キャロットケーキの季節に

秋乃みかづき

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(27)愛おしくて

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 電車に揺られながら、足立さんの言葉を思い出していた
その人のことは、もう本当に忘れられたのかな…

今は自分を見てくれてるんだから

頭ではそれが分かっていていも、心が落ち着かない



 先ほどのミュージカル会場に戻ってきた
もう夜の部が始まったのか、エントランス前には誰もいない

置いてきたとしたら、ここしかないよね…
お願いだからあって!

祈りながら受付へ向かう

「あの、すみません。」

受付の年配の女性に声をかける。

「はい、どうされましたか?」

「僕、昼の部のミュージカルをここで鑑賞したんですけど、その時にマフラーを落としてしまったみたいで。
こちらに届いてないかと思いまして。」

「えっとごめんなさい、そのマフラーはどのようなデザインでしょうか。」

「あ、えーと。
色はブラウン系で、素材はカシミア。
タグにその記載があります。」

「お待ちくださいませ。」

そういうと、受付の女性が内線電話をかけ始めた

「…。はい、そうです。
茶色のカシミアで。
落とされたのは昼の時間帯で。
はい、そうですか、分かりました。」

この感じだと、あるのかないのか…
五分五分だな 汗

電話を切って、僕の方に向いた

「お客様、ございました。」



「あるんですか?!
は~良かった~泣!
ありがとうございます、助かりました。」

「今、係のものがお届けに参りますので。」

5分も待たないうちに、係の人は来てくれた
どなたが届けてくれたんでしょうか?
と聞くも、
とある男性客の方が…
ということしか分からなかった
仕方ないか、交番じゃないしな
お礼を伝えられなくて申し訳ないけど、心の中で感謝しておこう

「拾ってくれた人、本当にありがとう!」



 受付の人に再度お礼を言い、会場を出る
階段を降りると、外はもう真っ暗
人の気配もなく、会場付近の電気が付いているだけ
とても静かだった

この静寂の中にいたら、なんだか急に泣きたくなってきた

「あーもう、苦しい…。」

僕はしゃがみ込んだ

そしてマフラーを抱きしめ、そこに顔を埋めた

礼央さんの気持ちに対する不安と、マフラーが見つかった安心感と

なんでか涙が流れていく

こんなに、好きになっていたなんて…

自分の中で礼央さんの存在がここまで大きくなっていたことに驚き、どうしようもない感情に怒りが湧いた

僕はどうしたらいいんだ…


 …その時

誰かが近づいてくる足音がした

そしてそれは僕の前で止まり

「歩夢?」

向かい合ってしゃがみ、
不思議そうな顔で首を傾けたのは礼央さん

「どうした?」

え…礼央さん?
なんでここに…

「足立さんから、歩夢が忘れ物して出ていったって聞いて。
俺もすぐ追いかけたんだよ。
忘れ物って、それ?」

僕が握りしめているマフラーを指差す

僕は涙を拭いて

「そ、そうです。
足立さんと話している時に気がついて。
やっぱりここにありました。」

「それで、泣いてたの?」

「えっと…
失くしたかと思って。
礼央さんが初めてくれたクリスマスプレゼントなのに。
でも見つかって安心したら、なんか…。」

そこまで話すと、礼央さんはしゃがんだまま僕のほっぺを優しくなでた


そのまま、顔を近づけて


2人の前髪が触れて


そして…



キスをした



優しくて、柔らかな唇が僕に重なる


一瞬で
緊張も恐怖も孤独感も
全てが消え去って
小さく丸まって顔を合わせる僕達


恐れることなんか、何もないんだ


そう思わせてくれるような
とても優しいキスだった



「…勝手にごめん。」

ゆっくりと顔を離すと、礼央さんが言った

謝ってなんかほしくないのに、僕はすぐに言葉が出なかった
幸せが体中を駆け巡っていたからだ
でも言葉でそれが出てこない

「歩夢がマフラー大事に抱きしめてる姿を見たら、愛おしくなっちゃって。
キスしたいって思った…。」

そう言いながら立ち上がる礼央さん

僕だって
こんなに好きなんだって
伝えたいけど

この満たされた気持ちを言葉にするのは難しく
方法が分からなかった


言葉にしなくても良いよね…


背中を向けた礼央さんに、僕は後ろから抱きついた

「礼央さん!
僕、礼央さんが好きです…。」

こわばっていた背中から、スッと力が抜けていくのを感じた

礼央さんは、お腹に回した僕の手に触れて

「俺のこと好きなのは知ってる 笑。」

「そうじゃなくて!
僕は、ほんとにほんとに…。
好きなんです…。
こんな気持ちになったの、礼央さんだけだから…。」

僕の手を優しくさする礼央さん

「キスしたの、怒ってない?」

「怒るわけないじゃないですか。
僕だって、ずっとしたかった…。」

すると礼央さんはくるりと向きを変えて

「じゃあ、もう1回。」

僕達は幸せに包まれながら、2度目のキスをした





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