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4.身分違いの恋
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「婚約してくれないのです……」
と、今にも泣きそうな顔で、インパラのステーキを頬張るのは絹の帝国の皇女だ。モグモグするか、話すか、泣くか、どれかにしたらどうだ?
「長く愛を誓い合ってきたのに、婚約だけはどうしてもしてくれないのです……」
と言うか、絹の帝国って、この前ウチに攻めて来てたよね? なに、友達みたいな顔してモグモグしてるのよ?
「それで、絹の皇女よ。はるばる最果ての流刑地まで訪ねてくれて、私にどうせよと?」
「お知恵をお借りしたいのです!」
「知恵?」
「だって、アルマ様は15回も婚約された、婚約のプロでしょう?」
ソフィアがビールを吹き出した。弟のダヴィデに読み聞かせていた絵本がビール塗れだ。というか、ビール飲みながらでは、かえって教育に良くないと思うぞ。
レンファと名乗った絹の帝国の皇女は、相変わらず泣きそうな顔でモグモグしている。理由はともかく、頼って来た人を無下には出来ない。私、皇女だし。
「それでレンファ殿下。お相手が婚約してくれない理由は分かっているのですか?」
「理由というほどのことではないのですが、使用人の息子なのです」
うん。皇族と使用人の恋ね。それは無理あるわ。でも、泣くほど好きなのね。
「か、駆け落ちでもされては……?」
「そんなのイヤです! 何不自由なく暮らしてきたのに、今さら平民の生活なんか出来ません!」
おぼこい顔して、ハッキリ言うのね。
「でも、使用人の家に嫁に行ったら、どの道、平民になるのでは?」
「だから、婿養子に取りたいとお父様にお願いしているのです。なのに、お父様もはぐらかしてばかりで……」
父親にも難ありだな。ダメならダメって言ってやればいいものを。説教のひとつもしてやりたいけど、知らない皇帝を『取り寄せ』するのも、気が引けるしなぁ。
「誰か偉いさんの養子にしてもらえばいいんじゃない?」
と、ニタニタ笑うソフィアの言葉に、レンファが目を輝かせた。
「まあ! 名案ですわ!」
また、面倒なことを……。絹の帝国に婿入り出来る家格の知り合いと言えば……。
**取り寄せ**
トンっと音がして、西の皇帝が座った。キョロキョロしている。
訳を話すと難色を示された。
「いやね、皇后がなんて言うか……」
むう。姉上に関わると話が長くなり過ぎる。次の家格と言えば……。
**取り寄せ**
トスンっと音がして、西の宰相が立って目を白黒させている。
「陛下……? それに、アルマ殿下も……」
こいつも、私に婚約破棄を突き付けて出世したクチだ。その借りを返してもらおう。
「いや……、それは、さすがに父上が、なんと言うか……」
むう。あの頑固親父の相手をするのは面倒だ。次と言えば……。
**取り寄せ**
ドスっと音がして、侯爵家の当主が転がった。
「あれ? ……ア、アルマ殿下……。それに、陛下! 宰相閣下まで……」
こいつも私との婚約を破棄した後に、継承順をすっ飛ばして爵位を継げた男だ。さすがに、私の頼みを断りはすまい。
「いやぁ……。アルマ殿下の頼みとは言え、母上の許しなしでは……」
そうだ、こいつは極度のマザコンだった。あの母親には会いたくない。
ソフィアがゲタゲタ笑い出した。
「もう、アルマが養子にしてやればいいじゃない?」
「け、結婚もしてないのに、養子なんか取れるかぁー!!!」
私の剣幕にソフィアはゲタゲタ笑い、3人の元婚約者は小さくなって、レンファはキョトンとしていた。
その時、ソフィアの弟のダヴィデが立ち上がって窓に近寄った。
「あっ! マリーベルが来たよ」
ドシンドシンという地響きと共に、海竜のマリーベルが庭に現れた。
〈皇女ちゃーん♡ 活きのいいクラーケンが獲れたんだけど、一緒に食べない?〉
マリーベルと同じくらいの大きさをしたイカの足がニュルニュルと締め付けている。
「おおっ! イカだ!」
と、レンファが目を輝かせた。
◇
ゴーレムに捌かせたクラーケンは、大味で美味くも不味くもなかったけど、ソフィアのソースを絡めると絶品になるから不思議だ。
〈あら。じゃあ、私が養子にしてあげようか? こう見えても海竜王の娘なのよ♡〉
と、イカ焼きをたらふく食べたマリーベルが言った。
「そうなのか?」
〈だって皇女ちゃん、面倒がって私の話、聞いてくれなかったじゃない〉
「まあ! よろしいのですか!?」
と、レンファがほっぺにソースを付けたまま、目を輝かせた。海竜の養子で絹の皇家がいいのなら、私に異存はない。
**行ってこい**
マリーベルとレンファを絹の帝国に送り届けた。あとは勝手にやってくれ。
ソフィアの掘立て小屋に戻ると、帝国のトップ3が所在なさげにモジモジしていた。すまん、忘れてた。
「イカ、食ってく?」
と、今にも泣きそうな顔で、インパラのステーキを頬張るのは絹の帝国の皇女だ。モグモグするか、話すか、泣くか、どれかにしたらどうだ?
「長く愛を誓い合ってきたのに、婚約だけはどうしてもしてくれないのです……」
と言うか、絹の帝国って、この前ウチに攻めて来てたよね? なに、友達みたいな顔してモグモグしてるのよ?
「それで、絹の皇女よ。はるばる最果ての流刑地まで訪ねてくれて、私にどうせよと?」
「お知恵をお借りしたいのです!」
「知恵?」
「だって、アルマ様は15回も婚約された、婚約のプロでしょう?」
ソフィアがビールを吹き出した。弟のダヴィデに読み聞かせていた絵本がビール塗れだ。というか、ビール飲みながらでは、かえって教育に良くないと思うぞ。
レンファと名乗った絹の帝国の皇女は、相変わらず泣きそうな顔でモグモグしている。理由はともかく、頼って来た人を無下には出来ない。私、皇女だし。
「それでレンファ殿下。お相手が婚約してくれない理由は分かっているのですか?」
「理由というほどのことではないのですが、使用人の息子なのです」
うん。皇族と使用人の恋ね。それは無理あるわ。でも、泣くほど好きなのね。
「か、駆け落ちでもされては……?」
「そんなのイヤです! 何不自由なく暮らしてきたのに、今さら平民の生活なんか出来ません!」
おぼこい顔して、ハッキリ言うのね。
「でも、使用人の家に嫁に行ったら、どの道、平民になるのでは?」
「だから、婿養子に取りたいとお父様にお願いしているのです。なのに、お父様もはぐらかしてばかりで……」
父親にも難ありだな。ダメならダメって言ってやればいいものを。説教のひとつもしてやりたいけど、知らない皇帝を『取り寄せ』するのも、気が引けるしなぁ。
「誰か偉いさんの養子にしてもらえばいいんじゃない?」
と、ニタニタ笑うソフィアの言葉に、レンファが目を輝かせた。
「まあ! 名案ですわ!」
また、面倒なことを……。絹の帝国に婿入り出来る家格の知り合いと言えば……。
**取り寄せ**
トンっと音がして、西の皇帝が座った。キョロキョロしている。
訳を話すと難色を示された。
「いやね、皇后がなんて言うか……」
むう。姉上に関わると話が長くなり過ぎる。次の家格と言えば……。
**取り寄せ**
トスンっと音がして、西の宰相が立って目を白黒させている。
「陛下……? それに、アルマ殿下も……」
こいつも、私に婚約破棄を突き付けて出世したクチだ。その借りを返してもらおう。
「いや……、それは、さすがに父上が、なんと言うか……」
むう。あの頑固親父の相手をするのは面倒だ。次と言えば……。
**取り寄せ**
ドスっと音がして、侯爵家の当主が転がった。
「あれ? ……ア、アルマ殿下……。それに、陛下! 宰相閣下まで……」
こいつも私との婚約を破棄した後に、継承順をすっ飛ばして爵位を継げた男だ。さすがに、私の頼みを断りはすまい。
「いやぁ……。アルマ殿下の頼みとは言え、母上の許しなしでは……」
そうだ、こいつは極度のマザコンだった。あの母親には会いたくない。
ソフィアがゲタゲタ笑い出した。
「もう、アルマが養子にしてやればいいじゃない?」
「け、結婚もしてないのに、養子なんか取れるかぁー!!!」
私の剣幕にソフィアはゲタゲタ笑い、3人の元婚約者は小さくなって、レンファはキョトンとしていた。
その時、ソフィアの弟のダヴィデが立ち上がって窓に近寄った。
「あっ! マリーベルが来たよ」
ドシンドシンという地響きと共に、海竜のマリーベルが庭に現れた。
〈皇女ちゃーん♡ 活きのいいクラーケンが獲れたんだけど、一緒に食べない?〉
マリーベルと同じくらいの大きさをしたイカの足がニュルニュルと締め付けている。
「おおっ! イカだ!」
と、レンファが目を輝かせた。
◇
ゴーレムに捌かせたクラーケンは、大味で美味くも不味くもなかったけど、ソフィアのソースを絡めると絶品になるから不思議だ。
〈あら。じゃあ、私が養子にしてあげようか? こう見えても海竜王の娘なのよ♡〉
と、イカ焼きをたらふく食べたマリーベルが言った。
「そうなのか?」
〈だって皇女ちゃん、面倒がって私の話、聞いてくれなかったじゃない〉
「まあ! よろしいのですか!?」
と、レンファがほっぺにソースを付けたまま、目を輝かせた。海竜の養子で絹の皇家がいいのなら、私に異存はない。
**行ってこい**
マリーベルとレンファを絹の帝国に送り届けた。あとは勝手にやってくれ。
ソフィアの掘立て小屋に戻ると、帝国のトップ3が所在なさげにモジモジしていた。すまん、忘れてた。
「イカ、食ってく?」
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