乙女の涙と悪魔の声

あた

文字の大きさ
15 / 30

罪人

しおりを挟む




 バアルは、椅子に腰掛けて、髪をグシャグシャかき回すルイスをじっと見た。この男がレイチェルの従兄弟。行動パターンが似ていると言ったものの、尊大な口調や、人を不快にさせるせせこましさは、まるで似ていない。彼はバアルの視線を感じたのか、じろっとこちらを睨みつけた。品のなさがにじみ出た声で、不機嫌に問いかけてくる。
「なんだ」
「べつに」
   不快なものをわざわざ見る必要はないと、目をそらす。

 コンコン、とノックの音がした。立ち上がり、ドアを開けると、お盆を持ったバラムがとことこと歩いてくる。ついで、レイチェルが入ってきた。
 ルイスは目の前を横切ったバラムを見て飛び上がり、おもいきり叫んだ。
「ぬいぐるみが動いてる!」
 大声を聞いて、びくりとしたバラムから、レイチェルはお盆を受け取る。
「彼はぬいぐるみじゃないわ」
「君もそう思っていたようだけどな」
 バアルは口を挟む。

「なんなんだここは、化け物の巣窟か!」
「そうだな、君を入れると三人だ」
「僕は人間だ。男爵だ!」
 冷たい目で、バアルはルイスを見た。どうやらこの男は、社会的な地位が高ければ高潔だとでも言いたいらしい。

「身内殺しが立派な人間のやることか? 恥を知れ」
 ルイスは顔をひきつらせた。
「僕が誰を殺したっていうんだ」
「私の両親を」
 レイチェルが言うと、部屋の中がしん、とした。

「な、なにを言ってるんだ! 僕が人殺しなんかできると思うかい? 大体、君の両親は事故死だろ!?」
 焦り気味に言うルイスに、レイチェルは冷静に返す。
「ええ。馬車が横転して、そのせいで」

「じゃあ、僕は関係ないね。馬車は御者が用意するものだろ?」
「でも、あなたがやったと聞いたの」
「誰に」
「悪魔に」
 レイチェルが答えると、ルイスがバアルに目をやった。
「彼じゃないわ、別の悪魔によ」
「あいつはなんなんだ? 君の恋人かい」

「違うわ。彼は私を間違って召喚してしまっただけ」
 レイチェルはそう言って、紅茶を一口飲んだ。ルイスは不審げにカップの中身を見ている。
「どうぞ。バラムの淹れたお茶はおいしいのよ」
「それ、あのクマの名前かい? あれも悪魔なの?」

 ルイスの視線は、バアルの足元にいるバラムに向かっていた。バラムは怯えたように、レイチェルの足にぎゅっ、としがみつく。
「そうよ。かわいいでしょう?」
「どこが。気味が悪いね」
 彼は鼻を鳴らして、紅茶を一口飲んだ。
「あなたと趣味が合ったことはなかったわね」
「まあ、君は女の子だからね」

 レイチェルは黙って紅茶を飲んだ。ルイスがカップを置いて、レイチェルに身を寄せてくる。
「なあ、こんな気味の悪いところ早く帰ろう」
「でも、帰ったらあなたは私を訴えるんでしょう?」
「あんなの気にしてたのかい、冗談だよ!」
「本当?」
「もちろんさ。それにもう昔のことだろう?」

 ルイスの手が、レイチェルの髪に触れた。それを見て、バアルがぴくりと肩を揺らす。バラムがはらはらと三人を見比べている。
「この気持ちは何年経っても変わらないさ。今だって僕は、君と結婚したいと思ってるんだから」
「そう……」
 うれしい、と返したら、ルイスは鷹揚にうなずいてみせた。レイチェルは、緑の瞳を彼に向けた。
「私が、紅茶に毒を入れたとしても?」

 レイチェルのその言葉に、ルイスが目を見開き、ばっ、と手を離す。
「なんだって!?」
「これは解毒剤よ。ほしかったら、本当に私の両親を殺したのかどうか、言って」
 レイチェルは素早くルイスから離れ、懐から出した小瓶を見せた。
「おい、冗談だろ、レイチェル」
「どうせもう帰れないのよ。正直に言って、ルイス」

 ルイスは真っ青になって喉に手を当てた。
「そんな」
 彼は震えるだけで、何も言おうとはしない。
「言ってくれないのね」
 レイチェルは呟いて、目を瞑った。そして意を決したように、小瓶の中身をあおる。そのまま、床に崩れ落ちた。

「!」
 バアルはレイチェルに駆け寄って、彼女を抱き起す。レイチェルは真っ青になって、震えている。
「毒を飲んだんだ……バラム、水を!」
 バラムは慌てて部屋を出ていく。

「な、どういうことだ?」
 呆然とつぶやくルイスを見もせずに、バアルは言う。
「黙ってろ。口を開いたら殺すぞ」
 バアルは指をレイチェルの口内に入れ、毒を吐き出させる。バラムが持ってきた水を少しづつ飲ませると、レイチェルがごほ、とせき込んだ。
「よし、あらかた毒は出た。僕は彼女を二階へ運ぶ。バラム、なんの毒か調べておけ」

 バラムは必死にうなずき、レイチェルが落とした小瓶を拾い上げ、たたた、と部屋を出て行った。バアルがレイチェルを抱き上げると、緑の瞳がうっすら開いた。
「バアル……」
「しゃべるな」
「お願い、ルイスを、向こうに、帰して、私、彼の罪を、書いた、遺書を……」
 言いかけて、レイチェルはくたりと身体を脱力させる。バアルは呆然としているルイスを放置して、部屋を出た。


 ◆


 レイチェルをベッドに寝かせ、バアルは部屋を見渡した。先ほどレイチェルが言っていた、遺書をさがす。ベッドのそばのチェストに、手紙が乗っているのに気づき、そちらへ向かう。
 手紙を手に取って、椅子に腰かけた。かさりと紙を開くと、こうあった。

「父と母が亡くなり、家をなくし、生きていく希望がなくなりました。神の意に背き、自分で命を絶つ不孝をお許しください。ただ一つ、知っていてもらいたいことがあります。私の従兄弟、ルイス・デュフォーは、私の両親を殺しました。どうか、彼を調べて、父と母の無念を晴らしてくださるよう、お願いします。レイチェル・キーズ」

 バアルは彼女の柔らかい筆跡を、指でなぞった。
「馬鹿なことを」
 なぜ止められなかったのだろう。レイチェルが、毒を盛るはずなどない。最初から自分で飲むつもりだったのだ。
  こんなことをしてどうなるというのか。ルイスが裁かれたところで、自分が死んだら元も子もないのに。
 だがバアルは知っていた。人間は時々信じられないくらい、馬鹿なことをするのだ。

 手紙の他に、ネモフィラの花をしおりにしたものが二つ置いてあった。『バアルへ』『バラムへ』と書かれている。
 バアルはしおりをポケットに入れ、レイチェルの金髪に手を伸ばして撫でた。ただでさえ白い肌が蒼白になり、額には冷や汗が滲んでいる。浅く息をする肩は、細く、頼りない。

 レイチェルの閉じた目から、涙が一筋、流れ落ちた。それを指先でそっと掬い取り、小瓶に落とす。
 これは、レイチェルが生きている証だ。

 コンコン、とノックの音がしたので、返事をすると、バラムが部屋の中に入ってきた。タオルの入った洗面器を枕元に置いて、花を差し出す。
 鈴のような白い花。その実、猛毒の花。
「ホワイト・ベルか」

 あの時、毒があるなどと教えなければよかった。それとも、教えずとも彼女は自力で毒草を見つけただろうか。バラムはベッドのふちに手をかけ、泣きそうな顔でレイチェルを見ている。
「バラム、レイチェルを看ていろ」
 バアルはバラムにしおりを差し出して、ドアに向かった。


 階下に行き、自室に戻ると、床にへたり込んでいたルイスがはっ、と顔を上げる。乱れた髪が額に張り付いていた。

「れ、レイチェルは」
「死んだ」
 バアルがそう言うと、ルイスが震えた。
「三人も殺したことになる。重罪だな」
 冷たい目を向けると、ルイスは喉を引きつらせた。
「僕のせいじゃない! レイチェルは勝手に毒を飲んだんじゃないか」
 つまり、レイチェル以外の二人──彼女の親を殺したと認めたのだ。

 バアルはルイスの襟首を掴み、魔方陣の前まで引きずって行った。
「やめろ、離せ!」
 無言で手を振り、彼の頬に傷をつけると、ルイスはびくりと震えた。恐る恐る頬に触り、こっけいなほど騒ぐ。
「血だ!」

 他人を平気で傷つけるくせに、自分は痛みに弱いのだ。
 反吐が出る。
「次勝手に喋ったら顎を無くすぞ」
 バアルが無表情で言うと、やっと黙った。バアルは魔方陣の一部を靴で消し、チョークで文字を書いた。懐から小瓶を出し、魔方陣に垂らす。
 レイチェルの涙が、きらりと光って落ちていった。
 魔方陣が発光し始める。本を開き、唱えた。

「我が名はバアル。ソロモン七十二柱第一序列と指輪を所有するものの権限において命じる。現れよ、アンドロマリウス」
 魔方陣から、蛇に絡みつかれた悪魔がずずず、と現れる。ルイスは目を見開いて固まっていた。
「何用か」
 アンドロマリウスは屈強な男の姿で現れた。悪人を捕らえるという腕は、岩のように盛り上がっている。バアルはルイスを指差し、淡々と言う。
「この男は殺人を犯した。相応しい裁きを」
「うむ」

 アンドロマリウスがぬっ、と手を伸ばすと、ルイスが悲鳴を上げた。
「嫌だ! 僕をどうする気だ!」

「ふさわしいところに連れて行き、受けるべき罰を与える」
 バアルはルイスの襟首を引き、アンドロマリウスに押し付けた。屈強な腕が、ルイスの首に巻きつく。
「ぐあっ」
 ぎりぎりと締め上げられていたルイスが、くたりと気を失った。
「連れて行け」
 バアルは冷酷に告げる。
「御意」
 アンドロマリウスが、魔方陣に吸い込まれていく。ルイスの姿も引き込まれ、やがて見えなくなった。

 魔方陣の前から離れ、椅子に座った。これだけで済んだのに、レイチェルはどうしてあんなことを。ポケットからしおりを出し、眺める。ネモフィラの花。森を愛する、が語源らしい。新緑のような、レイチェルの緑の瞳を思い出す。

   涙に濡れた、憐れで、美しい瞳。
 バアルはしおりに、そっと唇を当てた。





 それから、レイチェルは三日間眠り続けた。

 人間はすぐ死んでしまう。昔、バアルがそう言ったら、ソロモンがこう返してきた。
 ──そうだな、悪魔に比べたら、我々の命は儚い。だからこそ日々を大切にするんだ。
 出会ったときは若々しかったソロモンも、すでに老人になっていた。
 ──あんたはほかの人間と違うだろう。指輪があれば、永遠の命が手に入るんじゃないのか。
 ソロモンは、なにも答えずに笑っていた。

 ノックの音がして、バアルは閉じていた瞼をひらく。視線を動かすと、ドアの隙間からバラムが顔を覗かせていた。
「レイチェルが、起きたのか」
 身を起こしながらそう尋ねると、こぐまはふるふると首を振る。バアルはため息をついた。

 バラムが、お盆を持ってこちらに来る。テーブルの上に、野菜スープとパンが置かれた。以前よりも質素な食事だが、バアルは文句をつけず、黙々とそれを食べた。バラムは喋らないし、レイチェルがいなければ、屋敷は静かだ。
 犬を探して傘立ての後ろを覗いていたレイチェルを思い出し、バアルはくすりと笑った。バラムが驚いたようにこちらを見る。

 思えば、バラムの前で笑ったのは初めてだ。悪魔には笑うという習慣がない。基本的に一人で生きているから、笑う必要がないのだ。
「レイチェルが来る前は、こうだったな」
 バアルはそう言った。悪魔が二人。しかも主従関係だ。会話などない。今もそれは変わらないのだ。バラムは使役する悪魔であって、レイチェルのように、愛着を持って接することが、自分にはできない。

 それでも、バラムがいてよかったとは思った。少なくとも今、独り言をつぶやかなくて済む。
「僕のせいだな」
 ここに呼ばなければ、レイチェルは真相に気づくことはなかった。何もしらなければ、少なくともあんな真似はしなかっただろう。

 バラムがふるふると、首を横に振った。違う、とでも言いたげだった。
 違わない。
 レイチェルは悪魔になどかかわらず、人間の世界で生きていくべきだったのだ。バアルはスプーンを置いて、立ち上がった。

「レイチェルの様子を見てくる。これを片付けたら、おまえは休め」
 再びふるふると首を横に動かすバラムの頭に手を置いて、バアルは部屋を出た。


 二階へと上がっていき、レイチェルが寝ている部屋のドアを開く。暗い部屋の中で、ランプの火を灯した。灯りに照らされたレイチェルは、蝋のような顔色をしている。

 洗面器の水を替え、絞ったタオルで彼女の首筋を拭う。白い肌を、汗が流れ落ちる。
 ソロモンの死体を見た時を思い出した。
 レイチェルも死ぬのだろうか、ソロモンのように。
 バアルにはひとつ、不思議なことがあった。なぜソロモンは、死んだのか。ソロモンの指輪があれば、不老不死になることも可能だっただろうに。彼はそうはしなかった。悪魔には、死は訪れない。自然死はない、という意味で、不死身なわけではないが。

 死が訪れるのは、他の悪魔に食われた時や、何らかの理由で魔力が尽きた時だ。
 バアルはソロモンの指輪をはめた手で、レイチェルの手を握りしめた。
「レイチェル」
 起きてくれ。そう願うが、彼女は目を覚まさない。バアルにソロモンの指輪は使えない。正しいものではないから。自分にできるのは、封印だけだ。レイチェルの頬を、涙が伝う。また泣いている。

 バアルはレイチェルの手を離し、彼女の目尻にそっと触れた。すくいとった涙を、ぽとりと小瓶に落とす。
 ──これは、最後の贄だ。そう思いながら、バアルはランプの灯を消した。


 キッチンに向かうと、バラムが台に乗り、皿を洗っているところだった。よく、レイチェルと一緒に皿洗いをしていた。臆病で、人を恐れていたバラムが、人間に心をゆるした。
「バラム」
 名を呼ぶと、くるりと振り向いた。台からぴょん、と飛び降りて、こちらに来る。トコトコやってきたバラムに、くまの帽子を差し出した。

 バラムは目を丸くしてこちらを見る。バアルがうなずくと、それを受け取り、嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねた。
「今まで助かった」
 バアルがそう言うと、跳ねるのをやめて、こちらを見上げる。つぶらな瞳。礼をいうべきだとレイチェルにさんざん言われたな。
「ありがとう」

 バラムはじっとバアルを見て、にこ、と笑った。バアルはバラムを抱き上げ、自分の部屋へと向かった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛

三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。 ​「……ここは?」 ​か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。 ​顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。 ​私は一体、誰なのだろう?

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...