【完結】側妃のわたしが王子を地下に匿い、王位に就けます! でも、真の敵は姉でした。

三矢さくら

文字の大きさ
5 / 60

5.両極を行き来する

しおりを挟む
王妃になった姉トゥイッカの頭上には、幾何学模様に編まれた銀のティアラが輝いていた。

人質として王宮に入ってからずっと、いつも儚げで陰のある佇まいだった姉。

いまや、その美しさに妖艶さを加えた。

ただ、妹であるわたしに向けてくれるやさしい視線は変わらず、おなじことを語りかけてくる。


――あなたは、こちらに来なくていいの。


部族が捧げた生贄である、わたしたち姉妹。その労苦を、姉は一身に引き受けてくれてきた。

けれど、第2王妃――側妃の地位を与えられ、14歳になったわたしも、姉と労苦を分かち合う日が来たのだとばかり思っていた。


「オロフ陛下からヴェーラに、離宮を賜りましたよ」


わたしを慈しむような声音で姉が発した言葉の意味が、しばらく分からなかった。

国王陛下のそばに立つ、アーヴィド王子も優しげに微笑んでくれている。

なんと応えたらよいか分からず、黙って見詰めるわたしに、姉が言葉を重ねた。


「……ヴェーラは、故郷にいた頃とおなじように暮らしていいと、陛下がお許しくださったのよ?」


わたしは、王宮から馬車で半日ほどかかる離宮に移り住むことになった。

離宮といっても、もとは王族の方が静養するための、こじんまりとした山荘。小高い山の中腹にある。

人質になってから初めて、王都を出た。

離宮の寝室。窓の外にはふかい森。

わたしはようやく気が付いた。

姉トゥイッカは、老いた国王の獣欲から、わたしを遠ざけてくれたのだ。


  Ψ


わたしの離宮に、王国の貴族たちから祝いの品が次々に届く。

側妃になった祝いと、離宮を賜った祝い。

使者からの祝辞を、側妃として厳かに受け、礼を述べる。

侍女のフレイヤがテキパキと取り仕切ってくれ、従者のイサクが祝いの品を片付けてゆく。

事態をどう受け止めたらいいか分からないわたしは、ただ茫然としていた。

すべての労苦を姉に押し付け、暴虐の王から逃げ出したのだという自責の念が、わたしの心に苦くひろがる。

けれど同時に、いつも誰かに見られているような王宮での人質生活から解放されたのだという安堵も抑えきれない。

蹂躙された部族の惨めな人質でありながら、王国に君臨する唯一無二の暴虐の王、オロフ陛下の第2王妃であるわたし。

自分では、自分の心の置き所を定めることができなかった。

そんなわたしの心を一点に定めてくれたのは、やはりアーヴィド王子の優しく天真爛漫な笑顔だった。


「やあやあ、母上! なかなか良い離宮ではありませんか?」

「も……、もう! ……だから、わたしの方が歳下なのですよ? 母上だなんて……」


わたしを祝うため離宮に足を運んでくれたアーヴィド王子と、謁見室で向き合う。

アーヴィド王子が祝いに贈ってくれたのは、素朴なつくりの弓矢だった。


「レトキ族は狩りを嗜まれると聞きました」

「嗜むというか……」

「ここなら、思う存分に木登りも出来ますし、狩りも楽しめます。ヴェーラ陛下にピッタリの離宮ではないですか?」


アーヴィド王子は手渡しで、わたしに弓を握らせてくれた。

かるく触れてしまったアーヴィド王子の指先の感触が、いつまでも心に残って、顔をあげることが出来ない。

そんなわたしの心の内をアーヴィド王子に悟られまいと、手にした弓を何度も撫でた。

側妃になったわたしに、アーヴィド王子は敬語で語りかけてくる。

第2王妃として〈陛下〉の尊称も許された。

第3王子であるアーヴィド〈殿下〉との間に、はっきりと分かる線が引かれたのだ。

おおきく息を吸い込み、暴れるわたしの心を押さえ付けた。


「誠に心のこもった品を贈っていただき、感謝いたします」


きっとわたしは、姉トゥイッカとおなじような笑顔をしていたに違いない。

王都から離れたといっても、公式行事などの際には王宮に戻り、第2王妃として国王陛下の隣に座らなくてはならない。

社交界へのお披露目も待っている。


「いやあ、母上と舞踏会で踊るのが楽しみです」


国王のほかに誰にも惹かれてはいけないわたしの心を奪う、美しく逞しい青年に成長した美貌の王子が、いっそ憎らしかった。

わたしはきっと、この先もずっと身体は王国に囚われ、心はアーヴィド王子に囚われたままなのだ。

にこやかに笑ってくれるアーヴィド王子に、わたしもニコリと笑顔を返した。


「舞踏会……。ええ、わらわも楽しみです」


   Ψ


王宮からわたしの離宮に派遣されるメイドと侍従騎士は、ほぼ半年交代の任期制にしてもらった。


「半年ほど息抜きのつもりで務めてください。働きぶりが良ければ、王宮に戻る際には口添えいたしますから」


というわたしの言葉を聞いた彼らの目に、安堵の色が浮かんだ。

彼らからすれば、いわば左遷だ。

姉がわたしを守るために遷してくれたとはいえ、彼らの出世まで巻き添えにすることはない。

あとは侍女のフレイヤと、従者のイサクと、気楽な3人暮らしのようなもの。

王宮にひとり残る姉に対して自責の念ばかり抱いていては、かえって申し訳ないと、山野に囲まれた暮らしをのびのびと楽しませてもらうことにした。

いずれは、老いた国王の閨に召される日が来るだろう。

考えたくはなかったけれど、姉と同衾させられるようなことが起きるかもしれない。

あるいは国王の方が離宮に足を運んで、わたしの上にのしかかる日が来るのかもしれない。

求められたら、応じないという選択肢はわたしに与えられていない。

それが部族の平和のために捧げられた生贄である、わたしに課せられた責務だ。

その日が来るまで、つかの間かも知れない山野暮らしを姉トゥイッカから与えてもらったことに、心から感謝した。


秋の収穫祭には、王国各地を治める貴族たちが領地の特産品を献納するため、王宮に集う。

そのとき、北に遠く離れたわたしの部族からも、貢ぎ物を携えた使者が王宮を訪れる。

年に1度だけ、部族の使者がわたしと姉に向けてくれる笑顔に――実際の労苦はすべて姉が引き受けてくれているとはいえ――人質として部族の犠牲になっている自分が報われた気持ちになる。

部族が平穏に暮らすために、わたしと姉は王国に差し出されているのだから。

側妃となった年から、部族の使者にはわたしの離宮にも寄ってもらった。

そして、部族に伝わる狩りの技法を、改めて教えてもらう。


「さ……、さすがに私は……。一応、侯爵令嬢ですし……」


というフレイヤには無理強いしなかったけど、従者のイサクは一緒に狩りを学んでくれた。

わたしが側妃になった年、イサクは12歳。

すでに身長は抜かれていて、弓を引き絞る褐色をした腕は、逞しい肉付きを見せ始めていた。


「……ヴェーラ陛下のお役に立ちたいのです」


と、寡黙なイサクだったけれど、侍従騎士たちに頼み込んで鍛錬方法を教わり、身体を鍛え込んでいる。

よく見たら顔立ちも涼やかだ。


「イサクって……、もうすこし大きくなったら、きっとモテるわよねぇ?」

「ええ。平民の生まれとは思えない、意外な気品もありますし」


フレイヤと顔を寄せ合い、鍛錬に汗を流すイサクをニマニマと眺めて、ヒソヒソと話す。

メイドのお姉様方から密かな人気もあるようだし、いつかイサクに相応しいお嫁さんを見つけてあげたい。

不遇な孤児だったイサクが、幸せな結婚をしてくれるのなら、それはとても喜ばしいことだ。

そんなイサクとふたりで狩りに出て、鹿や兎を仕留める。

離宮の裏手にある納屋を改装した狩り小屋で、部族が受け継ぐ技法で肉をさばいて、焚火で焼いて食べた。

王国貴族の子女であるメイドや侍従騎士には、近寄らなくて良いと伝えてある。

ただ、イサクとフレイヤはわたしに付き合ってくれて、3人で野営のような食事を楽しんだ。


「とにかく、日焼けにだけは気を付けてくださいね」


と、フレイヤからは肌を厳重に日差しから守る、特製の帽子をかぶせられ、手袋をはめられる。

公式行事で王宮に呼ばれると、煌びやかなドレスを身にまとわなくてはいけない。

そのとき、顔が日に焼けているようでは、側妃に相応しい気品に欠けると見なされるだろう。

日頃からフレイヤが入念にお手入れしてくれているのも、台無しにしてしまう。


「うへへっ……」


と、わたしの肌にクリームを塗りながらたまにフレイヤが漏らす、妙な笑い声は気になっていたけど……、

たぶん、わたしの気のせいだ。


   Ψ


緑豊かな山野に囲まれた離宮で気ままに過ごし、華やかな王宮では煌びやかなドレスを身につけ公式の場に立ち会う。

その両極を行き来する生活が4年続いた。

わたしは姉トゥイッカが王宮に入った時とおなじ、18歳になった。


――いつ国王から閨に呼び出されてもおかしくない。


姉の労苦を分かち合う、その覚悟が色褪せる隙もないほどに、国王オロフ陛下の猛々しさが薄れることはない。

来年には御歳80を迎えられるというのに、老いた国王が放つ威圧感はいまだ衰えを知らない。

第2王妃として横に座るたび、緊張で身を堅くした。

アーヴィド王子は兄である王太子殿下、第2王子殿下と共に、王国を守る要衝で太守の重責に任じられ、いまは王都におられない。

だから、まだ舞踏会で踊ってもらっていない。


――出来得ることならば、純潔な身であるうちに一度だけでも、わたしと踊ってもらえないか……、


と、それが、わたしのささやかな願いになっていた。


秋が深まり、今年の収穫祭を明後日に控えた昼過ぎに、イサクとふたりで狩りに出た。

部族の使者たちに1年ぶりに披露する、狩りの腕前を確認しておきたかったのだ。

草木の繁みに身を隠しながら、獲物を探してゆっくりと歩く。

全身の肌が鋭敏になったかのように神経を研ぎ澄ませるこの時間が、わたしは好きだ。

わたしの身体に流れる血が、レトキ族のものなのだと、再確認できるようだった。

そのとき、わたしの耳が、


――うっ……。


という、人間のうめき声を拾った。

この山にわたしたち以外の人間が立ち入ることはない。

賊の侵入かもしれなかったけど、

このうめき声には、聞き覚えがあった。

戦場で深い傷を負った兵士たちが漏らしていた、心ではなく身体が救けを求める声。


そして、もうひとつ心当たりがある――、


思わずわたしが駆け出すと、イサクも続いた。

うめき声の主は、血まみれで今にも冥府に旅立ちそうな姿で倒れていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。 そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。 そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。 「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」 そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。 かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが… ※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。 ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。 よろしくお願いしますm(__)m

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。 そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。 そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。 ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。 突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。 リクハルド様に似ても似つかない子供。 そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

モンスターを癒やす森暮らしの薬師姫、騎士と出会う

甘塩ます☆
恋愛
冷たい地下牢で育った少女リラは、自身の出自を知らぬまま、ある日訪れた混乱に乗じて森へと逃げ出す。そこで彼女は、凶暴な瘴気に覆われた狼と出会うが、触れるだけでその瘴気を浄化する不思議な力があることに気づく。リラは狼を癒し、共に森で暮らすうち、他のモンスターたちとも心を通わせ、彼らの怪我や病を癒していく。モンスターたちは感謝の印に、彼女の知らない貴重な品々や硬貨を贈るのだった。 そんなある日、森に薬草採取に訪れた騎士アルベールと遭遇する。彼は、最近異常なほど穏やかな森のモンスターたちに違和感を覚えていた。世間知らずのリラは、自分を捕らえに来たのかと怯えるが、アルベールの差し出す「食料」と「服」に警戒を解き、彼を「飯をくれる仲間」と認識する。リラが彼に見せた、モンスターから贈られた膨大な量の希少な品々に、アルベールは度肝を抜かれる。リラの無垢さと、秘められた能力に気づき始めたアルベールは…… 陰謀渦巻く世界で二人の運命はどうなるのか

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

処理中です...