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ヤギのあわせ屋さん
しおりを挟む大通りをはずれた街角のすみのすみ。
なんとも目立ちにくいところに、ヤギさんのあわせ屋さんはありました。
『あわせ屋 ヤギ』
赤いレンガのすてきなお店ですが、このお店にはニンゲンのお客さんはめったに来ません。
そのかわりに、ちょっとかわったお客さんたちがやって来ます。
チリンチリン。
おや、噂をすれば。
ドアベルが鳴りました。お客さんです。
「ごきげんよう、あわせ屋さん。おそろいの靴はできているかしら」
やって来たのは、マダム・リスさん。
この街一番のおしゃれさんです。
今日はお子さんの靴を受け取りに来たみたい。
そんなリスさんのふんわりドレスの後ろから、ひょこ。
ひょこ、ひょこ、ひょこっ。
と、ちいさなリスさんの顔がいっぱいでてきました。
「おや、お子さまもご一緒でしたか」
リスさんのお子さんは、なんと八つ子ちゃん。
マダム・リスさんのお子さんだけあって、みんなおしゃれが大好き。
でも、みんなそれぞれ好き嫌いがあって、リスさんを困らせていました。
八つ子ちゃんを満足させられるのかって?
もちろん大丈夫。ここはあわせ屋。ヤギさんにおまかせあれ。
「さて、おそろいの靴でしたね。こちらにご用意しております」
そういってヤギさんはカウンターに色とりどりの靴を八足、ずら~っとならべました。
八つ子ちゃんたちの好きな色の靴がぜんぶで八色、まるで宝石のようです。
きゃあ、と八つ子ちゃんたちは大喜び。
マダム・リスさんも大満足です。
『ありがとう、ヤギさん!』
「どういたしまして。またお願いしますね」
チリンチリン、パタン。
新しい靴でおでかけするというリスさんたちをお見送りしたら、まずは一休み。
ヤギさん、新聞をよみます。
一休みしちゃっていいのかって?
じつは、あわせ屋ではお客さんが来ない日なんて珍しくありません。
日がな一日、新聞をよんで終わることもあります。
しかし、今日はいつもとちがったようで。
チリンチリン。
おや、これはめずらしい。またお客さんだ。
「あのう、あわせ屋さん。わたしに にあう帽子をくださいな」
これはこれは恥ずかしがり屋のコビトカバさん。
いつもは家族と一緒なのに、今日はおひとりです。
「わたし デートをすることになって、それで、そのう」
この日のために買ったとっておきのワンピース、靴に、アクセサリー。
だけど あとひとつ。自分に似合う帽子がわからず悩んでいました。
カバさんに似合う帽子はみつかるのかって?
もちろん大丈夫。ここはあわせ屋。ヤギさんにおまかせあれ。
「それでしたら、こちらの帽子はいかがでしょう」
ヤギさんが手にしたのはちょこんと可愛らしい白い帽子でした。
「わあ」
白い帽子はワンピースにぴったりで、カバさんによくお似合い。
鏡にうつったカバさんも嬉しそうです。
「ありがとうございました」
「デートがうまくいきますように」
礼儀正しい、コビトカバさん。お代をはらって、ちいさく ぺこり。
ドアの前でも ぺこりと頭をさげて帰っていきました。
チリンチリン、パタン。
カバさんをお見送りしたヤギさん、新聞のつづきをよみはじめます。
この記事をよみおわったらお茶をいれよう、それから それから。
チリリリ チリンッ!
おお、びっくり。元気にドアを開けたのは。
「なんでも屋さん!ぼくに ぴったりの歯ブラシをちょうだい!」
いつも元気なワニワニさんです。
どうやら今日は歯ブラシをさがしに来たみたい。
にっこり笑う、ワニさんにはとがった歯がびっしり。
これは丈夫な歯ブラシじゃないとすぐダメになってしまいそう。
ワニさんにあう歯ブラシなんてあるのかって?
もちろん大丈夫。ここはあわせ屋。ヤギさんにおまかせあれ。
「それでしたら、こちらのブラシはいかがでしょう」
ヤギさんが手にしたのは、持ち手のなが~い歯ブラシでした。
これなら奥歯もしっかりみがけて、ワニさんにぴったりです。
「これはいいものだ!ヤギさん、ありがとう。また来るね!」
最後まで元気なワニさん。
手をぶんぶんと振って、帰っていきました。
チリンチリン、パタン。
ワニさんをお見送りしたヤギさん、そろそろお茶にします。
おいしい紅茶を入れてゆっくりしていたら。
ジリリッ ジリリンッ。
おや、めずらしい。電話のベルが鳴りました。お客さんからです。
「おお、なんでも屋さん。急ですまないが、わたしに白い衣装を仕立ててくれないか」
電話のおあいては歌手のライオン・ハートさん。
世界中で活躍する人気者までヤギさんのお客さん。
「明日はだいじなコンサートがあるんだ。それなのに衣装が届かなくてねえ」
あせった声のライオンさん、とてもお困りのようです。
「明日の朝にお店へ寄るから、すてきな衣装をたのむよ」
「かしこまりました」
電話をカチャンと切ったら、さっそくライオンさんの衣装作りにとりかかるヤギさん。
さて。生地は、と。おっと、いけない。
白い生地はコビトカバさんの帽子に使ってしまって、ちょうど品切れ。
デザインのイメージはできているから、ヒツジさんのところで生地を買いにいくとしよう。
ヤギさんは扉をガチャンとしめてお店を出ます。
あわせ屋さんの二軒となりに、ヒツジさんが生地を売っているお店があります。
ネズミさん家族のちいさなお店を過ぎて。
キリンさんの縦になが~いお店を過ぎて。
あるいて十歩、すぐそこです。
『つつみ屋 ヒツジ』
ヒツジさんのつつみ屋は、つつめるものならなんでもあるお店。
紙だって、布だって、なんだって。
カランコロン。
「いらっしゃ~い」
「やあ、ヒツジさん」
ヒツジさんとはヤギさんがお店を開いてからというもの、ずっと仲良しのおともだち。
ヤギさんのことをよく知るおともだちだからこそ、きっとお目当ての生地が見つかるはずです。
「ライオンさんに白い衣装をたのまれてね。なにかいい生地はあるだろうか」
「そりゃ、すごい!よし、それならいいのがあるよ」
そういってヒツジさんが見せてくれたのは、キラキラと星のように輝く白い生地。
たくさん見せてくれた ほかのどんな生地よりも、この生地がいちばん目立ちます。
「これをもらおう」
「まいどあり~」
ヒツジさんのおかげでとても良い生地を買うことができ、ヤギさんが上機嫌でお店を去ろうとすると。
グスッ クスン。
と、足元ですすり泣く声がします。
そこには、ちいさなニンゲンのおんなの子がいました。
大通りからこんなところまで迷いこんでしまったようです。
「あら~、ニンゲンの迷子なんてめずらしいね」
「お嬢さん、どうされました」
泣いてばかりのおんなの子。
ヤギさんとヒツジさんがやさしく話しかけても、さっきからなんにもしゃべりません。
どうやらヤギさんとヒツジさんの顔がこわいみたい。こまったなあ。
でも大丈夫。こんな時こそあわせ屋。ヤギさんにおまかせあれ。
「これをどうぞ」
おんなの子にそっと差し出したのは、さくら色に真っ赤ないちごが散りばめられた、かわいらしいリボン。
「これはね、願いが叶うリボンなんですよ」
「ねがい?おかあさんにも会える?」
「はい、もちろん。会えますとも」
やさしいヤギさんに安心したおんなの子はおそるおそる、リボンを手にとりました。
そして、さくら色に真っ赤ないちご柄のリボンを見たおんなの子は目をキラキラさせます。
「っ、かわいい!」
「そうでしょう。実はこのリボンはね。いちごミルクのキャンディがモチーフで──」
ほんとうに願いが叶うのかはともかく、おんなの子は自分の力で泣きやんでくれました。
それから、ぽつりぽつりとお話しも。
「今日はね。おかあさんとお買いものをしにきたの」
「ふむふむ」
「でもね、ひとがいっぱいで。とちゅうではぐれちゃったの」
「そうでしたか」
すっかりおんなの子と仲良しになった、ヤギさん。
ヒツジさんのお店で ゆっくりお話しをしていると、通りからおんなの子をよぶ声がしました。
「おかあさんだっ!」
あのリボンを身に付けたら、あらふしぎ。
ほんとうに願いが叶ってしまいました。
「こんどはお母様と一緒にいらしてください」
「やれやれ。もう迷子になんかなるんじゃないぞ」
そういって、すっかり泣きやんだ おんなの子を無事に見送った、ヤギさんとヒツジさんなのでした。
ライオンさんの衣装はどうなったのかって?
もちろん大丈夫。さすがはあわせ屋。ライオンさんのコンサートは大成功。
ひかり輝く白いタキシードをそれはもう気に入って、追加の公演まで決まったようなのでご安心を。
にあわせ、しあわせ、おまかせあれ。
『あわせ屋 ヤギ』
あなたもいらしてくださいね。
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2023.3.7更新
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