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13.村と魔界の面倒事 前編

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「祭り?」

「ええ。この村もすっかり人口が増えてしまって、親睦を兼ねて祭りを開こうということになりまして」

と、にこにこ顔で報告してくれたのは、雑貨屋の主人だ。皇女たちの宮殿が建って、盛大に金を落とすものだから商人たちが集まってきているらしい。

人が集まれば、それを相手にまた商売が始まるし、グングン経済成長しているらしい。流刑地なのに……。まあ、帝国の領土が栄えるのはいいことだ。

「良いことではないか。私も寄らせてもらうぞ」

「それでですね、この機会に村長も決めてしまおうということになりまして」

「おお、そうか。小さな村だった頃は村長なぞ必要なかったからな」

「出来ましたら皇女様にお願いできないかと……」

「断る」

私も西の帝国ウエスト・エンパイア皇女として領地のひとつやふたつは持っている。そこに行けば領主様として村長のような仕事もしているが、ここでは困る。

ソフィアがビールをあおりながら、ゲタゲタ笑った。

「そりゃ、ダメだよご主人。アルマは飽くまでも私に復讐するために、ここに来てるんだ。村長なんかに収まって、楽しげに見えたら、また愛のない求婚が殺到してしまうでしょ?」

あけすけに言い過ぎだがその通りだ。私が宮殿も建てず、ソフィアの小屋のリビングを借りて寝泊まりしているのも、そのためだ。

「そうですか……。困りましたねぇ」

と、雑貨屋の主人が腕組みをした。

「なにを困ることがある?」

「いや、元からいる住民と、新しい住民と、みんなが納得する村長なんて、なかなかいないもんですから」

ソフィアがニマっと笑って、雑貨屋の主人に言った。

「私がやってあげようか?」

「いや、流刑人はちょっと……」

「じゃあ、アルマが引っ越せばいいんだよ。そしたら、皇女シスターズも自然と解散になって村は元通りだ」

「いやいやいや、それはもっと困りますよ。せっかく村に活気が出て来たのに」

ソフィアが私を見てニタっと笑った。

むっ。私の責任だと言いたいのだな。しかし、ほとんど知らない連中から村長を選ぶことなど出来んぞ。困ったな。

ニタニタしたまま、ソフィアが私の顔を覗き込んだ。

「もういっそアルマが村長になって、どんどん愛のない婚約を受けて、どんどん破棄されて、どんどん出世させる宗教でも開いたらどうだ?」

「私の心がちぎれてしまうわ!」

違いねぇと、ソフィアはまたゲタゲタ笑った。他人事だと思ってヒドいことを言う。

「ヤミィもセイレーンの王配に収まりそうだもんなぁ。また伝説を増やしたな、アルマ」

むう。イザベラがいずれミカエラの跡を継いでセイレーンの女王になれば、ヤミィはその王配。確かに……。

「セイレーンの王配! いいですねぇ! その方を村長にお迎え出来ませんか?」

「ご主人、ヤケになってないか?」

「もう限界なんですぅ」と、雑貨屋の主人は泣き出してしまった。

「成り行きでみんなの面倒を見てたら、いつの間にか板挟みにされてて、あっちを立てればこっちが立たず、こっちを立てればあっちが立たず。誰でもいいから代わってほしいんですよぉ」

大の大人が声を上げて泣くほど追い詰められていたとは。これはなんとかしてやらんといかんな。皇女だし。

祭りまでにはどうにかするからと宥めて、雑貨屋の主人を帰した。が、新旧住民の確執など、面倒な情緒の最上級だ。あまり深入りしたくないのだが……。

  ◇

「私、やるやるぅ!」

と、手を挙げたのは海の皇女のオリヴィアだ。

「いや、ダメだろ。オリヴィア本人だと海の帝国に領土を奪われた形になってしまうだろ。下手したら戦争だぞ」

「ええー。じゃあ私、西の子になるよぉ?」

「そんな簡単に言うな」

「ちぇっ。領土増やしたら、お兄ちゃん褒めてくれると思ったのになぁ」

「奪う気マンマンじゃないか」

宮殿と小屋に囲まれた庭で相談を持ちかけたのだが、相手を間違えたか。レンファもラミアもスンとしているし。まあ内政干渉や領土紛争になりかねない相談を持ちかけた私も悪い。

その時、異次元から念話が届いた。

[……アルマちゃん!……]

「むっ。イザベラではないか。どうした? 痴話喧嘩でもしたか?」

[……ばか! そんなんじゃないわよ! すごい魔力が近付いてる! 気を付けて!……]

途端に青空の一部が黒く歪んだ。これは、いかん。

**魔法障壁マジックシールド**

ターンッと高い音がして『魅了チャーム』を弾いた。

「逃げてー!」

と、魔界四天王のレオタード女魔族が飛び込んで来た。『魅了チャーム』体質の面倒なヤツだ。

「どうした、何事だ?」

「育休とか産休をって交渉してたら、魔王様が本気で怒っちゃって!」

「なんと」

みるみるうちに空全体が真っ暗になっていくではないか。魔界の面倒事にまで巻き込まれてしまうとは。
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