転生王子はダラけたい

朝比奈 和

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19巻

19-3

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「結果論ですが……魔獣ではなく野生の山犬だと判断できたのは、彼らが食料にしか関心を示さなかったからです。山犬たちはこちらを威嚇こそしてきましたが、攻撃はせずに去っていきました。魔獣だったら、食料を盗むだけで済まなかったはずです」

 なるほど、それがヴァンたちの根拠か。
 確かに、一理ある。
 万が一にも魔獣なら、誰かしらが犠牲ぎせいになっていたことだろう。
 命をもてあそぶことを喜び、楽しむのが、魔獣だからだ。
 魔獣と対峙したことがある俺やカイルは、その恐ろしさをはだで感じている。
 俺なんか、カイルより背が低くて食べるところが全然ないっていうのに、力が欲しいっていう理由で山犬たちにロックオンされたもんね。
 もし魔獣だったら、食料ではなく、俺と同じ聖なる髪の子供であるエドを狙っていたはずだ。
 カイルも、ヴァンの示した根拠に納得したようだ。

「間違いなく、野生の山犬のようですね」

 こちらに向かって囁いてくるので、俺は微笑む。

「とにかく、誰も怪我をしなかったなら良かったよ。魔獣でなくても野生の動物は、生きていくために獰猛どうもうになることもあるからね」

 俺の言葉に、トーマがコクコクと頷いた。
 トーマはエドたちに向かって尋ねる。

「もしかして、その事件が起きたのって春の中頃だったのかな? それなら、山犬の気が立っていた理由もわかるんだけど……」

 尋ねられたエドとヴァンは、驚いた顔をする。

「そうです! 春真っさかりの頃でした」
「理由がわかるんですか?」

 トーマは「やっぱり」と呟いて、にこっと笑った。

「春は子犬が生まれるから、山犬のメスは一番気が立っている時期なんだよ。オスたちもそんなメスや子を守ろうとするから、とても攻撃的なんだ」
「あぁ……その頃って、子犬に栄養をあげるために、たくさん食料が必要になるもんね」

 俺がそう言うと、レイがパチンと指を鳴らした。

「なるほど! だから、食料を盗んでいったわけだな?」
「うん。その可能性が高いね」

 肯定する俺に、カイルが眉を顰めて言う。

「もしそうだとしたら、使節団が無事だったのは本当に運が良かったかもしれませんね。神経が過敏かびんになっている動物の前で騒いだり、大きな音を立てたりするのは厳禁げんきんですから」
「そうだね。下手したら、もっと興奮して、エドたちに襲いかかってきていたかもしれない」

 俺は言いながら、両手で引っ掻くポーズを作る。
 エドとヴァンと護衛たちは、俺たちの会話を聞いて血のが引いたようで、顔色を悪くしている。
 ……こわがらせちゃったかな。
 でも、また同じことが起こらないとも限らないもんなぁ。
 自分たちが危機的状況だったとしっかり認識するのは、結構大事なのだ。
『魔獣じゃなくて良かった』で終わっていたら、似たようなことが起きた時にまた同じ失敗を繰り返すからね。
 魔獣でも野生の動物でも、あらゆる不測の事態に対応できるようにしておかないと。
 これは、護衛であるなら基本的なことなんだけど……。
 クロノア王国の兵士たちは、訓練で教わらないのだろうか。
 俺はエドの後ろに控えている、護衛のロードとピークスに視線を向けた。
 俺と目が合った彼らは、居心地悪そうに大きな体をちぢこませた。
 ヴァンは彼らを、「我が国の手練てだれの護衛たち」だと言っていた。
 実際、単独行動をするエドの護衛の任についているのだから、視察団に同行している者の中でも優秀な部類なのだろう。
 だけどこの二人、エンペラーシープの事件の時に、エドに近づいた俺とカイルを制圧しようとして、逆に俺たちに投げ返されちゃったんだよなぁ。
 俺たちが子供だからと油断していたにしても、護衛としてちょっと心許こころもとない。
 グレスハート王国だったら、まず王族の近衛このえへいにはなれないだろう。
 クロノア王国は温厚な国民性で治安がいいと言っていたけど、そのせいで対人戦闘を強化していないのかなぁ。
 カイルはヴァンをじっと見据えて言う。

「できたばかりの使節団であれば、経験が少ない者が多いのも仕方ないとは思うが……。クロノア国王陛下も、今回の視察に王子が同行することをよく許したな」

 ヴァンがチラッとエドを見た。

「それは……」

 口ごもるヴァンに代わって、エドがおずおずと口を開く。

「父上や母上、大臣たちも、初めは不安そうでした。でも、最後には折れて、僕のお願いを聞いてくれたんです」

 不安はあったが、エドがどうしてもと望んだから許可を出したってことか。
 エドに甘いのか、それとも絶対的な信頼があるのか……。
 今の彼の年齢は、俺がステアに留学した時と同じ七歳。
 つまり、俺が親元を離れて他国へ渡ったのと同じくらいの時期である。
 俺の時は、許可をもらうまで結構な時間がかかったんだよなぁ。
 聖なる髪を持つ俺は、国内にいるとどうしても注目される。だから、いつかはのんびり留学したいなって考えていた。
 さらに、従者になってくれたカイルにも、学校に行かせてあげたいなって思っていた頃。身分関係なく学べるステア王立学校の話を父さんから聞いたのだ。そして、蝙蝠こうもり獣人じゅうじんであるカイルも通えるか、確認してもらったんだよね。
 それが問題ないとわかって、俺は「カイルと一緒の学校に通いたい」と、父さんと母さんを説得し始めたのだ。
 俺を溺愛できあいしているアルフォンス兄さんやレイラ姉さんに知られたら、絶対に反対されて、阻止そしされる。だから、まずは父さんたちから味方にしようと思ったのである。
 兄姉に知られないように、プレゼン資料を作って、こっそり父さんたちのところに通って説得するのは、めちゃくちゃ苦労したなぁ。
 普段はとても優しい父さんだけど、頑固がんこなところもあるからね。
 俺の召喚獣で、伝承でんしょうけもの――ディアロスであるコクヨウや、精霊のヒスイがいたから、安全面は心配していないようだったけど、俺から目を離すのがすごく不安だったみたい。
 まぁねぇ、国内ならどうにかなることも、遠く離れたステアじゃ対応できないこともあるもんね。
 説得は大変だったが、味方になったあとの父さんたちはすごく頼もしかった。
 入試を受ける時も兄姉にバレないようにしてくれたし、彼らの説得も引き受けてくれた。
 あとで知ったことだが、ティリアに住むステラ姉さんに留学中のフォローを頼んだり、俺の幼馴染おさななじみであるアリスを同じタイミングで留学させたり、ステア王国の女王陛下に手紙を送ったり……いろいろと、事前準備をしてくれていたらしい。
 それを知った当初は、俺の信用度って低いなぁと思ったものの、今思えば親の大きな愛情だよね。
 ともあれ、父さんが準備や対策をしてくれたおかげで、俺はなんとか留学することができたのだった。
 そう考えると、クロノアの視察団もエドも、事前の根回しが足りていない気がするんだよねぇ。 
 カイルは真面目な顔で、ヴァンに向かって言う。

「従者として、反対しなかったのか? 国王陛下やご家族がエドのお願いに弱いなら、意見を言えるのはヴァンだけだろう」
「反対は……何度もしましたが……、エド様の意志が固くて」

 ヴァンはしぼり出すかのように言って、キュッと唇を噛む。
 主の意思を尊重するあまり、反対しきれなかったのかな? 

「エドの意志っていうのは、立派な人間になりたいっていう目標のこと?」

 俺が聞くと、エドはシャツの胸のあたりを掴んで、コクリと頷いた。
 それはとても素晴らしい目標だと思うけど……。
 俺はエドとヴァンに向かって、優しい口調で話す。

「僕が話を聞いた限りでは、エドにはまだ視察団同行は早いんじゃないかと思う。厳しいことを言うようだけど、事前に旅の基礎的な知識を得たり、もう少し準備をしたりしてから視察に同行したら良かったんじゃないかな」

 俺の言葉を聞いて、エドは悲しそうな顔になる。
 可哀想だけど、誰も無茶を止めてくれないという状況は、エドにとって危険だ。
 俺はエドとはほとんど変わらない年齢だが、俺にはコクヨウとヒスイがいるし、日本の大学生だった前世の知識を使って、ある程度は自分で対処できる。
 それに、自分の限界を超えて危ないことをしそうなら、止めてくれる家族や友人がいる。
 一方で、エドの場合は護衛たちの能力に不安があり、身の安全を保障できない。
 しかも、一直線にトラブルに首を突っ込むエドを、誰も制御できていないしなぁ。
 よく今まで無事だったなって、心底思う。

「どうして、立派な人間になろうと焦っているのかな? 君には平民の僕を師匠にしようとする、身分にとらわれない柔軟性じゅうなんせいがある。困っている人がいたら助けたいと思う、優しさがある。経験から学んで、次にかそうと考えるところも偉いなって思う。いつかは立派な王子様になれるよ」

 俺が微笑むと、エドは目にいっぱい涙を溜め、顔をふにゃっとゆがめた。

「いつかじゃダメなんです。早く立派で、国の役に立つ王子にならないと、グレスハート王国の王子様みたいになれないんですぅぅ」

 泣き出してしまったエドの発言に、俺たちはぎょっとした。

「「「「「「え!?」」」」」」

 今なんて? 
 グレスハートの王子様みたいになれないって言った!? 



 2


「ど、どどど、どういうこと?」

 カイルが隣で「お、落ち、落ち着いてください」と言っているが、カイル自身も動揺どうようしているのがわかる。
 俺は小さく深呼吸をして、改めて尋ねた。

「グレスハートの王子様って三人いるけど、アルフォンス皇太子殿下のこと?」

 外国にまで名が知られているのは、皇太子であるアルフォンス兄さんくらいだよな。
 すでに父さんの仕事の一部を任されているし、物腰柔らかで社交的なアルフォンス兄さんは、自身の婚姻式に招待された外国の要人たちをもとりこにしていた。
 ヒューバート兄さんも国を守る軍に入り、立派な人ではあるのだけど、社交界があまり好きではないんだよね。
 遠い島国まで活躍ぶりがとどろいているとなると、やはりアルフォンス兄さんしかいないだろう。
 きっとそうだ。
 そう結論づけていたのに、エドは鼻をすすりながら首を横に振った。

「いいえ。僕が目指しているのは、一番下のフィル殿下です」

 フィル殿下……って……。

「僕ぅ!? あ……」

 思わず叫んでしまった俺は、慌てて口を押さえる。

「あははは! 違うだろ、フィル!」

 レイは大げさに笑いながら、そんな俺の肩をベシベシ叩いた。

「お前じゃなくて、グレスハートの王子様のフィル殿下のほう! 名前が同じだからって、間違えるなよ。ははは!」

 表情は笑顔だが、レイの目はまったく笑っていない。
 ごめんっ! 誤魔化ごまかしてくれてありがとう。
 心の中で、レイに謝罪と感謝を述べる。

「つい反射的に……。そうだよね。殿下って言っていたもんね」

 そう言って、俺は口元を引きつらせながら笑った。

「あぁ、そういえば、貴方も同じフィルでしたね」

 ヴァンの言葉に、俺はコクコクと頷いた。

「そう、偶然にもね。改めて名乗るけど、僕の名前はフィル・テイラ。鉱石屋の息子だよ」
「鉱石屋さんなんですか」
「へぇ、鉱石を扱う店とは珍しいですね」

 相槌を打つエドとヴァンに、俺は一つ咳払いをして尋ねる。

「そ、それで、僕と名前が同じフィル殿下のことなんだけど……。なんでアルフォンス皇太子殿下じゃなく、フィル殿下を目指しているのかな?」

 俺とエドの年齢が近いから? 
 でも、グレスハート王国に限らなければ、他にも同じ年頃の王子はいるもんね。
 じゃあ、聖なる髪色だから? 
 エドだって同じ髪色なんだから、わざわざ俺になりたいって思う必要はないか。
 ん~……どうして、俺なんだろう。
 立派で、国の役に立つ王子になりたいというエドの言い分的に、俺の功績で考えられるのは、『日干ひぼし王子』関連なんだけど……。
 日干し王子とは、俺が売り出している商品についているブランド名だ。
 でも、あれらは、俺が作っていると正式発表をしていないからなぁ。
 当初、グレスハートの新しい輸出品として開発したのが、日持ちする干物やドライフルーツなどの、素材を天日干しして乾燥かんそうさせた商品ばかりだった。
 その商品で繁盛した商人たちが親しみと感謝を込め、俺に日干し王子という愛称あいしょうをつけ、日干し王子のブランド名で売り出したのが始まりである。
 あれは本当に驚いたよねぇ。
 知らないうちに自分に愛称がついていて、それがブランド名になっていたんだから。
 父さんが慌てて中止させようとしたけど、時すでに遅し。
 すでにブランド化して一人歩きしてしまっていたから、取り消すこともできず。
 仕方なく、『フィルイコール日干し王子』であることは誤魔化し、これ以上その情報が広がらないように国中に箝口令かんこうれいかれたんだよね。
 迅速じんそくに対応したことと、日干し王子が次々に新しい商品を売り出し、全て大ヒットさせたことで、幸いにも『フィル=日干し王子』という噂はすぐに消えてなくなった。
 今は「明確にはされていないが、きっとアルフォンス皇太子殿下だろう」という噂に落ち着いているらしい。
 まぁ、当時七歳の俺より、優秀なアルフォンス兄さんのほうが、よほど真実味あるもんね。
 だからこそ、エドが目指す『グレスハートの王子様』は、アルフォンス兄さんかと思ったんだけど……。
 もし日干し王子ではないとすると、『グレスハートの第三王子が獣人に住民票を与え、従者にしている』って噂のほうかな。
 獣人とは、体のどこかに動物特有の特徴があり、特別な能力を持つ人類のことだ。
 ルワインド大陸に昔から住む種族である。
 カイルは蝙蝠の獣人。飛ぶことはできないが、背中に小さな蝙蝠の羽がある。
 聴力や気配を消す能力に優れ、身体能力も高い。
 人間よりはるかに優れた能力を持つ獣人だが、決して動物と召喚獣契約をしないらしいんだよね。
 それが原因なのか、獣人たちは古代戦争で人間にやぶれた。
 そんな因縁により、数百年経った今でも、ルワインドのどこの国からも住民として認められていない。
 土地を与えられることもなく、人としても扱われていないそうだ。
 他の大陸の国々も、ルワインド大陸の国々の目があって、そんな獣人たちを受け入れることはなかった。
 それゆえ、獣人はルワインドで放牧をしながら暮らすか、獣人で結成されたギルドに加入して生計を立てているという。
 ギルドの仕事は、動物の能力を活かしたものか、人間がやりたがらないような危険な仕事ばかり。
 カイルが俺と出会ったのも、そんな危険な依頼がきっかけだった。
 俺は獣人の事情を知り、そんな環境からカイルを助けたいと思った。
 そこで『もの知らぬ子供のわがまま』を押し通し、獣人のカイルをグレスハートの住民にして、俺の従者にしたんだ。
 ルワインド大陸の国々には獣人擁護ようごを良しとしない派閥はばつもあるから、俺の行動に眉を顰めた人も多かったみたい。
 グラント大陸の人はそこまでの嫌悪感けんおかんはないはずだけど……。
 俺のあの選択では、ルワインドの国々との国交に影響が出たから……国の役に立ちたいというエドの目標とは少し違う気がする。
 俺は首をひねりながら、もう一度エドに尋ねる。

「どうしてフィル殿下になりたいの? 聖なる髪で、年が近いから?」

 エドは再び目元を潤ませて、ポツリポツリと話し始める。

「父上は……フィル殿下のような神聖な力が、僕にもあるんじゃないかと……期待しているんです」
「し、神聖な力?」

 俺は意味がわからなくて、ポカンとしてしまう。
 クロノア国王はまるで、俺に特別な力があると信じているようだ。
 確かに聖なる髪の子を神聖視する人もいるけれどさ。
 俺は天をあおぎ見て、スッと目を閉じる。
 俺…………神聖視されるようなこと、何かやったかなぁ? 
 ……まぁ、やらかしたこと自体は何回かある。
 伝説の獣ディアロスと、召喚獣契約しちゃったりとか。
 精霊と召喚契約しちゃったりとか。
 魔獣を浄化して、消滅させちゃったりとか。
 この世界では神聖視されているにじを、過去に二回、特大で作っちゃったりとか。
 ……結構、いろいろやってんな。
 だがしかし! 
 俺は目をカッと見開いて、元の姿勢に戻る。
 どれも親しい一部の人しか知らない出来事! 
 遠く離れたクロノア王国の王様が、知っているはずはない! 
 そこは自信を持って断言できる! 

「フィル殿下に神聖な力があるって本当? そんなお話を、クロノア国王様はどこかで聞いたの? それでエドに期待をしているのかな?」

 俺はエドとヴァンの顔を窺いながら尋ねる。
 ヴァンはエドをチラッと見て、言いづらそうにしつつ口を開いた。

「もともと国王陛下は、グレスハート王国に対して親近感を覚えていたようなんです。のどかな小国で、聖なる髪の王子様がいて、クロノア王国と似ていると……」
「ああ、確かにそうかもね」

 その話に、俺は相槌を打つ。
 いまエドたちにクロノア王国のことを聞きながら、俺も感じていた共通点だ。気候などは違うけど、国民性や治安がいいところは似ているみたいだし。

「ここ数年で、グレスハートは変わりました。次々と革新的な商品を生み出し、観光資源がほとんどなかったところから、世界各国の人々が憧れる観光地へ変貌へんぼうしました。もう、緑豊かなだけの小国だなんて、口がけても言えない。大国でさえ無視できない、大きな存在になりました」

 ヴァンの話を、俺は黙って聞いていた。
 確かに、グレスハートはここ数年で大きく変貌した。
 のどかな農業国という基本は変わってはいないけど、日干し王子商品が大ヒットしていることで国庫は潤っているし、それを元手に共同浴場や宿泊施設、劇場などの観光地もできた。
 これほど短い期間で発展した国も、そうないだろう。

「クロノア国王陛下は、そうしたグレスハートの発展がフィル殿下の神聖なる力によるものだと思っているの?」

 俺の問いに、エドとヴァンは揃って頷く。

「聖なる髪の子が生まれたことで、幸運がい込んだのだろう、と……」

 ヴァンの返事を聞いて、俺はそっと息を吐く。
 つまり、クロノア国王は、グレスハートの発展はあくまでも神聖な力によるもので、実際に俺が手掛けていることだとは思っていないわけか。
 少し安心した。日干し王子の件がバレたわけではないんだな。
 そうだよね。日干し王子商品だけでなく、共同浴場や宿泊施設に俺のアイデアを盛り込んでいることは、一部の者しか知らないことだもん。
 事情を知っているカイルやアリス、レイやライラやトーマも安堵したのか、表情を和らげる。
 エドは俯きながら、しょんぼりとした口調で話す。

「父上は僕に、フィル殿下のように国に大きな幸運をもたらすことを期待しているのです。僕にもそんな特別な力があるのではないかと……」
「国王陛下の影響か、周りの者にも同じくエド様を神聖視する者が増えています」

 エドとヴァンの話に、俺はなるほどと頷く。
 だから、エドの直感を天啓だと考える人たちがいるのか……。

「僕にはそんな力なんてないのに……」

 エドはそう呟いて、再びスンと鼻を鳴らした。
 過度なプレッシャーは辛いよね。
 しかも、神聖な力で幸運を呼ぶなんて……。
 個人の努力や頑張りでどうかなるもんじゃないじゃないか。
 そんな家族や国民たちの期待は、小さな子供が背負うにはあまりにも大きすぎる。
 クロノア王国には、クリティア聖教を信仰する人が多いのかな。
 青みがかった銀髪への神聖視は、その髪色をしたクリティア聖教会の五代目の教皇が、いろいろな奇跡きせきを起こして人々を救ったことから始まったという。
 クリティア聖教の熱心な信者は、その話を強く信じているんだよね。
 その点で言うと、グレスハート王国は他の国よりもクリティア聖教を信仰している人が少ない。
 グレスハート王家自身が先祖を神としてまつっているし、国民にも土地神を信仰する人が多くいるからだろう。
 だからなのか、俺が聖なる髪色で生まれてお祭り騒ぎにはなったが、神聖な力を使って幸運をもたらしてほしいなどという期待はまったくなかった。
 むしろ、父さんからは規格外なことは控えるようにと言われていたくらいだ。
 エドの話を聞いて、自分がどれほど周りにめぐまれていたかを実感する。
 信仰は時に人の心を救ってくれるけど、それが人の心を苦しめることもあるんだな。
 俯くエドを見つめ、俺は悲しい気持ちになる。
 レイは眉を寄せ、表情をくもらせた。

「期待はきついだろ? 俺だったら誰かと比べられたうえに、変な期待をかけられるのなんて絶対に嫌だ。きっと逃げ出している」

 率直なレイの言葉に、エドは顔を上げて困り顔で笑う。

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