【本編完結】嫌われ偽聖者の俺に、最狂聖騎士が死ぬほど執心する理由

司馬犬

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1章

幕間 彼にはわからないこと

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 この数週間、神官の男性は怒りに震えていた。
 その怒りの理由はたった一人の男が原因だ。
 男の名前はレダ・ヴァルギース。あの名高いヴァルギース公爵家の次男として生まれながら、神官になった前代未聞の問題児のことだ。
 神官は、シャウーマ教会に入ってから教えを熱心に守り続けていたし、敬虔な信者である自負していた。そんな自分を誇りにさえ思っていた。
 そんな時、レダがコラルカ教会堂に配属されてやってきた。基本的に、位の低い神官たちの部屋は四人部屋を使用する。しかし、何故かレダは一人部屋を与えられた。
その待遇は新入りの神官では異例であり、何者かの作為があることはすぐにわかった。それなのにレダは、教会に入って心を入れ替える所か、神像を壊したり神官を虐めたりと悪い噂が絶えない。
 だからこそ、教えを蔑ろにするレダはいずれ神の裁きが降りかかると信じて疑わなかった。
しかし、そんなレダが聖者だということになったのだ。そして先日、聖遺物を反応させたことが認められ近々聖者として、正式に認定されることになった。
 それに対して、神官は怒りを抑えられなかった。
 神官はレダが聖遺物を光らせた場にもいた。義憤にかられて、レダは聖者に相応しくないと訴え出た。しかし、聖騎士であるフシェンが現れ、その訴えは有耶無耶とされてしまった。

 ──聖遺物もきっと、アイツが何か手を回したに違いない!

 聖遺物が反応したのも、レダが何か手を加えたからだと確信していた。しかし、ただの神官である彼にはその証拠を掴むことは不可能に近かった。
 そんなある日、聖者だと認定されたレダは近々聖都へと移動になるという噂を聞いて、神官の怒りは頂点に達した。それは、いまだ聖都に行けない神官自身の立場と比べ嫉妬心も混じり、激しい義憤へと変わった。
 だからこそ神官は、その感情に任せて行動を起こした。
 彼が忍び込んだのは、仄かな灯りで照らされている厨房だ。まだ日が昇りきっていない厨房に足音を殺して向かうのは、仕込みが終わった鍋があるところだ。
 聖者と認定されてからというもの、レダの食事は他神官とは違う食事が用意されるようになっていた。そして、それをどこに置いてあるのかは、予め厨房担当に聞いており迷うことはない。
 その鍋の前に立つと懐からそっと紙に包まれた粉を取り出す。

 ──これは必要なことだ……シャウーマ様も私を許してくださる!

 包みの中に入っている粉は、強烈な腹下しだ。これを飲めば一週間は腹痛に悩まされ、動けなくなるだろう。そうなれば聖都行きは延びて、時間ができる。その間に、偽聖者である証拠を得ようと考えていた。
 そっと、包みを開いてその粉を鍋へ入れようとした、その時。

「──私は、とても悲しいよ」

 落ち着いた声が厨房に響いた。

「ひっ!」

 神官はその声に驚き、慌てて振り向く。
 振り向いた先にいたのは、翠色の瞳と暗闇に溶けるような黒色の髪をもったフシェンだった。

「い……イザ、イザリティス卿」

 いつの間に神官の後ろへ近づいて来ていたのか、厨房の中でほんのりと窓から差し込む明かりによって仄かに照らされながらフシェンは立ち尽くしている。その眉尻は垂れて、神官を見ながら困ったように微笑んでいた。

「私の忠告が、届かなかったようだね」

 困ったような表情をしているが、声や仕草にはどんな感情も感じられない。目の前にいるというのに、まるで透明人間と対峙しているような錯覚を感じる。
 神官はそれが底知れぬ恐ろしさを感じ、足が震え始めて止まらない。

「こ、これは……あの」

 フシェンは、何事もなかったようにゆっくりと近づいてくると神官の手にあった包みをそっと奪う。その粉を指先で触れ、鼻を近づけて匂いを確認してから、自らの懐へとしまった。

「強力な腹下しか。まったく、とんでもないことしてくれる」
「ち、違うのです! は、話をお聞きください!」

 神官は恐怖に震えながらも、必死に声を絞り出す。当然だが、通常は聖者を害しようとすれば重い罰を受ける。
 すでに犯行は目撃されており、言い逃れはできない。だからこそ、フシェンにレダは本物の聖者ではないのだと理解してもらう必要が神官にはあった。

「れ、レダ神官は、とんでもない悪党なのです! う、嘘ではありません! 神像を幾度も壊し、自分より身分が低いと平民の神官たちを虐めて、あのような神官が聖者になるはずがありません!」
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