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美男薄命なんて許しません!

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「先生!ジェントをどうにか助けられないのでしょうか……!?」

とある王国の、とある貴族邸。
ベッドに横たわる青白い顔の青年の手を握り、彼とよく似た美しい娘が涙ながらに訴えかける。

そばに立っている初老の医師は、悲しげに目を伏せ、低い声で事実のみを告げた。

「ジェント様のお身体を治す薬はありません。残念ですが、栄養剤で少しの回復を続けていくしか……」

「そんな!」

ジェントはこの世界特有の遺伝子疾患を患っている。

通称・美男子病。

大昔の魔女の呪いとやらが原因だという説や、遺伝子そのものに何らかの要因があるのではという説があるが、確かなことは、見目麗しい男性ほど寿命が短いということだけ。

美男子は二十歳から二十五歳までには儚くなり、それはこの世界での常識であった。

ロレーヌは艶やかなハニーブロンドの髪を揺らしてかぶりを振り、「私を置いていかないで!」と絶望に涙した。

本来なら同じ色の髪であるジェントは、随分とくすんだ色になってしまった。

彼はもう17歳。
いよいよ身体が弱り始めているのが見て取れる。

今は発作が出て眠っているが、薬を飲んで咳を抑えると、明日には会話できるくらいには回復する。

しかしまたひと月も経てば発作が起き、いずれベッドから起き上がることもできなくなるだろう。

こどもの頃は二人して父親から剣を学び、ときには殴り合いの喧嘩もした元気な双子だったのに……と家族も使用人たちも心を痛めている。

この病は女性にはなく、ジェント同様、誰もが見惚れる美しさを持つロレーヌは健康体そのもの。

すでにたくさんの縁談が舞い込み、ジェントが美男子病で先が短い今、誰がロレーヌを射止めてこの家に婿に入るのかは社交界で注目の的であった。

しかしロレーヌは、弟の命を諦めていない。自分が婿選びなどすれば、それは弟の命が尽きるのだと認めるようだと思い、今までどんなに条件のいい相手でも断ってきた。

ちなみにこの世界での条件のいい男とは、家柄がよく性格温厚、そしてなによりも大事なことは「イケメンでないこと」である。

美男は問答無用で早死にするため、「取り立てて美しくはないけれど無難な容姿」の男性は圧倒的に人気なのだ。

ロレーヌに寄せられる縁談も、そんな普通の容姿でありながら将来有望な男たち。

武闘派一族の婿希望ということで、いずれも腕に覚えのある者がこぞって婚約申込書を送ってきたのだが--
結果は前述したとおりである。

「何か、何か寿命を延ばす方法があるはずよ。待ってて、お姉ちゃんが絶対に助けてあげるわ……!!」

ロレーヌの想いを否定するものはいない。けれど、両親ですら半ば諦めていた。

双子は父親の弟、つまり叔父によく似た美しさだと言われている。
21歳でこの世を去った、絶世の美男子だったという叔父に。

父は弟を亡くしているため、息子の死も覚悟しているようだった。

母はすっかり気落ちしてしまい、近頃ではジェントの顔を見るとすぐに涙ぐむ。

(私がしっかりしなきゃ!)

ロレーヌはこれまでにも輪をかけて、薬や医療、占いにまで範囲を広げて美男子病の治療法を探すのだった。
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