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プロローグ
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少女と少年が、レンゲ畑をかけていく。走るたび、少女の金髪が揺れていた。
「待って、ルイス」
「遅いよ、レイチェル」
ルイスを追いかけ、必死に走っていたレイチェルが石につまづく。みるみるうちに、その緑色の瞳に涙がもりあがった。
「泣くなよ、レイチェル」
ルイスが困ったようにレイチェルを覗き込む。
「泣いてない」
「泣いてるし……あ、ちょっと待って」
ルイスがしゃがみこみ、レンゲの花を摘んだ。指輪の形にして、レイチェルの指にはめる。すると、涙がぴたりと止まった。
「わあ」
「あ、泣き止んだ」
レイチェルは赤くなる。
「だから泣いてない」
彼は微笑んで、レイチェルの頭を撫でた。二歳年上の従兄弟は、優しい表情で言う。
「ねえ、レイチェル。大人になったら結婚しようね」
「結婚?」
「うん。父さんたちが言ってた。女の子は家を継げないから、おまえがレイチェルと結婚してキーズ家を守るんだぞ、って」
「家を継げないの? どうして?」
「どうしてって……そういう決まりなんだよ」
レイチェルはじっとレンゲの指輪を見つめた。
「そろそろ帰ろうか。父さんたちが心配するし」
ルイスはそう言って、レイチェルの手を引いた。
その時、風が吹いて、レイチェルの帽子が宙に舞った。
「!」
それはふわりとレンゲ畑の中に落ちる。
帽子が落下した先に視線をやると、黒い犬がいた。
犬はレイチェルの帽子をくわえ、こちらに歩いてくる。
持ってきてくれたのだろうか? 赤みがかった瞳の、賢そうな犬だ。
「ありがとう」
レイチェルが帽子を受け取ろうとしたら、石が飛んできて、犬に当たった。
「!」
慌てて振り向くと、ルイスが犬に向かって石を構えていた。
「やめて、ルイス!」
レイチェルは慌てて彼に駆け寄って、腕をつかむ。
「あれきっと野良犬だよ。噛みつかれたら大変だ」
「だからって」
犬は帽子を離し、駆けていく。
「あ」
レイチェルは犬に向かって声をあげた。
「ごめんなさい!」
犬は止まることなく走り去り、あとにはレイチェルとルイスだけが残された。
レイチェルは帽子を拾い上げ、そっと抱きしめた。
その数十分後、レンゲ畑の端で、光の柱がたった。
「待って、ルイス」
「遅いよ、レイチェル」
ルイスを追いかけ、必死に走っていたレイチェルが石につまづく。みるみるうちに、その緑色の瞳に涙がもりあがった。
「泣くなよ、レイチェル」
ルイスが困ったようにレイチェルを覗き込む。
「泣いてない」
「泣いてるし……あ、ちょっと待って」
ルイスがしゃがみこみ、レンゲの花を摘んだ。指輪の形にして、レイチェルの指にはめる。すると、涙がぴたりと止まった。
「わあ」
「あ、泣き止んだ」
レイチェルは赤くなる。
「だから泣いてない」
彼は微笑んで、レイチェルの頭を撫でた。二歳年上の従兄弟は、優しい表情で言う。
「ねえ、レイチェル。大人になったら結婚しようね」
「結婚?」
「うん。父さんたちが言ってた。女の子は家を継げないから、おまえがレイチェルと結婚してキーズ家を守るんだぞ、って」
「家を継げないの? どうして?」
「どうしてって……そういう決まりなんだよ」
レイチェルはじっとレンゲの指輪を見つめた。
「そろそろ帰ろうか。父さんたちが心配するし」
ルイスはそう言って、レイチェルの手を引いた。
その時、風が吹いて、レイチェルの帽子が宙に舞った。
「!」
それはふわりとレンゲ畑の中に落ちる。
帽子が落下した先に視線をやると、黒い犬がいた。
犬はレイチェルの帽子をくわえ、こちらに歩いてくる。
持ってきてくれたのだろうか? 赤みがかった瞳の、賢そうな犬だ。
「ありがとう」
レイチェルが帽子を受け取ろうとしたら、石が飛んできて、犬に当たった。
「!」
慌てて振り向くと、ルイスが犬に向かって石を構えていた。
「やめて、ルイス!」
レイチェルは慌てて彼に駆け寄って、腕をつかむ。
「あれきっと野良犬だよ。噛みつかれたら大変だ」
「だからって」
犬は帽子を離し、駆けていく。
「あ」
レイチェルは犬に向かって声をあげた。
「ごめんなさい!」
犬は止まることなく走り去り、あとにはレイチェルとルイスだけが残された。
レイチェルは帽子を拾い上げ、そっと抱きしめた。
その数十分後、レンゲ畑の端で、光の柱がたった。
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