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第一章 王都絢爛
33.秘密の天幕(1)
しおりを挟む――で、でけえ。
小柄なアイカが、アイラと並んで座ると、顔の真横に大きなお胸がきた。
遮られて店の中の様子が見えず、リティアが同行を命じたクレイアとヤニスの様子もうかがえない。騒がしく響く大勢の客の声だけが、アイラの胸越しに聞こえる。
昨日の今日で早速、クレイアを通じて親分の娘アイラから呼び出しがかかった。
「語り合おう。同志よ」
という、アイラの言葉が頭の中で繰り返し鳴り響き、昨晩のアイカはなかなか寝付けなかった。
天幕に覆われたサーカス小屋のような食堂に案内され、それとなく一番奥の席に座らされた。
アイカが思わず生唾を飲み込んだ大きく張り出す曲線の向こう側には、クレイアとヤニスの他に、アイラが誘った踊り巫女たちと、夕陽が落ちようとしていた道中でクレイアが誘った孤児の姉弟も同席しているはず、である。
店の喧騒にまぎれて、クレイアと踊り巫女ニーナの親しげな声がかろうじて聞こえる。
と、アイカの視線を遮る神の造形物が、大きく顔の方に寄せられた。
――近い、近い、近い、近い、近いって!
「ここなら、却って誰も他人の話を気にしない」
体を寄せて耳打ちするアイラの言葉に、アイカは眉に力を込めて頷いた。
『聖山の民』が信仰する『美麗神ディアーロナ』の呪いを恐れぬ背神者たちの、秘密の会合が初開催されようとしていた。
誘ったアイラが口火を切った。
「まず私は、リティア殿下の小さな鼻が好きだ」
――そこですかぁ!
「宝石のように輝く大きな瞳も、上品で甘美な唇も、絹のような質感の頬も、あの小さく高く上を向いた鼻で、お顔全体の輝きを増していると思うんだ」
――な、なるほどー!
アイカはまだ、心の中の相槌を言葉にして吐き出すことが出来ない。ただ、脳内ストックの、リティア・ライブラリーに素早く全検索をかけていた。
――最初に出会った、暴漢に襲われた土間。逆光で美しく輝いてた。
――衛騎士を従えて草原を馬で駆ける、凛々しいお姿。
――大浴場で背中を流してくださる笑顔。
――焼き立ての鹿肉の美味しさに驚くリティア。
――万騎兵長議定でマッチョたちに君臨する、悠然としたお姿。
出会ってまだ4日という短い期間で、アイカは永久保存版を無数にゲットしていた。あの優しい美少女に出会い、救われ、アイカの異世界ライフは7年ぶりにスタートを切った。いや、人生そのものが光り輝き始めたかのようにも感じている。
「わ、私は……」
これまで、数々の美男美女を愛でてきた自負のあるアイカだったが、言葉にして誰かに伝えるのは初めてだった。
「まっすぐな……眼差しが……、美しいと思います……」
うん、確かにそれは重要な要素だと、アイラが小さく頷いた。
――言った。言えた。本当の想いを、言った。
自分の推しの美しさを、赤裸々に語り合える友人をつくることは、アイカが異世界に転生する前から、長年抱いてきたささやかな夢であった。
目の付け所がいいなと、アイラに褒められ、かつて味わったことのない自己肯定感に満たされた。
――キレイなものをキレイと言って、褒めてくれる人がいた!
ただし、アイカは、アイラのことも美しいと思っている。
アイカの言葉で堰を斬られたように、滔々とリティアの美しさを褒め称え続けるアイラのことも、愛でている。
――美貌のオタクとか、控え目に言っても最高です!
推せる。
愛でたい。
アイカは賑やかな食堂の片隅で、アイラとの間に浮かぶリティアの姿と、実際に目の前にいるアイラの姿と、心をフル回転に働かせて、この世のすべてを愛でているような、恍惚としたものを感じ始めていた。
それは、ひょっとすると生まれて初めて、自分自身がこの世に生まれたことを祝福できる時間だったかもしれない――。
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