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嫉妬
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どうして私なんだろう。美月はずっと、そう思っている。どうして自分だけこんな目にあうのだろう、と。
初めて誠司にされた時は、本当に殺されるんじゃないかと思った。痛くて、血が出て、もう抗うこともできなくて、泣くことしかできなくて、早く終わって。
そう願うことしかできなかった。
今はあの時みたいな痛みはない。
だけどきっと、あの夜のことは一生忘れない。一生彼を、許したりはしない。
誠司が美月の首筋に唇を這わす。行為が始まるとき、彼はいつもそうする。
朝からやめてほしい。
「学校行くんだから、離してよ」
「心配するな。朝からしようなんていわない」
じゃあなんなんだ。美月は手にしていたクシをぎゅっ、と握りしめた。
さっきから誠司が背後から抱き締めてくるせいで身動きがとれない。
緊張しすぎて息すらできない。
何をされるかわからないのが怖い。身体をさわられるだけならまだいい。そう思ってしまうことが虚しい。
洗面所の鏡越しに、抱きしめられている自分と誠司が映りこんでいる。さらさらした黒髪に、切れ長の瞳。その目に見据えられると、まるで石にされたみたいに身動きが取れなくなる。
とりあえず髪をとかそうと、クシを動かす。その腕をつかまれた。
「な、によ」
「僕がしてやる」
「自分でやるわよ」
「お前よりはうまくできる自信がある」
どうせ不器用だ。
誠司の指が髪を滑る。耳をかするのはわざとなんだろうか。早く終わってとこれまた祈る。触られるのは嫌だけど、彼を怒らせたら何をされるかわからないから、身動きがとれない。
「できた」
「……」
美月は自分の髪型を鏡ごしに見た。サイドをみつあみにしてピンで止めてある。
この義理の兄は、本当になんでもできる。性格だけがどうしようもないくらいに歪みまくっているけど。
「似合うじゃないか」
そう言って頭を撫でてくる。今日は機嫌がいいらしい。妹を可愛がる兄のように、優しい仕草で美月に触れる。
「……ねえ、もう行かないと遅刻するわよ」
「そうだな」
離れていく手にほっとした。
今日1日、誰も誠司の機嫌を損ねませんように。
登校すると、友人たちが口々に挨拶をしてきた。美月も挨拶を返しながら、自分の席に着く。友人の一人が感嘆するように声をあげた。
「お、美月、かわいーじゃないその髪型」
「そう?」
「うん、かわいー」
褒められるのは嬉しいけど、誠司の作った髪型が称賛されるのはかなり複雑な気分だ。
昼休み、友人たちと廊下を歩いていたら、階段脇に誠司が見えた。美月は慌てて友人の背中に隠れる。
「どうしたのよ、美月」
学校に行ったって遭遇するのだから、やってられない。逃げ場がないとはこのことだ。
「あ、誠司先輩だ。お、隣の美人は……」
「副会長の白鳥先輩だ。お似合いですなー」
友人二人の話を聞いて眉をしかめた。顔がいいからって、あんな美人と、頭のおかしい義兄がお似合いだなんて思えない。
階段を上るために彼らのほうへすたすた歩く。
すれ違う一瞬、誠司がちらとこちらを見た。
美月は目をそらす。
「美月」
声をかけられびくりとした。
「今日義母さん遅いらしいから、夕飯頼める?」
「……わかった」
要するに、晩御飯は二人きりなのだ──最悪。
帰途につく前にスーパーに寄る。夕飯の時間が近いだけあって、店内はなかなか混んでいた。
(なんにしようかな)
誠司の好きなものなんて知らないし。知ってても絶対作らないし。カレーでいいか。
そう思いながら食材を籠にいれていく。
「あ、片岡だ」
唐突に昔の名字を呼ばれた。振り向くと、中学時代の同級生が立っていた。
「あ……久しぶり」
彼はこちらへやってきて、美月が手にしている籠を覗き込む。
「なにお前、料理とかすんの?」
「うん、母親が忙しい時にはね」
「ふーん、なに作るん?」
何気ない会話をしながら買い物をすませ、スーパーを出る。
「そういえば、山田くんはなに買いに来たの?」
「ん?部活帰りに試食。タダだしな!」
「バスケ、まだやってるの?」
「そうなんだよ、毎日練習きつくってさー、ん?あれは……」
美月は山田の視線を追って固まる。
誠司が立っていた。
「ち、違う道行こう」
「え?なんで」
「美月」
かけられた穏やかな声にびくりと足を止める。
「あー!」
いきなり山田が叫んだ。
「やっぱりそーですよね、東高の藍川さんだ! 去年、試合見てました! 2点差なんて、惜しかったっすね!」
そうして、目を輝かせ誠司に近づく。
誠司がこいつはなんだ?という顔をして美月に目をやった。
「元同級生の……山田くん」
「元彼でーす」
余計なことは言うな。美月はそう思いつつ、冷や汗をかく。
誠司が笑顔で言った。
「はじめまして、美月の義兄の誠司です。へえ、中学の時彼氏いたんだ、先こされちゃったな」
「いやー、付き合ったっつっても、押したおそーとしたらビンタされて~そのまんましょーめつですよ、まじこいつ狂暴なんすよねー」
美月はひたすら山田に黙れというサインを送ったが、鈍い彼には通じない。
誠司が目を細めて美月を見た。
「へえ、そうなの」
ぞくりと悪寒が走った。
それから、山田と別れ、二人は無言で帰途についた。何か言ってきそうなものだけど、喋らないから不気味に感じられる。家につくと、誠司はさっさと部屋に引っ込んだ。多分課題があるんだろう。来年には高3だから、もう受験を視野に入れる時期だ。
カレーを作り終えた美月は、彼の部屋をノックする。
少しだけドアを開けた。机に向かっていた藍川誠司が、上体だけこちらに向ける。
「なんだ」
「私、ひかりの散歩してくるから、先に食べてて」
「こんな時間に一人じゃ危ない。明日にしろ」
「ひかりと一緒なら大丈夫よ」
そう言った美月に、無言で圧力をかけてくる。
「……わかったわよ」
ため息をついてドアを閉める。
この家であいつと二人きりのほうがよほど危ないと思う。
誠司は幸いなことに二階で食事をするようだったので、美月は穏やかな気分でカレーを食べることができた。
カレーを食べ終わった美月は、お風呂のお湯を入れにいく。お皿を洗っていたら、誠司が二階から降りてきた。
視線を感じたので、振り返ったら目があう。
「な、なに?」
「──別に」
なんなんだ。
皿を洗い終わってエプロンを取ろうとしたら、手を掴まれた。とたんに体が強ばる。
「っな、に」
「風呂、一緒に入ろうか」
そう囁いて抱き寄せられた。
「っや」
「何もしないから、来い」
手を引かれる。
「や、だ」
力ではかなわない。美月は、すぐに洗面所に引き入れられた。
誠司がシャツを脱ぐ。その動作を見ると、どうしても行為を思い出す。
彼はいつも脱がないけれど。
あの肌の温度は知っている。彼が胎内に入ってきたときの熱も、指先から伝わる温度も、身体がちゃんと覚えている。
美月はぎゅうとエプロンの裾を握った。
「ね……お母さんが帰ってくるかもしれないしっ」
誠司の腕が伸びてきた。ボタンをひとつ外される。
下着をすっとなぞられた。
「脱がされたいのか?」
「っ」
更にボタンを外そうとする手を押さえた。
震える声で言う。
「自分で、脱ぐから」
「聞き分けのいい子は好きだよ」
(私はあんたが大嫌いだ)
シャツを脱ぐと、視線を感じた。美月はスカートを脱いで、ショーツとブラを素早く外す。
誠司を見ないようにして浴室に入る。
さっさと洗ってさっさと出るのだ。
頭を手早く洗ってボディソープをスポンジに出す。
背後から取り上げられた。
「ちょっ」
「洗ってやるよ」
スポンジが体に押し付けられてびくりとした。
泡が背中を上下する感覚にしばらく怯えていたが、妙なことをする気がないとわかってほっとする。
「彼は」
唐突に誠司が口を開く。
「え?」
「山田くんとはどこまでしたんだ?」
「……なんで、そんなこときくの」
「押し倒したらビンタ、つまりその前までは許したってことだろ、キスは?」
美月が黙っていたら、スポンジが身体の前に移動してきた。
「っ」
「したのか聞いてるんだ。答えろ」
乳房を揉むように洗われて、身体が熱くなっていく。
「した、っ」
ふる、と揺れた乳房から離れ、スポンジはぬるぬると胸の谷間から鼠蹊部へと動いた。
「ちょ、や」
「体は触らせたのか?」
「してな、んっ」
スポンジがだんだんと蜜口へと近づいている。だがスポンジは、そこではなく内股をこすった。
泡が花芯に触れ、甘い痺れが走る。
きわどい部分をこすられてぞくぞくする。
逃げをうつ腰を掴まれた。
「あ……や」
「なんでやらせなかったんだ?好きだったんだろ?」
「怖かった、から」
「なにが?」
「だって、まだ、中学生で、っひ」
スポンジが蜜口に触れた。泡とスポンジの感触に、身体が熱くなっていく。スポンジが床に落ちて、背後から密着してきた誠司が、耳元でささやく。
「じゃあ今は……怖くない?」
泡だらけになった身体を押さえつけ、熱いものを擦り付けてくる。美月はきゅ、と足を閉じて侵入を防ぐ。
「や、めて」
かたかた震える美月を見て、誠司がため息をついた。足の間に熱い感触がする。浸入しなかったものが、美月のひだをこすっている。
「あ」
「いいか、美月」
「や、ふ」
美月は声をあげながら、壁にすがりついた。耳介に触れる熱い吐息と、腰を掴む強い力に、無理やり奪われていく感覚。こんなことしたくない。なのに逃げられない。
今だって怖い。
誠司が怖い。こんなことばかりされて、自分がどうなってしまうのかが怖い。
行為が終わったあと、誠司はさっさと身体を流し、風呂から出て行った。美月が風呂から出たら、誠司はいなかった。
部屋へ戻ったのだろうか。
リビングへ行ったら、形のいい頭がソファーに沈んでいた。
寝てるのだろうか? そう思いつつ恐る恐る近づくと、彼は目をつむって寝息を立てていた。
適当に羽織ったらしいシャツははだけている。
こないだ風邪ひいたばっかりのくせに。
和室から毛布を持ってきてかける。
別に誠司の心配をしたわけではない。彼に何かあれば、美月まで割りを食うからだ。
「……ん」
誠司が薄く目を開いた。美月はぎくりと体を固める。
視線がかちあう。
彼は無言で両手を伸ばしてくる。起こせということだろうか?
腕を引いた反動で誠司の顔が近づく。
反らした顎を掴まれた。切れ長の瞳がこちらを見ている。
囁くような声で言う。
「おまえは……僕のものだ」
彼の手が頬を滑り、肩を撫でていく。腕に到達した手のひらが、手首を掴んだ。そのままぎり、と掴まれて、美月は顔をしかめた。
「いっ……」
「他の男には触らせるな」
そう言ってまたソファーに倒れ込む。
すーすー寝息を立てる誠司に呟く。
「……誰があんたのものよ」
掴まれた腕がずき、と痛んだ。
初めて誠司にされた時は、本当に殺されるんじゃないかと思った。痛くて、血が出て、もう抗うこともできなくて、泣くことしかできなくて、早く終わって。
そう願うことしかできなかった。
今はあの時みたいな痛みはない。
だけどきっと、あの夜のことは一生忘れない。一生彼を、許したりはしない。
誠司が美月の首筋に唇を這わす。行為が始まるとき、彼はいつもそうする。
朝からやめてほしい。
「学校行くんだから、離してよ」
「心配するな。朝からしようなんていわない」
じゃあなんなんだ。美月は手にしていたクシをぎゅっ、と握りしめた。
さっきから誠司が背後から抱き締めてくるせいで身動きがとれない。
緊張しすぎて息すらできない。
何をされるかわからないのが怖い。身体をさわられるだけならまだいい。そう思ってしまうことが虚しい。
洗面所の鏡越しに、抱きしめられている自分と誠司が映りこんでいる。さらさらした黒髪に、切れ長の瞳。その目に見据えられると、まるで石にされたみたいに身動きが取れなくなる。
とりあえず髪をとかそうと、クシを動かす。その腕をつかまれた。
「な、によ」
「僕がしてやる」
「自分でやるわよ」
「お前よりはうまくできる自信がある」
どうせ不器用だ。
誠司の指が髪を滑る。耳をかするのはわざとなんだろうか。早く終わってとこれまた祈る。触られるのは嫌だけど、彼を怒らせたら何をされるかわからないから、身動きがとれない。
「できた」
「……」
美月は自分の髪型を鏡ごしに見た。サイドをみつあみにしてピンで止めてある。
この義理の兄は、本当になんでもできる。性格だけがどうしようもないくらいに歪みまくっているけど。
「似合うじゃないか」
そう言って頭を撫でてくる。今日は機嫌がいいらしい。妹を可愛がる兄のように、優しい仕草で美月に触れる。
「……ねえ、もう行かないと遅刻するわよ」
「そうだな」
離れていく手にほっとした。
今日1日、誰も誠司の機嫌を損ねませんように。
登校すると、友人たちが口々に挨拶をしてきた。美月も挨拶を返しながら、自分の席に着く。友人の一人が感嘆するように声をあげた。
「お、美月、かわいーじゃないその髪型」
「そう?」
「うん、かわいー」
褒められるのは嬉しいけど、誠司の作った髪型が称賛されるのはかなり複雑な気分だ。
昼休み、友人たちと廊下を歩いていたら、階段脇に誠司が見えた。美月は慌てて友人の背中に隠れる。
「どうしたのよ、美月」
学校に行ったって遭遇するのだから、やってられない。逃げ場がないとはこのことだ。
「あ、誠司先輩だ。お、隣の美人は……」
「副会長の白鳥先輩だ。お似合いですなー」
友人二人の話を聞いて眉をしかめた。顔がいいからって、あんな美人と、頭のおかしい義兄がお似合いだなんて思えない。
階段を上るために彼らのほうへすたすた歩く。
すれ違う一瞬、誠司がちらとこちらを見た。
美月は目をそらす。
「美月」
声をかけられびくりとした。
「今日義母さん遅いらしいから、夕飯頼める?」
「……わかった」
要するに、晩御飯は二人きりなのだ──最悪。
帰途につく前にスーパーに寄る。夕飯の時間が近いだけあって、店内はなかなか混んでいた。
(なんにしようかな)
誠司の好きなものなんて知らないし。知ってても絶対作らないし。カレーでいいか。
そう思いながら食材を籠にいれていく。
「あ、片岡だ」
唐突に昔の名字を呼ばれた。振り向くと、中学時代の同級生が立っていた。
「あ……久しぶり」
彼はこちらへやってきて、美月が手にしている籠を覗き込む。
「なにお前、料理とかすんの?」
「うん、母親が忙しい時にはね」
「ふーん、なに作るん?」
何気ない会話をしながら買い物をすませ、スーパーを出る。
「そういえば、山田くんはなに買いに来たの?」
「ん?部活帰りに試食。タダだしな!」
「バスケ、まだやってるの?」
「そうなんだよ、毎日練習きつくってさー、ん?あれは……」
美月は山田の視線を追って固まる。
誠司が立っていた。
「ち、違う道行こう」
「え?なんで」
「美月」
かけられた穏やかな声にびくりと足を止める。
「あー!」
いきなり山田が叫んだ。
「やっぱりそーですよね、東高の藍川さんだ! 去年、試合見てました! 2点差なんて、惜しかったっすね!」
そうして、目を輝かせ誠司に近づく。
誠司がこいつはなんだ?という顔をして美月に目をやった。
「元同級生の……山田くん」
「元彼でーす」
余計なことは言うな。美月はそう思いつつ、冷や汗をかく。
誠司が笑顔で言った。
「はじめまして、美月の義兄の誠司です。へえ、中学の時彼氏いたんだ、先こされちゃったな」
「いやー、付き合ったっつっても、押したおそーとしたらビンタされて~そのまんましょーめつですよ、まじこいつ狂暴なんすよねー」
美月はひたすら山田に黙れというサインを送ったが、鈍い彼には通じない。
誠司が目を細めて美月を見た。
「へえ、そうなの」
ぞくりと悪寒が走った。
それから、山田と別れ、二人は無言で帰途についた。何か言ってきそうなものだけど、喋らないから不気味に感じられる。家につくと、誠司はさっさと部屋に引っ込んだ。多分課題があるんだろう。来年には高3だから、もう受験を視野に入れる時期だ。
カレーを作り終えた美月は、彼の部屋をノックする。
少しだけドアを開けた。机に向かっていた藍川誠司が、上体だけこちらに向ける。
「なんだ」
「私、ひかりの散歩してくるから、先に食べてて」
「こんな時間に一人じゃ危ない。明日にしろ」
「ひかりと一緒なら大丈夫よ」
そう言った美月に、無言で圧力をかけてくる。
「……わかったわよ」
ため息をついてドアを閉める。
この家であいつと二人きりのほうがよほど危ないと思う。
誠司は幸いなことに二階で食事をするようだったので、美月は穏やかな気分でカレーを食べることができた。
カレーを食べ終わった美月は、お風呂のお湯を入れにいく。お皿を洗っていたら、誠司が二階から降りてきた。
視線を感じたので、振り返ったら目があう。
「な、なに?」
「──別に」
なんなんだ。
皿を洗い終わってエプロンを取ろうとしたら、手を掴まれた。とたんに体が強ばる。
「っな、に」
「風呂、一緒に入ろうか」
そう囁いて抱き寄せられた。
「っや」
「何もしないから、来い」
手を引かれる。
「や、だ」
力ではかなわない。美月は、すぐに洗面所に引き入れられた。
誠司がシャツを脱ぐ。その動作を見ると、どうしても行為を思い出す。
彼はいつも脱がないけれど。
あの肌の温度は知っている。彼が胎内に入ってきたときの熱も、指先から伝わる温度も、身体がちゃんと覚えている。
美月はぎゅうとエプロンの裾を握った。
「ね……お母さんが帰ってくるかもしれないしっ」
誠司の腕が伸びてきた。ボタンをひとつ外される。
下着をすっとなぞられた。
「脱がされたいのか?」
「っ」
更にボタンを外そうとする手を押さえた。
震える声で言う。
「自分で、脱ぐから」
「聞き分けのいい子は好きだよ」
(私はあんたが大嫌いだ)
シャツを脱ぐと、視線を感じた。美月はスカートを脱いで、ショーツとブラを素早く外す。
誠司を見ないようにして浴室に入る。
さっさと洗ってさっさと出るのだ。
頭を手早く洗ってボディソープをスポンジに出す。
背後から取り上げられた。
「ちょっ」
「洗ってやるよ」
スポンジが体に押し付けられてびくりとした。
泡が背中を上下する感覚にしばらく怯えていたが、妙なことをする気がないとわかってほっとする。
「彼は」
唐突に誠司が口を開く。
「え?」
「山田くんとはどこまでしたんだ?」
「……なんで、そんなこときくの」
「押し倒したらビンタ、つまりその前までは許したってことだろ、キスは?」
美月が黙っていたら、スポンジが身体の前に移動してきた。
「っ」
「したのか聞いてるんだ。答えろ」
乳房を揉むように洗われて、身体が熱くなっていく。
「した、っ」
ふる、と揺れた乳房から離れ、スポンジはぬるぬると胸の谷間から鼠蹊部へと動いた。
「ちょ、や」
「体は触らせたのか?」
「してな、んっ」
スポンジがだんだんと蜜口へと近づいている。だがスポンジは、そこではなく内股をこすった。
泡が花芯に触れ、甘い痺れが走る。
きわどい部分をこすられてぞくぞくする。
逃げをうつ腰を掴まれた。
「あ……や」
「なんでやらせなかったんだ?好きだったんだろ?」
「怖かった、から」
「なにが?」
「だって、まだ、中学生で、っひ」
スポンジが蜜口に触れた。泡とスポンジの感触に、身体が熱くなっていく。スポンジが床に落ちて、背後から密着してきた誠司が、耳元でささやく。
「じゃあ今は……怖くない?」
泡だらけになった身体を押さえつけ、熱いものを擦り付けてくる。美月はきゅ、と足を閉じて侵入を防ぐ。
「や、めて」
かたかた震える美月を見て、誠司がため息をついた。足の間に熱い感触がする。浸入しなかったものが、美月のひだをこすっている。
「あ」
「いいか、美月」
「や、ふ」
美月は声をあげながら、壁にすがりついた。耳介に触れる熱い吐息と、腰を掴む強い力に、無理やり奪われていく感覚。こんなことしたくない。なのに逃げられない。
今だって怖い。
誠司が怖い。こんなことばかりされて、自分がどうなってしまうのかが怖い。
行為が終わったあと、誠司はさっさと身体を流し、風呂から出て行った。美月が風呂から出たら、誠司はいなかった。
部屋へ戻ったのだろうか。
リビングへ行ったら、形のいい頭がソファーに沈んでいた。
寝てるのだろうか? そう思いつつ恐る恐る近づくと、彼は目をつむって寝息を立てていた。
適当に羽織ったらしいシャツははだけている。
こないだ風邪ひいたばっかりのくせに。
和室から毛布を持ってきてかける。
別に誠司の心配をしたわけではない。彼に何かあれば、美月まで割りを食うからだ。
「……ん」
誠司が薄く目を開いた。美月はぎくりと体を固める。
視線がかちあう。
彼は無言で両手を伸ばしてくる。起こせということだろうか?
腕を引いた反動で誠司の顔が近づく。
反らした顎を掴まれた。切れ長の瞳がこちらを見ている。
囁くような声で言う。
「おまえは……僕のものだ」
彼の手が頬を滑り、肩を撫でていく。腕に到達した手のひらが、手首を掴んだ。そのままぎり、と掴まれて、美月は顔をしかめた。
「いっ……」
「他の男には触らせるな」
そう言ってまたソファーに倒れ込む。
すーすー寝息を立てる誠司に呟く。
「……誰があんたのものよ」
掴まれた腕がずき、と痛んだ。
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