【本編完結】ラスボス系悪役令息が望むのは、原作通りの没落ルート

司馬犬

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1章

8.長男バイス・ラクトフェル

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 「サタリア。お前の専属使用人はどうだ?」
 
 沈黙を破って口を開いたのはムルダムだ。
 この月一に必ず行われる朝食会は、言うなればムルダムが息子たちの出来を見るためのものだ。ムルダムは合理主義者であり、彼にとって息子たちは使える駒であるかどうかで、そこに愛情などはない。
 今は俺を優秀な駒として扱って貰えているが、俺がこの家にとって害をもたらそうとしていることがバレてしまえば、容赦なくキメラの材料にされるか、拘束され魔法生物を創り出すだけの道具のような扱いを受けることになるだろう。
 だからこそ俺は、演技に集中する。決して弱みを見せてはいけない。彼の前では優秀な悪役でいなくてはならないのだ。
 
「見ての通り、何をしても壊れにくそうで、気に入っております」
 
 俺は薄っすらと微笑み、心を読まれないように感情を殺す。ちなみにアルヴェンは俺の後ろに立っている。
 この家で専属使用人を持っているのは俺とムルダム、そしてバイス兄上だけだ。三つ子が選べるのはもう少し先になるだろう。
 
「そうか。それは私の最高傑作だ。本来なら皇族に渡すつもりだったのだが、いつも我が家のために働いてくれる息子のために、何か褒美を与えたくてな」
「……ありがとうございます、父上。とても嬉しいです」
 
 ムルダムの言葉に一瞬だけ笑顔が崩れそうになるが、頭を下げてそれを誤魔化した。
 いや、つまり……アルヴェンがあそこにいたのは俺のせいか!
 俺は原作とは違い魔法生物を創る優秀な駒だから、ムルダムが俺に対する褒美として、あそこにアルヴェンを専属使用人候補に入れただけのようだ。
 くそ……いやでも仕方ない。それに修正可能なズレだ。
 そこまで考えて、食べる手を止めてふと考える。
 ──本当に、修正可能なズレなのだろうか。
 アルヴェンの様子は明らかにおかしい。もしかしたら、俺が起こした何らかの出来事によって、ラクトフェル家に対する恨みが消えてしまっているのではないだろうか。そう考えると俺に対する態度にも説明がつく。
 
「名前は、もう決めたのか?」
「はい。もう決めてあります、名前は……」
 
 ムルダムの声で我に返り、すぐにそちらへ微笑みを向ける。アルヴェンという名前は、皇女が付けてあげたものだ。だからこそ、ここで俺がその名前を呼ぶ訳にはいかない。
 適当な名前をつけようとして、後ろを振り返った瞬間、俺の全身の肌が総毛立った。
 
「……アルヴェン」
 
 思わず彼の名前が口から零れる。アルヴェンの顔には、何の感情もなかった。まるで無機質な人形のような表情で、死んだような瞳をムルダムに向けていた。
 原作を読んでいた俺だからこそ、その顔を知っている。
 その虚ろな表情の源は、激しい怒りだ。
 アルヴェンは、自分の心を悟られないように必死に殺意を押し殺しているのだ。
 溶岩のようにどろっとした憎悪を内に秘め、それは自分を壊した相手に復讐するまで止まらず湧き続けている。
 
「アルヴェンか。いい名前を考えてやったんだな」
「……はい。父上の作った物ですから」
 
 俺はすぐに視線を前に戻して、何食わぬ顔で口端を引き上げた。
 ──違う。
 俺の勘違いだった。彼の恨みは、全然消えてなんかいない。
 アルヴェンは、原作通りラクトフェル家を死ぬほど恨んでいる。
 それこそ今すぐにでも、この場にいる全員を殺したいほどに。
 
 俺は朝食会を終えて、アルヴェンを引き連れながら自室に戻ろうと廊下を進んでいた。
 結局あの後も、ムルダムは俺に声をかけ続けた。バイス兄上とは、事業のことについて二、三言話しただけだ。三つ子に至っては声すらかけてもらえていない。
 役に立たないものに時間をかけるのは、無駄だと思っているのだろう。悪党一家に相応しい最低な父親だ。しかし、幸か不幸か三つ子も父親の愛情には興味がないので、どうとも思っていないはずだ。
 それでも彼らはまだ親に甘えたい年頃なのだから、後でフォローしなくちゃいけない。
 ──それにしても。
 俺は肩越しにちらりとアルヴェンを一瞥する。
 朝食会でうっかりアルヴェンという名前にしてしまった。ずっとこうした些細なミスを犯してしまう自分が恨めしい。それもこれも、アルヴェンの思考がまったく読めないせいだ。
 彼がラクトフェル家を恨んでいるのは間違いないのに、どうして俺にだけああいう目を向けてくるのかがわからない。
 今だってその視線をひしひしと感じている。熱の籠った金色の瞳、それはまるで俺に焦がれているような──。
 
「おい、サタリア」
 
 背後から名前を呼ばれて俺は足を止めた。顔を見ずとも、その声の持ち主が誰なのかすぐにわかる。
 そろそろ絡みに来るとは思っていたが、思ってた以上に早かったな。俺はさっと表情を作って、口角を微かに吊り上げ、振り返る。
 
「はい。どうかされましたか、バイス兄上」
 
 そこに立っていたのはラクトフェル家長男、バイス・ラクトフェルだった。
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