シスターはヤクザに祈る

あた

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ヤクザと煩悩(2)※

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数分後、阿久津の車がスーパーの駐輪場に滑り込んできた。タイヤが擦り切れるのではないかというほどに激しいブレーキ音に、視線が集まっている。彼は窓から顔を出し、
「乗れ」
「もう少し静かに来られないんですか?」
「は?」

 阿久津はきょとんとしている。どうやらうるさいという自覚がないらしい。私は車に乗り込み、ダッシュボードに置かれたがま口にちらりと目をやった。これを奪ってダッシュで逃げる……には、彼の足は速すぎる。

 車の中はタバコの匂いがした。ずっと乗っていたら、気分が悪くなりそうだ。
 シートベルトを付けようと四苦八苦していたら、ふわり、と甘い匂いが漂った。阿久津の香水の香りだろう。思わず息を詰める。鋭い瞳がふっ、とこちらを見たので、慌ててそらした。

「なに見てんだよ」
「べつに、みてません」
 阿久津はかちゃりとシートベルトを締めて、身を引いた。匂いが薄くなって、ふ、と息を吐く。阿久津は馬鹿にしたように、
「シスターさまはシートベルトも締められねえの?」
「こんな大きな車に乗ったことがないので」

 だいたい、日本の道は狭いのだ。こんな大きな車に乗るのは迷惑ではないだろうか。ああ、ヤクザはそんなこと気にしないか。阿久津はギアを入れ、車を急発進させた。
「ひいっ」
 私はシートに頭をぶつけ、うう、とうめく。
「いきなり発進しないでください!」
「徐々に発進できねえよ、バーカ」

 なんて人だ、ほんとに。私は買い物カゴをぎゅっと抱きしめ、窓の外へ目をやる。

「なあ、朝から晩まであんなとこで働いて、だるくねえの。自由な時間もなくて、男とも付き合えねえんだろ」
「信仰を守るためですから。働くのも祈りの一環です」
「信じらんねえ」
「あなたのように乱れた生活をしている人には信じられないでしょうね」
「おまえもたまには乱れてみれば」

 阿久津は車を止め、ハンドルに顎を持たせかけた。こちらに視線を向け、口元を緩める。長い指先が、私の首筋に伸びてくる。私はその手をパシッと叩いた。
「イテ」
 彼は唇を尖らして、猫かおまえは、と言っている。
「あなたは──未熟な私のため、神が遣わした試練かもしれません」
「は?」
 私はロザリオを握りしめ、阿久津を見つめた。
「神よ、かの人の汚れた魂を鎮めたまえ」
「誰が汚れた魂だ」

 阿久津の手を取り、ロザリオを握りこませる。自分の手を重ね、目を閉じた。
「心が浄化されませんか?」
「おまえの手、超柔らかいな」
「……煩悩を捨てなさい」
 私が青筋を立てたら、阿久津がロザリオを離した。
「あっ」
 私が慌ててロザリオをキャッチしたら、阿久津が身を寄せてきた。

「っきゃ」
 逆に手を絡めとられ、シートに押し付けられる。
「女に触って煩悩消せってどんな矛盾だよ」
「ですから、女性に触れたからと言ってすぐに淫らな感情を抱くのはよくないと私は」
「うるせえ」
 阿久津が私の首筋に顔を埋めた。
「!」
「石鹸の匂いする」
 くんくん匂いをかがれ、ひどく恥ずかしくなった。

「は、離れてください」
「なんで」
「なんでって、この距離は不適切です」
「俺は大体女と会ったらこの距離だよ」
「ハレンチな」
「ほんとにハレンチなことしてやろうか」
「片手でなにができるというんですか」

 阿久津はギプスから手をするりと引き抜いて、私の胸元に這わせた。
「!」
 まったく負傷している様子が見られない。阿久津は悪い笑みを浮かべて、
「こっちは裏稼業だからな。診断書なんかいくらでも手に入る」
「嘘をついたんですか!」
「嘘はついてねえよ。叩かれて痛かったし」
「痛いのと骨が折れたのじゃ全然違います! この詐欺師!」
「おまえほんとうるさい」
 阿久津が私の唇を塞いだ。

「ん、っ」
 阿久津は私の胸を包んで、柔らかく揉んだ。
「あ」
「どうやって脱がすわけ? これ」
「や、やめてください」
 彼は修道女服に手をかけた。私が足を動かそうとしたら、するりとスカートの下に手を入れてくる。
「あっ」
「なんか、見えないのが逆にエロいかもな」

 さわさわとストッキングの上から足を触られて、私は真っ赤になった。
「いや、さわらないで、へんたい!」
 ぐっと身体を寄せられると、身動きがとれなくなって身体が震える。
「震えてんのか。かわいいじゃん」
 阿久津は私の耳を軽く噛んで、舌を這わせた。
「ひゃっ」
「あんたの耳、真っ白。首も。身体もさぞ白いんだろうな」

 耳をなぶった舌が、首筋へと落ちて、ちゅう、と口付けを落とした。ももの外側を撫でていた阿久津の掌が、内股に滑り込んでくる。私はびくりとしてその手を掴んだ。

「足開けよ」
「い、いやです」
 阿久津は目を細め、また耳を食んだ。ちゅう、と耳介を吸われて、思わず足を開いてしまう。指先が奥にもぐりごみ、ショーツの上からゆっくりくすぐるようにうごいた。

「いや……阿久津さ」
「その顔エロい」
 阿久津は囁いて、私のショーツに指先を滑り込ませた。蜜口に指が触れる。
「あ」
「硬いな。ほんとにオナってないんだ」
「や……」

 私は震えながら阿久津を見た。阿久津は目を細めて、私の唇を奪う。ぬる、と唇を舐めた舌が、口の中に入ってきた。ちゅく、と口内を犯される。
「う、あ」
 阿久津の指先は私の茂みをかき分けて、ぷくりとした部分にたどり着いた。指先で転がされると、背中に痺れが走る。

「あ、あ」
 私がびくびく震えたら、阿久津が首もとに顔を埋めながらささやく。
「すっげやらしい」
「だめ、そこさわらないで」
「ぬるぬるしてきた。感じてんだろ?」
「い、や」
 指先がそこをいじるたびに、じわじわと未知の感覚が押し寄せた。

「ここなんていうか知ってる?」
「知り、ません」
「クリ気持ちいいです、って言えよ」
「いや、です」
「知ってんじゃん。ほんとは自分でいじったことあるんじゃねえの」
「そんなこと、しない、あ」 

 阿久津の指先が、ぷくりとした部分から蜜口に移動した。押し広げられて、かすかに痛みが走った。身体が緊張する。
「あ、だ、め」
「指は無理か」
 阿久津がごそごそ頭を下げたので、私は慌ててその頭を押さえた。
「何してるんですか!」
「舐めてやるよ」
「いや、そんな……っ」

 黒い頭が足の間に埋まり、私は悲鳴をあげた。あらぬ部分に、舌の感触がする。いや。恥ずかしい。私が涙をにじませたら、阿久津が顔をあげた。

「泣くなよ」
「ばか、あなたなんて嫌いです」
「おまえ、なんかかわいいな」
 阿久津が微笑んで、私に口付けた。濡れた部分に指が這う。
「あ」
「なあ、シスター辞めて俺の女になれよ」
「いや、です」
「なんで。気持ちいいことできんのに」
「私は快楽に溺れたりは、ふ、あ」

 指先が突起を摘んだ。頭の奥がじん、とする。阿久津は突起をいじりながら囁いて来た。
「そうやって感じてる方がかわいいのに」
「だ、め」
「もういきたいのか」
「お願いします、もう、やめて」
「いかせてって言えよ」

 そんなこと、言えるわけがない。私は目を瞑り、ロザリオをぎゅっと握りしめた。阿久津は私の目元にちゅっと口付け、
「仕方ねえな。今日は勘弁してやる」
 今日は、ってどういう意味なんだ。阿久津の指先が、突起を強く擦った。

「ん、っ……」
 私はびくびく震えて、阿久津のシャツにしがみつく。彼は私の頭をひと撫でして、ダッシュボードから婚姻届を取り出した。
「よし。初めてイった記念にサインし」
「誰がしますかっ!」
 私は思いっきり阿久津のほほを叩き、がま口財布を奪取して素早く車から降りた。


「ただいま帰りました」
 スーパーに自転車を取りに戻ったあと、修道院に帰ったら、すでに三時を過ぎてしまっていた。食事係のシスターが近づいてくる。
「遅かったわね、シスターアンジェラ。何かあったのかと心配したわ」
「え、ええ、申し訳ありません、シスター・ミランダ。知り合いと話し込んでしまいました」
 買い込んだ品物を取り出していたら、ミランダがあら、と声をあげた。

「これはなに?」
「え? あっ」
 阿久津に買わされたものだ。今度請求しないと。
「申し訳ありません。知り合いに買わされて」
 ミランダは気まずそうな顔で尋ねてくる。
「シスター・アンジェラ。それがどういうものかわかってるの?」
「え?」
 ぼそぼそと彼女が口にした言葉に、私は真っ赤になった。


 ☆


 翌朝、いつものようにやってきた阿久津を、私はきっ、と睨みつけた。阿久津はサングラス越しにこちらを見て、
「なんだよ。こえー顔。生理か?」
「これを持って帰ってください」
 私が箱を突きつけたら、阿久津があ、とつぶやいた。

「ちょうど昨日使い切ったとこだ」
 なかば投げつけるように箱を渡して、私はぶつぶつと言う。
「まさか、そういったものだなんて。なんとハレンチな……」
「出た、ハレンチ」
 何がおかしいのか、阿久津はにやにやしている。

「あなたの存在が浄化されるよう、神に祈っておきます。では」
 私が踵を返そうとしたら、阿久津は包装をとき、取り出した四角い包みを投げてきた。
「!」
 私はあわててキャッチする。
「一個やるよ。付け方練習しとけ」
「なっ、するわけないでしょう!」

 投げ返そうとしたが、阿久津はすでに車に乗り込んでいた。発進した黒塗りの車を見送り、手元にある四角い包みを見下ろす。
「……というか、昨日使ったって」
 私は顔を赤らめて、誰にも見られないよう、それをポケットに入れた。
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