【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

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第一章 王都絢爛

30.秘密結社

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「ありがとうございました」


 と、落ち着きを取り戻したニーナが、リティアに深くお辞儀をした。その後ろでは、ラウラとイエヴァも小さく頭を下げている。


「気にするには及ばない。クレイアの友人ならば、私の友人も同然だ」


 悠然と語りかけるリティアの言葉に、イエヴァは改めて、今日初めて会ったばかりの細い首が印象的なニーナの友人に視線を送った。

 噂に違わぬ隆盛を誇る王都――。

 そこに君臨する王族をしてここまで言わしめる、自分とそう歳の変わらないクレイアに、イエヴァの胸の内には微かな憧れの念が湧いた。

 リティアはいつもアイカに見せる笑顔に戻しながらも、西域の大隊商マエルの従僕たちが示した、権威を恐れない振る舞いが気にかかっていた。

 西に国境を接するリーヤボルク王国で内戦を収めた新しい王は、西域中から兵を集めたと聞いたばかりだ。

 相当に質の悪いゴロツキが、西の隣国に集まっているのではないかと、眉を顰めた。


「それにしても、どこで目を付けられたんだ? 心当たりはあるか?」


 と、災難に遭った動揺を労わる響きで尋ねるリティアに、ニーナは答えることを躊躇った。

 マエルは実力者であり、目の前の第3王女もまた、本来であれば雲上人である。自分の言葉が何を招くのか、想像も出来ない。

 ニーナの戸惑いを見てとったアイラとクレイアが、そっとニーナに寄り添った。


「リティア殿下は、ああ見えて、無駄に事を大きくされるような方ではない」

「意外なことに、穏便に済ませられることは、穏便に収めてくださる方だ」


 はっ! と、リティアがよく通る笑い声を短く上げた。


「お前たち。もうちょっと、言い様というものがあるだろう?」


 アイラとクレイアは、真顔で反論する。


「いえ、『天衣無縫の無頼姫』の実像に迫る、優れた言い様でした」

「つい先程、即座に首を斬り落とそうとしたばかりじゃないですか」

「下げる頭がなくなるって、マジ怖いです」


 配下の侍女に加えて、無頼の娘とも掛け合う第3王女の明るい苦笑いに、ニーナの心の防御が解かれ、重い口を開いた。


「あの……」


 リティアは微笑みで受け止める。


「昨年なんですが、ブローサ候の宴で舞わせていただき……。マエル様も同席されていたので、その時ではないかと……」


 ブローサは王国の西端に位置する街で、西域からの入口にあたる。マエルも拠点を設けているはずで、宴に同席していても不審はない。


「3日前に王都に入った途端、しつこく使いが来て……。気持ち悪いから放っておいたんですけど……」


 ――執念深いヤツだ。


 リティアは片目を細めた。昨年の『総侯参朝』で目を付け、一年後に攫おうとするとは。

 王都を訪れる踊り巫女は春をひさいで、そのまま嫁ぐこともある。他の男に獲られる前に自分のものにしたいという強欲さを感じる。


「昨年の宴席で、他に目ぼしい者はいたか?」


 と、リティアは、念を入れて尋ねた。


「あの……。ブローサ候のお身内の方々の他には、第3王子様が……」


 ふむと、リティアの返事は曖昧になった。

 ブローサ候の娘は、リティアの兄である第3王子ルカスに嫁いでおり、ペトラ姉内親王とファイナ妹内親王の母である。つまり、姻戚関係にあって、宴に招かれたとしても不思議ではない。

 が、豪傑肌で人懐っこい笑顔を見せる兄ルカスが、陰湿な企みに関わっていると、このときのリティアには想像出来なかった。


「分かった。同じことが起きないよう、それとなく取り計らおう」


 ニーナの瞳から、思わず涙がこぼれた。

 それとは見せなかったが、自分より年若の2人を引き連れ、重圧に押し潰されそうな思いを抱えていたのだ。もう大丈夫だと、クレイアが頭を撫でると、ニーナはクレイアの胸に顔を埋めて小さな嗚咽を漏らした。

 ニーナを中心にリティアやクレイアが、慰め励ます談笑の輪をつくるのに、アイカが熱い視線を注いでいる。

 そのアイカの肩が、不意に掴まれ、背中に柔らかな圧力を感じた。


「お前……」


 耳元で囁くアイラの大きな胸が片方、背中に押し当てられている。レザーのジャケット越しにも弾力が伝わる。


 ――お、お、お、お……。


「背神者だな?」

「え?」

「お前は、『美麗神ディアーロナ』を冒涜する者だな?」


 アイラの強い視線が、アイカの金色の瞳に注がれる。

 『聖山の民』は『美麗神ディアーロナ』の嫉妬を恐れて、心の内でも人の容姿を褒めない。

 が、アイカは、今自分を見詰める、渋い紫色の髪をした無頼の娘に対しても、その美貌への賞賛の言葉が自然と湧いて出る。


「美の女神の呪いを受けることも、呪いをかけることも恐れぬ、背神の者だな?」


 ――ば、バレてる。


 髪色と同じ黒に近い紫色で、陽光が当たると黄色く透ける瞳で見詰められ、アイカは視線で認めざるを得なかった。

 あのとき、リティアは笑って許してくれたけど、一般の『聖山の民』はどうなんだろうか? 

 追放されたり迫害されたりするのだろうか?

 不吉な妄想がいくつも脳裏を走る。

 アイカの肩を掴む手の力と、背中に感じる圧力が一段と増した。

 耳に荒い吐息が吹きかかる。


「私もだ」


 アイラの思わぬ告白に驚いて振り向くと、唇が触れそうな距離だった。


「美しいものは、褒めたい」


 二人の交わる視線が熱を帯びる。どちらからともなく、固い握手が交わされた。


「近々、語り合おう。同志よ」


 アイラは、やや高揚した表情を見せ、アイカから離れた。

 第3王女と踊り巫女たちが談笑しているすぐ側で、王都ヴィアナで――最も無駄な――秘密結社が誕生した。
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