【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

文字の大きさ
78 / 307
第三章 総候参朝

71.無法者

しおりを挟む

 ――お腹がはちきれそうッス。


 アイカは連日、宴に出席して愛想笑いも板に付いてきた。

 『総候参朝』も開幕して既に4日が過ぎた。街には人があふれ、多数の露店が並び、大道芸人や踊り巫女や吟遊詩人が芸を披露して賑わっている。

 この日も昼の宴を終えて、一度、リティア宮殿に戻ろうとしていた。

 『総候参朝』の間は、煌びやかな姿を民衆に披露するのも、王族の務めとして徒歩で移動する。

 涼やかな表情で時折手を振ったりしながら闊歩する、リティアの後ろに行列が続く。

 人波は護衛の騎士に隔てられるが、リティアだけでなく、狼たちとアイカにも好奇の目線が向けられる。


 ――モブだったんスよぉ。ずっと、モブだったんスよぉ。なんなら、モブより存在感のない人生だったんスよぉ。


 アイカは注目されることには慣れず、タロウとジロウの間で顔を伏せて歩く。

 宴の度にお召し替えする絢爛豪華なドレス姿のリティアを、ゆっくり愛でる心の余裕もない。

 と、人垣の隙間から見覚えのある流線が見えた。

 あの、しなやかな腕の振りは踊り巫女ニーナのものではないかと、アイカが背伸びをしたとき、きゃあ! という、女性の悲鳴が聞こえた。

 リティアの足が止まり、行列も停止する。

 様子を見てくるよう指示されたクレイアに付いて、アイカも人群れを掻き分ける。

 そこには、ニーナとイェヴァに抱きかかえられた、ラウラが倒れてた。


「ニーナ! 何があった?」


 と、踊り巫女たちに駆け寄ったクレイアに、


「クレイア。……変な男が急にラウラに体当たりしてきて」


 と、動揺を隠せないニーナが応えた。

 ラウラは背中が痛むのか、顔を引きつらせて呻いている。

 そこに、黄色い花のオーナメントが沢山あしらわれた白いドレス姿のリティアも、衛騎士たちを伴って加わる。


「ケガはないか?」


 と、尋ねるリティアに、ラウラが呻き声まじりに応えた。


「あの……、許可証が……」


 ニーナが慌ててラウラの持ち物を確認すると、街頭で芸を披露するための許可証がない。

 体当たりした男が奪ったことは明らかだった。

 むうと、眉を寄せたリティアが人波に視線を向けた。

 この人出では、犯人の男を捕まえるのは容易ではない。新たな許可証の発行させるにしても、数日は要する。

 男の消えた方角に随行の騎士を向かわせるか、リティアは逡巡した。

 その頃、アイカは、


 ――う、美しかぁぁぁぁ。


 と、厳しい表情で人波を睨むリティアに、数瞬、魂を奪われていた。

 が、ふと気が付いて口を開いた。


「あの……」

「なんだ……?」


 表情は厳しいが、リティアがアイカに向ける口調は優しい。


「タロウとジロウに追わせたら……」


 と、躊躇いがちなアイカの言葉に、リティアは眉をパッと開いた。


「できるのか?」

「やったことないんですけど……、犬の仲間だっていうから、できたらいいなって……」

「よし。出来なくて元々だ! タロウとジロウに、ラウラの匂いを嗅がせてみよう」


 と、リティアがいつもの勢いを取り戻すと、アイカはタロウとジロウを呼んだ。

 タロウとジロウは、ラウラに鼻を寄せてクンクンしている。

 グイグイ近付いて行く二頭の狼はニーナも押し退けて、ラウラを押し倒す形になって尚も匂いを嗅いでいく。


 ――えっろ。


 アイカの目は釘付けになった。

 ラウラは狼たちの鼻がくすぐったかったのか、敏感なところを刺激してしまったのか「あっ」と小さな声を上げた。

 ニーナたちとお揃いの白いビキニのトップスに、濃緑色のロングスカート姿で、踊りで汗ばんだ小麦色のメリハリボディをよじって耐えている。


 ――あ。リティアさん、意外と初心。


 アイカが目を移すと、ラウラの艶めかしい声と姿を見たリティアが、少し頬を赤らめている。


「も、もういいんじゃないか?」という、クレイアの言葉に我に返ったアイカが、


「よし! タロウ! ジロウ! 行くよ!」


 と、号令をかけてタロウの背に飛び乗ると、人であふれる街路に向けて狼二頭が駆け出した。

 割れる人波の間を、タロウとジロウが全速力で駆けて行く。人波からは悲鳴も聞こえる。


 ――ご、ごめんなさい~。


 数本先の角で、急旋回した狼たちが脇道の細い路地に入り、行き交う人々を避け、街路の壁を左右に別れて駆け抜ける。

 さらに何度かの急旋回を繰り返し、地面と壁とを蹴りながら全力で風を切る狼たちの背中でアイカは――、ビビッていた。


 ――こんなことも、できるのね。ていうか、速過ぎだし、跳び過ぎだし……。


 アイカが強い衝撃を感じて、狼たちの疾走が止まると、その足下に中肉中背の男を踏み付けにしていた。

 ジロウが噛み付ついた男の右腕の先には、許可証らしきものが握られている。


「くっ、なにしやがる!」


 と、苦しそうな声を上げる男は、狼たちから逃れようともがく。

 が、タロウもジロウもびくともしない。

 アイカは、男が手放した許可証らしきものを拾い上げ、タロウとジロウの後ろに回った。

 そこに、追いかけてきたヤニスと騎士たちが到着し、一部の者には見覚えのあるその男を縛り上げた。

 遅れてきたリティアが、アイカから渡された紙片を確認すると「間違いない」と言って、クレイアに渡した。


「さすが、道案内の神が守護聖霊にある狼。見事だった」


 リティアはいつもの微笑を浮かべ、狼たちの頭を撫でてを労った。


 ――し、死ぬかと思った。


 全速力の狼の背で揺られた疲労と、悪い男の人と向き合う緊張から解放されたアイカは、その場にへたり込んだ。

 荒れた呼吸の中で、ラウラたちが返って来た許可証を握りしめ、涙しているのが見えた。

 ひとつ大きく息を吸って、吐き、アイカは漸く安堵の笑みを浮かべた。


 噂は瞬く間に王都を駆け抜ける。


 『無頼姫の狼少女』が、守護聖霊のある狼と共に無法者を捕らえた、と。

 多くは好意的に受け止めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

没落貴族と拾われ娘の成り上がり生活

アイアイ式パイルドライバー
ファンタジー
 名家の生まれなうえに将来を有望視され、若くして領主となったカイエン・ガリエンド。彼は飢饉の際に王侯貴族よりも民衆を優先したために田舎の開拓村へ左遷されてしまう。  妻は彼の元を去り、一族からは勘当も同然の扱いを受け、王からは見捨てられ、生きる希望を失ったカイエンはある日、浅黒い肌の赤ん坊を拾った。  貴族の彼は赤子など育てた事などなく、しかも左遷された彼に乳母を雇う余裕もない。  しかし、心優しい村人たちの協力で何とか子育てと領主仕事をこなす事にカイエンは成功し、おまけにカイエンは開拓村にて子育てを手伝ってくれた村娘のリーリルと結婚までしてしまう。  小さな開拓村で幸せな生活を手に入れたカイエンであるが、この幸せはカイエンに迫る困難と成り上がりの始まりに過ぎなかった。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

【完結】憧れの異世界転移が現実になったのですが何か思ってたのと違います

Debby
ファンタジー
【全話投稿済み】  私、山下星良(せいら)はファンタジー系の小説を読むのが大好きなお姉さん。  好きが高じて真剣に考えて作ったのが『異世界でやってみたい50のこと』のリストなのだけど、やっぱり人生はじめからやり直す転生より、転移。転移先の条件として『★剣と魔法の世界に転移してみたい』は絶対に外せない。  そして今の身体じゃ体力的に異世界攻略は難しいのでちょっと若返りもお願いしたい。  更にもうひとつの条件が『★出来れば日本の乙女ゲームか物語の世界に転移してみたい(モブで)』だ。  これにはちゃんとした理由があって、必要なのは乙女ゲームの世界観のみで攻略対象とかヒロインは必要ないし、もちろんゲームに巻き込まれると面倒くさいので、ちゃんと「(モブで)」と注釈を入れることも忘れていない。 ──そして本当に転移してしまった私は、頼もしい仲間と共に、自身の作ったやりたいことリストを消化していくことになる。  いい年の大人が本気で考え、万全を期したハズの『異世界でやりたいことリスト』。  なんで私が転移することになったのか。謎はいっぱいあるし、理想通りだったり、思っていたのと違ったりもするけれど、折角の異世界を楽しみたいと思います。 ---------- 覗いて下さり、ありがとうございます! 2025.4.26 女性向けHOTランキングに入りました!ありがとうございます(๑•̀ㅂ•́)و✧ 7時、13時、19時更新。 全48話、予約投稿しています。 ★このお話は旧『憧れの異世界転移が現実になったのでやりたいことリストを消化したいと思います~異世界でやってみたい50のこと』を大幅に加筆修正したものです(かなり内容も変わってます)。

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

処理中です...