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テロリスト
1. 神宮
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名古屋 私立高校
「おっしゃ!終わりだァーー!なあ、早く終わったし、今日ゲーセン寄ってかね?俺めっちゃ鍛えたから!」
「え、金ない、俺パス」
「おい付き合いわりーな。見てるだけでいいから行こーぜ!俺の超絶足技見せてやるよ!」
「え?足技?お前何する気?」
「え、ダ○レボ」
「ダ○レボかよ!スト○ートファ○ターだろそこは!」
初夏に入ったというのにクラスに馴染めない田上雪登は、授業後遊ぶ約束を取り交わしてる男子グループを横目に、黒いリュックを背負って、教室をあとにした。
高校2年になった彼は、なんとか新学期も友達を作ろうと声をかけるが、未だに他人からは気を使われる様な思いがしていた。
騒がしい都会の道を、行き交う人々の間を縫って進むのは、背の低めなユキトにとってはそう難しいことではなかった。
耳までかかっただらしない髪を揺らしながら家へと帰る。
「ユキ、帰ってたの!あんたもさっさと支度して、今からおばあちゃん家行くから。アキちゃん、ちょっとその荷物取ってくれない?ナツ!あんたそこにいないで!じゃまだから!」
下着を折りたたみキャリーケースに詰め込む高校1年生の妹諒飛、リビングの真ん中で、小さな画面越しにモンスターを狩る中学生の弟夏葉、そして帰ってきたばかりのユキト、3人に指示を出す司令官たる母は、首の真ん中でパッツリ整えられたショートヘアーを揺らしながら、家の中を慌ただしく行ったり来たりしていた。
「え、今帰ってきたのに。急すぎるだろ!」
「ゴールデンウィークは三重のおばあちゃん家行くって言ってたじゃない!」
話していたのは覚えている。
しかしゴールデンウィークは明日からだ。
まさか学校から帰ってきた今日のうちに家を出るとは思わない。
見ればカレンダーの4月30日のマスが、いつの間にか赤色でグルグルと囲われている。
アキヒは小学生の頃からバスケに勤しむ活発なスポーツ少女だった。
努力家で、中学の時には県大会のレギュラーメンバー入りも果たしていた。
惜しくも全国には届かなかったが……。
背はユキトよりも少しだけ低い。
だがバスケもやっていることだ、引き締まった体格がユキトの背を越すのはそう遠くないだろう。
よく母の手伝いをこなすできた妹だった。
対してナツバは、まだやんちゃな中一だ。
ほんの2ヶ月前まで小学生だったのだから、仕方がないといえば仕方がない。
楽しいことしかしたがらないナツバは、母の言葉も無視して、今もゲームの世界をお散歩中だった。
ユキトは母に言われるがまま部屋に入り、着ている制服を脱ぐと、着替えやらゲームやらを大きめの黒いスポーツバッグに詰め込んだ。
*
「今月の行方不明者数は、先月に比べてさらに上がっています。この2年、世界規模で起こるこの事件に対し、日本を含む20ヶ国が新たに……」
車の運転席に付随しているテレビから流れるニュースをBGMに、後部座席に座っている3兄妹はそれぞれ黙々と画面とにらめっこをしていた。
「お父さん、仕事が残ってるんだって。明後日には来れるみたいだから。」
運転中の母が父の不在を報告する。
「ふーん…」
興味無さそうにアキヒが反応する。
「さ、着いたよ。」
年季の入ったワゴン車を開けて飛び出したアキヒのポニーテールを、時期としては遅めの春風が吹き上げた。
2時間程かけて着いた場所は人だかりが多く、商店街から立ちのぼる食べ物の香りは疲れた体の食欲をそそる。
そして目の前には、来た人々を出迎えるように大きな鳥居が立っていた。
どうやら祖母に向けたお土産を買うついでに、伊勢神宮に寄るらしい。
「やった!ねえねえ!見て回ってもいい?いいよね!」
はしゃぐアキヒは返事を待たず、かき氷の店や、うどん屋、饅頭屋などを覗いて回った。
「もう夕方だから、そんなに見て回れないよ」
母親の言うことに適当に返事をして、アキヒに続きナツバも無邪気に歩き回った。
土産を買い終え、もう既に先に行って、姿が見えない妹達を心配しながら、ユキトは母と宇治橋の入口にたどり着いた。
橋の下に広がる五十鈴川の景色は、いつ見ても綺麗だ。
大人が全力で石を投げればやっと向こう岸まで届くくらいの幅の川は、穏やかで、川底が見えるほど透き通っている。
神路山と島路山から流れる2つの川が合流してできたこの川は古くから清流とされ、和歌にも多く歌われたといわれる一級河川だけあって、その神々しさに目を奪われる。
入口側の岸では、平たい石を横に投げて川切りに興じる子供たち。
向こう岸には青々とした林が広がっている。
例年なら、宇治橋鳥居をくぐるとすぐ欄干からその景色が広がり、ユキトは神聖な空気を感じながら橋をわたっていた。
しかし今日はその空気を感じることができない。
いや、正確には、その景色を見ることが出来なかった。
「ぐっ!!…なんだこれ!」
鮮やかだが歪んだ光景が、ユキトの頭を痛めつける。
橋から見える景色、地も空も全てが、先も分からずに異様な光景をしていた。
まるで星空のような、絵の具を混ぜたような、万華鏡のような光景だ。
そんな中、今まで歩いていた橋だけは終わりまでハッキリと見える。
まるで橋という船が浮いているようだ。
ユキトはわけも分からず、先へと進んでみた。
橋の終わりに差し掛かる頃、気づいたら景色はまたも一変していた。
あたり一帯を見渡す。
今度はあの異様な空間も、渡っていた橋も見えない。
今彼の足が踏みしめているのは、整理された石畳の道だ。
そして彼を囲んでいたのは、石やレンガで建てられた家々が並ぶ綺麗な街並みだった。
え、待って、え、、?
再び訪れた見慣れない光景を目の当たりにし、ユキトは焦りと戸惑いでボーッと立ってることしかできなかった。
神宮にいた時とは別の騒音が響いてくる。
ジャリジャリと石と何かが擦れ合う音。
金属と金属が一定のリズムを刻んでカンカンと鳴る。
ヒーン!ブルンブルンッ!
馬の鳴き声までする。
『お前!じゃまだぞそこは!立ってんなら端っこに立ってろ!』
呆気にとられ、固まっていた彼を動かしたのは、後ろから響く男性の叫びだった。
一瞬ビクッと驚いて、ハッと我に返る間もなく彼は無意識に横へ飛び、倒れ込んだ。
地面に手をついた彼の横を通ったのは、2頭の馬が先導する馬車だった。
長い黒髭をたずさえた御者台の男性は、怒ったような驚いたような表情でこちらを睨みながら過ぎ去っていった。
男性が何語を喋っていたのかは分からない。
しかしなんと言いたかったのかはわかる。
あぶねぇぞ、みたいなことだろう。
心臓の鼓動が耳に響くが、少し冷静さを取り戻した彼はあたりを観察した。
道の真ん中は馬車が行き交い、道の端を歩く人々。
時折、ペダルのない三輪自転車を地面を蹴りながら進む人が見えた。
歴史の教科書で見た事のある光景。
「過去にタイムスリップしたのかな……いや……」
違うと判断させたのは、過ぎ去る人々の容姿であった。
ユキトの常識で知っている容姿の人が多い中、髪の毛の代わりに頭部から白菜のような形の葉っぱが生え、耳がとがっている人、身長2m以上あるような大柄な人、逆に身長120cm程の小柄な髭面の男性。
小さな男性の肩には、さらに小さな、手のひらサイズの男の子がちょこんと座って足を揺らしていた。
「異世界……てことか……」
「おっしゃ!終わりだァーー!なあ、早く終わったし、今日ゲーセン寄ってかね?俺めっちゃ鍛えたから!」
「え、金ない、俺パス」
「おい付き合いわりーな。見てるだけでいいから行こーぜ!俺の超絶足技見せてやるよ!」
「え?足技?お前何する気?」
「え、ダ○レボ」
「ダ○レボかよ!スト○ートファ○ターだろそこは!」
初夏に入ったというのにクラスに馴染めない田上雪登は、授業後遊ぶ約束を取り交わしてる男子グループを横目に、黒いリュックを背負って、教室をあとにした。
高校2年になった彼は、なんとか新学期も友達を作ろうと声をかけるが、未だに他人からは気を使われる様な思いがしていた。
騒がしい都会の道を、行き交う人々の間を縫って進むのは、背の低めなユキトにとってはそう難しいことではなかった。
耳までかかっただらしない髪を揺らしながら家へと帰る。
「ユキ、帰ってたの!あんたもさっさと支度して、今からおばあちゃん家行くから。アキちゃん、ちょっとその荷物取ってくれない?ナツ!あんたそこにいないで!じゃまだから!」
下着を折りたたみキャリーケースに詰め込む高校1年生の妹諒飛、リビングの真ん中で、小さな画面越しにモンスターを狩る中学生の弟夏葉、そして帰ってきたばかりのユキト、3人に指示を出す司令官たる母は、首の真ん中でパッツリ整えられたショートヘアーを揺らしながら、家の中を慌ただしく行ったり来たりしていた。
「え、今帰ってきたのに。急すぎるだろ!」
「ゴールデンウィークは三重のおばあちゃん家行くって言ってたじゃない!」
話していたのは覚えている。
しかしゴールデンウィークは明日からだ。
まさか学校から帰ってきた今日のうちに家を出るとは思わない。
見ればカレンダーの4月30日のマスが、いつの間にか赤色でグルグルと囲われている。
アキヒは小学生の頃からバスケに勤しむ活発なスポーツ少女だった。
努力家で、中学の時には県大会のレギュラーメンバー入りも果たしていた。
惜しくも全国には届かなかったが……。
背はユキトよりも少しだけ低い。
だがバスケもやっていることだ、引き締まった体格がユキトの背を越すのはそう遠くないだろう。
よく母の手伝いをこなすできた妹だった。
対してナツバは、まだやんちゃな中一だ。
ほんの2ヶ月前まで小学生だったのだから、仕方がないといえば仕方がない。
楽しいことしかしたがらないナツバは、母の言葉も無視して、今もゲームの世界をお散歩中だった。
ユキトは母に言われるがまま部屋に入り、着ている制服を脱ぐと、着替えやらゲームやらを大きめの黒いスポーツバッグに詰め込んだ。
*
「今月の行方不明者数は、先月に比べてさらに上がっています。この2年、世界規模で起こるこの事件に対し、日本を含む20ヶ国が新たに……」
車の運転席に付随しているテレビから流れるニュースをBGMに、後部座席に座っている3兄妹はそれぞれ黙々と画面とにらめっこをしていた。
「お父さん、仕事が残ってるんだって。明後日には来れるみたいだから。」
運転中の母が父の不在を報告する。
「ふーん…」
興味無さそうにアキヒが反応する。
「さ、着いたよ。」
年季の入ったワゴン車を開けて飛び出したアキヒのポニーテールを、時期としては遅めの春風が吹き上げた。
2時間程かけて着いた場所は人だかりが多く、商店街から立ちのぼる食べ物の香りは疲れた体の食欲をそそる。
そして目の前には、来た人々を出迎えるように大きな鳥居が立っていた。
どうやら祖母に向けたお土産を買うついでに、伊勢神宮に寄るらしい。
「やった!ねえねえ!見て回ってもいい?いいよね!」
はしゃぐアキヒは返事を待たず、かき氷の店や、うどん屋、饅頭屋などを覗いて回った。
「もう夕方だから、そんなに見て回れないよ」
母親の言うことに適当に返事をして、アキヒに続きナツバも無邪気に歩き回った。
土産を買い終え、もう既に先に行って、姿が見えない妹達を心配しながら、ユキトは母と宇治橋の入口にたどり着いた。
橋の下に広がる五十鈴川の景色は、いつ見ても綺麗だ。
大人が全力で石を投げればやっと向こう岸まで届くくらいの幅の川は、穏やかで、川底が見えるほど透き通っている。
神路山と島路山から流れる2つの川が合流してできたこの川は古くから清流とされ、和歌にも多く歌われたといわれる一級河川だけあって、その神々しさに目を奪われる。
入口側の岸では、平たい石を横に投げて川切りに興じる子供たち。
向こう岸には青々とした林が広がっている。
例年なら、宇治橋鳥居をくぐるとすぐ欄干からその景色が広がり、ユキトは神聖な空気を感じながら橋をわたっていた。
しかし今日はその空気を感じることができない。
いや、正確には、その景色を見ることが出来なかった。
「ぐっ!!…なんだこれ!」
鮮やかだが歪んだ光景が、ユキトの頭を痛めつける。
橋から見える景色、地も空も全てが、先も分からずに異様な光景をしていた。
まるで星空のような、絵の具を混ぜたような、万華鏡のような光景だ。
そんな中、今まで歩いていた橋だけは終わりまでハッキリと見える。
まるで橋という船が浮いているようだ。
ユキトはわけも分からず、先へと進んでみた。
橋の終わりに差し掛かる頃、気づいたら景色はまたも一変していた。
あたり一帯を見渡す。
今度はあの異様な空間も、渡っていた橋も見えない。
今彼の足が踏みしめているのは、整理された石畳の道だ。
そして彼を囲んでいたのは、石やレンガで建てられた家々が並ぶ綺麗な街並みだった。
え、待って、え、、?
再び訪れた見慣れない光景を目の当たりにし、ユキトは焦りと戸惑いでボーッと立ってることしかできなかった。
神宮にいた時とは別の騒音が響いてくる。
ジャリジャリと石と何かが擦れ合う音。
金属と金属が一定のリズムを刻んでカンカンと鳴る。
ヒーン!ブルンブルンッ!
馬の鳴き声までする。
『お前!じゃまだぞそこは!立ってんなら端っこに立ってろ!』
呆気にとられ、固まっていた彼を動かしたのは、後ろから響く男性の叫びだった。
一瞬ビクッと驚いて、ハッと我に返る間もなく彼は無意識に横へ飛び、倒れ込んだ。
地面に手をついた彼の横を通ったのは、2頭の馬が先導する馬車だった。
長い黒髭をたずさえた御者台の男性は、怒ったような驚いたような表情でこちらを睨みながら過ぎ去っていった。
男性が何語を喋っていたのかは分からない。
しかしなんと言いたかったのかはわかる。
あぶねぇぞ、みたいなことだろう。
心臓の鼓動が耳に響くが、少し冷静さを取り戻した彼はあたりを観察した。
道の真ん中は馬車が行き交い、道の端を歩く人々。
時折、ペダルのない三輪自転車を地面を蹴りながら進む人が見えた。
歴史の教科書で見た事のある光景。
「過去にタイムスリップしたのかな……いや……」
違うと判断させたのは、過ぎ去る人々の容姿であった。
ユキトの常識で知っている容姿の人が多い中、髪の毛の代わりに頭部から白菜のような形の葉っぱが生え、耳がとがっている人、身長2m以上あるような大柄な人、逆に身長120cm程の小柄な髭面の男性。
小さな男性の肩には、さらに小さな、手のひらサイズの男の子がちょこんと座って足を揺らしていた。
「異世界……てことか……」
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