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第十章 虜囚燎原
215.イケメン出てきた
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長老たちが、むずかしい顔をした。
「訓練……、とは?」
「えっ? 訓練ですよ。あの……、練習というか……」
すでに血気盛んな若者たちが、散発的な抵抗を試みていると聞いたアイカは、その訓練を見せてほしいと願い出た。
しかし――、
「……そんなことは、しておらんかと」
「左様、左様……」
「狩りは部族で親から習いますし……」
「我らは本来、人とは争いませぬゆえ……」
と、長老たちは困惑気味に顔を見合わせている。
聖地コノクリアの中心部に建てられた、円形の立派なゲル。
アイカが申し出るまでもなく、車座になって話し合いが持たれた。
長老たちが得ていた祖霊の託宣は――、
《東の山岳より、
朝陽を背に、
桃色髪の少女が、
狼に跨りて、
草原に来る。
この者、
いずれ、草原の王に冠を授ける。
篤く遇し、
その言に従うべし》
というものであった。
《草原の王》はともかくとして、いわば、いきなり《最高指導者》として迎えられたアイカであったが、戸惑っている猶予はない。
早速、ニーナをはじめ囚われた人たちを奪還するための打ち合わせを始めて――、
いきなり、つまずいた。
姿勢をあらため、噛み合わない話を丁寧に紐解いていった結果、要するに《草原の民》は軍隊を持っていない。
意を決して行っている『抵抗』も、嫌がらせレベルであった。
ぺちっ。
と、額を手で打った。
もともとのアイカであれば、とても好感のもてる民族だ。仲良くしたい。
しかし、同胞が次々にさらわれる危機にあっては、あまりにも頼りない。反抗はおろか、現状の被害を食い止めることも難しい。
――けど、知らないものは仕方ありませんよね。
いつの間にか『軍事』の概念が、しっかりと身に付いている自分に苦笑いしながらも、若者たちを集めてもらった。
どの瞳にも、激しい戦意が見られた。
家族、友人、恋人をさらわれた者もいる。つよい敵愾心と復讐心が見てとれる。
「ぶ、武器を見せてください……」
と、アイカの言葉に彼らが差し出したのは、マチェットと弓矢だった。
集団戦を学んでもらうため、ヴィアナ騎士団の千騎兵長であるカリトンに指導をお願いする。
しかし、訓練を始めてすぐ、カリトンから、
「彼らの指導はネビ殿の方が相応しいかと」
と、申し出があった。
「と、言いますと?」
「私の身に付けている、いわば教科書どおりの武技では熟練に時を要します。かといって実戦で磨かれたジョルジュ殿の武技は、誰にでも使えるものではありません」
「なるほど」
「ここは、暗器も含めた第六騎士団の武術で即戦力に仕立てていただくべきかと。また、弓矢の集団戦となるとチーナ殿の方が適任です」
カリトンは躊躇いもなく、王国の序列的には格下にあたるネビとチーナを指導教官に推薦した。
てらいのない人柄によるものも大きかったが、いきなりの決戦も想定した、実戦指揮官としての現実的な判断でもあった。
カリトンから引き継いだネビとチーナが訓練を指揮しはじめた後も、各地から続々と《草原の民》がコノクリアに集まり続ける。
そんなある日――、
カリュがアイカの前に膝を突いた。
「私を敵軍の調査に行かせてください。相手がリーヤボルクの本軍というのも、まだ噂レベル。私がその正体を丸裸に調べ上げて参ります」
「え……、大丈夫ですか?」
「えっと……、私の能力をお疑いですか?」
「いえいえ、そんなことはありません! ……ありませんけど、相手はヒドイことする人たちだし、……カリュさんキレイだし、……おっぱい大きいし」
「ご心配には及びません。このおっぱいは私の武器なのです!」
「……いや、知ってますけど、……そんな堂々と胸を張られましても。……いや、自分でたゆんたゆんさせるの、やめてください。……顔が一緒に動いちゃって、……平衡感覚が」
ガハハっと、豪快な笑い声がした。
「それでは、儂がカリュ殿の護衛に同行させていただこう。なに、足は引っ張りませんぞ」
と、モシャモシャの髭をなでたのはジョルジュであった。
「それでアイカ殿下にご安心いただけるのであれば、私に異存はありません」
カリュが、ジョルジュの横に並んでみせた。
――う~ん、ヒゲとボイン。
と、思ったアイカだったが、異世界の人たちに通じるフレーズでもないので黙っていた。
やがて――、
「ふたり並ぶと見た目が怪しすぎるので、剃りましょうか、ヒゲ」
「儂のヒゲをですか?」
「はい。どう見ても山賊とさらわれたご令嬢です。変な人が多い王都ヴィアナならともかく、草原をウロチョロするには怪しすぎだと思います。……どう思います? カリュさん」
「……そうですねぇ。ジョルジュ殿がよいなら、その方がよろしいかと」
「まあ……、別にかまいませんが……」
と、たくわえたヒゲに、すこしだけ名残惜しそうにしたジョルジュ。
それにかまわず、アイカとカリュ、それにアイラとナーシャの4人で押さえ付けてヒゲを剃った。
そして、アイカの心の雄叫びが鳴り響く。
――ふぉぉぉぉぉぉお! ジリコさんばり! ジリコばりのイケメンじいさん出てきた!
リティアの旗衛騎士ジリコを思い起こす整った渋い顔立ち。むしろ、カリュと並べば雰囲気が高貴すぎるほどである。
「……この顔を見逃していたとは」
アイラのつぶやきに、女性陣がうなずく。
訓練の合間に顔を見せたチーナなど、
「あ、どうも。はじめまして……」
と、挨拶する始末であった。
きまり悪そうにするジョルジュを連れて、カリュが密かに旅立った後しばらくして、オレグがアイカのゲルに姿を見せた。
「南の部族からの集まりが悪いのです……」
「ふむ……」
「もともと南には情報が伝わりにくいのですが、……こうしている間にも奴隷狩りに遭うかもしれません」
「それは、いけませんねぇ……」
《草原の民》で男性はみな訓練に加わっており、女性は奴隷狩りに怯えている。
ひと思案したアイカが顔を上げた。
「分かりました! 私が声をかけに行きます」
「そんな……、アイカ様みずから」
「いま、いちばんヒマなの私ですから!」
「……そ、それでは、せめて託宣を告げるため、私も同行させてください」
「あっ! それ、嬉しいです! だけど、ネビさんの許可をもらってくださいね」
と名前の出たネビも交えて、話し合いが持たれる。
「オレグ殿は習熟がはやい。しばらく訓練から離れても問題ないでしょう。それと、チーナ殿とも話し合い、近々に言上しようと思っておったのですが……」
「はい。なんでしょう?」
「みなに使わせる武器として、槍がよいのではないかと思います」
「あ~、槍」
「マチェットを用いた近接戦闘だけでは、こちらの損害も大きくなります。槍であれば距離をもって戦え、弓矢との連携も容易」
「なるほどです」
「ただ、槍をつくる木材が……」
「あっ。それも、なるほどですね~」
あたり一帯は草原が広がり、樹木はほとんどはえていない。
数えるほどの樹々を伐採したところで、すぐに使えるものかも分からない。
ゲルを出たアイカは、腕組みして東の空を睨んだ――。
「訓練……、とは?」
「えっ? 訓練ですよ。あの……、練習というか……」
すでに血気盛んな若者たちが、散発的な抵抗を試みていると聞いたアイカは、その訓練を見せてほしいと願い出た。
しかし――、
「……そんなことは、しておらんかと」
「左様、左様……」
「狩りは部族で親から習いますし……」
「我らは本来、人とは争いませぬゆえ……」
と、長老たちは困惑気味に顔を見合わせている。
聖地コノクリアの中心部に建てられた、円形の立派なゲル。
アイカが申し出るまでもなく、車座になって話し合いが持たれた。
長老たちが得ていた祖霊の託宣は――、
《東の山岳より、
朝陽を背に、
桃色髪の少女が、
狼に跨りて、
草原に来る。
この者、
いずれ、草原の王に冠を授ける。
篤く遇し、
その言に従うべし》
というものであった。
《草原の王》はともかくとして、いわば、いきなり《最高指導者》として迎えられたアイカであったが、戸惑っている猶予はない。
早速、ニーナをはじめ囚われた人たちを奪還するための打ち合わせを始めて――、
いきなり、つまずいた。
姿勢をあらため、噛み合わない話を丁寧に紐解いていった結果、要するに《草原の民》は軍隊を持っていない。
意を決して行っている『抵抗』も、嫌がらせレベルであった。
ぺちっ。
と、額を手で打った。
もともとのアイカであれば、とても好感のもてる民族だ。仲良くしたい。
しかし、同胞が次々にさらわれる危機にあっては、あまりにも頼りない。反抗はおろか、現状の被害を食い止めることも難しい。
――けど、知らないものは仕方ありませんよね。
いつの間にか『軍事』の概念が、しっかりと身に付いている自分に苦笑いしながらも、若者たちを集めてもらった。
どの瞳にも、激しい戦意が見られた。
家族、友人、恋人をさらわれた者もいる。つよい敵愾心と復讐心が見てとれる。
「ぶ、武器を見せてください……」
と、アイカの言葉に彼らが差し出したのは、マチェットと弓矢だった。
集団戦を学んでもらうため、ヴィアナ騎士団の千騎兵長であるカリトンに指導をお願いする。
しかし、訓練を始めてすぐ、カリトンから、
「彼らの指導はネビ殿の方が相応しいかと」
と、申し出があった。
「と、言いますと?」
「私の身に付けている、いわば教科書どおりの武技では熟練に時を要します。かといって実戦で磨かれたジョルジュ殿の武技は、誰にでも使えるものではありません」
「なるほど」
「ここは、暗器も含めた第六騎士団の武術で即戦力に仕立てていただくべきかと。また、弓矢の集団戦となるとチーナ殿の方が適任です」
カリトンは躊躇いもなく、王国の序列的には格下にあたるネビとチーナを指導教官に推薦した。
てらいのない人柄によるものも大きかったが、いきなりの決戦も想定した、実戦指揮官としての現実的な判断でもあった。
カリトンから引き継いだネビとチーナが訓練を指揮しはじめた後も、各地から続々と《草原の民》がコノクリアに集まり続ける。
そんなある日――、
カリュがアイカの前に膝を突いた。
「私を敵軍の調査に行かせてください。相手がリーヤボルクの本軍というのも、まだ噂レベル。私がその正体を丸裸に調べ上げて参ります」
「え……、大丈夫ですか?」
「えっと……、私の能力をお疑いですか?」
「いえいえ、そんなことはありません! ……ありませんけど、相手はヒドイことする人たちだし、……カリュさんキレイだし、……おっぱい大きいし」
「ご心配には及びません。このおっぱいは私の武器なのです!」
「……いや、知ってますけど、……そんな堂々と胸を張られましても。……いや、自分でたゆんたゆんさせるの、やめてください。……顔が一緒に動いちゃって、……平衡感覚が」
ガハハっと、豪快な笑い声がした。
「それでは、儂がカリュ殿の護衛に同行させていただこう。なに、足は引っ張りませんぞ」
と、モシャモシャの髭をなでたのはジョルジュであった。
「それでアイカ殿下にご安心いただけるのであれば、私に異存はありません」
カリュが、ジョルジュの横に並んでみせた。
――う~ん、ヒゲとボイン。
と、思ったアイカだったが、異世界の人たちに通じるフレーズでもないので黙っていた。
やがて――、
「ふたり並ぶと見た目が怪しすぎるので、剃りましょうか、ヒゲ」
「儂のヒゲをですか?」
「はい。どう見ても山賊とさらわれたご令嬢です。変な人が多い王都ヴィアナならともかく、草原をウロチョロするには怪しすぎだと思います。……どう思います? カリュさん」
「……そうですねぇ。ジョルジュ殿がよいなら、その方がよろしいかと」
「まあ……、別にかまいませんが……」
と、たくわえたヒゲに、すこしだけ名残惜しそうにしたジョルジュ。
それにかまわず、アイカとカリュ、それにアイラとナーシャの4人で押さえ付けてヒゲを剃った。
そして、アイカの心の雄叫びが鳴り響く。
――ふぉぉぉぉぉぉお! ジリコさんばり! ジリコばりのイケメンじいさん出てきた!
リティアの旗衛騎士ジリコを思い起こす整った渋い顔立ち。むしろ、カリュと並べば雰囲気が高貴すぎるほどである。
「……この顔を見逃していたとは」
アイラのつぶやきに、女性陣がうなずく。
訓練の合間に顔を見せたチーナなど、
「あ、どうも。はじめまして……」
と、挨拶する始末であった。
きまり悪そうにするジョルジュを連れて、カリュが密かに旅立った後しばらくして、オレグがアイカのゲルに姿を見せた。
「南の部族からの集まりが悪いのです……」
「ふむ……」
「もともと南には情報が伝わりにくいのですが、……こうしている間にも奴隷狩りに遭うかもしれません」
「それは、いけませんねぇ……」
《草原の民》で男性はみな訓練に加わっており、女性は奴隷狩りに怯えている。
ひと思案したアイカが顔を上げた。
「分かりました! 私が声をかけに行きます」
「そんな……、アイカ様みずから」
「いま、いちばんヒマなの私ですから!」
「……そ、それでは、せめて託宣を告げるため、私も同行させてください」
「あっ! それ、嬉しいです! だけど、ネビさんの許可をもらってくださいね」
と名前の出たネビも交えて、話し合いが持たれる。
「オレグ殿は習熟がはやい。しばらく訓練から離れても問題ないでしょう。それと、チーナ殿とも話し合い、近々に言上しようと思っておったのですが……」
「はい。なんでしょう?」
「みなに使わせる武器として、槍がよいのではないかと思います」
「あ~、槍」
「マチェットを用いた近接戦闘だけでは、こちらの損害も大きくなります。槍であれば距離をもって戦え、弓矢との連携も容易」
「なるほどです」
「ただ、槍をつくる木材が……」
「あっ。それも、なるほどですね~」
あたり一帯は草原が広がり、樹木はほとんどはえていない。
数えるほどの樹々を伐採したところで、すぐに使えるものかも分からない。
ゲルを出たアイカは、腕組みして東の空を睨んだ――。
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