天使の国のシャイニー

悠月かな(ゆづきかな)

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ガーリオンの腹心イガレス

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数日後、琴は学校から帰ると、いつものように小麦に話しかけた。

「小麦、ただいま。」
「ビピピチチチ(琴ちゃん、おかえり~)」

小麦は、回し車を嬉しそうに回しながら答えた。

「宿題が終わったら一緒に遊ぼうね。」

琴は机に向かい宿題を始めた。
そんな琴をシャイニーは微笑ましく見つめている。

「琴ちゃん、帰って来てすぐに宿題を始めて偉いね。」

真剣な表情で机に向かっている琴の頭を、シャイニーは優しく撫でた。

「よしっ!終わった。小麦、お待たせ。」

琴は勢いよくドリルとノートを閉じると、小麦のケージを覗き込んだ。

「チチチ(琴ちゃん、遊ぼ~)」

小麦は、早く遊びたくてケージをよじ登っていた。

「あはは!お腹丸見えだよ。今、出してあげるからね。」

琴がケージの扉を開け、両手を差し出すとピョンと飛び乗った。
すると小麦はビクッと体を震わせ、窓を見て甲高い声で鳴き始めた。

「キッ!キッ!キッ!(琴ちゃん、シャイニー、何か変なものが来るよ!)」

小麦の声を聞きシャイニーが窓を見た瞬間、1羽のカラスが窓を割り飛び込んで来た。


ーーーガシャーンーーー


カラスは、小麦を狙い襲いかかってきた。

「キャー!」

琴は思わず小麦を両手で包み、守るようにかがみ込んだ。

「琴ちゃん!危ない!」

シャイニーは翼を広げ覆い被さり琴を守った。

「怖いよ~誰か助けて!」

琴は必死に小麦を守りながら叫んだ。

琴の叫び声を聞き祖母が駆け付け、ドアを開けようとしたが、なぜかびくともしない。

「琴ちゃん!どうしたの?ドアを開けて!」

祖母がドアを叩きながら何度もドアノブを回していると、祖父がバールを手にやって来た。

「ドアを壊すから、琴ちゃん待ってなさい!」

ドアの隙間にバールを差し込みこじ開けようとするが、それでもドアはビクともしない。

「一体どうなっているんだ…」

祖父母は、開かないドアを呆然と見つめるしかなかった。


「琴ちゃん!」

シャイニーは琴の側に立ち、カラスの攻撃から必死に守っていた。

「カラスさん、どうして琴ちゃんを狙うの?」

攻撃をかわしながら問い掛けると、カラスは空中で動きを止めシャイニーを見つめニヤリと笑った。

「フッ…こんな小娘に用はない。小娘を狙えば、お前は動揺すると思ったからだ。私の目的はお前だ!シャイニー!」

言い放ったカラスの体はムクムクと大きくなり、翼は腕に変わり足も長く伸びていった。
シャイニーは、その変わり様をただただ驚いて見つめた。
目の前で何が起こっているのか理解できずにいたのだ。
やがてカラスは、女性の悪魔へと変化した。
その悪魔は、二の腕まで漆黒の羽毛がびっしりと覆われ、足には同じ羽毛がついたロングブーツを履いていた。
着ている服も頭も、全て漆黒の羽毛で覆われ、背中には黒い大きな翼を携えていた。
美しい顔立ちには不釣り合いな、耳まで裂けた大きな口からは赤黒い舌がダラリと垂れ、鋭い牙が2本生えていた。

「私はイガレス。偉大なるガーリオン様の腹心だ、」

(ガーリオン…天使の国を襲った悪魔だ…)

シャイニーは怖くて仕方がなかったが、心を奮い立たせイガレスを見据えた。

「僕に一体何の用があるの?」
「ガーリオン様の名においてお前を潰しに来た。」

シャイニーは、自分の後ろで小麦を必死に守りながら震えている琴を振り返った。

(ガーリオンが、なぜ僕を狙うんだ…とにかく、琴ちゃんから離れないと…)

「この部屋はダメだよ。外に移動しよう。」
「良いだろう。」

イガレスが窓から外に出ると震える琴を見た。

「琴ちゃん、小麦、怖い思いさせちゃってごめんね。もう大丈夫だからね。」
「シャイニー…今の悪魔だよね?大丈夫?」

小麦が琴の手の中から顔を出し、心配そうに見つめながら言った。

「大丈夫だよ。」

シャイニーは、笑顔で小麦の頭を優しく撫でた。

「フルル、君は来ちゃダメだよ。出ておいで。」

フルルは髪の中からおずおずと出て来ると、心配そうにシャイニーの周りをグルグルと飛び回った。

「フルル、心配しないで。大丈夫だから。ここで、琴ちゃんや小麦と一緒に待ってて。それじゃ、行って来るね。」

シャイニーはひらりと身を翻し窓から出て行った。

「ピピピチチチ(琴ちゃん、もう大丈夫だよ。)」

小麦の鳴き声に琴は顔を上げ、キョロキョロと部屋を見回した。

「あれ?暴れてたカラスは?」

小麦は手の中からピョンと飛び降りると、窓辺に向かって走っていった。
そして、ピョンピョンとジャンプをしながら琴を見た。

「窓がどうかしたの?」

琴は、首を傾げながら窓から外を見た。

「え?あれは…もしかして…シャイニー?シャイニーの正面にいるのは一体何?」

琴には、シャイニーとイガレスが空中で向かい合っている姿が、しっかりと見えていた。
そして、2人のただならぬ様子を感じ体をブルッと震わせた。

「何だか、凄く嫌な感じがするよ…シャイニー大丈夫かな…」

琴は、ただ見守る事しかできなかった。



ーーーバチッーーー

それは、ハーニーが天使の卵達の為に子守唄を奏でているときだった。
突然、ハープの弦が切れ指に当たった。

「痛っ!ハープの弦が切れるなんて…始めてだわ…」

訝し気に切れた弦を見つめた時、ハープがキラリと虹色の光を放った。

「もしかして…シャイニーに何かあったのかもしれない…」

ハーニーは、誕生の部屋を飛び出しサビィの部屋へと向かった。



ーーーザザザザザーーー

サビィの水盤が、突然大きく波立ち異変を告げた。
急いで水盤を除き込むと、イガレスと対峙しているシャイニーの姿が映し出されていた。

「これは…不味い…ラフィ!急いで来てくれ。」

サビィの呼び掛けの直後、ラフィが爽やかなつむじ風と共に現れた。

「シャイニーがガーリオンの腹心、イガレスと対峙しているんだね。」
「ラフィ…なぜ知っている?」
「シャイニーの指輪が教えてくれたんだ。しかし、この状況は不味いな…」

水盤には、シャイニーがイガレスの攻撃をかわしている姿が映し出されている。

「僕が助ける。悪魔との対峙は、今のシャイニーでは無理だ。」

ラフィは、水盤の中に入ろうと身を乗り出した。
その時、2人の背後から声が聞こえた。

「ラフィ様、私が行きます!」

ラフィとサビィが振り返ると、弦の切れたハープを抱えたハーニーが立っていた。

「シャイニーに何かあったんですね。それなら私が助けます。」
「ハーニー、君には危険だ。イガレスはガーリオンの腹心で力もある。僕が行く。」

ーーーザザザザザーーー

再び水盤がザワザワと大きく波立った。

「ウワーッ!」

叫び声が水盤から聞こえ、3人が慌てて除き込むと肩から血を流すシャイニーの姿が映し出されていた。

「シャイニー!」

ハーニーは、身を乗り出し水盤に飛び込もうとした。

「ハーニー!ダメだ!」

ラフィが手を伸ばしたが間に合わず、ハーニーはそのまま水盤の中に吸い込まれていった。

「サビィ!僕はハーニーを追い掛ける。君はここで待っててくれ。」

ラフィはハーニーの後を追い水盤に飛び込んだ。

「シャイニー…無事でいてくれ…」

サビィは、ユラユラと揺れる水面を見ながら両手を強く握り締めたのだった。
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