上 下
52 / 54

祖父母と琴の両親の再会

しおりを挟む
その日の夜、シャイニーは再びラフィとハーニーと共に、琴の祖父母の寝室に来ていた。

「シャイニー。もう1人でも大丈夫だね。君が思うようにやってごらん。」
「はい。ラフィ先生。」

シャイニーは寝ている2人に声を掛けた。

「おじいさん、おばあさん、ちょっと失礼します。」

祖父母の額に手を当てると、白いモヤがそれぞれ現れた。

「2人共まだ夢を見ていないみたい…」

2つの白いモヤに手をかざし1つに合わせると、シャイニーはその中に入っていった。



祖母は美しい花々が咲き乱れる花畑に立っていた。

「ここはどこかしら…とても綺麗…でも、見た事がない花ばかりね…」

祖母が歩き進む為に足を上げると、花達は踏まれないようにサッと左右に避けた。

「あら…不思議な花ね。」

祖母は歩く度に避ける花を楽しげに見つめた。

「そこにいるのは…ばぁば…か?」

後方から聞こえた声に振り返ると、祖父が首を傾げたまま立っている。

「あら、じいじ。」
「ここは一体どこなんだ?」
「私にも分からないのよ。気が付いたらここに立っていたの。ねぇ、見てこの花達。凄く不思議なのよ。歩く度に踏まれないように避けるの。」

祖母が再び歩き始めると、花達はサッと避けていく。

「ほらね?」
「何とも不思議な花だな…」

祖父はしゃがみ込み、興味深そうに花を眺めた。

「ここは天使の国なんです。」

2人の後方から、優しさの中に凛々しさを感じる澄んだ声が聞こえてきた。
2人が振り返ると、美しい少年の天使が立っていた。

「あなたは…?」
「僕は天使のシャイニーです。」

シャイニーは翼を軽く羽ばたかせながら答えた。

「え!天使?」

2人は驚き顔を見合わせた、

「はい。僕はここ最近、琴ちゃんの事をそばで見守っていました。」
「琴ちゃんのそばで…それは…不思議な事があるものね…私、夢を見ているのかしら…」
「いや…夢だろ…天使が本当にいるとは信じ難いな…」

祖父母は、呆気に取られシャイニーを見た。

「でも…そう言えば…前に琴ちゃんが、天使に羽を貰ったと言ってたわよね…」
「うん…確かに言ってたし、その羽も見たよな…」
「その羽は僕の羽なんです。」

シャイニーは笑顔で答えると、羽を2本抜き2人に渡した。

「この羽を光にかざしてみて下さい。」

2人はシャイニーから羽を受け取り光にかざすと、虹色にキラキラと輝いた。

「この羽…琴ちゃんが持っていた羽と同じだわ…」
「これは…また…不思議だな…」

祖父母はジッと羽を見つめていたが、祖母がハッと何かに気付いたように顔を上げシャイニーを見た。

「もしかして…琴ちゃんが少しずつ元気になっていったのは、あなたのおかげかしら?」

シャイニーは祖母の言葉に、首を左右に降りながら答えた。

「僕は、そばで見守りサポートしてきただけです。確かに僕は、琴ちゃんの笑顔を取り戻したいと思い見守ってきました。でも…琴ちゃんが少しずつ元気になり、笑顔を取り戻していったのは…琴ちゃん自身の力です。しっかりと向き合い、悲しみと寂しさを乗り越えてきたんです。」
「それでも、琴ちゃんが元気になったのはあなたのおかげよ。ありがとう。シャイニーさん。」
「私からもお礼を言わせてもらうよ。シャイニーさん、琴ちゃんを元気にしてくれてありがとう。」

祖父母は深々と頭を下げ、暫く頭を上げなかった。

「え!いえ!あの、頭を上げて下さい。」

シャイニーは慌てて駆け寄り、2人の体を優しく起こした。

「実は、お2人に会って頂きたい方々がいるんです。」

後方を振り返ったシャイニーの目線を祖父母が辿ると、そこに琴の両親が立っていた。

「あなた達…」
「お父さん…お母さん…」

シャイニーがソッとその場を離れると、祖父母は琴の両親に駆け寄った。

「お父さん、お母さん…突然、先立ってしまいごめんなさい。そして…琴ちゃんを大切に育ててくれてありがとう。」

琴の母親が涙を流しながら祖父母に抱きつくと、2人はしっかりと母親を抱き締めた。

「お義父さん、お義母さん…本当に申し訳ありません。」

琴の父親が抱き合う3人の後方で、深々と頭を下げている。
その姿を目にした祖母が、目元の涙を拭いながら声を掛けた。

「いいのよ。あなた達も幼い琴ちゃんを残して先立ってしまって辛かったわね…さあ、あなたもこっちにいらっしゃい。」

琴の父親がそばに行くと、祖父は彼の手を取りしっかりと握った。
そして、涙を流しながらウンウンと頷いた。

「じいじは、あなた達に会えて嬉しくて胸がいっぱいなのよね。」
「お父さん、お母さん…どうか琴ちゃんをお願い。私達は空から成長を見守っているから…」
「お義父さん、お義母さん…僕からもお願いします。」

両親は揃って深く頭を下げた。

「もちろんよ。琴ちゃんの事は任せて頂戴。」
「ウンウン。琴ちゃんはしっかり育てるから安心しなさい。」

祖父母の言葉に両親は安心し、笑顔で顔を見合わせ頷き合うと、母親は空色のリボンを取り出した。

「これは、天使が空を切り取って作ったリボンなの。これと同じリボンを琴ちゃんにも渡してあるわ。ちょっと見ててね。」

母親の手の平に広げられたリボンに、真っ白い雲が現れゆっくりと動き出すと、祖父母は目を丸くし驚いた。

「まぁ!凄く不思議なリボン!」
「いや~これは驚いたな…」
「このリボンはね、夕方になると夕焼け色に染まり、夜には星空が映し出されるの。このリボンを私達だと思って…」

母親は、リボンを祖母の手に握らせるとニッコリと笑った。

「2人にもう一度会えて本当に良かった…」

両親は、再び顔を見合わせると頷き祖父母を見た、

「お義父さん、お義母さん…僕達はもう戻らないといけません。」
「琴ちゃんの事は空から見守るわ。そして、時には姿を変えて会いに行くつもりよ。」
「うんうん。そうしてやってくれ。」
「きっと、琴ちゃん喜ぶわ。その時には私達の所にも来てくれるかしら?」
「ええ。必ず行くわ。」
「はい。必ず。」

両親は約束すると、手を振りながらフッと消えていった。
祖父母が両親が立っていた場所を名残惜しそうに見つめていると、そよ風に乗って声が聞こえてきた。

(さよなら…)

その声は、まるで春風のように優しく温かな声だった。


ーーーチュンチュンチュンーーー

カーテンの隙間から差し込む朝日の眩しさで、祖母は目を覚ました。

「夢…?不思議な夢だったわ…」

祖母は起き上がり、ふと右手を見ると空色のリボンと羽が握られていた。

「え…リボンと天使の羽?」

窓辺のカーテンを開け、羽を光にかざすと虹色に美しく輝いた。

「やっぱり、天使の羽だわ…」

祖母は寝ている祖父をユサユサと揺すり起こした、

「じいじ!じいじ!起きてちょうだい!」
「う…う~ん…朝っぱらからどうしたんだ…」
「いいから早く起きて。これを見てちょうだい。」

祖父は起き上がると、目を擦りながら祖母を見た。

「ほら、これ…」

祖母の手には空色のリボンと羽がしっかりと握られている。

「おや?それは…夢で見たリボンと天使の羽じゃないか…そう言えば、羽は俺も貰ったな…」

祖父は自分の手を見ると、やはり羽がしっかりと握られている。

「羽だ…」

2人は顔を見合わせ頷くと琴の部屋に向かった。

しおりを挟む

処理中です...