【本編完結】嫌われ偽聖者の俺に、最狂聖騎士が死ぬほど執心する理由

司馬犬

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1章

11.偽聖者は神(仮)である《5》

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 ──その少年は、悲惨な状況にいた孤児だった。

 彼が暮らしている孤児院は孤児たちに対して、日常的に虐待を行っていた。その少年も例にもれず、虐待されており彼が神に祈った願いは『楽になりたい』だった。
 出会った少年の目は、全ての絶望を詰め込んだように暗く沈んでいた。まともに食事も与えられていないせいか、枯れ枝のように痩せ細った彼を見た瞬間、俺は言葉を失った。
 だから俺は、彼を楽にすることにした。
 神の力を好きなように使って、孤児院の全てを変えた。虐待を与えた職員には天罰と称して痛い目に合わせ、孤児院の状況が変わるようにありとあらゆる力を使った。
 割とひどいこともしたが、何の後悔もしていない。俺は救いようのない悪人に容赦はしないと決めているのだ。
 こういう時に神の力は本当に便利だった。他者の思考さえも操り、変化させられる。
 その甲斐あって、孤児院はまともになり、虐待もなくなり、彼の顔色は子供らしいものへと戻っていった。
 ただ、その目は変わらなかった。
 鬱蒼とした森林のような深い翠色の瞳は光さえ反射しないほどに暗い。どんなに状況が変わろうとも、そこには常に虚ろさが漂っていた。

『シャウーマ様。どうして……?』
『雪の愛し子』

 少年には名前さえなかった。孤児院では番号で呼ばれており、本名は本人ですら知らなかった。だから俺は、雪の降る夜に出会ったことを理由にこう呼ぶことにしていた。

『楽になりたいって願ったのに』
『願った通り、楽になったではありませんか』

 彼は、神の声を聞ける特別な人間だった。
 ゴートに聞けば、こういう人間が教皇になり得る資格を持ち合わせているのだという。しかし、今の教皇には神の声は聞こえていないらしい。
 初対面から、彼は俺をシャウーマ神だと思っていた。その頃俺は、身体的には五歳ではあったが、神の時は二十過ぎの男だ。子供相手に神という幻想を壊すつもりはなかったので、彼と話す時はそれらしい演技をすることにしていた。

『……そういう意味じゃないって、わかってるよね?』

 もちろん、少年が望んだ『楽になりたい』がそういう意味でなかったのはわかっていた。
 だが、幼い子供が願うことが死にたいだなんて、どうしても俺には許せなかったのだ。
 それに、一度目の人生で火あぶりになった俺から伝えたいことがあった。

『君は、人々に愛される人間なのですよ』
『……え?』

 俺のように、誰にも愛されないと決まっているわけではない。これから生きていれば、愛し愛される誰かと出会えるはずなのだ。それをこんな早くから、終わりにしていいはずがないだろう。
 少年は俺の言葉に、顔を上げる。声の方向を追ったからだろうが、偶然にも俺と目が合った。だが、その目は疑いで満ちている。
 確かに、訪れてもいない未来のことを言われても半信半疑になるだろう。その時の俺は、神として彼の前にいるのだから、それらしい言葉で伝えなくてはならない、と思ったのだ。
 聖典では、シャウーマ神は信徒たちを我が子のように思っていると記載されていた。その時、本で読んだ普通の親が子供へ頻繁に伝える言葉を思い出した。それがふっと頭に浮かんで、思わず口にでた。

『現に私も……君を愛しています』

 ──我ながらよく言う。本当は、親が子を愛する気持ちなんてよく知らないくせに。
 少年は俺の言葉に一瞬呆然として、俯く。そして、小さく肩を震わせ始めた。次に聞こえるのは小さな嗚咽と泣き声だった。
 顔は見えなかったが、ぽつぽつと雨が降り出したように雫が床へと落ちていく。
 彼が俺に感情というものを見せたのはそれが初めてだった。
 きっと、少年も俺と同じように愛を得たことのない人生だったのだろう。

『っく、あり、がとう……ありがとう、ございますっ』

 彼はしばらく泣き続けていた。必死に掌で涙を拭っている。それは今まで見たことのない子供らしい姿だった。
 そして、ゆっくりと顔上げた。潤んだ瞳が俺を捉える。

『──あ、あなたが、いてくれて、よかった……』

 少年の目からは涙がぽろぽろと流れ落ちている。顔は涙に濡れ、目蓋は腫れており、酷い様子だった。しかし、彼は笑っていた。
 目を細め、口角を上げたその笑顔は、まるで世界の全てが手に入ったかのような満ち足りた表情だった。
 俺は、息を呑んだ。
 その言葉は、シャウーマ神だと勘違いして送られたものだ。“レダ”という俺を見て、知って、向けられたものではない。
 そう知っていたのに、わかっていたのに── 

『っ……』

 その言葉を聞いた時に、俺の視界は歪んだ。目頭がじんわりと熱くなっていき、目からは涙が零れていく。そのまま頬を濡らして、ぽつぽつと床へ落ちていく。
 ──死んでもいいと思えるほど、嬉しかったんだ。
 ずっと誰も言ってくれなかった。誰も望んでくれなかった。そんな俺が、少しでも愛して貰えたようで。
 本当の意味では違うと知っていても、俺の言葉と行動を知り、答えてくれた言葉だった。それだけで、どうしようもなく特別で、それは初めて愛を向けられた言葉だった。

 その時、俺にとって、その少年は誰よりも特別な存在となった。
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