【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

文字の大きさ
223 / 307
第九章 山湫哀華

210.どんな風になってることやら

しおりを挟む
 円卓をかこむ太守たちを、ミハイがぐるりと見渡す。


「いいんじゃねぇか? 内戦が収まったら、一旦、旅に出る。イエリナ陛下と交わした、最初からの約束だ」


 そう言ったミハイは、椅子の背もたれに身体をあずけ、手を組んだ。


「……みっともねぇ内戦からイエリナ陛下を護ってくれたのは、精霊の結界だけじゃねぇ。テノリアの第3王女リティアもだ。どっちにしても、俺たちじゃねぇ。しかも、こんな立派な国王に育ててくれた。陛下の義理は、俺たちの義理でもある……」


 プレシュコ太守ニコラエが、深くうなずき口をひらいた。


「イエリナ陛下は、ほんとうに我らのために私心なく尽くしてくださった」


 職人肌でふだんは無口なニコラエ。アイカと太守たちの視線があつまる。


「先日、わずかな時間であったが所用により、我が所領プレシュコに戻った。するとだ……、領民たちが駆け寄ってきて、口々に感謝を述べてくる。食にこまらなくなった、住まいにこまらなくなった……、みなが笑顔で私に言うてくるのだ」


 ニコラエは、アイカに顔をむけ、まっすぐに見詰めた。


「陛下の仰られる『みんなの国』という言葉が、すこしばかり腑に落ちましてございます。微力ながら、イエリナ陛下の国づくりを途絶えさせるようなことにはいたしません。どうぞ、ご存念のとおり、志を果たしてくださいませ」


 円卓をかこむ太守たちは、みな同様に感謝をのべては、頭をさげてゆく。

 最後はうつむいて涙をこらえていたアイカであったが、意を決したように顔をあげ、みなの顔をひとりひとり見渡した。

 そして、口をひらく。


「……みなさんには、折りをみてお話しさせてもらおうと思っていたことがあります。……まだ少しはやいかもしれませんけど、しばらくのお別れになります。……私がほんとうに考えていたことを、お話しさせてください」


 真剣な面持ちをしたアイカの言葉に、なごやかだった場に緊張感がはしる。

 アイカは、口をヘの字に結んで、鼻から大きく息を吸い込んだ。


 ――ほんとうに考えていたことを話す。


 その言葉で、円卓をかこむ歴戦の勇将でもある27人の太守たちは、緊張につつまれている。

 覚悟を決めたアイカが、つよい視線で、太守のひとりを見据えた。


「ディミノプラトの太守さん」

「はっ……、ははっ」

「先日は新築なった王都屋敷でのお茶会にお招きいただいて、ありがとうございました」

「えっ? あ……、はあ……、たいしたもてなしもできず……」

「とっても、素敵なティーカップでした! あれはディミノプラトでつくられているんですよね?」

「……はあ、さようですが」

「つややかな白地に、ぬけるようなあおで描かれた、精密な紋様。そして、持ちやすくて疲れない。テノリアの王宮でも、なかなか見かけることのなかった、すばらしい逸品でした!」

「お、お褒めにあずかり……。我が所領には代々陶器づくりを受け継いできた一族がおりまして……」

「大隊商のメルヴェさんに買い取ってもらうべきです!」

「え?」

「次、プリニミの太守さん」

「あ……、はっ」

「そのお召し物……、織物の柄が独特で素敵です!」

「それは、どうも……」

「ロフタの太守さん! いつも持たれている剣の柄にほどこされた細工が精巧で独特です! ロフタには木工が得意な職人さんがいるのでは?」


 と、これまで関わりの薄かった太守たちの領土について、次々に特産品があるのではないか? と、問いかけていく。

 最初は面食らっていた太守たちであったが、次第に、


 ――女王陛下は……、そんな細かいところまで、見てくださっていたのか……。


 と、感激してゆく。


「この話は、まだ少し早かったかもしれません。《山々の民》の皆さんは、外界との接触を好まないとも聞いていました。……けど、いまは売れるものは売って、それも出来るだけ高く売って、国の復興に役立てるべきだと……、ずっと思っていました」


 大量の食糧を、山にあふれる獣を狩って、その毛皮と引き換えた。

 それによって復興がどれだけ加速したか、領民たちをどれだけ笑顔にしたか。流民や孤児たちが生活を取り戻し、畑仕事に精をだせるようになったか。

 まざまざと見せつけられていた太守たちの胸に、アイカの言葉はふかく刺さった。

 しかも、自分たちの《文化》を尊重して、恐る恐る丁寧に進めてくれていたことまで明らかになった。

 アイカのふかい配慮、愛情――、

 太守たちの胸は、はげしく打ち鳴らされた。

 アイカは眉間にしわを寄せたまま話をつづける。


「メルヴェさんは大隊商を率いていますが、実は義姉あねリティアの義理の叔母でもあります。ひいては、私の義理の叔母とお呼びしてもいいかもしれません」


 リティアの母エメーウの妹ヨルダナは、メルヴェの弟オズグンに嫁いでいる。


「決して、ズルいことをするような人ではありません。……みなさんの領土で自慢の特産品を持ち寄って、ぜひ、一度、相談してみてください」


 アイカは円卓に額が着きそうなほどに、頭をふかく下げた。


「……ほんとうは、私が責任をもってお取次ぎするべきところなのですが……」

「いや」


 と、ヴィツェ太守のミハイが立ち上がった。


「イエリナ陛下の想いは、必ず、俺たちだけで実現してみせる。……一日もはやい復興。その想いは、俺も、俺たちも同じです」

「ミハイさん……」

「ふっ。どうせ頭のかたいじゃ、なかなか事が前には運ばねえだろ? 俺たち、わかい太守が率先してやらせてもらう。もちろん、利益を独り占めするようなマネはしねえ」

「……ありがとうございます」

「陛下がザノクリフにお戻りになったとき、目一杯、驚いてもらえるような、国民、領民がみんな笑ってる、ピカピカの国にしようじゃねぇか!」


 アイカは、前が見えなくなるほどに、涙をこぼした。

 自分の考えを受け入れてもらえる。民の笑顔を大切にしてもらえる。そのことが、嬉しくてたまらなかった。

 何度もなんども、あたまを下げて、この先のことをお願いした。


  *


 ザノクリフの国家運営は、太守たちの合議ですすめられていたが、ときには議論が紛糾し、アイカに裁定を求めてくることがあった。

 そのとき、アイカは裁決をくだすというよりは、みなの意見をよく聞いて、問題を紐解き、論点を明確化して差し戻すようにしていた。あくまでも決定は、太守の合議によって行われる形を維持していた。

 そのアイカは旅立つ。

 だが、表向き、女王イエリナが旅立つわけではない。

 代理として王配クリストフを立てるかどうかが、みなに諮られた。


「それが良いと思う」


 と言ったのは、ボディビルダーのような巨体をほこるグラヴ太守フロリンであった。


「王室の財政をまもる者も必要だ。王配であるクリストフが摂政の座に就き、イエリナ陛下の権限を代行するのが良い」

「……分かった。みながいいなら、俺がやろう」


 と、クリストフが応えた。

 キッとした表情になったアイカが、クリストフにゆっくりと語りかける。


「クリストフさん……」

「なんだ?」

「国や王室のおカネが足りなくなっても、クリストフさんの領地ホヴィスカの財産で穴埋めしたらダメですよ? しわ寄せはホヴィスカの領民にいくんですから」

「……お、おう」

「みなさんもご存知のことですが、メルヴェさんに食糧と毛皮を交換してもらうとき、王室が若干の利ザヤを受け取っています。今、ザノクリフ王家の収入は、それだけ! です」

「う、うん…………」

「いずれ立て直すにしても、今はそれだけでして、足りなくなったら、ちゃんと皆さんに相談してくださいね。必要だと認めてくれたら、きっと、助けてくれますから!」


 日本で、家事を放棄した母親に代わって、家計の管理までしていたアイカは、実はおカネの管理にうるさい。潤沢な富にあふれていたテノリア王家時代とはちがい、困窮するザノクリフ王家にあって、その本質があらわになっている。

 みなが『ちょっと引く』くらい、こまごましたことまでクリストフに引き継いでいく。

 桃色髪の小柄な少女の、また違った一面に触れ、ミハイは呆れたように片眉をあげた。


 ――オドオドしてるかと思えば、思い切りがよくて、民を愛し、精霊に愛され、テノリアの王女にも愛され、狼2頭からも愛され、かと思えば、恨んで当然の西候セルジュの死に涙し、家老パイドルの行く末を案じ、実は弓矢の達人で、獣は平気でさばくし、ドレスを着せたら絶世の美人。有無をいわせぬ女王としての振る舞いもできるくせに、ふだんは家臣の意見を尊重し、自分たちでは気づかないような細かいところまで、よく見てくれている。その上、今度はときたもんだ。


「……帰ってきたときには、どんな風になってることやら」

「え? なんですか?」


 クリストフに、おカネの管理について熱く語っていたアイカが、ミハイの方に振り向いた。


「なんでもねぇよ。……無事に帰ってくるんだぜ?」

「はいっ!」


 満面の笑みをみせたアイカに、ミハイも微笑みを返した。


  *


 翌早朝。アイカたち一行は、ラウラとイエヴァも伴い、目立たぬように出立する。

 つぎは、戦を好まない優しい気性をした《草原の民》を侵す、無法な侵略者たちが相手になる。

 昇ってゆく朝陽のまぶしさに、アイカは眉をよせ険しく目をほそめた――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

没落貴族と拾われ娘の成り上がり生活

アイアイ式パイルドライバー
ファンタジー
 名家の生まれなうえに将来を有望視され、若くして領主となったカイエン・ガリエンド。彼は飢饉の際に王侯貴族よりも民衆を優先したために田舎の開拓村へ左遷されてしまう。  妻は彼の元を去り、一族からは勘当も同然の扱いを受け、王からは見捨てられ、生きる希望を失ったカイエンはある日、浅黒い肌の赤ん坊を拾った。  貴族の彼は赤子など育てた事などなく、しかも左遷された彼に乳母を雇う余裕もない。  しかし、心優しい村人たちの協力で何とか子育てと領主仕事をこなす事にカイエンは成功し、おまけにカイエンは開拓村にて子育てを手伝ってくれた村娘のリーリルと結婚までしてしまう。  小さな開拓村で幸せな生活を手に入れたカイエンであるが、この幸せはカイエンに迫る困難と成り上がりの始まりに過ぎなかった。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

【完結】憧れの異世界転移が現実になったのですが何か思ってたのと違います

Debby
ファンタジー
【全話投稿済み】  私、山下星良(せいら)はファンタジー系の小説を読むのが大好きなお姉さん。  好きが高じて真剣に考えて作ったのが『異世界でやってみたい50のこと』のリストなのだけど、やっぱり人生はじめからやり直す転生より、転移。転移先の条件として『★剣と魔法の世界に転移してみたい』は絶対に外せない。  そして今の身体じゃ体力的に異世界攻略は難しいのでちょっと若返りもお願いしたい。  更にもうひとつの条件が『★出来れば日本の乙女ゲームか物語の世界に転移してみたい(モブで)』だ。  これにはちゃんとした理由があって、必要なのは乙女ゲームの世界観のみで攻略対象とかヒロインは必要ないし、もちろんゲームに巻き込まれると面倒くさいので、ちゃんと「(モブで)」と注釈を入れることも忘れていない。 ──そして本当に転移してしまった私は、頼もしい仲間と共に、自身の作ったやりたいことリストを消化していくことになる。  いい年の大人が本気で考え、万全を期したハズの『異世界でやりたいことリスト』。  なんで私が転移することになったのか。謎はいっぱいあるし、理想通りだったり、思っていたのと違ったりもするけれど、折角の異世界を楽しみたいと思います。 ---------- 覗いて下さり、ありがとうございます! 2025.4.26 女性向けHOTランキングに入りました!ありがとうございます(๑•̀ㅂ•́)و✧ 7時、13時、19時更新。 全48話、予約投稿しています。 ★このお話は旧『憧れの異世界転移が現実になったのでやりたいことリストを消化したいと思います~異世界でやってみたい50のこと』を大幅に加筆修正したものです(かなり内容も変わってます)。

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

【本編完結】転生隠者の転生記録———怠惰?冒険?魔法?全ては、その心の赴くままに……

ひらえす
ファンタジー
後にリッカと名乗る者は、それなりに生きて、たぶん一度死んだ。そして、その人生の苦難の8割程度が、神の不手際による物だと告げられる。  そんな前世の反動なのか、本人的には怠惰でマイペースな異世界ライフを満喫するはず……が、しかし。自分に素直になって暮らしていこうとする主人公のズレっぷり故に引き起こされたり掘り起こされたり巻き込まれていったり、時には外から眺めてみたり…の物語になりつつあります。 ※小説家になろう様、アルファポリス様、カクヨム様でほぼ同時投稿しています。 ※残酷描写は保険です。 ※誤字脱字多いと思います。教えてくださると助かります。

処理中です...