【本編完結】嫌われ偽聖者の俺に、最狂聖騎士が死ぬほど執心する理由

司馬犬

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3章

37.偽聖者は友人と行く

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 無視をしてもよかった。正直反応さえしたくなかった。それでも、顔を上げたのは視界の端に金色の霧を見つけたからだ。
 何の感情も感じられないまま茫然と、そちらを見るとそこには見慣れた相手が俺の肩に乗っかっていた。

『もう、レダってば。酷い顔だよ』

 それは久しぶりに読んだ整った綺麗な金色の文字で、宙に描かれていた。そして、十代くらいの小さめの左手が、こちらに向かってゆっくりと手を振っていた。

「……ゴート?」
『そう、僕だよ! 今さっき呪いがなくなって、動けるようになったんだ』

 ゴートを侵していた呪いは、ダーティスが翼に戻ったことによって解けたのだとわかった。きっと今頃はヴァルギース家にかかった呪いもなくなっているだろう。
 ゴートは俺の方へ指先を伸ばすと、俺の頬を優しく撫でる。それはしっかりと温かくて、彼が戻ってきたのだと自覚するには十分なものだった。

『レダをここまで泣かせるなんて酷いやつもいるもんだよね。本当に、許せないなあ。文句の一つでも言ってやらないと』
「……」
『だからさ、レダ。フシェンを助けてあげようよ』
「……え」

 俺は宙に描かれた文字を読んで、固まった。フシェンを助ける? その文字を何度も読み返して、信じられなくてゴートを見つめる。
 ゴートはそんな俺に気付いて、人差し指を立てて左右に揺らした。

『フシェンはまだ生きてるよ。このまま放っておけば死んじゃうけど、助ける手はまだあるんだ』

 フシェンを助けられる。それを知った瞬間、暗く沈んでいた気持ちが一気に晴れていく。淀んでいた視界は光を取り戻して、失った感情が戻ってくる。

「ほ、本当か、ゴート! 教えてくれ、どうしたらフシェンを助けられるんだ!」

 俺は飛びつくように肩にいたゴートを右手で掴むと、顔の前で引き寄せた。すると、ゴートは怒ったように掴んだ俺の手を指先で、ぺしぺしと軽く叩いた。

『もー、僕を右手で掴まないでってば! 助けるのは簡単な話だよ、レダの力で願いを叶えたらいいんだ』
「……願いを叶える?」
『そう、レダと僕がいつもやっていたことだよ』

 それは、人間の純粋な願い事を一つだけ叶えてあげること。しかし、俺の周りにいる人間はフシェンだけだ。それにフシェンは既に願いを叶えているからこそ不可能だ。
 願いを叶えられるのは一生に一度だけと、決まっている。

「無理だ、フシェンはもう」
『違う違う。その子じゃないってば。今、ここにもう一人だけいるでしょ。純粋に、切実にフシェンの無事を願っている人間が』

 ゴートの人差し指が左右に揺れてから、その指先が俺に向けられる。一瞬、言葉の意味が理解できずに固まったが、すぐにゴートの言葉を理解して、息を呑んだ。
 そうだ。さっきも、ダーティスに言ったじゃないか。
 ──俺は今、人間だ。

『でもね。レダの願いを叶えるってことは、レダは正真正銘ただの人間になるんだ。だから、神の力は消えてしまう。レダに科せられた罰も、元通りの力を発揮することになるよ。つまり……レダは、また誰からも嫌われることになるの』
「また、元に戻るってことだな」
『……それでも、いいの?』

 ふと、目が合うだけ蔑まれ、見知らぬ人間に嫌悪の目を向けられていた以前の自分の状況を思い出して、下唇を噛み締めて俯く。全てが元に戻るなら、エンジにも嫌われてしまうことになるのだろう。
 そして、それはフシェンも例外ではないはずだ。もう、俺を愛してくれることはないだろう。
 ──それでも。

「ああ、いいさ。俺の願いを叶えよう、ゴート」

 俺は、フシェンに生きてほしかった。彼が俺のことを嫌いになっても、俺はフシェンを愛する気持ちは変わらない。自分が幼いころからずっと欲しかった、唯一の愛を俺はもう手に入れた。愛して、愛されたからこそ、これから先の人生、たった一人で生きることになろうとも、十分幸せだ。
 俺の返答を聞くと、ゴートは俺の手から離れて、フシェンの体へと向かう。そして、フシェンの頭に乗っかると、俺に向かって手を上げた。
 それに対して、小さく頷くと腕の中にいるフシェンをもう一度、強く抱きしめた。そして、大きく息を吸う。
 これが、俺のたった一つの願い。

「──フシェンが生きて、幸せになりますように」

 そう口にした瞬間、俺の体が金色に輝き始める。正確には、金色の霧が俺の全身を覆い始めており、それはゆっくりと俺の体から離れて上へ昇って消えていく。その霧は部屋中に広がっていくので、なかなか幻想的な光景だ。
 金色の霧は俺が持っていた神の力で、その全てが今俺から出ていき、消えていく。そして、その金色の霧は、フシェンを包み込み、傷痕を覆う。すると、その傷痕が塞がり徐々に消えていくのがわかった。
 青白かったフシェンの顔にも赤みが戻り、弱々しかった呼吸も安定していく。

『よかったね、レダ』

 俺の眼前に描かれた文字を読んでから、ゴートを見たが、その光景に小さく息を呑む。

「……なんで」

 ゴートの体が透けている。辺りに広がる金色の霧が増えていく度に、指先から徐々に透けて見えなくなっていた。
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