26 / 307
第一章 王都絢爛
23.北離宮の側妃
しおりを挟む「プシャンオオカミね」
側妃エメーウが即座に断言し、懐かしむように目を細めた。
タロウとジロウは手入れが行き届いた北離宮の中庭で、大人しくおすわりしている。
テラスのカウチで背もたれに身を預けて座るエメーウは、故郷のオアシス都市ルーファで時折姿を見た、プシャンオオカミに思いがけず望郷の念に駆られながら話を続けた。
「プシャン砂漠の中でも、ルーファより北の方で生息してる狼ね。群れで行動しないから隊商を襲ったりはしないけど、人に懐いているのは初めて見たわ」
――おっと。いきなり君たちの素性が判明したな。
アイカは苦楽を共にした狼たちのことを教えられて嬉しい気持ちの反面、もっと幻獣的な存在なのでは……、という妄想が終わったことに小さく息を吐いて、自分に苦笑いを浮かべた。
エメーウの隣で瀟洒な椅子に腰を降ろすリティアは、そうなんですね! と、声を上げ、狼たちに目を輝かせた。母の語る生まれ故郷は、いつも瑞々しく光り輝き、リティアには未踏のオアシス都市に憧れがある。
「でも、私が知ってるより大きいから、プシャン砂漠の北にある山嶺の方で育ったのかもしれないわね。寒いところで育つと、体が大きくなるって聞いたことがあるわ」
「そうなのです! タロウとジロウは、アイカと山奥で育ったのだそうですよ!」
「あら、そうなのね。じゃあやっぱり、プシャンオオカミだわ」
先客だった第3王子ルカスの長女ペトラ内親王と次女ファイナ内親王も、興味深くエメーウの話を聞いている。
内心、大きな体躯に鋭い牙も見え隠れする二頭の狼に怯んでいたが、国王の御意を得た『陛下の狼』を蔑ろにはできない。
「大人しく静かに控えて、本当に賢い狼なんですね」
「毛並みも整っていて、陛下が王宮での滞在をお許しになったのも分かります」
年上の姪2人の賛辞に、リティアが誇らしげに胸を張った。
「私の宮殿の大浴場で、しっかり洗ってやったのです! だから、臭くもありませんよ!」
リティアが見せるドヤ顔に、まあと驚いて見せる一同の笑声が、離宮の広い中庭に響いた。
エメーウの療養のために建てられた北離宮は、塔――ミナレット――も備えた本格的なルーファ様式の城郭の態をなしており、建設資金は全てルーファが提供した。
プシャン砂漠を東から横断してくる北路と南路が合流し、王都ヴィアナに繋がる交易の中継都市として繁栄するルーファの経済力を誇示している。
皆が二頭の狼を眺めて談笑する中、アイカは側妃エメーウの美貌をこっそりと、愛でていた。
――いわば、肉食獣的美人とでもお呼びしましょうか……。
王宮に入って3日が過ぎ、美人や美少女、美男子や美少年を、日本にいたときも含めた24年間の10倍は見た。
もうさすがにお腹いっぱいになるのではと思い始めていたが、
――上とか下とかではなく、美人には種類がある。
という、発見に興奮していた。
日本ではせいぜいスクールカースト上位の、教室の範囲中でだけキラキラした女子や男子を目にする程度であったが、王都ヴィアナに暮らす王族や騎士たちが具える美しさに、圧倒されるどころか興奮している。
――もう、お国の信仰とか慣習とか関係ないね!
午前中に立ち会った『万騎兵長議定』で、この国の人たちは『美麗神ディアーロナ』が嫉妬して呪いをかけるのを恐れ、人の容姿を褒める言葉は口に出すことはおろか心の中にも浮かべないと教えられ、絶望的な気持ちになっていた。
褒めた者だけでなく、褒めた相手も呪うというのは、どうかしてると思ったが、宗教や信仰ではどうしようもない。信じるか信じないかだけだ。
いつか推し語りできる友達をつくりたいというささやかな夢は破れたが、自分が信じてない『美の女神』は、きっと、お目こぼしくださるはずだと開き直ることに、今、決めた。
それだけエメーウは美しく、同じ側妃のサフィナが見せる緩やかに引き寄せられる罠のような美しさとは対極的に、こちらの内側にある敏感なところにまで攻め込まれるような美しさを「肉食獣的」と、心の中で表現した。
病で療養中でなければ、心を制圧されて失神していたんじゃないかとさえ思った――。
209
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
没落貴族と拾われ娘の成り上がり生活
アイアイ式パイルドライバー
ファンタジー
名家の生まれなうえに将来を有望視され、若くして領主となったカイエン・ガリエンド。彼は飢饉の際に王侯貴族よりも民衆を優先したために田舎の開拓村へ左遷されてしまう。
妻は彼の元を去り、一族からは勘当も同然の扱いを受け、王からは見捨てられ、生きる希望を失ったカイエンはある日、浅黒い肌の赤ん坊を拾った。
貴族の彼は赤子など育てた事などなく、しかも左遷された彼に乳母を雇う余裕もない。
しかし、心優しい村人たちの協力で何とか子育てと領主仕事をこなす事にカイエンは成功し、おまけにカイエンは開拓村にて子育てを手伝ってくれた村娘のリーリルと結婚までしてしまう。
小さな開拓村で幸せな生活を手に入れたカイエンであるが、この幸せはカイエンに迫る困難と成り上がりの始まりに過ぎなかった。
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。 〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜
トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!?
婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。
気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。
美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。
けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。
食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉!
「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」
港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。
気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。
――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談)
*AIと一緒に書いています*
【完結】憧れの異世界転移が現実になったのですが何か思ってたのと違います
Debby
ファンタジー
【全話投稿済み】
私、山下星良(せいら)はファンタジー系の小説を読むのが大好きなお姉さん。
好きが高じて真剣に考えて作ったのが『異世界でやってみたい50のこと』のリストなのだけど、やっぱり人生はじめからやり直す転生より、転移。転移先の条件として『★剣と魔法の世界に転移してみたい』は絶対に外せない。
そして今の身体じゃ体力的に異世界攻略は難しいのでちょっと若返りもお願いしたい。
更にもうひとつの条件が『★出来れば日本の乙女ゲームか物語の世界に転移してみたい(モブで)』だ。
これにはちゃんとした理由があって、必要なのは乙女ゲームの世界観のみで攻略対象とかヒロインは必要ないし、もちろんゲームに巻き込まれると面倒くさいので、ちゃんと「(モブで)」と注釈を入れることも忘れていない。
──そして本当に転移してしまった私は、頼もしい仲間と共に、自身の作ったやりたいことリストを消化していくことになる。
いい年の大人が本気で考え、万全を期したハズの『異世界でやりたいことリスト』。
なんで私が転移することになったのか。謎はいっぱいあるし、理想通りだったり、思っていたのと違ったりもするけれど、折角の異世界を楽しみたいと思います。
----------
覗いて下さり、ありがとうございます!
2025.4.26
女性向けHOTランキングに入りました!ありがとうございます(๑•̀ㅂ•́)و✧
7時、13時、19時更新。
全48話、予約投稿しています。
★このお話は旧『憧れの異世界転移が現実になったのでやりたいことリストを消化したいと思います~異世界でやってみたい50のこと』を大幅に加筆修正したものです(かなり内容も変わってます)。
【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした
きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。
全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。
その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。
失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。
【本編完結】転生隠者の転生記録———怠惰?冒険?魔法?全ては、その心の赴くままに……
ひらえす
ファンタジー
後にリッカと名乗る者は、それなりに生きて、たぶん一度死んだ。そして、その人生の苦難の8割程度が、神の不手際による物だと告げられる。
そんな前世の反動なのか、本人的には怠惰でマイペースな異世界ライフを満喫するはず……が、しかし。自分に素直になって暮らしていこうとする主人公のズレっぷり故に引き起こされたり掘り起こされたり巻き込まれていったり、時には外から眺めてみたり…の物語になりつつあります。
※小説家になろう様、アルファポリス様、カクヨム様でほぼ同時投稿しています。
※残酷描写は保険です。
※誤字脱字多いと思います。教えてくださると助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる