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7 愛の波形(はけい)
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ハロルドに指示を受けたバロニクス城専属メイドがケーキと紅茶を持ってきたのはすぐだった。
「うわぁ、おいしそうですね!」
オシャレにデコレーションされた何種類ものケーキを前に、あいなは目を輝かせる。
「そんなに喜んでもらえるなんて、これまでにないほど新鮮な気持ちになるよ」
「だって、こんなにたくさんのケーキを一度に食べられるチャンス、滅多にないので」
「そっか。君は異世界で普通の暮らしをしている一般的な女性だったね。城に居るとこんなもの毎日目にするから僕は食傷(しょくしょう)気味だよ。自(みずか)ら食べる気は起こらない」
「そうなんですね。こういうのが当たり前っていう暮らし、私はいまだに現実感がありませんよ。ほわあ……」
声にならない感動の声をあげ、あいなはうっとりとケーキを見つめる。
(シャルもだけど、お城に住んでる人は皆すごいんだなぁ。庶民な私とは価値観がまるで違うもん。)
食べる気がしないと言ったものの、おいしそうにパクパク食べているあいなを見ると食欲が湧いた。ハロルドはつられるようにケーキを口にし、語らう。
「元々間食する方ではなかったからケーキもパーティーでしか口にしないようにしてたんだけど、一緒に食べる人が面白い女性だとこういうのも楽しいものなんだね」
「シャルにも言われるんですが、私、そんなに面白いですか?」
だからこれまで異性から友達認定されやすかったのだろうか?と、あいなは一瞬考えた。
「面白いよ。少なくとも、これまで僕の周りにはいなかったタイプだよ君は。快活だし自分を持ってるし温和(おんわ)だし。シャルの存在が心になかったら、僕も君を好きになっていたかもしれない」
「ありがとうございます。シャルのこと、本当に大好きなんですね」
「もちろんだよ。そうだ。あいなさんはシャルより年下なんだよね?」
「はい、18です」
「へえ、僕とは一歳しか変わらないんだね」
「そうなんですか?」
「うん。僕は19なんだよ。歳も近いし、こうしてティータイムを共にできたのも何かの縁。敬語はやめて、これからは普通に話さない?」
「え、でも、それはちょっとまずくないですか?ハロルドさんはバロニクス帝国の偉い人なんですよね?」
「偉いのは父だけだよ。僕は王位を継ぐ予定もないし」
気遣うように柔らかく笑い、ハロルドは言う。
「君も、慣れない暮らしで無意識のうちに疲れがたまっているかもしれないし、せめて、僕と二人きりの時は気楽にしていいんだよ」
「じゃあ、そうします。じゃなくて、そうする!ハロルドさん、色々気にしてくれてありがとう」
「さん付けもなし。僕もあいなって呼ばせてもらうから」
有無を言わせない明るい提案に、あいなはようやく心から笑うことができた。
「分かったよ。ハロルド…!」
「ああ、本当に新鮮だ。家族以外だと、僕の名を呼び捨てしてくれるのはシャルしかいないからね。こういうの、なんかいいなぁ」
ニコニコと満足げに笑うハロルドに、あいなはほっこりした。彼の端正な顔の裏からシャルの生活ぶりまでも想像させられる。
(やっぱり、シャルやハロルドさんは今まで特別な暮らしをしてきたんだろうな。)
おいしいケーキとお茶で気分は満たされ、話に花が咲く。ハロルドとあいなは楽しく熱く語り合った。
「しかし、君は度胸があるね。よく知らない男性のプロポーズをすんなり受け入れるなんて。それも若さかな?」
「そんな、すんなり受け入れたわけじゃないよ?これでも最初は葛藤(かっとう)したし」
「意外だね、そうは見えなかったよ。シャルにプロポーズされた時、恋人はいなかったの?」
「いたら、何が何でもシャルのこと無視してたよ。残念ながら、生まれてからずっと彼氏がいたことなんてないよ」
サバサバした口調で苦笑するあいなに、ハロルドは目をこれでもかというほど見開き、大げさなくらい驚いて見せた。
「生まれてからずっと恋人がいない!?18年間貞操を守ってきたの!?」
「そ、そういうことになるかな」
あいなは真っ赤になる。秋葉(あきは)の前でもそういった類(たぐ)いの話題には照れてしまうので、異性を相手にすればなおさらである。
「シャルの結婚報告を聞いた後、君のことが知りたくて僕なりに日本の恋愛事情を調べたんだよ。十代の恋人同士のスキンシップは年々積極性を増しているのだとか。驚いたのは、女性が16歳で結婚できるという法律だよ。バロニクスですら女性は18歳にならないと結婚できない決まりだからね。だから、あいなも男性経験があるのだとばかり……」
「ないない!たしかに同い年で経験豊富な子もいるけど、十代の人が皆そうだとは限らないよ」
「そうなんだ。でも、不思議だね。そうでなくても君は異性に好かれそうな要素を色々と持っているのに、これまで恋人がいなかったなんて」
「ありがとう。そんなこと言ってくれるのハロルドだけだよ」
お世辞だとしてもありがたい。照れ笑いしながら、あいなは今自分が言ったことを心の中で訂正し、胸が高鳴った。
(ううん、ハロルドだけじゃない。シャルとルイスさんも、私のこと良く言ってくれた。二人は、今まで出会った男子とは違う角度から私を見てくれているってこと?)
「ん?もしかして、シャルやルイスにも同じことを言われた?」
「何で分かるの!?」
「君は分かりやすいから」
ケーキはほとんどなくなった。最後のクリームを口にするあいなを、ハロルドは意味ありげに見つめる。
「これまで君が誰のものにもならなかったこと、運命的だと思わない?だからこそシャルの願いはすんなり叶ったわけだし」
「そうかな?シャルとの出会いが運命的なんだとしても、それでも、過去に一度くらい両想いの感覚を体験したかったなぁ……」
「そんなに両想いになりたかった?貞操を失うかもしれなくても?」
「貞操とかそういうのはもっと後の話だよっ!好きな人と想いを通じあわせることに意味があるの。それが女子にとっての幸せなんだからっ」
「そうなんだ。もし恋人ができてたとしたら、あいなはその相手と何をしたかったの?」
「学校帰りに一緒にソフトクリーム食べたり、ショッピングモールでお互いの服を選んで『これ〇〇君に似合うね』『それ可愛いよ』とか言い合ったり、映画館でポップコーン食べたり、河原で夕日を眺めたり、お祭りに行ってたこ焼きの食べさせあいっこしたりしたい!」
「あはは!あいな、ほとんど食べ物の話だね」
ハロルドは笑う。
「強引に手をつながれたいとか、綺麗な景色を見ながらキスされたいっていう理想はなかったの?」
「ロマンチックなシチュエーションで手をつなぎたいとかは思ってたけど、それ以上のことはあんまり考えたことないかな」
もちろん、恋愛の先にはそういう触れあいがあることも分かっている。しかし、あいなにとってそれは別世界の出来事だった。マンガのキスシーンすら刺激的に感じるので、自分がそういう体験をすることを具体的に想像するのは難しかったのである。
「体だけじゃなく心まで純情なんだね、あいなは」
「じゅっ、純情かどうかは分からないけどっ!」
恥ずかしくなり、あいなは力強く言った。
「恋愛したら、まずはお互いのことをじっくり知り合いたい!とにかく話すの。体とかはそのずーっと後!後がいい!もっと大人になってから!」
「そうだね。でも、逆パターンもあるんじゃない?体の関係から恋に発展するってケースとかね」
「お、大人の世界だね…!私には未知の扉だよ。それに、いきなり体から入るなんて、欲望優先って感じがしてなんだかなぁ……」
鼻や頬を赤くして不服な顔をするあいなに、ハロルドはイタズラな笑みを向ける。
「あいなは純愛思考なんだね。僕も同じ考えだよ。体より心のつながりが第一だよね」
「うん!そうだよっ」
「でもね、こうも思うんだ。恋愛って、あらゆる欲望の寄せ集めなんじゃないかって」
「あらゆる欲望の寄せ集め…?むむむ……。深いね。その通りかも!」
あいなは感心したように目を丸くする。クスリと笑うと、ハロルドは立ち上がった。
「あいなは、体動かすの好き?」
「うん!好きだよ」
「訊(き)くまでもなかったかな?空手という技を身に付けているくらいだし」
「そうだね。勉強より運動派だしっ」
「あはは。それなら気に入ってもらえそうだよ」
「何かあるの?」
「この城の中庭に、温水プールと温泉に入れる施設があるんだ。昔父が気まぐれで職人に建てさせたものなんだけど、僕以外使う人はいないしわりと広いから自由に泳げるよ」
「プールと温泉!?すごい!でも、いいの?」
プール。思ってもみなかった単語に目を輝かせつつ、緊急的に保護された身でそこまでもてなしてもらっていいものか分からず、あいなは複雑な顔をする。好奇心とためらいを混ぜた表情だった。
「ケーキ食べ過ぎて体が重たいんだよね。泳いで軽くしたいな」
「そうなの?もしかして、食べるペース合わせてくれてた?私、たくさん食べちゃったし……」
「合わせてた、のかな。でも、嫌々じゃないよ。楽しかったから気にしないで?」
申し訳なさそうな顔をするあいなに、ハロルドは優しく告げる。
「運動したいっていうのは言い訳なんだ。あいなに楽しんでもらいたいだけ。こうなった経緯(いきさつ)はどうあれ、君は久しぶりのお客さんだから」
「ハロルド……」
寂しげに視線を動かすハロルドを見て、あいなは思った。城に住む人達は豊かな暮らしをしているけれど、その分孤独感も大きいのかもしれない、と。
「分かった!プールで遊ぼっ!水着ないからこのまま入る!」
「ドレスでっ!?あいなは破天荒(はてんこう)だね…!あははっ」
「ハロルド、笑いすぎ!」
「だって、あいながおかしなことを言うから。大丈夫だよ、水着はあるから。もちろん新品の。気に入ったのならそのまま持って帰っていいし」
ハロルドの案内でバロニクス城内の衣装部屋に通されたあいなは、何百着あるのか分からないほど数多くの水着の中から、Tシャツとセットになったパレオ付きのビキニを選んだ。
(これなら、体型隠せるしっ。ホッ。)
ここ数年、泳ぐといえば水泳の授業中だけ。
無難な水着を選ぶことだけに専念し、デザインは重視しなかった。とはいえ、バロニクス帝国の人々はセンスがいいらしく、体型カバーを主な目的にした水着でも可愛いデザインである。
「似合ってるよ。じゃ、行こ、あいなっ」
「ちょ、ハロルドっ……!」
同じく着替えを終えたハロルドに手を引かれ、あいなは驚いた。その一方で、昔初恋の人に感じていた安心感を覚える。
(カイお兄ちゃんと同じ顔だからかな……。あったかい手――。)
「うわぁ、おいしそうですね!」
オシャレにデコレーションされた何種類ものケーキを前に、あいなは目を輝かせる。
「そんなに喜んでもらえるなんて、これまでにないほど新鮮な気持ちになるよ」
「だって、こんなにたくさんのケーキを一度に食べられるチャンス、滅多にないので」
「そっか。君は異世界で普通の暮らしをしている一般的な女性だったね。城に居るとこんなもの毎日目にするから僕は食傷(しょくしょう)気味だよ。自(みずか)ら食べる気は起こらない」
「そうなんですね。こういうのが当たり前っていう暮らし、私はいまだに現実感がありませんよ。ほわあ……」
声にならない感動の声をあげ、あいなはうっとりとケーキを見つめる。
(シャルもだけど、お城に住んでる人は皆すごいんだなぁ。庶民な私とは価値観がまるで違うもん。)
食べる気がしないと言ったものの、おいしそうにパクパク食べているあいなを見ると食欲が湧いた。ハロルドはつられるようにケーキを口にし、語らう。
「元々間食する方ではなかったからケーキもパーティーでしか口にしないようにしてたんだけど、一緒に食べる人が面白い女性だとこういうのも楽しいものなんだね」
「シャルにも言われるんですが、私、そんなに面白いですか?」
だからこれまで異性から友達認定されやすかったのだろうか?と、あいなは一瞬考えた。
「面白いよ。少なくとも、これまで僕の周りにはいなかったタイプだよ君は。快活だし自分を持ってるし温和(おんわ)だし。シャルの存在が心になかったら、僕も君を好きになっていたかもしれない」
「ありがとうございます。シャルのこと、本当に大好きなんですね」
「もちろんだよ。そうだ。あいなさんはシャルより年下なんだよね?」
「はい、18です」
「へえ、僕とは一歳しか変わらないんだね」
「そうなんですか?」
「うん。僕は19なんだよ。歳も近いし、こうしてティータイムを共にできたのも何かの縁。敬語はやめて、これからは普通に話さない?」
「え、でも、それはちょっとまずくないですか?ハロルドさんはバロニクス帝国の偉い人なんですよね?」
「偉いのは父だけだよ。僕は王位を継ぐ予定もないし」
気遣うように柔らかく笑い、ハロルドは言う。
「君も、慣れない暮らしで無意識のうちに疲れがたまっているかもしれないし、せめて、僕と二人きりの時は気楽にしていいんだよ」
「じゃあ、そうします。じゃなくて、そうする!ハロルドさん、色々気にしてくれてありがとう」
「さん付けもなし。僕もあいなって呼ばせてもらうから」
有無を言わせない明るい提案に、あいなはようやく心から笑うことができた。
「分かったよ。ハロルド…!」
「ああ、本当に新鮮だ。家族以外だと、僕の名を呼び捨てしてくれるのはシャルしかいないからね。こういうの、なんかいいなぁ」
ニコニコと満足げに笑うハロルドに、あいなはほっこりした。彼の端正な顔の裏からシャルの生活ぶりまでも想像させられる。
(やっぱり、シャルやハロルドさんは今まで特別な暮らしをしてきたんだろうな。)
おいしいケーキとお茶で気分は満たされ、話に花が咲く。ハロルドとあいなは楽しく熱く語り合った。
「しかし、君は度胸があるね。よく知らない男性のプロポーズをすんなり受け入れるなんて。それも若さかな?」
「そんな、すんなり受け入れたわけじゃないよ?これでも最初は葛藤(かっとう)したし」
「意外だね、そうは見えなかったよ。シャルにプロポーズされた時、恋人はいなかったの?」
「いたら、何が何でもシャルのこと無視してたよ。残念ながら、生まれてからずっと彼氏がいたことなんてないよ」
サバサバした口調で苦笑するあいなに、ハロルドは目をこれでもかというほど見開き、大げさなくらい驚いて見せた。
「生まれてからずっと恋人がいない!?18年間貞操を守ってきたの!?」
「そ、そういうことになるかな」
あいなは真っ赤になる。秋葉(あきは)の前でもそういった類(たぐ)いの話題には照れてしまうので、異性を相手にすればなおさらである。
「シャルの結婚報告を聞いた後、君のことが知りたくて僕なりに日本の恋愛事情を調べたんだよ。十代の恋人同士のスキンシップは年々積極性を増しているのだとか。驚いたのは、女性が16歳で結婚できるという法律だよ。バロニクスですら女性は18歳にならないと結婚できない決まりだからね。だから、あいなも男性経験があるのだとばかり……」
「ないない!たしかに同い年で経験豊富な子もいるけど、十代の人が皆そうだとは限らないよ」
「そうなんだ。でも、不思議だね。そうでなくても君は異性に好かれそうな要素を色々と持っているのに、これまで恋人がいなかったなんて」
「ありがとう。そんなこと言ってくれるのハロルドだけだよ」
お世辞だとしてもありがたい。照れ笑いしながら、あいなは今自分が言ったことを心の中で訂正し、胸が高鳴った。
(ううん、ハロルドだけじゃない。シャルとルイスさんも、私のこと良く言ってくれた。二人は、今まで出会った男子とは違う角度から私を見てくれているってこと?)
「ん?もしかして、シャルやルイスにも同じことを言われた?」
「何で分かるの!?」
「君は分かりやすいから」
ケーキはほとんどなくなった。最後のクリームを口にするあいなを、ハロルドは意味ありげに見つめる。
「これまで君が誰のものにもならなかったこと、運命的だと思わない?だからこそシャルの願いはすんなり叶ったわけだし」
「そうかな?シャルとの出会いが運命的なんだとしても、それでも、過去に一度くらい両想いの感覚を体験したかったなぁ……」
「そんなに両想いになりたかった?貞操を失うかもしれなくても?」
「貞操とかそういうのはもっと後の話だよっ!好きな人と想いを通じあわせることに意味があるの。それが女子にとっての幸せなんだからっ」
「そうなんだ。もし恋人ができてたとしたら、あいなはその相手と何をしたかったの?」
「学校帰りに一緒にソフトクリーム食べたり、ショッピングモールでお互いの服を選んで『これ〇〇君に似合うね』『それ可愛いよ』とか言い合ったり、映画館でポップコーン食べたり、河原で夕日を眺めたり、お祭りに行ってたこ焼きの食べさせあいっこしたりしたい!」
「あはは!あいな、ほとんど食べ物の話だね」
ハロルドは笑う。
「強引に手をつながれたいとか、綺麗な景色を見ながらキスされたいっていう理想はなかったの?」
「ロマンチックなシチュエーションで手をつなぎたいとかは思ってたけど、それ以上のことはあんまり考えたことないかな」
もちろん、恋愛の先にはそういう触れあいがあることも分かっている。しかし、あいなにとってそれは別世界の出来事だった。マンガのキスシーンすら刺激的に感じるので、自分がそういう体験をすることを具体的に想像するのは難しかったのである。
「体だけじゃなく心まで純情なんだね、あいなは」
「じゅっ、純情かどうかは分からないけどっ!」
恥ずかしくなり、あいなは力強く言った。
「恋愛したら、まずはお互いのことをじっくり知り合いたい!とにかく話すの。体とかはそのずーっと後!後がいい!もっと大人になってから!」
「そうだね。でも、逆パターンもあるんじゃない?体の関係から恋に発展するってケースとかね」
「お、大人の世界だね…!私には未知の扉だよ。それに、いきなり体から入るなんて、欲望優先って感じがしてなんだかなぁ……」
鼻や頬を赤くして不服な顔をするあいなに、ハロルドはイタズラな笑みを向ける。
「あいなは純愛思考なんだね。僕も同じ考えだよ。体より心のつながりが第一だよね」
「うん!そうだよっ」
「でもね、こうも思うんだ。恋愛って、あらゆる欲望の寄せ集めなんじゃないかって」
「あらゆる欲望の寄せ集め…?むむむ……。深いね。その通りかも!」
あいなは感心したように目を丸くする。クスリと笑うと、ハロルドは立ち上がった。
「あいなは、体動かすの好き?」
「うん!好きだよ」
「訊(き)くまでもなかったかな?空手という技を身に付けているくらいだし」
「そうだね。勉強より運動派だしっ」
「あはは。それなら気に入ってもらえそうだよ」
「何かあるの?」
「この城の中庭に、温水プールと温泉に入れる施設があるんだ。昔父が気まぐれで職人に建てさせたものなんだけど、僕以外使う人はいないしわりと広いから自由に泳げるよ」
「プールと温泉!?すごい!でも、いいの?」
プール。思ってもみなかった単語に目を輝かせつつ、緊急的に保護された身でそこまでもてなしてもらっていいものか分からず、あいなは複雑な顔をする。好奇心とためらいを混ぜた表情だった。
「ケーキ食べ過ぎて体が重たいんだよね。泳いで軽くしたいな」
「そうなの?もしかして、食べるペース合わせてくれてた?私、たくさん食べちゃったし……」
「合わせてた、のかな。でも、嫌々じゃないよ。楽しかったから気にしないで?」
申し訳なさそうな顔をするあいなに、ハロルドは優しく告げる。
「運動したいっていうのは言い訳なんだ。あいなに楽しんでもらいたいだけ。こうなった経緯(いきさつ)はどうあれ、君は久しぶりのお客さんだから」
「ハロルド……」
寂しげに視線を動かすハロルドを見て、あいなは思った。城に住む人達は豊かな暮らしをしているけれど、その分孤独感も大きいのかもしれない、と。
「分かった!プールで遊ぼっ!水着ないからこのまま入る!」
「ドレスでっ!?あいなは破天荒(はてんこう)だね…!あははっ」
「ハロルド、笑いすぎ!」
「だって、あいながおかしなことを言うから。大丈夫だよ、水着はあるから。もちろん新品の。気に入ったのならそのまま持って帰っていいし」
ハロルドの案内でバロニクス城内の衣装部屋に通されたあいなは、何百着あるのか分からないほど数多くの水着の中から、Tシャツとセットになったパレオ付きのビキニを選んだ。
(これなら、体型隠せるしっ。ホッ。)
ここ数年、泳ぐといえば水泳の授業中だけ。
無難な水着を選ぶことだけに専念し、デザインは重視しなかった。とはいえ、バロニクス帝国の人々はセンスがいいらしく、体型カバーを主な目的にした水着でも可愛いデザインである。
「似合ってるよ。じゃ、行こ、あいなっ」
「ちょ、ハロルドっ……!」
同じく着替えを終えたハロルドに手を引かれ、あいなは驚いた。その一方で、昔初恋の人に感じていた安心感を覚える。
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