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姐さんは平常心を鍛えたい
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ここは神々が暮らす世界。
数ある神殿の中でもひときわ目立つ、木造建築に見える神殿は、松の木やスギの木に囲まれている。
この神殿の管轄は、ニホンという島国。
ゲンゴーと呼ばれる
七十七LLLDDDKKKKKKの平屋だ。
最奥にある赤や金を基調とした豪華な部屋で、ニホンを統べる新しい神は悩んでいた。
「あかん、これ以上自分を抑えきれへん……!」
着任して早三ヶ月。自称・姐さんの令和は、十二単を翻し、颯爽と廊下へ飛び出した。
ーースススススススススス……。
長いヒノキの廊下を進み、前任者であり父親の平成の部屋にやってきた令和は、勢いよく扉を開けた。
ーーバタンッ!!
「おとうはん!もうあかん、世界陸上がきてまう!!」
「令和!?落ち着け!!」
興奮のあまり扇子をボキッと追ってしまった娘を見て、紋付袴姿の平成は慌てて立ち上がった。
「落ち着け、あかんぞ。ニホンが暑うなってまう。わしが高血圧やったせいで、ニホンはもうえらいことなっとったんや。おまえまで平常心を失ったらあかん」
「そやかて……!」
「ええか、令和。何事も心頭滅却すればオシャレも我慢いうやろ」
「そうでしたかいな」
平成は令和の肩に手を置き、説得を試みる。
が、これまでニホンを暑くしてきた男の言葉に、説得力などない。
「おとうはん、このままやとニホンを焦がしてまう。私は心を鎮めなあかん」
「そ、そやかて令和。どないすんねん?世界陸上も持鞠ワールドカップも来るやろ。おまえ、耐えられるんか?」
「考えがあんねん」
「考え……?」
力強く頷いた令和は、大きく息を吸って吐き、突然に暗い顔になった。
「こうして心が傷むことばっかり思い出したらええねん。そうすれば涙が滲む程度……大雨にもならんし暑ぅもならん。大丈夫や」
その美しい顔に憂いを浮かべる令和。
平成はそんな彼女を見てぐっと拳を握りしめる。
「おまえは、なんちゅー心優しい娘や。自分の心の痛みを犠牲にしてまで……!ところで何を思い出しとるんや?」
左手で口元を多い、よよ…と泣き暮れる令和に平成は尋ねた。
「おとうはんが浮気したときのことや。おかあはんがジャーマン・スープレックスからのパイルドライバーを決めて、そのはずみで私のデザートが吹き飛んでいった……ふふ、他にもまだまだ」
「令和、ほかにしとき」
気まずさに耐えかねた平成は、つい背を向ける。
「おとうはんは、すぐ逃げるからあかんねん。私は逃げたりせぇへん」
その目にはきらりと涙が光る。
ニホンがわずかに冷え出したことは、神である二人には自ずとわかった。
しかしここに、思わぬ敵が現れる。
ーーバタンッ
「平成はん、暇なら囲碁でも……令和、なんで泣いとるんや?」
「明治のお兄さん!」
やってきたのは、軍神・明治。
派手な袴、キセルを片手に優雅に歩く黒髪の男はさすらいのイケメン神だ。
平成の部屋で涙を浮かべる令和。
そして娘に背を向ける父・平成。
そんな二人を見た明治は、悲痛な表情に変わる。
「平成、いくらなんでもコレはかわいそうちゃうか?」
「「は?」」
「一度や二度の失敗は誰にでもある。神とて同じ。令和が何やらせても不器用で、融通が利かんことはわかっとったやろ」
「あの、お兄さん、さりげなく私のことけなしてますよ?」
うろたえる令和。
そんな令和の肩を掴み、明治はまっすぐに見つめて言った。
「おまえなら大丈夫や。平成は認めてくれんかもしらんが、俺は違う。おまえを見捨てたりせん。これからはそばにおって、面倒見てやろやないか」
「明治兄さん……!!」
見つめ合い、令和は頬を染める。
明治は静かに頷き、その表情からは固い意志が伝わってきた。
そんな二人を見ていた平成は、思わず顔をしかめる。
「明治……おまええらいことしてくれたなぁ」
ニホンの気温は、瞬く間に上昇ししていた。
数ある神殿の中でもひときわ目立つ、木造建築に見える神殿は、松の木やスギの木に囲まれている。
この神殿の管轄は、ニホンという島国。
ゲンゴーと呼ばれる
七十七LLLDDDKKKKKKの平屋だ。
最奥にある赤や金を基調とした豪華な部屋で、ニホンを統べる新しい神は悩んでいた。
「あかん、これ以上自分を抑えきれへん……!」
着任して早三ヶ月。自称・姐さんの令和は、十二単を翻し、颯爽と廊下へ飛び出した。
ーースススススススススス……。
長いヒノキの廊下を進み、前任者であり父親の平成の部屋にやってきた令和は、勢いよく扉を開けた。
ーーバタンッ!!
「おとうはん!もうあかん、世界陸上がきてまう!!」
「令和!?落ち着け!!」
興奮のあまり扇子をボキッと追ってしまった娘を見て、紋付袴姿の平成は慌てて立ち上がった。
「落ち着け、あかんぞ。ニホンが暑うなってまう。わしが高血圧やったせいで、ニホンはもうえらいことなっとったんや。おまえまで平常心を失ったらあかん」
「そやかて……!」
「ええか、令和。何事も心頭滅却すればオシャレも我慢いうやろ」
「そうでしたかいな」
平成は令和の肩に手を置き、説得を試みる。
が、これまでニホンを暑くしてきた男の言葉に、説得力などない。
「おとうはん、このままやとニホンを焦がしてまう。私は心を鎮めなあかん」
「そ、そやかて令和。どないすんねん?世界陸上も持鞠ワールドカップも来るやろ。おまえ、耐えられるんか?」
「考えがあんねん」
「考え……?」
力強く頷いた令和は、大きく息を吸って吐き、突然に暗い顔になった。
「こうして心が傷むことばっかり思い出したらええねん。そうすれば涙が滲む程度……大雨にもならんし暑ぅもならん。大丈夫や」
その美しい顔に憂いを浮かべる令和。
平成はそんな彼女を見てぐっと拳を握りしめる。
「おまえは、なんちゅー心優しい娘や。自分の心の痛みを犠牲にしてまで……!ところで何を思い出しとるんや?」
左手で口元を多い、よよ…と泣き暮れる令和に平成は尋ねた。
「おとうはんが浮気したときのことや。おかあはんがジャーマン・スープレックスからのパイルドライバーを決めて、そのはずみで私のデザートが吹き飛んでいった……ふふ、他にもまだまだ」
「令和、ほかにしとき」
気まずさに耐えかねた平成は、つい背を向ける。
「おとうはんは、すぐ逃げるからあかんねん。私は逃げたりせぇへん」
その目にはきらりと涙が光る。
ニホンがわずかに冷え出したことは、神である二人には自ずとわかった。
しかしここに、思わぬ敵が現れる。
ーーバタンッ
「平成はん、暇なら囲碁でも……令和、なんで泣いとるんや?」
「明治のお兄さん!」
やってきたのは、軍神・明治。
派手な袴、キセルを片手に優雅に歩く黒髪の男はさすらいのイケメン神だ。
平成の部屋で涙を浮かべる令和。
そして娘に背を向ける父・平成。
そんな二人を見た明治は、悲痛な表情に変わる。
「平成、いくらなんでもコレはかわいそうちゃうか?」
「「は?」」
「一度や二度の失敗は誰にでもある。神とて同じ。令和が何やらせても不器用で、融通が利かんことはわかっとったやろ」
「あの、お兄さん、さりげなく私のことけなしてますよ?」
うろたえる令和。
そんな令和の肩を掴み、明治はまっすぐに見つめて言った。
「おまえなら大丈夫や。平成は認めてくれんかもしらんが、俺は違う。おまえを見捨てたりせん。これからはそばにおって、面倒見てやろやないか」
「明治兄さん……!!」
見つめ合い、令和は頬を染める。
明治は静かに頷き、その表情からは固い意志が伝わってきた。
そんな二人を見ていた平成は、思わず顔をしかめる。
「明治……おまええらいことしてくれたなぁ」
ニホンの気温は、瞬く間に上昇ししていた。
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