前だったもんなぁ。
救助隊を待っていたら、探索隊もステアも最悪なことになっていただろう。
当時のことを思い出しつつ、俺はエドに向かって優しく言う。
「魔獣を見たことがないなら、本物かわからないもんね。ビックリしちゃったんだね」
「はい。僕らを威嚇する山犬たちが怖くて、思わず『魔獣が現れたっ!』って叫んじゃったんです」
「恐怖を感じたら、叫んじゃうのも仕方ないわ」
アリスはそう言って慰め、トーマもコクコクと頷く。
「山犬自体はカッコイイって思うけど、威嚇されたら僕もやっぱり怖いもん」
「それで、視察団の人たちは混乱しちゃったわけか」
レイが聞くと、ヴァンと護衛たちは肩を落とす。
「はい。視察団には、魔獣に遭遇したことがある者がいなかったので……」
「何しろ突然のことで、冷静な対応ができませんでした」
「再び統制が取れるようになるまで、時間がかかってしまったのです」
うーむ。実際に魔獣を見たことない人も結構いるもんね。
魔獣の目撃情報が入ると、連絡を受けたクリティア聖教会の魔獣討伐隊はすぐに現場に出向き、あたり一帯に結界を張る。
結界の外に魔獣を出さないようにするのと、一般人の侵入を防いで被害を減らすためだ。
特に、クロノア王国は島国だからなぁ。
島内で魔獣が出現したことがないなら、魔獣の存在自体、伝説のようになっているかも。
カイルは真面目な顔で、ヴァンに確認する。
「魔獣に遭遇したことがないと言ったな? 現れたのは、野生の山犬で間違いないのか?」
カイルは、俺たちが出会った山犬との関連性を疑っているようだ。
実は、俺たちが消滅させたのは魔獣化した山犬だけ。それ以外の山犬は、そのまま森に解放している。
ヒスイから、元凶の魔獣が消滅したら、影響下にあった仲間の山犬たちは元に戻ると教わっていたからだ。
エドから話を聞いた瞬間は、俺も少し関連性を疑ったけど、多分それはないと思う。
事件後、現場の北の森一帯は、しばらくの間、立ち入り禁止になっていた。
クリティア聖教会が何度か調査をして、安全が確保されてから、ようやく立ち入り禁止が解除されたと聞いている。
そこにミスがあったとは思えない。
それに、ヴァンたちが山犬と出会った場所は、ステアの西の森。
山犬には群れごとにテリトリーがあるから、俺たちが解放した北の森の山犬とは違う群れだと思う。
群れからはぐれた山犬が、別の群れに入るというのも聞いたことがないしね。
そんなところから、違うと断言できるんだけど……。
ヴァンたちが山犬ではないと思った根拠も聞いてみたいな。
カイルと共に質問の答えを待っていると、ヴァンはしっかりとした口調で話し始めた。
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