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第十一章 繚乱三姫
243.おうちができた
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昼の日差しが天窓からさし込む、ヴール公宮の豪壮な大浴場。
うら若き乙女たちが身を湯にしずめて、くつろいでいる。
ただ、ロマナがみなを風呂に誘ったのは、なにもアイカの《趣味》を見抜いたからという訳ではなかった。
機密をやり取りをするのに、自分が入浴中の大浴場ほど安全な場所はないのだ。
とりわけ、ベスニクをサグアの砦から救出した後、アイカは《草原の民》の元に向かったはずだが、そこから先の情報が奇妙なほどに伝わってこない。
蕩けるアイカにそのことから尋ねようと、ロマナが顔を向けたとき、
パーンッ! と大きな音を響かせ、浴場の扉が開けられた。
「んも~う! ロマナちゃん!? わたしを置いて、こんな楽しげな会をひらくなんて、ひどいじゃない~!」
と、全裸で仁王立ちしているのは第1王女ソフィア。今年48歳になるとは思えない、ハリのあるふわふわボディをぷるぷる震わせながら中に入って来る。
ロマナは「うるさいのが来た」と、額をペチンと手で打つ。
――はて? どこかで覚えのある展開ですね?
と、アイカが湯に呆けた頭をひねっていると、すぐ側でソフィアが腰を曲げ、顔をのぞき込まれた。
「あなたがアイカちゃんね? わたしソフィアよ?」
「あ……、はい……。第1王女のソフィア殿下……」
「いや~んっ! アイカちゃんはリティアの義妹になったんでしょ~? じゃあ、わたしの義妹ってことでいいでしょ~!?」
「あ、はい……、ソフィア殿下からそう仰っていただけるのでしたら……」
「いや~ん! ソフィアお義姉ちゃんって呼んでくれなきゃ、いや、いや!!」
と、腰をふりふりするソフィアに、アイカは、
――ナーシャさんと母娘っ!
と、つよい感銘を受けた。
しかも全裸。破壊力バツグンだった。
そこに、
「じゃあ、わたしもウラニアお義姉ちゃんって呼んでもらわないと」
と、穏やかな微笑みを浮かべたウラニアまで姿をみせた。
「お、お祖母さま! ……お祖父さまは!?」
「さきほど眠られたわ。愛する夫の寝顔を眺めるのもいいものだけど、こちらのお話も大事でしょう?」
ガラとリアンドラはすばやく浴槽からあがり、ウラニアとソフィアの背中を流しはじめる。
そんなガラに、アイカは感慨深げにちいさくうなずいた。
――しっかり、ヴールの人になってますねぇ。
ウラニアもガラもにこやかで、
よい主従関係が築かれているのが、ひと目で分かる和やかな光景だった。
そして、アイカは、
――ロリババアの実在限界こと、ウラニアさん……、意外とおっぱい豊か……。
と、感心し、
――ガラちゃんも……、成長期? ……これは将来、楽しみですね。
と、アイラと視線を絡ませ、うなずきあった。
肝心な話は、王女姉妹が浴槽に浸かるのを待つことにしたのだが、かるく会話を交わすや、
「納得いかん!」
と、ロマナがむくれた。
「リティアが無頼姫で、わたしが蹂躙姫で、アイカが救国姫!? ひとりだけカッコよくないか!?」
「いや……、リュシアンさんが勝手に言ってるだけですから……」
「リュシアン!? 王国屈指の吟遊詩人が謡えば確定ではないか!? あ――っ、納得いかん」
「で、でも、ガラちゃんが《清楚可憐の蹂躙姫》って、言ってましたよ?」
「ガラ……、勝手に定着させようとするな……」
「ふふっ。でも、ロマナ様は清楚で可憐でいらっしゃいますから」
と、ウラニアの背中を流すガラが悪戯っぽく笑った。
「ペノリクウス軍を退かせたのは《清楚可憐の蹂躙姫》の威名が轟いたお陰です」
「リティアのような笑い方をするな、まったく。……ガラ、……おまっ」
ザバッと浴槽から立ち上がったロマナに、ガラが不思議そうな顔を向けた。
「……はい?」
「それ……、リュシアンの前で言ったのか?」
「ああ……、いらっしゃいましたねぇ……」
「あ……、もう、ダメだ。……王国中にひろまるわ。……嫁の貰い手が」
と、ロマナは諦め顔で、顔まで湯にしずめた。
クスクス笑っていたソフィアが口をはさむ。
「いいじゃない? 清楚で可憐なんだから?」
「大叔母上……、なら《清楚姫》とか《可憐姫》でよいとは思いませんか?」
「あら、ほんとだ」
「……他人事だと思ってぇ」
ふくれツラになったロマナを「大丈夫。ロマナはいい子だから」と笑顔で慰めるウラニア。
それをソフィアが笑い、リアンドラが困り顔をみせて、ガラがつっこむ。
伝わってくる西南伯家のあたたかい空気に、アイカは目をほそめた。
――ガラちゃんにも、おうちが出来たんだね……。
ついにはアイカの侍女たちも笑いがこらえられなくなり、ヴールの大浴場に賑やかな花が咲き乱れた。
*
みなで浴槽に浸かり、アイカの話に耳を傾ける。
草原をゆるがした大戦と、その後の顛末を聞きおえたソフィアは、目にいっぱいの涙をためた。
「そう……、バシリオス兄上が……」
ウラニアがソフィアの肩にそっと手を置く。
その手を握ったソフィアは、やがて姉ウラニアの胸に顔を埋め、シクシクと泣き始めた――。
うら若き乙女たちが身を湯にしずめて、くつろいでいる。
ただ、ロマナがみなを風呂に誘ったのは、なにもアイカの《趣味》を見抜いたからという訳ではなかった。
機密をやり取りをするのに、自分が入浴中の大浴場ほど安全な場所はないのだ。
とりわけ、ベスニクをサグアの砦から救出した後、アイカは《草原の民》の元に向かったはずだが、そこから先の情報が奇妙なほどに伝わってこない。
蕩けるアイカにそのことから尋ねようと、ロマナが顔を向けたとき、
パーンッ! と大きな音を響かせ、浴場の扉が開けられた。
「んも~う! ロマナちゃん!? わたしを置いて、こんな楽しげな会をひらくなんて、ひどいじゃない~!」
と、全裸で仁王立ちしているのは第1王女ソフィア。今年48歳になるとは思えない、ハリのあるふわふわボディをぷるぷる震わせながら中に入って来る。
ロマナは「うるさいのが来た」と、額をペチンと手で打つ。
――はて? どこかで覚えのある展開ですね?
と、アイカが湯に呆けた頭をひねっていると、すぐ側でソフィアが腰を曲げ、顔をのぞき込まれた。
「あなたがアイカちゃんね? わたしソフィアよ?」
「あ……、はい……。第1王女のソフィア殿下……」
「いや~んっ! アイカちゃんはリティアの義妹になったんでしょ~? じゃあ、わたしの義妹ってことでいいでしょ~!?」
「あ、はい……、ソフィア殿下からそう仰っていただけるのでしたら……」
「いや~ん! ソフィアお義姉ちゃんって呼んでくれなきゃ、いや、いや!!」
と、腰をふりふりするソフィアに、アイカは、
――ナーシャさんと母娘っ!
と、つよい感銘を受けた。
しかも全裸。破壊力バツグンだった。
そこに、
「じゃあ、わたしもウラニアお義姉ちゃんって呼んでもらわないと」
と、穏やかな微笑みを浮かべたウラニアまで姿をみせた。
「お、お祖母さま! ……お祖父さまは!?」
「さきほど眠られたわ。愛する夫の寝顔を眺めるのもいいものだけど、こちらのお話も大事でしょう?」
ガラとリアンドラはすばやく浴槽からあがり、ウラニアとソフィアの背中を流しはじめる。
そんなガラに、アイカは感慨深げにちいさくうなずいた。
――しっかり、ヴールの人になってますねぇ。
ウラニアもガラもにこやかで、
よい主従関係が築かれているのが、ひと目で分かる和やかな光景だった。
そして、アイカは、
――ロリババアの実在限界こと、ウラニアさん……、意外とおっぱい豊か……。
と、感心し、
――ガラちゃんも……、成長期? ……これは将来、楽しみですね。
と、アイラと視線を絡ませ、うなずきあった。
肝心な話は、王女姉妹が浴槽に浸かるのを待つことにしたのだが、かるく会話を交わすや、
「納得いかん!」
と、ロマナがむくれた。
「リティアが無頼姫で、わたしが蹂躙姫で、アイカが救国姫!? ひとりだけカッコよくないか!?」
「いや……、リュシアンさんが勝手に言ってるだけですから……」
「リュシアン!? 王国屈指の吟遊詩人が謡えば確定ではないか!? あ――っ、納得いかん」
「で、でも、ガラちゃんが《清楚可憐の蹂躙姫》って、言ってましたよ?」
「ガラ……、勝手に定着させようとするな……」
「ふふっ。でも、ロマナ様は清楚で可憐でいらっしゃいますから」
と、ウラニアの背中を流すガラが悪戯っぽく笑った。
「ペノリクウス軍を退かせたのは《清楚可憐の蹂躙姫》の威名が轟いたお陰です」
「リティアのような笑い方をするな、まったく。……ガラ、……おまっ」
ザバッと浴槽から立ち上がったロマナに、ガラが不思議そうな顔を向けた。
「……はい?」
「それ……、リュシアンの前で言ったのか?」
「ああ……、いらっしゃいましたねぇ……」
「あ……、もう、ダメだ。……王国中にひろまるわ。……嫁の貰い手が」
と、ロマナは諦め顔で、顔まで湯にしずめた。
クスクス笑っていたソフィアが口をはさむ。
「いいじゃない? 清楚で可憐なんだから?」
「大叔母上……、なら《清楚姫》とか《可憐姫》でよいとは思いませんか?」
「あら、ほんとだ」
「……他人事だと思ってぇ」
ふくれツラになったロマナを「大丈夫。ロマナはいい子だから」と笑顔で慰めるウラニア。
それをソフィアが笑い、リアンドラが困り顔をみせて、ガラがつっこむ。
伝わってくる西南伯家のあたたかい空気に、アイカは目をほそめた。
――ガラちゃんにも、おうちが出来たんだね……。
ついにはアイカの侍女たちも笑いがこらえられなくなり、ヴールの大浴場に賑やかな花が咲き乱れた。
*
みなで浴槽に浸かり、アイカの話に耳を傾ける。
草原をゆるがした大戦と、その後の顛末を聞きおえたソフィアは、目にいっぱいの涙をためた。
「そう……、バシリオス兄上が……」
ウラニアがソフィアの肩にそっと手を置く。
その手を握ったソフィアは、やがて姉ウラニアの胸に顔を埋め、シクシクと泣き始めた――。
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