美男薄命、恋せよ乙女!?王家の秘薬と引き換えに、タヌキな殿下と結婚します!

柊 一葉

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姉が何かに目覚めました

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リオネルの婚約者にロレーヌが内定したことは、瞬く間に王国へと広がった。
おおむね祝福ムードであり、特に王太子と親しい人間ほど二人の婚約に湧いていた。

「う~ん」

ロレーヌはあの日からずっと王城で暮らしていて、早二週間が経過した。
ジェントは王家の秘薬を飲み、まだ身体は細く体力は回復していないものの、顔色はすっかりよくなっている。

「姉さん、今日は何?まだ人の顔と名前が覚えられなくて悩んでいるの?」

見目麗しい双子は、王城の医局内にある一室にいた。
ジェントはベッドに座って本を読んでいて、そばに置かれた椅子にロレーヌが座っている。
腕組みをして悩む姿すら美しく、ハニーブロンドの髪はシャンデリアの光を浴びてキラキラと輝いていた。

「どうすればリオネル様に信頼してもらえるかわからなくて」

一生涯そばで、裏切らないと誓った。
けれどそれをどう証明すればいいのかわからない、とロレーヌは言う。

「そんなの出会ってまだ数か月も経っていないのに、不可能だよ。まぁ、姉さんは単純だから、王太子殿下もそこはわかっているんじゃないかな」

弟のいいように、ロレーヌは目を眇めた。

「まったく、よくそんな無計画で情けをいただけたよね。本当に姉さんは昔から……」

「もう、お小言は聞きたくないわ」

ぷいっと顔をそむけたロレーヌを見て、ジェントはくすりと笑う。

(姉さん、バカだなぁ。人はなんだかんだ言って、きれいなものが好きなんだよ。殿下だって、姉さんがそばにいるのは願っても見ないことだろうに)

リオネルは良識ある人物だが、まったくの無欲というわけでもない。
王国一の美女ともいわれる姉が薬ひとつで嫁いでくるのなら、十分な取引だとジェントは思っていた。

(リオネル様って恋愛とかしたことなさそうだしな~。合理的すぎておじいさんみたいだもんな。せいぜい、姉に振り回されればいい)

ジェントはあれから何度かリオネルと会っていた。
そして、自分が飲んだ王家の秘薬についても詳しい説明を受けていて、その上で姉の婚約を改めて受け入れたのだった。

薬を飲んで最初に目を覚ましたとき、リオネルは彼に真実を告げた。

『王家の秘薬は、病を根絶させるものではない。寿命を継ぎ足す、と言った方がいいか。いずれまた、美男子病は発症するだろう。あと十年か二十年か、その間に自らを実験体として本物の薬を作れ。いいな』

あくまで、この命は仮初めのもの。
再び病が発症すれば、今度こそ命はない。

だがジェントはそれをロレーヌには告げなかった。
身を投げ出してまで弟を助けた姉には、何も知らずに笑っていたほしかったのだ。

(十年もあれば、結婚して跡取りも持てる。王家にある研究者たちの力を借りれば、きっと薬は作れるだろう)

穏やかな笑みを浮かべる弟を見て、ロレーヌは尋ねた。

「でも、ジェントがすぐに許してくれるとは思わなかったわ」

勝手なことをしたと、叱られると思っていた。実際にはかなり叱られたのだが、相手が王太子殿下なら文句はないと結果的に許しがもらえたのだからロレーヌは喜んだ。

「姉さんは自分の立場がわかっていないよ」

「え?立場って」

ジェントが回復したことは、いずれ周囲に知られるだろう。美男子病からの復帰。誰もが見惚れる見目麗しい彼の回復は、これから大きな火種になることは間違いない。

「今のところ、美男子病から生還した俺は、侯爵家の跡取りだ。バカみたいな量の縁談が舞い込むと思うよ。そこに双子の姉が未婚で婚約者もいないなんてことになれば……」

「あ……」

これまでは婿養子候補しか縁談が来なかったが、今度は一転して名のある家から見合いの話が舞い込むだろう。美しいロレーヌを手に入れようと、権力を使ってくる家があるかもしれない。

それどころか、誘拐して無理やり手に入れようとする輩がいないとも限らない。

「姉さんが無事に暮らすには、リオネル様の婚約者でないと。許す許さないじゃなくて、姉さんの身の安全のためにはこれが一番よかったんだよ。父上もそう言ってた」

ロレーヌは申し訳なさそうに肩を落とす。
ジェントはそんな姉の頭をそっと撫で、困ったように笑って言った。

「絶対に幸せにしてもらってよね、リオネル様に。姉さんは、これからは自分の幸せを考えて」

「ジェント……」

ロレーヌの目にうっすらと涙が浮かぶ。
彼女は何度も小さく頷き、必ず幸せになると誓った。

「リオネル様に信頼してもらえる立派な妃になるわ」

「ははっ、信頼はそんなにすぐには得られないよ。明らかに姉さんがリオネル様にベタ惚れだー、とかだったら別だろうけれど」

ジェントが軽く発した言葉に、ロレーヌはぱちりと目を瞬いた。

「それよ」

「え?何?」

「それよ、私がリオネル様にベタ惚れっていう状態になればいいんだわ!」

「え、姉さん本気で言ってる?どこまで冗談?」

「冗談なんて言わないわよ。私、リオネル様に惚れるわ」

「……」

唖然とする弟を尻目に、ロレーヌはさっそく立ち上がって部屋を出る。

「リオネル様に計画をお伝えするわ!ジェントももっと元気になったら協力してね!じゃっ」

「姉さん!?」

走り去る姉を止めることはできなかった。
ひとり残された弟は、いつのまにか床に落ちた本にも気づかず、パタンと閉まった扉を見つめて茫然としていた。










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