幸せの翼

悠月かな(ゆづきかな)

文字の大きさ
上 下
28 / 61

百科事典を駆使するラフィ

しおりを挟む
翌日私は水盤を抱え、広場外れの巨木の所へ来た。
今日からの学びはここで行う。

「少し早く来すぎたか…」

ラフィやブランカと共に、子供達より早めに来て机や椅子などの準備をする事になっている。

「とりあえず、水盤を置く台座が必要か…」

私は指を鳴らし、ガラス製の小さなテーブル型の台座を用意した。
自室の大きな水盤の台座と同じ材質だ。
私が台座に水盤を設置していると、ラフィとブランカがやって来た。

「サビィ、お待たせ。それが水盤なのね?キラキラして綺麗ね~」

ブランカが興味深そうに水盤を見ている。

「あれ?水盤のサイズ小さくない?前に見た時はもっと大きかったよね?」
「ラフィ、これは水盤の分身なのだ。その為小さいらしい」
「へぇ~。分身なんだ。つくづく不思議だね」

ラフィが感心したように呟いている。

「ねぇ…サビィ。水盤なのに水が張られてないわね」

ブランカが不思議そうに首を傾げている。

「水はこれから張る」

私は目を瞑り水盤に声を掛ける。

「水盤よ、水を満たしてくれ」

私の言葉に答えるかのように、見る見る間に水が満たされていく。

「サビィ、凄いね。水盤を使いこなしてる。大変だったんじゃない?」

ラフィの言葉に私は頷く。

「ああ、ここまで来るのまで苦労した。学びに間に合って安心している」
「ホント、間に合って良かったわ。ラフィも百科事典を使いこなせるようになったの?」
「うん。問題ないよ」
「サビィもラフィも凄いわ。私も負けていられないわね。さあ、子供達が来る前に準備しましょう」

私達は、机や椅子などを用意し子供達の到着を待った。

暫くすると、子供達の賑やかな声が聞こえてきた。

「あ!先生達が待ってる」
「机と椅子が用意されてるよ!」

子供達が嬉しそうにやって来て、私達に挨拶をする。

「おはようございま~す」
「みんな、おはよう」

ブランカが笑顔で子供達を迎える。

「おはよう。今日から本格的な学びがスタートする。頑張ってくれ」

私も笑顔で子供達に声を掛ける。

「は~い」
「サビィ先生は、やっぱり綺麗だよね」
「ホントに綺麗…ウットリしちゃう」

子供達がざわついている。
すると、ラフィが満面の笑みで子供達に話し掛けた。

「みんな、おはよう。そうだよ。サビィは、天使の中で一番美しいよ。君達が見惚れてるのも当然だよね。所作も綺麗だし。それに、サビィはとても努力家なんだよ」
「ラフィ…もうやめてくれ」

ラフィが手放しで褒め始め、私は心がくすぐったくなり動揺した。

「あれ?サビィ…もしかして照れてる?」

私をからかうような目で見ているラフィ。

「ハァ…」

私が溜め息をつきながら軽く睨むと、ラフィはクスクス笑った。

「あはは。ごめんごめん。からかうつもりはないんだよ。僕はホントにそう思ってるんだ」

私達のやり取りを見ていた子供達の目が点になっている。

「サビィ先生のイメージが変わった…」
「うん。なんだか身近に感じる…」
「サビィ先生も、あんな表情するんだね~」

再び子供達がざわつき始めた。
すると、それまで黙って見ていたブランカがクスクス笑い出した。

「ウフフ、子供達がビックリしてるわよ」
「ホントだ。みんなビックリさせてごめんね。でも、サビィは知れば知るほど味が出てくるよ~」
「味が出る…それはどういう意味だ?」
「まぁ…そのままの意味だよ。あ!悪い意味じゃないからね」

ラフィは、そう言うとウィンクをした。


「まぁまぁ、それくらいにして学びを始めましょうよ」
「そうだな、ブランカ。子供達も待っているからな」

ラフィの言葉にいささか疑問は残るものの、気にしない事にした。

「それじゃ…始めようか。僕から始めても良いかな?」

ラフィが脇に抱えていた百科事典を持ち上げ、ブランカと私に見せる。

「ええ。ラフィお願い」
「勿論だ。ラフィ頼む」
「OK!任せて」

ラフィはウィンクをすると、子供達に向き合った。

「みんな、お待たせ!学びを始めるよ。まずは…席に着こうか。好きな所に座って良いからね」
「は~い」

子供達が席に着いた事を確認すると、ラフィは百科事典を広げた。

「僕の学びは、この百科事典を使うよ。この本は凄く不思議でね、何でも見たい物を実際に見る事ができるんだ」

ラフィが、百科事典をパラパラとめくる。

「そうだな~何が良いかな…」

子供達はキラキラと輝いた瞳で、興味深そうにラフィを見つめている。

「うん!決めた。これが良い!」

ラフィは呟くと、開いたページの端を指でトントンと叩いた。
すると、そのページから羽が生えた小さな少女が何人も飛び出してきた。

「え!百科事典から何か飛び出してきたよ。」
「小さくて可愛いね」
「あれは何?」

子供達は、突然の事に驚き目を丸くしている。

「これは妖精だよ」

ラフィがニコニコしながら答えた。

「妖精も羽があるけど、僕達の羽とはちょっと違うんだ。一見、透明に見えるけど…角度によっては青や緑、紫、黄色、オレンジ色等に見えるよ。虹をイメージすると分かりやすいかな」

「わぁ…妖精って小さい」
「可愛い~」

子供達は嬉しそうに声を上げ、手を伸ばし妖精に触れようとした。
しかし、妖精に触れる事はできず手は突き抜けてしまう。

「あれ?触れない…」
「手が突き抜けちゃうよ」

子供達は不思議そうな顔で、妖精と自分の手を交互に見ている。

「うん。残念だけど触る事はできないよ。こんなにハッキリ見えてるんだけどね」

ラフィが再びページの端を指で叩くと、妖精達は百科事典に吸い込まれるように消えていった。

「うわ~凄い!」
「不思議な百科事典だ!」

子供達は目を丸くしラフィを見た。

「うん。不思議だよね。僕も最初は驚いたよ」

ラフィは、その時の事を思い出したのかクスクス笑っている。

「それじゃ、次は君達が見たいものを順番に出すからね。何を見たいか決めてね」

ラフィの言葉に子供達はざわつき始める。
興奮気味に何を出してもらうか、話し合っているのだ。

「は~い!静かにしてね~相談しないで決めるんだよ。自分が見たいものを一つ決めるんだ」
「は~い」

子供達は、途端にピタリと話しを止め神妙な顔で考え始めた。

「ラフィ…君の百科事典は、なかなか興味深いな…」

百科事典を抱えて、笑顔で子供達を見ているラフィに私は声を掛けた。

「うん。実はさ…昨日、リラムーンに教えてもらったんだ」
「リラムーンにか?」

あのリラムーンがラフィに教えるとは、ますます興味深い…植物が教示する事などあるのか…

「え!リラムーンに何を教えてもらったの?」

私達の話しを聞いていたブランカが驚きの声を上げた。

「うん。リラムーンが枝を伸ばしてきて、ページの端を叩いて教えてくれたんだ」
「そうなの?植物が教えるなんて不思議ね~」
「リラムーンが突然生えてきた時は驚いたけど、今では大切な相棒みたいな感じかな」

相棒か…私はその言葉を聞いてクルックを思い浮かべた。
うるさい事も多いが、私にとってはなくてはならない存在となっている。
私が感慨に耽っていると、子供達の声が聞こえた。

「ラフィ先生!みんな決めました」
「決まったんだね。それじゃ、順番に聞いていくからね」

この後、ラフィは子供達のリクエストに答えて、百科事典から虹や雲、珍しい動物や虫、植物や星空…と様々なものを出し、賞賛の声を浴びたのだった。




しおりを挟む

処理中です...