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風邪
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「あんたは病気よ」
初めて美月を犯したとき、彼女はそう言った。泣きながら、誠司をにらみながら、かすれる声で言った。
そうなのかもしれないと自分でも思う。性欲を満たしたいのなら自慰でもしていればいいのだ。ニュースで婦女暴行の事件を知るたびにそう思っていた。わざわざリスクを犯すのは馬鹿馬鹿しい。行為をしたことで得られるものなど、一時の快感しかないのだから。
彼女でも作ればいい。そうも思った。それなのに、告白されるたび、誠司は首を横に振った。美月以外の女を見ても、まるでなんとも思わなかった。
美月が他人に笑いかけるだけでイラついた。反面、誠司のせいで泣いている顔を見ると満たされた。美月の言う通り、自分はどこかおかしいのだ。
目覚めたら、なんだか頭がぼうっとすることに気づいた。体調が悪いのだということはわかったが、それよりも登校時間が迫っていることのほうが重要だった。誠司は、人生で遅刻をしたことが一度もなかった。
だから、洗面所ですれ違った美月が、怪訝な顔で見てきた時も気にしなかった。当然のごとく、朝だろうが夜だろうが、美月と誠司の間に挨拶はない。台所に向かうと、美月の母親が笑顔を向けてきた。
「おはよう、誠司くん」
「おはようございます、あさひさん」
誠司も笑みを返す。彼女はうっとりとこちらを見て、
「私の息子ながら今日もカッコいいわ~」
美月がすかさず言った。
「息子じゃないでしょ、義理の息子だよ。こんなやつと血が繋がってたらたまんない」
「美月ってば、妬いてるの? もちろん美月もかわいいわよ」
あさひが美月の頭を撫でる。美月は照れ臭そうに彼女の手を退けさせた。
「もう、遅刻するよ」
「あ、こんな時間。私、もう行くね。美月、お皿食洗機入れといて」
「うん」
あさひは病院に勤務していて、帰りがいつも遅い。誠司の父親は二カ月前から単身赴任だ。二人がいない夜が多すぎたことも、自分の行動に拍車をかけたのかもしれない。あさひがいなくなった台所は、ひどくしん、としていた。食器がカチャカチャ鳴る音だけが響いている。
「美月、しょうゆをとってくれ」
美月はそれを無視し、こう言った。
「母さんに言ってやりたい、あんたがしてること」
「言えばいいだろう」
美月がきっ、とこちらを睨んできた。
「ハサミで脅したくせに」
「脅されたくらいで怯えるから悪い」
「最悪。クズ」
彼女は勢いよく席をたち、食器を片付け始めた。肩まである茶髪は染めたものではなく、天然だ。スタイルは悪くないが、顔は十人並みで、愛嬌はあるが美人ではない。彼女の後ろに立つと、かすかに背中が緊張したのがわかった。
「なによ、自分のぶんは自分でやって、っ」
背後から抱きしめたら、美月がかすかに震えた。耳元にささやく。
「今日は随分生意気だな。犬を飼うのを許してやったからって調子に乗ってるのか?」
「調子に乗るってなによ。あんたに、許されたつもりない。ここは、私の家だもん」
確かに、この家はあさひの持ち家だ。父親の転勤が多いから、誠司はずっと仮家住まいだった。
高校が近いこともあり、再婚を機に父親は単身赴任することを決め、誠司をこの家に残したのだ。そのために再婚したのかと思うほどだった。
彼女のすらりとした身体をシンクに押しつけ、制服のスカートをめくりあげた。美月がかあっと赤くなる。
「やだ、離して」
彼女が履いているショーツには、可愛らしいくまのプリントがしてあった。
「子供みたいな下着だな」
「しね、ふ」
下着の上から柔らかい部分を撫でると、びく、と身体が揺れる。下着の中に手を入れたら、かすかに濡れていた。
「だ、め」
「濡れてる」
「っ」
動けないようにシンクに押しつけ、顎を掴んで唇を奪う。舌を絡めたら、びくりと肩が揺れる。
美月の熱くなった部分をまさぐっていたら、瞳がだんだん潤んできた。とろとろと溢れてきた愛液を花芯にこすりつけると、耐えきれないというように首を振った。ぞくぞくする。だが同時に、頭がぼうっとして、奇妙な感覚があった。唇を離して、咳き込む。
美月は、その隙をついて、べしっ、と腕を叩き、脇をすり抜けた。自分の濡れた指をながめ、
「……何やってるんだ」
とつぶやいた。
玄関で靴を履いていたら、背中に何か当たる。首を後ろに向けたら、体温計が落ちていた。
振り向くと、美月が階段の影に隠れてこちらを見ていた。
「なにやってるんだ?」
「あ、あんた、熱測った?」
「測ってない」
「測りなさいよ」
「なぜ」
「なぜって……具合、悪そうだから」
「なるほど、僕を心配しているわけか」
「なっ」
「余計な世話だ」
「なっ」
美月を放置し玄関を出た瞬間、犬がまとわりついてきた。
蹴飛ばしてやろうかと思ったが、体中の関節が妙に痛かったのでやめた。
学校についた頃には悪寒がひどくて、、もしかしたら自分は風邪をひいているのかもしれないと思いあたった。しかも、恐らく熱がある。しゃくだが、美月が正しかったわけだ。
誠司は、まあこのまま帰ればいいと思い、荷物をまとめだした。
「あ、藍川。生徒会のポスターのことでさー」
「藍川、マラソン大会のメンバー表って作ったっけ?」
「藍川ー」
狙ったかの如くわあわあと自分を呼ぶ声に苛立つ。
こっちは体調が悪いのだ。
だが誠司はおくびにも出さずにこりと笑う。
これだからストレスがたまるのだ。昔から優等生として生きてきた。なんでもできるから、押し付けられることに重圧を感じないだろうと周りは思ったようで、誠司も弱みなど見せまいとしてきた。
だが平気ではなかったのだ、恐らくは。
理科室に備品をとりにいくためよろよろ歩く。
頼むから今、目の前に誰も現れないでくれ。殴るかあるいは暴言を吐きそうだ。
そう思いながら理科室のドアをあけた。
目の前に見知った顔が現れる。
茶色い髪。丸い瞳。片手には教科書を持っている。忘れ物でもしたのだろうか。
「あ、あんた」
「……美月」
そうつぶやいた直後、引き戸を思い切り閉めた。
「な、にっ」
無言で彼女の身体を壁に押し付け、唇を奪う。
「んっ……」
スカートの下に手を這わせたら、美月はびくりと肩を震わした。
「な、に考えてんのよこんなとこで」
動揺するように誠司のブレザーを掴んだ彼女の耳元で囁く。
「口でも手でもいい、しろ」
「え、や、っ」
身体を密着させると美月が息を飲む。
そっと首筋に手のひらをあてられ誠司は目を見開いた。
彼女から接触してくることなどほとんどないからだ。
「あんた……すごく熱いわよ」
美月は誘い文句など口にはしない。ということは比喩ではないのだ。
そう思ったら急にだるさが押し寄せた。
「ちょっと、誠司!?」
相変わらずおにいちゃん、とは呼ばないのだ、キョウダイなのに──。
そう思いつつ、意識を手放した。
次に目をさますと、目の前に犬の顔があった。
「……」
つかみあげ、床に投げて起き上がる。
あたりを見回す。どうやら自室のようだが。
足音がしたと思ったら唐突にドアが開いた。
美月が床に転がった犬を見て、目を吊り上げて憤慨する。
「あ、ひかり!ちょっと!ひかりにひどいことしないでよ」
前から思ってたが、いずれ手放す犬に名前をつけてどうするのだろう。
「なんでその犬が中にいるんだ」
「この子あんたのこと心配して鳴いてたんだからね!ったく!」
犬が美月の腕の中でクウンと鳴く。
犬が人間の心配なんてするか。藍川は冷めた感想を抱きつつ尋ねた。
「美月、学校はどうした」
美月は渋い顔をする。
「あんたを保健室連れてったら、先生に「当然あなたも早退するのよね」みたいな目で見られたのよ……はあ、なんでみんなあんたみたいな外面人間に騙されてんだろ」
「そりゃ外面しか見てないからだろ」
誠司は咳き込んだ。美月が心配げにこちらを見ている。そんな目で見られたくなかった。
「僕は寝てればなおるから、放っとけ」
「一応、薬とご飯……」
美月はおずおずお盆を差し出す。そんなに怯えるならしなければいいのに。お人好し。
「置いとけ」
「じゃあ、私自分の部屋にいるから」
美月は部屋を出ていった。
「──で、なんでお前はいるんだ?」
犬に尋ねてみた。
犬はパタパタ尻尾をふる。
なんだかしらないが、なつかれたらしい。
うっとおしいが、追い出す元気がない。うるさくしたら即座に蹴りだしてやろう。
誠司は、入り口に置かれたトレーを取るため立ち上がった。
ベッドから降りた瞬間床に倒れる。とたんに犬が吠え出した。
「なに? どうし……あ」
再びドアから顔をのぞかせた美月は笑ってもいいのか微妙な顔をした。
「……起こせ」
「う、うん」
美月は、誠司の身体を支えるために腕を回す。
柔らかい身体が近くにある。さらさらした髪が頬にあたる。
最近、彼女を抱いてない。さっきだって未遂に終わった。だが今そんな体力はない。
ちら、と床にいる毛玉を見る。なんとなく、この犬に随時邪魔されてる気がするのだ。
おとなしく寝た誠司に安堵したのか、美月はトレーをもってきてスプーンを差し出す。
「なんだ」
「食べないと薬飲めないから」
「随分親切だな」
「病人には優しくするものだよ」
「普段から優しくしてもらいたいね」
「あんたに比べれば優しいし」
一口食べては話す。軽口を叩きあうのは珍しい。いつも会話などしないからだ。
じっと彼女を見たら、素早く目をそらした。
「……みないで。きもい」
「兄に向かってその言い草はなんだ」
「誰が兄よ。兄があんなこと」
美月は言いかけて、口をつぐんだ。沈黙が落ちる。家族団欒なんて、美月と誠司には不可能だ。
「美月、もういい。自分の部屋に行ってろ。あと、その犬をつれてけ」
「でも」
「早く」
睨むとびくりとして立ち上がる。彼女の腕の中から犬が見てきた。そのつぶらな瞳に苛立って目をそらした。
しばらくまどろんで、眠りに落ちていたんだろう。
暗い視界の中冷たいものがあてられた。
首筋にあたったそれを握り締める。──手?
うっすら視界を開けると、困惑した顔の美月がこちらを見ていた。
「大丈夫?熱は下がったみたいだけど」
なぜいるのだ。彼女は誠司を憎んでいるはずなのに。そうでなければおかしいのに。彼女の腕を掴み、ぐいと引き寄せたら、簡単に倒れこんできた。とたんに暴れだす。
「ちょ、やだ」
「……寒いんだ」
「え」
「暖めろ」
「……っ」
細い腰を撫でたら、その腕をつかんで抵抗を示す。抗っているようには思えない、弱い力。
両肩をつかんで反転させたら、彼女の体がシーツに沈んだ。
簡単に──。さっきは力を入れることすらできなかったのに。確かに熱が下がったんだろう。
もがく肩をぎり、と掴んだら美月が怯えた顔で首をふる。
「や、めて」
「優しくするんだろ、病人には……お前は目を閉じてればいい、そうすればすぐ終わる」
「や、あ」
唇を首筋に押し付けて舐める。
制服のスカートの下に手を入れて内股を撫でたら、ひきつるような声を出した。
「っあ……」
はだけさせたシャツから露になった白い肌が上気する。明るい部屋の中で見下ろすそれは、予想以上に扇情的だった。ブラのホックを外し、柔らかく揉みながら、乳首に舌を這わせた。
誠司の愛撫に耐えながら、美月がか細い声で言う。
「っふ……ひかり」
誠司は思わず笑ってしまう。
「犬を呼んでどうするんだ」
「なんで、こんなことするの」
潤んだ瞳。おそらく快感のせいではない涙が滲む。
恩をあだで返された、とでも思ってるんだろうか、甘い女。誠司がどういう人間か知っているくせに。
「さあ、なんでだと思う?」
「あ」
下着のなかに手を入れて、秘所をなぞったら、美月が身体を固くした。かすかに熱くなり、じんわりと濡れている。誠司は花芯をこすり、彼女が快感を得るようにうながした。
「っや、あ」
「理由が必要か? こんなに近くに女がいて」
蜜口に挿入した指をゆっくり動かす。
「っん、あ」
「無防備に肌を見せてるのに」
「そんな、ことしてな……あ、や、あっ」
指をぐる、とまわしたら、悲鳴のような声がしんとした部屋に響いた。羞恥で真っ赤になった耳に囁く。
「嫌がってるわりには声が大きい」
「っあんたなんか大嫌い」
「知ってるよ。初めて会った時から、お前は僕を嫌ってた」
親同士に引き合わされる前に、美月は誠司の本性を知っていた。あの河原で、犬を溺れさせようとした自分を、睨んできた、三角の瞳で。そんな人間は初めてだった。
学校で友人に向ける笑顔、明るい笑い声、気づいたのだ、彼女は誠司だけにあの瞳を向ける。
それにイラついて──。
ある晩、彼女を襲ったのだ。
そう、全部美月が悪いのだ。
指を引き抜いてジッパーをおろし、蜜口に性器を押し付ける。美月が怯えた顔をした。
「まっ……ちゃんと、避妊、して」
犯されることに慣れた彼女は妊娠の心配するのだ。かわいそうに。
もう守るべき貞操は奪われているから。
そんなことを言っても誠司がそうするわけがないと知っているくせに。
彼女の嫌がることが好きなのだから。
「久しぶりだから……つけないでしようか」
腰を推し進めたらず、と性器が中に入る。
「あ、やっ」
美月は唐突に与えられた圧迫感に震える。誠司は息を吐いた。
「入った。わかる?」
「っひ」
美月が顔を覆おうとしたので腕を掴んで、ぐい、と開かせた。
「っ、や」
頬を涙が伝う。
「泣いてるのか?」
「いや……見ないで、あ」
緩やかに腰を動かすと美月が息をつめた。
「あ、んっ」
誠司を嫌っているくせに。
「や、あっ」
瞳を潤ませて、白い肌を染めて、高い声を上げて、痛いくらいに締め付けてくる美月が悪いのだ。自分本意なことを、頭の中で言い聞かせる。
誠司は、腰を押し付けながら彼女の顎を掴んだ。
「美月、僕を見ろ」
「っ、ひ、せんぱ……いや」
「名前で呼べ」
「せい、じ、やめ、あ」
ぐちゅ、と抽送を強める。
ギシギシ鳴るベッドに投げ出された彼女の体が揺れる。
耐えきれないとでも言うようにしがみついてきた。
誠司の耳元に泣き声混じりの声が響く。
「っ、おにいちゃ、ん」
誠司は動きを止めた。美月のすすり泣きだけが部屋を満たす。
美月の部屋から犬の声が聞こえる。誠司を責めるように鳴いている。耳障りだ。やっぱり犬など認めなければよかった。犬がいようといまいと、自分たちの関係は変わらない。変わることなどないのだ。
流れた涙を舐めとった。
「泣くなよ、鳴け」
「あっ」
美月の身体を抱きしめて揺さぶる。
「あ、あ、あ」
部屋をぐちゅぐちゅという卑猥な音とあえかな喘ぎ声が満たす。
開いた唇に誘われるように口付ける。
下がったはずの熱がまた上昇したかのように、ぼんやりした誠司の頭は、美月の中で達する快感だけを求めていた
初めて美月を犯したとき、彼女はそう言った。泣きながら、誠司をにらみながら、かすれる声で言った。
そうなのかもしれないと自分でも思う。性欲を満たしたいのなら自慰でもしていればいいのだ。ニュースで婦女暴行の事件を知るたびにそう思っていた。わざわざリスクを犯すのは馬鹿馬鹿しい。行為をしたことで得られるものなど、一時の快感しかないのだから。
彼女でも作ればいい。そうも思った。それなのに、告白されるたび、誠司は首を横に振った。美月以外の女を見ても、まるでなんとも思わなかった。
美月が他人に笑いかけるだけでイラついた。反面、誠司のせいで泣いている顔を見ると満たされた。美月の言う通り、自分はどこかおかしいのだ。
目覚めたら、なんだか頭がぼうっとすることに気づいた。体調が悪いのだということはわかったが、それよりも登校時間が迫っていることのほうが重要だった。誠司は、人生で遅刻をしたことが一度もなかった。
だから、洗面所ですれ違った美月が、怪訝な顔で見てきた時も気にしなかった。当然のごとく、朝だろうが夜だろうが、美月と誠司の間に挨拶はない。台所に向かうと、美月の母親が笑顔を向けてきた。
「おはよう、誠司くん」
「おはようございます、あさひさん」
誠司も笑みを返す。彼女はうっとりとこちらを見て、
「私の息子ながら今日もカッコいいわ~」
美月がすかさず言った。
「息子じゃないでしょ、義理の息子だよ。こんなやつと血が繋がってたらたまんない」
「美月ってば、妬いてるの? もちろん美月もかわいいわよ」
あさひが美月の頭を撫でる。美月は照れ臭そうに彼女の手を退けさせた。
「もう、遅刻するよ」
「あ、こんな時間。私、もう行くね。美月、お皿食洗機入れといて」
「うん」
あさひは病院に勤務していて、帰りがいつも遅い。誠司の父親は二カ月前から単身赴任だ。二人がいない夜が多すぎたことも、自分の行動に拍車をかけたのかもしれない。あさひがいなくなった台所は、ひどくしん、としていた。食器がカチャカチャ鳴る音だけが響いている。
「美月、しょうゆをとってくれ」
美月はそれを無視し、こう言った。
「母さんに言ってやりたい、あんたがしてること」
「言えばいいだろう」
美月がきっ、とこちらを睨んできた。
「ハサミで脅したくせに」
「脅されたくらいで怯えるから悪い」
「最悪。クズ」
彼女は勢いよく席をたち、食器を片付け始めた。肩まである茶髪は染めたものではなく、天然だ。スタイルは悪くないが、顔は十人並みで、愛嬌はあるが美人ではない。彼女の後ろに立つと、かすかに背中が緊張したのがわかった。
「なによ、自分のぶんは自分でやって、っ」
背後から抱きしめたら、美月がかすかに震えた。耳元にささやく。
「今日は随分生意気だな。犬を飼うのを許してやったからって調子に乗ってるのか?」
「調子に乗るってなによ。あんたに、許されたつもりない。ここは、私の家だもん」
確かに、この家はあさひの持ち家だ。父親の転勤が多いから、誠司はずっと仮家住まいだった。
高校が近いこともあり、再婚を機に父親は単身赴任することを決め、誠司をこの家に残したのだ。そのために再婚したのかと思うほどだった。
彼女のすらりとした身体をシンクに押しつけ、制服のスカートをめくりあげた。美月がかあっと赤くなる。
「やだ、離して」
彼女が履いているショーツには、可愛らしいくまのプリントがしてあった。
「子供みたいな下着だな」
「しね、ふ」
下着の上から柔らかい部分を撫でると、びく、と身体が揺れる。下着の中に手を入れたら、かすかに濡れていた。
「だ、め」
「濡れてる」
「っ」
動けないようにシンクに押しつけ、顎を掴んで唇を奪う。舌を絡めたら、びくりと肩が揺れる。
美月の熱くなった部分をまさぐっていたら、瞳がだんだん潤んできた。とろとろと溢れてきた愛液を花芯にこすりつけると、耐えきれないというように首を振った。ぞくぞくする。だが同時に、頭がぼうっとして、奇妙な感覚があった。唇を離して、咳き込む。
美月は、その隙をついて、べしっ、と腕を叩き、脇をすり抜けた。自分の濡れた指をながめ、
「……何やってるんだ」
とつぶやいた。
玄関で靴を履いていたら、背中に何か当たる。首を後ろに向けたら、体温計が落ちていた。
振り向くと、美月が階段の影に隠れてこちらを見ていた。
「なにやってるんだ?」
「あ、あんた、熱測った?」
「測ってない」
「測りなさいよ」
「なぜ」
「なぜって……具合、悪そうだから」
「なるほど、僕を心配しているわけか」
「なっ」
「余計な世話だ」
「なっ」
美月を放置し玄関を出た瞬間、犬がまとわりついてきた。
蹴飛ばしてやろうかと思ったが、体中の関節が妙に痛かったのでやめた。
学校についた頃には悪寒がひどくて、、もしかしたら自分は風邪をひいているのかもしれないと思いあたった。しかも、恐らく熱がある。しゃくだが、美月が正しかったわけだ。
誠司は、まあこのまま帰ればいいと思い、荷物をまとめだした。
「あ、藍川。生徒会のポスターのことでさー」
「藍川、マラソン大会のメンバー表って作ったっけ?」
「藍川ー」
狙ったかの如くわあわあと自分を呼ぶ声に苛立つ。
こっちは体調が悪いのだ。
だが誠司はおくびにも出さずにこりと笑う。
これだからストレスがたまるのだ。昔から優等生として生きてきた。なんでもできるから、押し付けられることに重圧を感じないだろうと周りは思ったようで、誠司も弱みなど見せまいとしてきた。
だが平気ではなかったのだ、恐らくは。
理科室に備品をとりにいくためよろよろ歩く。
頼むから今、目の前に誰も現れないでくれ。殴るかあるいは暴言を吐きそうだ。
そう思いながら理科室のドアをあけた。
目の前に見知った顔が現れる。
茶色い髪。丸い瞳。片手には教科書を持っている。忘れ物でもしたのだろうか。
「あ、あんた」
「……美月」
そうつぶやいた直後、引き戸を思い切り閉めた。
「な、にっ」
無言で彼女の身体を壁に押し付け、唇を奪う。
「んっ……」
スカートの下に手を這わせたら、美月はびくりと肩を震わした。
「な、に考えてんのよこんなとこで」
動揺するように誠司のブレザーを掴んだ彼女の耳元で囁く。
「口でも手でもいい、しろ」
「え、や、っ」
身体を密着させると美月が息を飲む。
そっと首筋に手のひらをあてられ誠司は目を見開いた。
彼女から接触してくることなどほとんどないからだ。
「あんた……すごく熱いわよ」
美月は誘い文句など口にはしない。ということは比喩ではないのだ。
そう思ったら急にだるさが押し寄せた。
「ちょっと、誠司!?」
相変わらずおにいちゃん、とは呼ばないのだ、キョウダイなのに──。
そう思いつつ、意識を手放した。
次に目をさますと、目の前に犬の顔があった。
「……」
つかみあげ、床に投げて起き上がる。
あたりを見回す。どうやら自室のようだが。
足音がしたと思ったら唐突にドアが開いた。
美月が床に転がった犬を見て、目を吊り上げて憤慨する。
「あ、ひかり!ちょっと!ひかりにひどいことしないでよ」
前から思ってたが、いずれ手放す犬に名前をつけてどうするのだろう。
「なんでその犬が中にいるんだ」
「この子あんたのこと心配して鳴いてたんだからね!ったく!」
犬が美月の腕の中でクウンと鳴く。
犬が人間の心配なんてするか。藍川は冷めた感想を抱きつつ尋ねた。
「美月、学校はどうした」
美月は渋い顔をする。
「あんたを保健室連れてったら、先生に「当然あなたも早退するのよね」みたいな目で見られたのよ……はあ、なんでみんなあんたみたいな外面人間に騙されてんだろ」
「そりゃ外面しか見てないからだろ」
誠司は咳き込んだ。美月が心配げにこちらを見ている。そんな目で見られたくなかった。
「僕は寝てればなおるから、放っとけ」
「一応、薬とご飯……」
美月はおずおずお盆を差し出す。そんなに怯えるならしなければいいのに。お人好し。
「置いとけ」
「じゃあ、私自分の部屋にいるから」
美月は部屋を出ていった。
「──で、なんでお前はいるんだ?」
犬に尋ねてみた。
犬はパタパタ尻尾をふる。
なんだかしらないが、なつかれたらしい。
うっとおしいが、追い出す元気がない。うるさくしたら即座に蹴りだしてやろう。
誠司は、入り口に置かれたトレーを取るため立ち上がった。
ベッドから降りた瞬間床に倒れる。とたんに犬が吠え出した。
「なに? どうし……あ」
再びドアから顔をのぞかせた美月は笑ってもいいのか微妙な顔をした。
「……起こせ」
「う、うん」
美月は、誠司の身体を支えるために腕を回す。
柔らかい身体が近くにある。さらさらした髪が頬にあたる。
最近、彼女を抱いてない。さっきだって未遂に終わった。だが今そんな体力はない。
ちら、と床にいる毛玉を見る。なんとなく、この犬に随時邪魔されてる気がするのだ。
おとなしく寝た誠司に安堵したのか、美月はトレーをもってきてスプーンを差し出す。
「なんだ」
「食べないと薬飲めないから」
「随分親切だな」
「病人には優しくするものだよ」
「普段から優しくしてもらいたいね」
「あんたに比べれば優しいし」
一口食べては話す。軽口を叩きあうのは珍しい。いつも会話などしないからだ。
じっと彼女を見たら、素早く目をそらした。
「……みないで。きもい」
「兄に向かってその言い草はなんだ」
「誰が兄よ。兄があんなこと」
美月は言いかけて、口をつぐんだ。沈黙が落ちる。家族団欒なんて、美月と誠司には不可能だ。
「美月、もういい。自分の部屋に行ってろ。あと、その犬をつれてけ」
「でも」
「早く」
睨むとびくりとして立ち上がる。彼女の腕の中から犬が見てきた。そのつぶらな瞳に苛立って目をそらした。
しばらくまどろんで、眠りに落ちていたんだろう。
暗い視界の中冷たいものがあてられた。
首筋にあたったそれを握り締める。──手?
うっすら視界を開けると、困惑した顔の美月がこちらを見ていた。
「大丈夫?熱は下がったみたいだけど」
なぜいるのだ。彼女は誠司を憎んでいるはずなのに。そうでなければおかしいのに。彼女の腕を掴み、ぐいと引き寄せたら、簡単に倒れこんできた。とたんに暴れだす。
「ちょ、やだ」
「……寒いんだ」
「え」
「暖めろ」
「……っ」
細い腰を撫でたら、その腕をつかんで抵抗を示す。抗っているようには思えない、弱い力。
両肩をつかんで反転させたら、彼女の体がシーツに沈んだ。
簡単に──。さっきは力を入れることすらできなかったのに。確かに熱が下がったんだろう。
もがく肩をぎり、と掴んだら美月が怯えた顔で首をふる。
「や、めて」
「優しくするんだろ、病人には……お前は目を閉じてればいい、そうすればすぐ終わる」
「や、あ」
唇を首筋に押し付けて舐める。
制服のスカートの下に手を入れて内股を撫でたら、ひきつるような声を出した。
「っあ……」
はだけさせたシャツから露になった白い肌が上気する。明るい部屋の中で見下ろすそれは、予想以上に扇情的だった。ブラのホックを外し、柔らかく揉みながら、乳首に舌を這わせた。
誠司の愛撫に耐えながら、美月がか細い声で言う。
「っふ……ひかり」
誠司は思わず笑ってしまう。
「犬を呼んでどうするんだ」
「なんで、こんなことするの」
潤んだ瞳。おそらく快感のせいではない涙が滲む。
恩をあだで返された、とでも思ってるんだろうか、甘い女。誠司がどういう人間か知っているくせに。
「さあ、なんでだと思う?」
「あ」
下着のなかに手を入れて、秘所をなぞったら、美月が身体を固くした。かすかに熱くなり、じんわりと濡れている。誠司は花芯をこすり、彼女が快感を得るようにうながした。
「っや、あ」
「理由が必要か? こんなに近くに女がいて」
蜜口に挿入した指をゆっくり動かす。
「っん、あ」
「無防備に肌を見せてるのに」
「そんな、ことしてな……あ、や、あっ」
指をぐる、とまわしたら、悲鳴のような声がしんとした部屋に響いた。羞恥で真っ赤になった耳に囁く。
「嫌がってるわりには声が大きい」
「っあんたなんか大嫌い」
「知ってるよ。初めて会った時から、お前は僕を嫌ってた」
親同士に引き合わされる前に、美月は誠司の本性を知っていた。あの河原で、犬を溺れさせようとした自分を、睨んできた、三角の瞳で。そんな人間は初めてだった。
学校で友人に向ける笑顔、明るい笑い声、気づいたのだ、彼女は誠司だけにあの瞳を向ける。
それにイラついて──。
ある晩、彼女を襲ったのだ。
そう、全部美月が悪いのだ。
指を引き抜いてジッパーをおろし、蜜口に性器を押し付ける。美月が怯えた顔をした。
「まっ……ちゃんと、避妊、して」
犯されることに慣れた彼女は妊娠の心配するのだ。かわいそうに。
もう守るべき貞操は奪われているから。
そんなことを言っても誠司がそうするわけがないと知っているくせに。
彼女の嫌がることが好きなのだから。
「久しぶりだから……つけないでしようか」
腰を推し進めたらず、と性器が中に入る。
「あ、やっ」
美月は唐突に与えられた圧迫感に震える。誠司は息を吐いた。
「入った。わかる?」
「っひ」
美月が顔を覆おうとしたので腕を掴んで、ぐい、と開かせた。
「っ、や」
頬を涙が伝う。
「泣いてるのか?」
「いや……見ないで、あ」
緩やかに腰を動かすと美月が息をつめた。
「あ、んっ」
誠司を嫌っているくせに。
「や、あっ」
瞳を潤ませて、白い肌を染めて、高い声を上げて、痛いくらいに締め付けてくる美月が悪いのだ。自分本意なことを、頭の中で言い聞かせる。
誠司は、腰を押し付けながら彼女の顎を掴んだ。
「美月、僕を見ろ」
「っ、ひ、せんぱ……いや」
「名前で呼べ」
「せい、じ、やめ、あ」
ぐちゅ、と抽送を強める。
ギシギシ鳴るベッドに投げ出された彼女の体が揺れる。
耐えきれないとでも言うようにしがみついてきた。
誠司の耳元に泣き声混じりの声が響く。
「っ、おにいちゃ、ん」
誠司は動きを止めた。美月のすすり泣きだけが部屋を満たす。
美月の部屋から犬の声が聞こえる。誠司を責めるように鳴いている。耳障りだ。やっぱり犬など認めなければよかった。犬がいようといまいと、自分たちの関係は変わらない。変わることなどないのだ。
流れた涙を舐めとった。
「泣くなよ、鳴け」
「あっ」
美月の身体を抱きしめて揺さぶる。
「あ、あ、あ」
部屋をぐちゅぐちゅという卑猥な音とあえかな喘ぎ声が満たす。
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