77 / 297
77.大浴場の大演説(2)
しおりを挟む
人獣が激しく吠える鳴き声が響いている。
シーシとヤーモンが空けてくれた小窓の前に駆け寄って、城壁の真下を手持ち行灯で照らす。中で蝋燭がクリンとなる機構をシーシが付けてくれてて、下に向けても底の凹面に反射した蝋燭の光が届く。
櫓の壁に貼り付いていたはずの人獣の姿はなく、地面でのたうち回ってる。
――効く。
それだけ確認できれば、収穫は大きい。熱湯なんかものともせずに登ってこられたらどうしようかと思ってたけど、これなら使える。
交代して下を覗いてたシーシが、俺を見てニシッと笑った。
それから、城壁をよじ登る人獣たちの姿をミンユーに見てもらった。顔を青ざめさせてしまって申し訳なかったけど、ミンユーはしっかり観察してくれた。
「どう?」
小窓から離れたミンユーに尋ねた。
「たぶん、大丈夫……。距離が取れれば、恐くない……」
短弓は射程が短いから、城壁から撃ち降ろすしかない。短弓の達人であるミンユーに実際の状況を確認してもらいたかった。
「でも……、見えないと、どうしようもない……」
「それはそうなのだ! 明りのことはボクに任せておくのだ!」
と、シーシが胸を張ったその時、小窓から狼型人獣が首を突っ込んできた。
身体は通らない石造りの壁に開けられた窓だけど、魂が抜けるかと思うほど驚いた。
召喚された第2城壁の櫓で見た虎型人獣以来の、至近距離で見た人獣だったけど、獰猛に牙をむき出しにして威嚇してくる狼型人獣に腰が抜けそうになった。なにもかも抜かれてしまいそうな迫力だ。
あの時は一瞬「虎のお面?」とか思って呑気なところがあったけど、今は、人獣の凶暴さを知っている。感じる怖ろしさは、あの時の比じゃない。
イーリンさんが落ち着いて剣を振ると、狼型人獣の首が部屋の中に落ちた。
それをヤーモンさんが剣に突き差し、小窓から外に捨てる。
ミンユーは、まだ震えている。無理もない。俺も震えが止まらない。
長居は無用と、すぐに櫓を降りた。
櫓の下で待機してくれてたメイユイの護衛を受けながら、ミンユーを家に送り届け、宮城に向かった。
道々にシーシと打ち合わせした。
「熱湯は使えそうだ」
「そうだね! 使いやすい仕組みを考えてみるよ!」
「ありがとう、頼んだよ」
「任せておくのだ!」
「あのさ、ちょっと思い付いたんだけど」
「なんなのだ? ムチャは大歓迎なのだ!」
「人獣って焼き殺せないかな? 熱湯が効くってことは、熱には弱いってことだから、こう……、油をまいて火を点けて……」
「うーん。残念ながら、それは、城壁がもたないのだ。原っぱでやれるんなら別だけど、あれだけの数の人獣を焼き殺すだけの火に炙られたら、城壁が脆くなって崩れてしまうのだ」
「それはダメだね。城壁は生命線だ」
「うむ。でも、色々考えてみるのは、いいことなのだ!」
というやり取りをしながら、シーシは工房に戻り、俺は望楼に昇って今晩の戦況を見守った。
そんなシーシが、今、俺の背中に身体を密着させて、くにっ、くにっと洗ってくれている。
――くにっ(右)。
恥ずかしいから止めて、なんて言い出せない。
――くにっ(左)。
ペースト状の石鹸は少し泡立ってきたけど、滑りのいい液体越しにツルペタ姉さんの肌の熱が伝わってくる。
――くくにっ(右)。
ちょっとリズム変えてくるのも、……止めてほしい。そのたびにドキッとしてしまう。
その時、右と左と、両腕が柔らかな感触に包まれた。ふにゅん、むにゅん。
えっ? と思って見ると、右腕は橙髪をした侍女のユーフォンさん、左腕はミンユーが、……はさんでた。
「なにをしてるのだ? 今日はボクの番なのだ」
と、俺の背中に身体を密着させたままのシーシが口を尖らせると、右腕をはさんでるユーフォンさんが屈託のない笑顔で言った。
「だって、シーシじゃ腕は効率よく洗えないでしょ?」
……そういう、身体的特徴をどうこう言うのは良くないと思います。
「それは、もっともなご意見なのだ」
って、認めるんですか。そうですか。
「それに、一人ずつじゃなかなか全員に順番回ってこないし」
「またまた、もっともなご意見なのだ」
「みんなで協力すればいいと思うんだ!」
「その通りなのだ! みんなで協力するのだ!」
って、俺の意見は……?
背中では、――くにっ(左)。
右腕は、――ふにゅん(上)。
左腕は、――むにゅん(下)。
3人の女子の泡だらけで温かな柔肌に包まれて、俺の頭は爆ぜた――。ポンッ。
シーシとヤーモンが空けてくれた小窓の前に駆け寄って、城壁の真下を手持ち行灯で照らす。中で蝋燭がクリンとなる機構をシーシが付けてくれてて、下に向けても底の凹面に反射した蝋燭の光が届く。
櫓の壁に貼り付いていたはずの人獣の姿はなく、地面でのたうち回ってる。
――効く。
それだけ確認できれば、収穫は大きい。熱湯なんかものともせずに登ってこられたらどうしようかと思ってたけど、これなら使える。
交代して下を覗いてたシーシが、俺を見てニシッと笑った。
それから、城壁をよじ登る人獣たちの姿をミンユーに見てもらった。顔を青ざめさせてしまって申し訳なかったけど、ミンユーはしっかり観察してくれた。
「どう?」
小窓から離れたミンユーに尋ねた。
「たぶん、大丈夫……。距離が取れれば、恐くない……」
短弓は射程が短いから、城壁から撃ち降ろすしかない。短弓の達人であるミンユーに実際の状況を確認してもらいたかった。
「でも……、見えないと、どうしようもない……」
「それはそうなのだ! 明りのことはボクに任せておくのだ!」
と、シーシが胸を張ったその時、小窓から狼型人獣が首を突っ込んできた。
身体は通らない石造りの壁に開けられた窓だけど、魂が抜けるかと思うほど驚いた。
召喚された第2城壁の櫓で見た虎型人獣以来の、至近距離で見た人獣だったけど、獰猛に牙をむき出しにして威嚇してくる狼型人獣に腰が抜けそうになった。なにもかも抜かれてしまいそうな迫力だ。
あの時は一瞬「虎のお面?」とか思って呑気なところがあったけど、今は、人獣の凶暴さを知っている。感じる怖ろしさは、あの時の比じゃない。
イーリンさんが落ち着いて剣を振ると、狼型人獣の首が部屋の中に落ちた。
それをヤーモンさんが剣に突き差し、小窓から外に捨てる。
ミンユーは、まだ震えている。無理もない。俺も震えが止まらない。
長居は無用と、すぐに櫓を降りた。
櫓の下で待機してくれてたメイユイの護衛を受けながら、ミンユーを家に送り届け、宮城に向かった。
道々にシーシと打ち合わせした。
「熱湯は使えそうだ」
「そうだね! 使いやすい仕組みを考えてみるよ!」
「ありがとう、頼んだよ」
「任せておくのだ!」
「あのさ、ちょっと思い付いたんだけど」
「なんなのだ? ムチャは大歓迎なのだ!」
「人獣って焼き殺せないかな? 熱湯が効くってことは、熱には弱いってことだから、こう……、油をまいて火を点けて……」
「うーん。残念ながら、それは、城壁がもたないのだ。原っぱでやれるんなら別だけど、あれだけの数の人獣を焼き殺すだけの火に炙られたら、城壁が脆くなって崩れてしまうのだ」
「それはダメだね。城壁は生命線だ」
「うむ。でも、色々考えてみるのは、いいことなのだ!」
というやり取りをしながら、シーシは工房に戻り、俺は望楼に昇って今晩の戦況を見守った。
そんなシーシが、今、俺の背中に身体を密着させて、くにっ、くにっと洗ってくれている。
――くにっ(右)。
恥ずかしいから止めて、なんて言い出せない。
――くにっ(左)。
ペースト状の石鹸は少し泡立ってきたけど、滑りのいい液体越しにツルペタ姉さんの肌の熱が伝わってくる。
――くくにっ(右)。
ちょっとリズム変えてくるのも、……止めてほしい。そのたびにドキッとしてしまう。
その時、右と左と、両腕が柔らかな感触に包まれた。ふにゅん、むにゅん。
えっ? と思って見ると、右腕は橙髪をした侍女のユーフォンさん、左腕はミンユーが、……はさんでた。
「なにをしてるのだ? 今日はボクの番なのだ」
と、俺の背中に身体を密着させたままのシーシが口を尖らせると、右腕をはさんでるユーフォンさんが屈託のない笑顔で言った。
「だって、シーシじゃ腕は効率よく洗えないでしょ?」
……そういう、身体的特徴をどうこう言うのは良くないと思います。
「それは、もっともなご意見なのだ」
って、認めるんですか。そうですか。
「それに、一人ずつじゃなかなか全員に順番回ってこないし」
「またまた、もっともなご意見なのだ」
「みんなで協力すればいいと思うんだ!」
「その通りなのだ! みんなで協力するのだ!」
って、俺の意見は……?
背中では、――くにっ(左)。
右腕は、――ふにゅん(上)。
左腕は、――むにゅん(下)。
3人の女子の泡だらけで温かな柔肌に包まれて、俺の頭は爆ぜた――。ポンッ。
123
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる